ななめ

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「雨だ」

彼女の声につられて私も窓を向く。
彼女の木管楽器のような声が、窓ガラスに柔らかくぶつかって反射する。

降り始めた雨がガラスに水玉模様をつくっていた。

図書室には私たちしかいなくて、この細やかなお喋りを咎める人は誰もいない。

「私、傘持ってきてないや」
と続けた彼女に、私は今朝のニュースで気象予報士が言っていた内容を脳内に反芻する。

「午後から降水確率70%だったよ。天気予報見てないの」
と手元のノートに視線を落としながら言うと、

「見たよ。見た上で30%のほうに賭けてんの」
と彼女は子供のように笑った。

はあ、とわざとらしく吐いた溜息に、感情がのってしまわぬように気をつける。

「今日、折りたたみ傘だからいれてあげないよ」
と、言いながら、参考書をめくる。もう内容は入ってこない。

強くなった雨音が図書室ごと世界から孤立させていく。

「じゃあさ」
彼女の喉から新しい音が奏でられ、私は思わず顔をあげると、そのまま細められた瞳に射抜かれる。

「いっしょに濡れてふたりで風邪引くか、雨がやむまでふたりでここにいるか、どっちがいい」

心臓の音と雨音が加速していく。

3/22 二人ぼっち

3/22/2024, 12:32:58 AM