Sweet Rain

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「馴れ合いなんかやってられねえ。俺は部屋に戻る」
「……私も。付き合いきれない」

 不思議である。どうしてこうも、彼らは私のような殺人鬼に好都合な単独行動を取ってくれるのだろう。

 仲間割れして散り散りになり、そして順番に一人ずつ殺されていくという、ミステリのセオリー。

 全員でひとところに固まってさえいれば、これ以上事件は起きないし、自分も安全だというのに。犯人という立場ながら、呆れてものも言えない。

 次々と生存者たちが部屋から出ていく流れに便乗して、私も素知らぬ顔で仲間たちから離れた。犯人はその殺意を悟られぬよう、自然に単独行動を取る必要がある。

 さて次のターゲットは誰にしようか、と思った矢先――

「――誰か!! 人が……人が死んでる!!」

 ……は?
 
 嫌な予感に騒ぎ出す心臓を抑え、悲鳴の聞こえた現場に駆けつける。物陰に隠れて様子を窺うと、そこにはすすり泣く気弱そうな女性の傍らに、血みどろの人間が一人。

 そして、瞬く間に女性も殺された。助けを求める彼女の口を塞ぎ、大型カッターで首筋をザクリとひと裂き。

――予定外の死体が、二つ。
 
 目深に被ったフードから見えたのは、間違いなくさっき初めに出て行った男の顔だった。

「なんで別の奴の事件が被るんだよ……」

 ややこしいことしやがって、と小さく悪態をつく。
 男に見つからないよう気配を殺して後ずさった。

 ドンッ、と何かにぶつかる。

 振り返るとそこには、息を潜めてナイフを握る女。
 目が合う。ニィ、と女が笑った。

「お前も、まさか……」

 はなればなれ。
――目的は、皆同じ。

  2024/11/16【はなればなれ】

11/17/2024, 9:55:02 AM