『はなればなれ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
離れに向かい、屋敷内を駆け抜ける。
生きている者の気配のない静かな廊下は、複雑に入り組み方向感覚を狂わせるが、それでも立ち止まる事はない。
屋敷に足を踏み入れた瞬間に姿が消え離れてしまった二人の少女達を探し、行方を追い求めて走り続けていた。
「随分と、複雑に建て替えたものだね。後裔の趣味を疑うよ」
「そんな訳ないだろう。あれの空間と混じってしまっているんだ」
呆れたように溜息を吐く藤白《ふじしろ》を、玲《れい》は冷たく睨めつける。
「篝里《かがり》の記憶でも、あれの屋敷内はここまで複雑ではなかったが」
「そりゃあ、あちらさんにとっては招かれざる客だろうからな。俺らが来た時からこんなだったが、お前らが来ても変わらねぇのは正直予想外だった。兄貴に何て言えばいいんだよ」
先行する篝里と寒緋《かんひ》が、時折邪魔をするように現れる泥を足を止める事なく蹴散らしていく。
「また場所が変わってる。前はここに広間があったのに。あいつら、もう死んだのかな」
「何の話?」
「ここに来た時、屋敷の奴らが広間に立てこもって結界を張ってたんだ。そこのおっさんが中の奴と少し話して、結界を補強してたみたいだけど」
訝しげな顔をしながら、嵐《あらし》は寒緋を指さす。それに、指を差すんじゃねぇ、と文句を言いながらも、寒緋は縋ろうとする泥を蹴り飛ばした。
皆それぞれに足を止める事なく。迷いなく駆けながらも、その表情は険しさを隠しきれてはいない。
「駄目だな。時間の無駄だ。このままでは辿り着けない」
小さく舌打ちして、藤白が立ち止まる。それに続いて皆足を止めた。
「玲。直接あれの所まで道を繋げる事は出来るか」
「無理。場所が見つからないのに無茶言わないで。そっちだって繋がらないんでしょう」
「まあね。さて、どうするか」
少女達がいるであろう離れに、その先の神域に辿り着くための手段を考えながら、近くの障子戸に手をかける。
触れた瞬間に、とぷり、と形を失った戸に手が沈み込む。揺らぐ戸から伸びた、溶けかけた白い蝋のような腕が沈んだ手首を掴み。そのまま引きずり込もうとする腕を、だが表情一つ変える事なく藤白は見つめ、興味が失せたかのように息を吐くとその腕ごと手を引いた。
「外れか。期待はしてなかったけど」
戸から離れ、溶けて骨だけになった腕を放り投げる。
「師匠。陽光《ようこう》は?連れてかれたあいつらよりも近いじゃん」
嵐の呼んだ名に、寒緋が僅かに肩を震わせる。
それを横目で見ながらも、玲はそれを指摘する事なく首を振った。
「あいつ、また無茶してそうだけど大丈夫かな」
「大丈夫だよ。帰って来る事を約束させてるしね。それより、本当にどうするの?止まったせいで、完全に取り込まれたんだけど」
玲の言葉の通り、気づけば周囲は壁で四方を囲まれている。
前にも後にも進めなくなった事に、しかし誰一人取り乱す様子はない。指摘した玲ですら、静かに藤白の指示を待っていた。
周りの視線を受けて、にやり、と藤白は笑う。
「彼方に近くなったのだから、好都合だ。力業で押し通せばいい」
壁を指さす。その壁を篝里が切り裂いた。
「脳筋め」
次々と壁を破壊し一点に向けて進む彼らを見ながら、玲は呆れたように呟いて小さく笑みを浮かべると、彼らを追ってまた走り出した。
「取りあえず、謝らないといけない事がある」
「何。突然」
荒い息を整えつつ、黄櫨《こうろ》は振り返り、訝しげに曄《よう》を見る。
「余計な事を言ったせいで、どうすればいいのか聞けなかった気がするから」
ごめん、と芒に紛れながら謝る曄に、黄櫨はそんな事かと呟いた。
視線を戻し、前を見る。最後に見たあの背の高い男を警戒しながらも、繋いだままの手をきゅっと握った。
「それなら、私こそ話を切り上げたんだから同じようなものだよ。むしろ分からないのに問い質さなかった私の方が悪いかもしれない」
片手に抱いたままの子猫に視線を落とす。緩やかに弱くなっていく鼓動に焦りを感じながらも、黄櫨はでも、と言葉を続けた。
「分からない事もあるけど、分かった事もあるでしょう」
「分かった気になった、だと思うけどね」
苦笑する曄に、確かに、と黄櫨もまた小さく笑う。
「その分かった気になっているものについて、少し話そうか」
視線は前を向いたまま。警戒を緩める事はなく、声を潜めながらの黄櫨の言葉に、曄も声を潜めて話し出す。
「クガネ様が自分を認識出来る者を求めてるって、どういう意味なんだろう」
「妖はね。人に認識してもらえなくなると消えてしまうんだ。だから人の望みに応える事で、妖は自分を認識してもらい形を保つ。妖の事が伝聞で広がってたくさんの人に認識されれば人に応える必要はなくなるけど、人の話には尾ひれが付いて回るものだから、その場合は大概が歪むらしい」
実際に人の噂話で存在が歪み、化生に堕ちた妖がいるらしい。
黄櫨の話に、曄は思わず身を震わせる。
かつては守り神と呼ばれた妖は、同時に人から怖れられていたという。もしもを想像して、それがあり得ない話ではない事が人よりも余程怖ろしく感じた。
「だからあたし達が呼ばれたのかな。藤白さん達は皆、クガネ様をあれって呼んでた。あの人達の中ではもう、クガネ様は守り神じゃないって思ってるって事だよね…あれ?でもそれだと、あたしが呼ばれた意味が分からない。あたしも小さい時からクガネ様は危険だって教えられて、それを信じて」
「たぶん、それだけじゃないんだよ。元々曄はクガネ様に目を付けられていたんだし」
目を付けられた。その言葉に曄の手が己の右目を無意識に覆う。
聞こえる声。枯れない藤の花。掠れていく声と、落ちていく右の視力に怯えていたのは、まだ鮮明に記憶に焼き付いている。
頭を振る。思考を切り替えるようにして、話題を変えた。
「でも、クガネ様はあたし達の一族を守ろうとしてくれた事は間違いないよね。陽光さんが肯定したし。全部裏返しにして繰り返す日を作る事と呪われた人を攫う事が、何で守る事になるのかは分からないけど」
「間引いたんじゃないかな。呪が広がらないように。裏返しの日というのはよく知らないけど、守るというのとはまた別の感じがする」
裏に返し、繰り返す。
時に死者すら生者に裏返る日は、確かに守るというよりもむしろ、守れなかったものを戻して留めておくと言われた方がしっくりくる。
それを伝えれば、黄櫨は一つ頷いて、想像だけどね、と呟いた。
「クガネ様が藤白さんを呼び戻した日。そうする事でしか、皆を守れなかったんじゃないかな。だから当時の当主さんはクガネ様を咎める事はなかったし、藤白さんを受け入れた。仕方がない事だと皆は受け入れて…でもクガネ様だけが受け入れる事が出来なかった」
目を細め、黄櫨は椿の花を通して視た光景を思い返す。
鳥が最期に吐き出した欠片。男はあれの庭から取ってきたと言っていた。
「それでもこの庭園に篝里さんの魂の欠片がある限りは、それを寄辺に自分を保っていられた。藤白さんもいた事もあって、篝里さんの望みに応え続ける事が出来ていた。でもその欠片を奪われて、藤白さんもいなくなって。残ったのは応える相手のいない望みと、クガネ様を怖れる人だけだった」
「それって」
「皆から怖ろしいモノだって認識されて、望まれる事もなくて。そうなったら、歪んでしまうのは仕方がない事だ。だから、きっと」
不意に黄櫨は口を閉ざし、ある一点を見つめ表情を険しくする。
彼女の背越しに見たそれに、曄は漏れそうになる声を押し殺し、黄櫨に寄り添った。
地を擦る足音。ゆっくりとではあるが、此方に近づいてくる背の高い男。
白濁したその目はすでに光を失い。それでもその歩みに迷いはない。
距離が近づく。逃げなければと思うものの、体は意思に反して動く事を拒んでいる。
目を逸らす事が出来ない。呼吸一つ行う事すら苦痛を伴って。
芒が揺れる。
徐に伸ばされた手が、黄櫨の顔、に。
「その汚い手で、俺の黄櫨に触るな」
低く怒りを宿した声。
芒が空を舞い。澱んだ赤が辺りを染めた。
「神様」
微かな黄櫨の呟く声に、彼女を一瞥し男と対峙する。
「…だれ、だ……」
「貴様に名乗る必要を感じぬな。だが応えてやろう。我が名は御衣黄《ぎょいこう》。黄櫨の、神だ」
白銀の太刀を構え金の瞳を持つ美しい神が、不敵に笑った。
20241117 『はなればなれ」
嵐は突然やってきた。
先頭を行くシウマの前に巨大な黒い雲が現れた。雲はどんどんと幅を広げ、シウマたち一行の行く手を遮る。
どこかで休めるところはないか。あいにく眼下には険しい山々が拡がるだけだ。高度をあげ、風の弱い位置を探す方が安全そうだ。
黒雲はシウマの群れの目前までやってきている。
「一旦雲の中に入ってから、雲の上にでよう。みんな出来るだけ束になって飛ぶんだ」
シウマは仲間に呼びかける。シウマの群れには今年産まれた若鳥もいる。両親と共に飛行しているはずだが、大丈夫だろうか。
ミンミンもそんな若鳥の一羽だ。「母さんのそばから離れないで」母さんの声が聞こえる。そう言われたが、強い雨と激しい風で母さんの姿が見えない。黒雲の中にぼんやりと動いているものが見えた気がした。群れの方は行かなくては。そう思いながらも、身体が言うことをきかない。強い風に押されて体が横倒しになる。体勢を立て直しても上からも下からも風が吹きつける。自分の体がどこを向いているのかわからなくなる。必死で翼を動かす。前へ進むことだけを考えて。
徐々に雲が薄くなる。雲の上は青空が広がっている。ようやくミンミンにも周りを見回す余裕が出てきた。なんとか風雨をやり過ごすことができた様だ。
しかし、一緒に飛んでいた母さんや仲間たちの影が見えない。
「どこにいるの?ここで待っていれば迎えにきてくれるかしら」
ミンミンひとりになってしまった不安で胸がはち切れそうになる。どうしよう。群れから離れるなと言われていたのに。
はじめての渡りだ。どこに向かうかも、どこで休むかも知らない。
「母さんたちはまだあの雲の中にいるのかな」
雲の中に戻る勇気も体力もない。ミンミンは眼下に拡がる雲を眺める。先ほどより少し小さくなった様に感じる。
雲の上をゆっくりと旋回してみる。雲はどんどんと小さくなり、青空が広がっていく。
「多分、あの雲の中にはもういない。私は迷子になってしまったのだ」
そう悟ったがこれからどうしていいかわからない。
先ほどの嵐で相当の体力を消耗している。これ以上飛び続けるのは難しい。ミンミンは高度を下げていく。
小さな水場が見えた。
「とりあえず、あそこまで行ってみよう」
見晴らしの良い場所を探して水辺の降り立つ。インドガンではない水鳥の群れがみえる。おそらく食料もあるのだろう。
天敵の獣や猛禽類がきたら水鳥たちが騒ぎ出すだろう。水鳥の群れに入るか入らないかの場所を確保する。水鳥たちからは不審な視線を向けられるが構ってはいられない。今日はここで休もう。
「母さん、母さん」
ミンミンは不安な気持ちで押しつぶされそうになるが、心身の疲れはミンミンを深い眠りへと誘う。
目が覚めたらまた不安に襲われるだろう。だが、体力が回復すれば別の活路を見出せるはずだ。
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お題:はなればなれ
「はなればなれ」
人はひとりで産まれて
ひとりで死んでいく
故意でなければ誰かと一緒に、はあり得ない
彼女を「ひとりきり」にする瞬間が
未だに慣れない
少し寂しそうに、諦めたかのように
僕を見つめる
僕は出来る限りの笑顔で
また明日来るからねと伝えるが
手が離れる瞬間
本当に「明日」があるのか…不安になる
永遠の「はなればなれ」は
いつか訪れる
僕は耐えられるかな?
【僕の小さな現実の物語】
繋いだ手を離さないように
それでも離れてしまうならば
せめて忘れないように
何度も思い出す、私を呼んだあの声を。瞬間を。想いを。
「馴れ合いなんかやってられねえ。俺は部屋に戻る」
「……私も。付き合いきれない」
不思議である。どうしてこうも、彼らは私のような殺人鬼に好都合な単独行動を取ってくれるのだろう。
仲間割れして散り散りになり、そして順番に一人ずつ殺されていくという、ミステリのセオリー。
全員でひとところに固まってさえいれば、これ以上事件は起きないし、自分も安全だというのに。犯人という立場ながら、呆れてものも言えない。
次々と生存者たちが部屋から出ていく流れに便乗して、私も素知らぬ顔で仲間たちから離れた。犯人はその殺意を悟られぬよう、自然に単独行動を取る必要がある。
さて次のターゲットは誰にしようか、と思った矢先――
「――誰か!! 人が……人が死んでる!!」
……は?
嫌な予感に騒ぎ出す心臓を抑え、悲鳴の聞こえた現場に駆けつける。物陰に隠れて様子を窺うと、そこにはすすり泣く気弱そうな女性の傍らに、血みどろの人間が一人。
そして、瞬く間に女性も殺された。助けを求める彼女の口を塞ぎ、大型カッターで首筋をザクリとひと裂き。
――予定外の死体が、二つ。
目深に被ったフードから見えたのは、間違いなくさっき初めに出て行った男の顔だった。
「なんで別の奴の事件が被るんだよ……」
ややこしいことしやがって、と小さく悪態をつく。
男に見つからないよう気配を殺して後ずさった。
ドンッ、と何かにぶつかる。
振り返るとそこには、息を潜めてナイフを握る女。
目が合う。ニィ、と女が笑った。
「お前も、まさか……」
はなればなれ。
――目的は、皆同じ。
2024/11/16【はなればなれ】
テーマ はなればなれ
いつもの裏山で友達に会う。
「ねね」
「..なひ」
「僕ね..っておいアイス食うな」
真夏の日。買ってきたアイスを頬張るあいつ。そーいや僕のも買ってたは..ず
「...お前食ったな」
「い、いやぁなんのこと?」
「あっ、お前のアイスの棒当たりだって」
「やった〜これで3本m..こほん、なんでもない」
「..おまえーーー」
なーんて楽しい生活をしていたな。
その時言いたいことが言えなかったこと少し今では後悔してるや。
「体育だっる」
「..はぁグズグズしてないで行くぞ」
「ちょちょちょ引っ張らないでちゃんと行くからー」
あの日は学校で体育の授業があった。
「..やるぞ」
跳び箱7段。普通に体操とか運動神経が良い人は越せる高さ。だけど僕は体育が破滅的に駄目だった。でも、今日は成功させなきゃ。絶対に成功させなきゃ。
そして、その跳び箱7段をとんだ。
「あっ」
通り越せはした。けど、最後に体勢を崩して倒れてしまった。
「いったぁ」
当たった所がヒリヒリする。
「おい大丈夫か!!!!」
あいつが走ってきてくれた。
「ぜーんぜん大丈夫」
「いいや、保健室へ行く」
「えぇ、行かなくてもいいし」
「だめー」
そう言って僕のてを引っ張っていくあいつ。
「...立場逆転してる」
「..ww」
放課後になった。体育で怪我をしたところ、案外重症であいつが連れ添って帰ることになった。
「...あのね」
帰り道、僕は思い切って話した。
「なーに」
「僕、今日で死ぬんだ」
「...ん?は?」
びっくりして「は?」や「え?」見たいなことをめちゃくちゃ言いまくる。
「今までほんっとうにほんっとうにありがとね。」
「おい、まてよ、なぁ
あっそうだ!嘘なんだよなぁ。
ねぇ」
「...........」
「なんか喋れよ」
「............ごめんね」
そう言い、走った。
「裏山は落ち着くなぁ」
死ぬことは親は知ってる。だから自由に生きさせてもらえてた。この場所をお気に入りの場所だと知っているのはあいつしか居ない。
「星が綺麗」
「なんか眠いな」
「おやすみなさい。」
そう言い、目を閉じた。
「見つけた...!!!」
見つけたのは目を閉じて居るあいつ。
「生きてるよな...なぁ...ねぇって!!!」
悲しみに満ち溢れた声が裏山に響き渡り、その声を出した人間は冷めきった自分の最高の友を抱えていた。
おわり
はなればなれ。
小説。
駅に着くまでの信号の移り変わりを分単位で記憶している。
朝七時三十二分に家を出ると、三十七分に最初の信号に着く。土日だとこれがちょっと変わって、三十七か三十八分のどちらかになるが、平日なら、かならず三十七分だ。
ここでスムーズにひとつめの信号を通過する。
ふたつめの信号はうまく渡れれる日と渡れない日がある。
駅から家に行くときは、うまくいく。信号がつぎつぎに青になって現れるけど、家から駅に、逆に向かうときは無理だ。今とか。一度信号にひっかかって待つか、早足で渡りきるしかない。
俺は青信号のタイムリミットを見越して、余裕で横断する。
三つ目の信号のむこうはパチンコだ。ニシ駅の前にはパチンコがある。ここで群がるおじさんや、おばさんや、路上喫煙している人たちを避けたいときは、遠回りして裏道から行くべきだ。
ただ、今日は時間がない。俺は三つ目の信号を走り抜け、パチンコの前に乗り出す。
あとは全力疾走して駅に駆け込むだけだ。
今日は電車に乗って大学……ではなく、電鉄に乗ってツノガヤの家に行かなければならない。
ツノガヤん家のペットのカブトムシが死んだそうだ。
あと、彼女に振られたっていってた。ツノガヤは今、泣きながらカブトムシの死骸を埋めているらしい。
俺はうしろを振り向いて、サガミが俺に着いてきていないことに気がついた。
「おい! サガミ」
サガミはいっこ前の信号で止まっていた。両膝に手を置いて、ぜいぜい息をしている。
ツノガヤん家に行こう! といったのはこいつなのに。
サガミがスマホを取り出した。
それから俺のスマホに着信がくる。俺に電話をかけてきたらしい。
直接叫ぶなりすればいいのに。この距離だぞ。
横断歩道ひとつの距離で、俺はサガミからの電話をとった。
「もしもし?」
「キザキ……俺のことは置いていっていいから……ンゲホッごほごほ」
「体力カスすぎだろおまえ」
電話のむこうでサガミの荒い息遣いが聞こえる。
「置いていっていいからとか……たかだか失恋だろ。ツノガヤの。ツノガヤの失恋とか、俺はどうでもいいんだよ。おまえがからかいに行きたい! っていうから付き合ってんのに」
「いいからっ。行け」
行ったって意味ないし……。
俺は駅までの信号の青になる時間を秒単位で把握している。あと十数秒でここの信号が青になることが分かっていた。
「サガミが行かないなら、俺も行かないから。焦らなくていいから。サガミ。ゆっくり学校行こうぜ」
慰めてやってるというのに、サガミは顔をあげると、キッと俺を睨みつけた。
サガミは叫んだ。
「たかだか失恋? 失恋だけじゃない! ツノガヤは、ペットのカブトムシが死んで悲しんでるんだ。友だちが悲しんでいるときに駆けつけなくて、なにが友だち……ンゲホゴホッ……だから早く、カヤマさんといっしょに、ツノガヤのもとへ……アハハハ」
いいながら笑ってんじゃん。
サガミがむこうでゲラゲラ笑っている。自分で言って、自分でツボってるらしい。世話ないな。電話の必要がないくらいの大きな声をあげている。
「カヤマさんが、おまえが行かないと、カヤマさんがひとりで参列することになんじゃん、カブトムシの葬式! アハハ」
ふと右を向くと、うわさのカヤマさんが車道を挟んでむこう側の歩道にいた。
カヤマさんも今朝、グループチャットでサガミに駆り出されていた。
カヤマさんと俺はおなじアパートのとなりの部屋に住んでいる。今の時間にこんな場所にいて、カヤマさんは俺らと同様、カブトムシの埋葬に間に合わないだろう。
ゲラゲラ笑っているサガミや、俺に気づくことなく、カヤマさんはもう三秒で青になる赤信号を、全力で駆け抜けていく。
寂しい、心細い、不安…それでも人生生きていると嬉しい出会いもあれば悲しい別れもある。そうなった時にどうやって立ち上がるか、悩み苦しみ葛藤の中でたどり着いた自分なりの答えを探して一歩ずつ前に進んでいく。今、目の前に絶望している人がいるとしよう。その時あなたは「頑張れ!」「きっと乗り越えられるよ」と温かくも冷たい無責任な言葉をかけるだろうか。だれかにかけてもらった言葉で励まされ前に進む力をもらえる時もあるが、傷つき悲しむこともある。でも、はなればなれになる言葉では表しがたいつらさや寂しさを知っているなら「大丈夫」「そばにいるよ」と本当の意味での優しさを持って接することができるかもしれない。だからこそ私は相手と同じ目線に立って、一緒に乗り越えていけるような芯のある温かい人になりたい。
「はなればなれ」
...ずっと一緒にいましたか?
私と貴方は、とても気があったことでしょう。
きっと貴方も、私と同じ気持ちを抱えていたでしょう。
"はなればなれ"を、想像した事があったでしょうか?
否、想像するという行動すら
私たちの頭の中には無かった選択でしょう。
それでも、私と貴方は相性が悪かったでしょう。
同じ思い、同じ気持ち、同じ記憶を持った
私たちなら、きっと同一人物と変わりないでしょう。
そう、同じ人間が同じ場所に2人もいらない。
私たちは、変わらないようでした。
だからこそ、変わりたいと思ったのです。2人とも。
ここからは私たちは同一人物ではなくなるでしょう。
今度また会ったときには、違う末路を辿った
私たちの旅路を、2人で語りあうとしましょう。
"はなればなれ"も、悪くない結果かもしれませんね。
はなればなれになっている本館と別館。
その塊よりも遥かなる「はなればなれ」となっている一軒の小屋。
忘れ去られているように佇んでいるが、のれんは掛かっている。小さい建物ながら、当時はここが本館だった。
現在の本館は平地の方へ移されていた。
より近い方が交通機関のアクセスが良いといって、移転と建て替え工事がなされたのである。
公共事業とそれに類する大手建設業者たちによって、ここら一体を都市計画事業として施工した。
そんな難しいことを村役場の者たちが言って、誘致した。それから暫くして、田舎のだだっ広い土地にホテルのような瀟洒な建物を2棟も建てたのだ。
きれいなホテルと、古くて趣がある宿。
都会から来られた客たちは、最初の方は宿泊率は半々だったが、徐々にこの国が豊かになり、都市が散らばるようになってきた頃には、鉄道に近い本館と別館……新館ばかり利用するようになった。
宿のほうが源泉に近く、源泉かけ流し温泉と銘打って、見晴らしの良い展望が望めたが、窮屈な客室と、質素な料理。それに宿屋にたどり着くためには、曲がりくねった山道を登らなければならぬから面倒ということで、新館のほうに軍配が上がっていった。
現在は、宿の者も新館の方に移り、商売をやっている。
しかし、最近その建物を建設した大手建設業者の雇用形態がブラックであると判明し、瀟洒な新館に泊まることを客が嫌煙するようになった。
原点回帰が唱えられる時流となったのだ。
さすがの大人数を宿泊させるには手狭であるので、いっそ一晩貸切という風にしてみた。
すると、利便性を好み運動嫌い山道嫌いの都会人の客足はほとんど滅したが、一方地元民が懐かしがってその宿に足を運ぶようになった。
豪華な料理は提供しなかった。
質素な食卓。
敬語のない、方言の飛び交う会話。
客をもてなす、まだ腕は白い女将。
食べ終わったカニ。小皿と鍋。
はなればなれが一気に近づいた時。
【星雨】
いつの頃からだろう 好きだった空を見なくなったのは
無音の感情でただ道を歩く今の僕は
目を丸くして夢を語ってたあの日の僕を鼻で笑ってる
これが大人になるってことなのかな
冬の夜空に輝く星 綺麗だねって
ありふれたモノで胸を高鳴らせてた頃が羨ましいよ
だけどもう戻らない日々だよ…だからもう一度…
右も左も上も見ずに今日も前だけを向いて歩いてる
小さな可愛らしい花にも気づかずにただ息を吸う
どこから来たのかも分からない風におされて、、、
疲れたな゛口癖のようにこぼしては今夜もベッドに沈む
夜にしてはやけに明るい窓の外
微かに射し込む懐かしい光が見えたんだ
なんの疑いもなく胸を膨らませてた頃がまだ
僕のなかで生きてたよ あの星は雨のように
無音の感情に降りそそいで夢の続きを打ち鳴らす
二度と戻れない…分かってる…だからもう一度…
ここから始めよう゛遠回りしてもいい
もう大好きな空を見失わないように言葉にしていこう
はなをいけた花瓶
ながめてため息
れーすふらわーとガーベラ
ばっくに好きな音楽かけても
なかなか会えないあなた
れいあうと変えた部屋に驚くのはいつ?
#はなればなれ
「中学1年の頃、凄く好きだった人とはなればなれになったんだ。」
そんな声が後ろから聞こえてくるものだから、僕はペンを動かしていた手を思わず止めてしまった。
ここは、大学の研究室で、今この部屋には僕と先輩しかいない。
この部屋の主である教授は、今日はいない。大学以外にも仕事場があるので週に2回しかここに居ないが、勉強や集まりに使ってもいいよと生徒の何人かに鍵を渡しているものだから、この部屋は大抵誰かが居座っている。
僕はその鍵をもらったひとりなのだが、レポートに集中するために研究室を訪れたら、先輩が居たというわけだ。
先輩は、大学3年生。僕の2つ上だ。
実は高校も同じだったので、大学で出会った…という訳では無い。
でも、高校の頃から不思議な雰囲気を持つ人で、図書館で読書しているのを僕は時々見かけていた。
運良く時々話す関係には慣れたものの、先輩はすぐに卒業してしまい、僕はそんな先輩の後を追い掛けるように同じ大学に入学した。
話を戻そう。
急に小さな爆弾を投げてきた先輩をちらりと見ると、先輩はこちらを見ることなく背中を向けてパソコンに向かい続けていた。だから、先輩の表情は分からない。
分かるのは、先輩の長い綺麗な黒髪が光に当たって綺麗…ということだけだ。
僕は努めて冷静に、自分のレポートを書く作業に戻ろうとした。
「別れるときはね、凄く泣いたよ。」
「相手も泣いたんですか?」
「いや、泣いてる私を必死に慰めてくれたよ。」
「そうですか…凄く優しい人だったんですね。」
「あぁ。怒ってる所は、ほとんど見たことなかった。私に見せないようにしてただけかもしれないけど。」
カリカリ……カタカタ……。
そんな会話をしながらも、ペンとタイピングの音は変わらず部屋になり続けている。
「その人がね、今度結婚するんだ。」
ガリィッ。
言葉の衝撃に、思わずペンの軌道がおかしくなった。
「それは…寂しいですね。」
「あぁ…少しね。先日、家に結婚式の招待状が届いたからね。」
「……行くんですか?」
「行かないと駄目だろう?」
「無理しない方が良いですよ?」
「喜ばしい事だ。無理なんてしてるわけないだろう?」
「でも、好きだったんですよね?」
「違う。今でも好きなんだよ。」
いつの間にか、部屋の中にはタイピング音しか聞こえなくなっていた。
僕はこれ以上なんて言葉をかけたらいいか分からず、重い空気に耐えるようにペンを強く握った。
「とにかく、大好きな兄さんが幸せになってくれたら、私も嬉しいよ。」
僕は今度こそ動揺を隠しきれず、ペンを地面に落とした。
カツーン、と甲高い音が部屋にやけに響いた、気がした。
「私の両親は、私が中学1年の時に離婚してね。」
後ろで、椅子が回転する音がする。
「兄さんは父に、私は母についていったんだ。勿論、それからも定期的に会ったりはしていたけどね。」
僕も椅子を回転させて振り向くと、先輩は僕のペンを拾って、してやったり、という顔をしていた。
先輩は出会った時からそうだった。真面目そうな顔をして、人にイタズラするのが上手いんだ。
「ドキドキしたかい?」
「……知りません。」
ニヤニヤしながらペンを渡してくる先輩は得意気で、僕は当分先輩に叶うことは無いのだろうと思いながら、ペンを受け取るのだった。
◎はなればなれ
2人のスイは1人のサンといつも一緒。
遠い遠い昔に仲良くなってからずっと一緒。
岩に囲まれた場所を潜り抜けたり、皆でぎゅっと固まっていたこともあった。
今度は金属の管を通り抜けて透明な壁に取り囲まれた場所へたどり着いた。
3人は手を離さずに周りを見渡した。
「ここはどこ?」
「わからないよ」
「離れちゃいけないよ」
3人は互いに微笑みあった。
暫くすると、3人の足元がじわじわと熱くなり始めた。
そして、我慢できなくなった3人はぴょんと飛び上がった。
「熱い!」
「痛い!」
「あちちっ!」
そして一際大きく跳ねたとき、2人のスイと1人のサンの手がぱっと離れてしまった。
「「「あっ!」」」
「離れちゃった!」
「どこにとんでいっちゃうの!」
「いっちゃ、やだよ!」
空中で2人のスイは手をつなぐことに成功したが、サンはどんどん遠ざかって行く。
手を伸ばしても届かない。
そして、真っ赤な光の中へとサンが吸い込まれたときパチンと大きな音が鳴った。
微かに見えたのはサンがその勢いで更に遠くへ飛ばされた姿だったが、それもすぐに見えなくなった。
「いっちゃった……」
「次に会えるのはいつかな」
「何億年も先かも知れないね」
「待つ?」
「待とう」
2人のスイはもう二度と離すまいと互いの手を固く握った。
【はなればなれ】
「高校は離れるけど、ずっと友達だから」
でも、物理的な距離が離れると、心の距離も離れる。
少しずつ連絡するのに躊躇いを感じるようになってくる。
戻れるなら、あのときに戻りたいな。
fin.
はなればなれ
書きたい……!時間が……!!!
アーレントの一番弟子、トランの2番目のメンバー
ユリウス・シエル・ロールズセン
27歳で世界樹に触れて本来消えるはずだった大切な人を救う魔法を使った。その作用により不老不死者になった。
自分が生き続ければ、彼に関する情報が消えない。
故に死なないで生き続ける決心をした。
その後実家の公爵家で後継者になれないこと、旅に出て世界をまわることを家族に告げる。
その場にはユリウスという名をつけた名付け親がいて……
大切な人に対するユリウスの思いや、名付け親と旅に出ることになった時のユリウスの記憶を描きたい…!
こんなに近くにいるのに。
私はあなたの恋人なのに。
あなたはあの子のことばかり。
昔は私に向けられていた柔らかい笑顔も、声もあの子のところへ向いちゃった。
それなのにどうして別れてくれないの?
体は近くにいるのに、
ココロは、はなればなれな私たち。
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はなればなれ
はなればなれ
遠くにいても、こころの支えになる人がいる。近くにいても、やすらぎを感じない人もいる。
こころが近い人は、どこに住んでいようとも宝物です。
はなればなれ
あの人はまだ遠くにいるのかな…
いつまではなればなれなのだろうか
早く戻ってきてほしい
「はなればなれ」
隣にいたはずの君が
気づけば遠くにいる
同じ空を見ていても
感じる風は違うんだね
話したかった言葉たちは
どこにも届かないまま
静かに消えていった
はなればなれになっても
君のことを思い出す
それが少しだけ
さびしくて、あたたかい