堕なの。

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【眠りましょう、眠らせましょう】

「一人ぼっちは寂しいけど、二人ぼっちだとワクワクしない?」

そうでしょ、と同意を求めるような君の目を見つめ返せば、恥ずかしそうに逸らしてしまった。いつも表情豊かな子だな、と好ましくは思っていたが、こんな状況は望んでいない。

「ねえ先生、此の儘二人で死んじゃうのかな?」
「バカ言うな。ドラマの見すぎだ」

いや、ドラマならどっちかだけ助かるのか? どうでもいいが。

「ねえ先生、心中って来世でも一緒になりたい男女がするんだって」
「前も言ってたな。そんなこと」

うん。と可愛らしく頷く君は、矢張り聖母より小悪魔の方が似合うと思う。学校の男子共はもう少し見る目を養った方が良さそうだ。それだからこんなのに騙される。

「あ、なんか悪口思ったでしょ」
「……思ってない」

一歩近づいてきた君に、一歩距離を取れば悲しそうな顔をされた。そういう所がずるいのだ。

「今だけだからな。あんまり離れると寒くなる」
「照れ隠し〜?」

嬉しそうにニマニマとする顔が憎たらしい。が、どうも可愛く見えてしまうのはこの緊急事態だからだ。そうでなければ、自分の教え子に想いを揺らされるなんて有り得ない。

「救助が来るから、それ迄な」
「はーい」

随分良さそうな機嫌を最後に、君は眠ってしまった。これでも疲れて緊張していたのだろう。俺なら教師と二人きりで遭難なんて絶対嫌だ。

「大人は狡いから、お前なんかコロッと転がされちまうぞ」

頭を緩く撫でた。もし起きていたらセクハラだと騒ぐかもしれない。俺の想像の中の君は、現実の君より元気だから。

眠った君を見ていたら、俺も段々眠くなってきた。君の言っていた通り、此の儘二人ぼっちで死んじまうのかもしれないなんて、非現実的なことを考える。

次第にカクカクと頭が揺れ、俺の意識も夢の中へと旅立った。

眠りましょう。眠らせましょう。


テーマ:二人ぼっち

3/21/2024, 10:31:54 PM