祖母の見守り(テーマ 二人ぼっち)
1
毎週日曜日に、両親が家を出て、合唱団の発表の練習をする。
歌は仕事を退職した両親の趣味、生きがいと言っていい。
その間、私は90を超える祖母と二人で留守番だ。
祖母はまだ歩ける。
食事もトイレも自分でできる。
いわゆる介護はそこまで必要ない。
しかし、認知が進み、火が扱えない。食事の準備ができないし、今何をしていたかを忘れてしまう。
また、この前は転倒して肋骨を折った。
歩行器を使うようにしたが、これも忘れてしまう。
見守りがいるのだ。
2
私の生活は仕事中心で、土曜日も休日出勤している。
日曜日もしていたが、祖母の見守りをするようになってからは、不可能になった。
その分、平日勤務を遅くまでしている。
日曜日は、朝、24時間空いているスーパーに行き、お昼の惣菜を買って、9時前に実家へ向かう。
私が実家についたら両親は外出する。
祖母はあまりしゃべる方ではない。
私もしゃべる方ではない。
母はその分喋り始めると止まらない方だが、今はいない。
祖母の見守りは、おおむね静かな時間だ。
3
寒い、と祖母がいう。
祖母は座っているが、足が固まるのか、立ち上がるのも歩くのもかなり時間がかかる。
私はお茶を淹れる。
綿入れを持ってきて掛ける。
ストーブの温度を上げる。
寒いと言わなくなったら、私は持ってきた仕事をして、祖母は新聞をずっと読んでいる。
静かな二人の時間だ。
4
平日も休日も仕事。
私の人生は仕事ばかりだ。
一方、祖母の人生はどうか。
結婚して子育てをして、子どもも結婚して孫(私)を生み、その孫は大きくなって仕事をしている。
私から見たら、人生、頑張ってうまくやったように思う。
独身で、今後も一生独身だろう私と比べると特に思う。
結婚しないことも、非正規雇用も、給料が上がらないことも珍しくない現代とは条件が違うのだろうけれど。
そもそも、現代の高齢者はほとんど『そう』なのだ。
みんな結婚している。
5
寒い寒い、とまた祖母は言った。
口癖のように。
寒いとは、気温ももちろん低かったが、それだけだろうか。
孫たちは結婚せず、ひ孫の望みがない。
お寒い我が家の末期に思わず出た台詞なのかもしれない。
ただ、まだこうしてその言葉を聞く私はいるのだ。
私がさらに歳をとって高齢者になった時、私の言葉を聞く相手は居ないのだろう。
そのときは一人ぼっちだ。
まだ、今は二人ぼっち。
とりあえず、私は仕事を片付けつつ、お昼に何を食べるか考えるのだ。
3/21/2024, 10:28:23 PM