嵐は突然やってきた。
先頭を行くシウマの前に巨大な黒い雲が現れた。雲はどんどんと幅を広げ、シウマたち一行の行く手を遮る。
どこかで休めるところはないか。あいにく眼下には険しい山々が拡がるだけだ。高度をあげ、風の弱い位置を探す方が安全そうだ。
黒雲はシウマの群れの目前までやってきている。
「一旦雲の中に入ってから、雲の上にでよう。みんな出来るだけ束になって飛ぶんだ」
シウマは仲間に呼びかける。シウマの群れには今年産まれた若鳥もいる。両親と共に飛行しているはずだが、大丈夫だろうか。
ミンミンもそんな若鳥の一羽だ。「母さんのそばから離れないで」母さんの声が聞こえる。そう言われたが、強い雨と激しい風で母さんの姿が見えない。黒雲の中にぼんやりと動いているものが見えた気がした。群れの方は行かなくては。そう思いながらも、身体が言うことをきかない。強い風に押されて体が横倒しになる。体勢を立て直しても上からも下からも風が吹きつける。自分の体がどこを向いているのかわからなくなる。必死で翼を動かす。前へ進むことだけを考えて。
徐々に雲が薄くなる。雲の上は青空が広がっている。ようやくミンミンにも周りを見回す余裕が出てきた。なんとか風雨をやり過ごすことができた様だ。
しかし、一緒に飛んでいた母さんや仲間たちの影が見えない。
「どこにいるの?ここで待っていれば迎えにきてくれるかしら」
ミンミンひとりになってしまった不安で胸がはち切れそうになる。どうしよう。群れから離れるなと言われていたのに。
はじめての渡りだ。どこに向かうかも、どこで休むかも知らない。
「母さんたちはまだあの雲の中にいるのかな」
雲の中に戻る勇気も体力もない。ミンミンは眼下に拡がる雲を眺める。先ほどより少し小さくなった様に感じる。
雲の上をゆっくりと旋回してみる。雲はどんどんと小さくなり、青空が広がっていく。
「多分、あの雲の中にはもういない。私は迷子になってしまったのだ」
そう悟ったがこれからどうしていいかわからない。
先ほどの嵐で相当の体力を消耗している。これ以上飛び続けるのは難しい。ミンミンは高度を下げていく。
小さな水場が見えた。
「とりあえず、あそこまで行ってみよう」
見晴らしの良い場所を探して水辺の降り立つ。インドガンではない水鳥の群れがみえる。おそらく食料もあるのだろう。
天敵の獣や猛禽類がきたら水鳥たちが騒ぎ出すだろう。水鳥の群れに入るか入らないかの場所を確保する。水鳥たちからは不審な視線を向けられるが構ってはいられない。今日はここで休もう。
「母さん、母さん」
ミンミンは不安な気持ちで押しつぶされそうになるが、心身の疲れはミンミンを深い眠りへと誘う。
目が覚めたらまた不安に襲われるだろう。だが、体力が回復すれば別の活路を見出せるはずだ。
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お題:はなればなれ
11/17/2024, 5:14:50 PM