『1つだけ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
あるところに、たいそう美しい娘がおりました。
娘は母親を病気で亡くし、父親とふたりで暮らしておりましたが、ある日父親が新しい母親を連れて来て、義理の姉も出来ました。
そして、娘は幸せな家庭と幸せな生活を手に入れました。
しかし、そんな幸せな時間は長く続きませんでした。
いつしか娘は愛の存在を信じられなくなり、ずっとひとりでかまわないと思うようになりました。
でも、きっと心の何処かで愛を探していたのでしょう。
だって、人は一人では生きていけない。
彼女のガラスの靴を拾ってくれたのはだれ?
――あなたが、私の王子様?
シンデレラ 完
一つだけ願っていいのなら…。
決してせまくはない自分の部屋で、ひとりうずくまった。
窓からのぞく空は濃紺で、無数の星がキラキラと冷たく輝いている。
私は、その空を見上げて、ひとつ白い息を吐いた。
かすかに聞こえる車の音、楽しそうな声。
こんなにもこの地球には沢山の人であふれているのに、誰も私の存在に気がつかない。
だれも、私を見つけてくれない。
ねぇ、さみしいなんて。
辛いなんて、言わないから。
一つだけ願っていいのなら、
どうか…どうか……無償の愛をください。
―――私を愛してと、心が叫んでる。
Vol.一つだけ 完
『今日は、シンデレラと一つだけの2つのお話を書かせてもらいました。シンデレラはオリジナルです!
もっと読みたいと思ってくれると、ありがたいです!
みんなが、真実の愛を見つけられますように。』
一つだけ許されるなら
あたしはあなたと付き合いたいの。
話したいの。
出会いたいの。
なんでそれを神様は許してくれないの?
1つだけ
これから先やり続けていくこと
最強無敵の自分をつくる
どんな時
どんな場所
どんな事情をかかえていて
どんな心の色模様でも
負けない
いや、勝つ、勝ち続ける
そのような姿勢で歩めば
堕ちていくことはない
時折立ち止まり確認する
大丈夫
堕ちてなどいない
そして再び歩みを始める
牛歩千里 こつこつと
#5『1つだけ』
島に一つしかない巨大な山 一つ岳
この世に一つしかないきのこ 一つ茸
人という字は津市で生まれたんだっけ? 人津だっけ
今日はヒット2本だけ ヒット2だけ
頭頂部に残された髪の毛一本 ひとつだ毛
「1つだけ〜わがままを許してもらえるなら〜君の〜隣にいさせてください〜」
思いっきり握りしめたマイクに曲と共に想いを乗せてその子の方を見た。曲名は【1つだけの】
1週間前、『好きな子とカラオケに行くならこの曲を歌ってみな。落ちるぞ』と先輩に教えてもらった。
向かいのソファに座るその子は、表情を変えずに画面を見続けていて、こちらの想いは届いていない様子。
先輩の嘘つき。そもそもあの人歌が上手いからモテてるだけなんじゃ、と頭の中で詰り、演奏中止ボタンを押した。
「もういいの?」
「いやぁ、思ったより歌いづらかったから」
本当は3時間練習したけど。
「ふーん、そっか…」
なんとなく気まずい空気が流れた気がして、なにか話題を探さないと、と頭をフル回転させているとその子が口を開いた。
「この曲を歌えば私を落とせると思った?」
「えっ」
「おおかた、私とカラオケ行くって決まった時に先輩にでも聞いたんでしょ」
「なんでそれを…!」
「歌うんなら最後まで歌えばいいのに。そうやって怖気付いてやめちゃうとことか、すぐ人を頼るとことかどうかと思う」
なぜ今説教されているんだ。というか、なんで気持ちがバレているんだ…。
フル回転させた脳は使い物にならず、1人パニックになっていると、その子がゆっくり近づいてきた。
「でもまぁ、そういうとこも好きだけどね」
私達が生きる事で
一つだけ確率に決まっているのは[死]ということだけ
だから死がくるその時まで、生きることを楽しもうか
神様、どうか1つだけでも願いを叶えてください。今、すごく辛いんです。目の前は暗闇が広がるだけで、何も見えません。努力をすることに疲れてしまいました。神様、こんな僕に生きる希望をください。お願いします。
休日の正午ちょっと前。
お腹が空く頃合いを見計らい、買い物を切り上げてレストラン街へと向かう。
和食に中華に洋食屋さん。
選り取り見取りで迷ってしまうが、香る匂いと、表に出ていたメニューに惹かれ、パスタのお店へ足を踏み入れた。
開店して間もない時間のおかげで人は未だまばら。
席へと案内されて、改めてメニューに目を通す。
シンプルなものからがっつり系まで。
ページをめくる毎に、食欲をそそる美味しそうな写真が次々と現れる。
「どれにしようかな~」
カルボナーラにペペロンチーノ。
お値段プラスでラタトゥイユやミートボールのトッピングサービスまで有るのか。面白い。
デザートとのセットメニューも華やかだが、単品でたっぷり食べるのも捨てがたい。
どれも魅力的で、あれもこれも食べたいところだけれど、収まる胃袋は一つだけ。
程良いボリュームで食べ甲斐のあるものは、さあどれだ?
ページを前に後ろに行ったり来たり。
最後にもう一巡メニューを見渡して、通りがかった店員を呼び止めた。
「すみません、注文お願いします!」
お出かけのランチに、美味しいご飯を。
よし、頂きます!
(2024/04/03 title:019 1つだけ)
ひとつだけ選ぶなら。
どっちがいい?って聞かれて。
どっちでもいいって言うのは、優柔不断?
みんなに合わせますじゃ駄目?
ひとつに絞らなきゃ駄目?
ひとつだけ、ひとつだけって。
それが誰かを傷つけるかもしれないのに。
選ばれなかった方を推す人もいるのに。
わかってる。
決めなきゃならないとわかってる。
それでもつい、迷ってしまう。
ひとつだけ選んでって、残酷だな。
わたしはまだ大人になれない。
ひとつなんて少なすぎる。
わたしの人生は、何十年も続いていくのに。
ねえ。
ひとつじゃなきゃ、駄目ですか。
ある日僕らは生まれ落ち、1つだけ死だけが約束されている
題目「1つだけ」
「ねえねえ、ひとくちあげるよ。」
「いらない。」
自分から着いて行きたいと言っておいて
ものの数分でつかれただの休みたいだの騒ぐから
仕方なく入った喫茶店。
少しはおとなしくなるかと思ったら逆だ。うるさい。
「なんで。あげるって言ってるだけじゃん。」
「もらったら僕のもお前にあげなきゃいけないだろ。」
「別にいいよ。いらない。」
「お前が良くても僕が嫌なんだ。」
貸し借りは嫌いだ。どんなに小さなことでも。
「はーん。案外気にしいだね。」
「うるさいよ。少しはおとなしくしていろ。」
「ねえ、あなたのケーキも食べたいからじゃない。
本当にただこれを食べてほしかっただけ。いちご、私に譲ってくれたんでしょ?」
「別に。」
つやつやのいちごのケーキは残りひとつで
僕はそれ以外の他のケーキには惹かれなかった。
そしてこいつもこれがいいって言ったからなんだかもうどうでもよくなっただけ。ただそれだけだ。
「じゃあいちご1つあげる。あーん。」
「ああもう…わかった食ってやるからおとなしくしてよ。」
1つだけのいちご。
今まで食べたどのいちごよりおいしくて
お腹いっぱいになった。
1つだけ
いつもとは打って変わって自分語りをしようと思います。
タイトル通り独白です。
私はあまり他人の目を気にしません。よく思われていようが、悪く思われていようがどうだっていいです。見た目も性格も。
良くも悪くも自分は自分だと思っています。
でも1つだけ気にしてしまうことがあります。
期待の眼差し、それもたった1人の。
正確には眼差されたことはないのかもしれません。
だけど、確かに私はあの人の期待に応えることが出来なかった。きっともう失望されていると思います。
期待に応えたかった訳でもありません。
失望されたことに対してもなんとも思いません。
元々私に夢を見すぎなのです。あの人を孫バカと認識したことはないですが、おそらくそうだったのでしょう。
少し話が変わりますが、あの人が何も無いのにお小遣いをくれた時に、私はあの人がもうすぐ死ぬのかと思いました。
全然未だにピンピンしていますが。
それくらい有り得ないことだったのです。
ただであの人がお小遣いを渡すことが。
『なにか自慢が出来ることがあれば』お小遣いをくれる人でした。
『成績が学年で1位だった』とか『テストで100点100枚取った』とか『泳げるようになった』とか。
内容の大小は問わず、本人が自慢出来ると思えば何でもよいのですが。これが小学校や中学校の頃はいいのですが、
高校になるとなかなか自慢出来ることってなくなっていって、
そもそもアイデンティティすら分からないのですからなおのことなんですけど。
自慢出来ることが分からなくなって、挫折を覚えました。
それくらいの時期だったと思います。あの人がタダでお小遣いをくれるようになったのは。
あ、もう『こいつに自慢出来ることなんてない』って思われたんだ。って、考えすぎなのは分かってるんですけど、お小遣いを貰うのが怖くなって。
また、逆にお年玉が年々増えていくのも奇妙で。
年賀状のナンプレを解かなかったらくれなかったお年玉を何も無く、いつも頑張ってるからなんて言いやがって。
御祝儀袋に入ってる枚数が1枚じゃなくなったときは返すと泣き叫んだことを覚えています。
気味が悪かった、怖かったのです。
あの人が高校受験を失敗した私をどう思っているかが。
結局返しに行こうとした所を母親に止められて、全額図書カードに換えました。現金として持っていたくなかった。
図書カードにしたところで、数年経った今でも使えていません。貯まっていくばかりです。
自慢出来ることが何一つない私には使う権限がない気がして。多分、後ろめたいのだと思います。頑張れない自分が。
ただの1万円札がプレッシャーになるほどに。
お目汚し失礼いたしました。
1つだけ願いが叶うのなら、僕は大好きな君の傷を治したい。人間は体に、心に傷を負うと、そう簡単には癒せない。時間がどうしてもかかる。
今から話す事は、上に書いてある事がどれだけ大切で重い話なのかが痛いほど分かる話。
(殆ど妄想です。苦手な方はプラウザバック推進です。)
何の変哲もない普通の日に突然、君は
「体調が悪いから薬を買ってくる。」
とグループラインで呟いた。
その一言の呟きを見た僕たちはグループラインで君に対し、皆んな「大丈夫?」や「家行こうか?」など心配のメッセージを返していた。でもたった1人だけ既読がつかなかった。
4時間後、やっと既読をつけてくれたと思ったら、「ごめん。事故った。〇〇病院に居るから来てくれないかな?」だった。
その言葉を聞いた瞬間、整理しきれなかった。頭が回らなかった。
でもこれだけは分かった。
「嗚呼、俺って本当にバカで無能なリーダーだな。」
そう思いつつも早く準備を済ませ、他のメンバーと合流する。病院に着き、君の病室に行くと君は頭に包帯を巻き、脚は骨折していて綺麗な肌はぐちゃぐちゃという表現があうほど擦り傷まみれだった。
皆んなそれを見ると黙っていた。
本当はリーダーとして僕が一言言うべきだったのに、君を見てると、君の傷を見てると声が出てこなかった。
それなのに君は見るからに辛そうなのに、痛そうなのに、苦しそうなのにか弱く細い声で「ごめんね。自分のせいで活動止まっちゃうよね。本当にごめん。」
と一言呟いた。でもそれほこっちこそだった。
自分らのグループのオリ曲を作詞作曲全てを行い、それに増して個人のオリ曲、配信など色々な事を行い、グループをものすごく支えてくれていた。こっちこそ「いつもありがとう。」「いつもごめんね。」と一言、言いたかった。
他のメンバーは君と少し会話していたが、僕は声が出なくて黙っているだけで君と喋れなかった。皆んなはそんな僕を気にかけてくれてその日は僕の家に皆んな泊まってくれた。それなのに僕はそこでも喋る事が出きなかった。
「皆んなに心配掛けてばっかりだな。皆んなはこんな僕を、こんなリーダーに付いてきてくれるのかな。」なんて事を考え、僕は眠りについた。
注意‼️
Starlight Polaris様の話、出来事を使用されて頂きました。
殆ど妄想です。リーダーさんはちゃんと頑張っていてメンバーをとても大事にしていて、しっかりしてる頼れるリーダーです。
💫🎨さんの体調の回復を願ってます。
最近同じネタばかりですみません🙇♂️
作品No.4【2024/04/04 テーマ:1つだけ】
私がただ一つだけ
自分のすきなところを挙げるとするなら
自分の名前がすきなこと
それくらいかな
『1つだけ』
給食に出てくるシュウマイと八宝菜には厳しい掟がある。それはシュウマイとグリンピースは必ずセットであること。そして、一人につき一つのうずらのたまごが入っていること。
「はい、全員自分のお皿確認してくださーい」
担任の教師の号令で各自のシュウマイと八宝菜のチェックが入る。配膳を担当した給食係たちは緊張感を漂わせながら自らの皿をチェックしていた。シュウマイは目視で確認できていたが、八宝菜は配膳係の技量が問われる。もし全員均一に配られていない場合は給食係にそのしわ寄せがいくのだ。
「先生」
一人の生徒が挙手をして、うずらのたまごが入っていないと主張した。悲壮感で怯えた目をする給食係たち。教師はその生徒のもとへと歩み寄り、優しげな目をして尋ねた。
「先生もチェックをするけど、いいかな?」
今度は挙手をした生徒が怯えた目になった。教師がマイ箸を取り出して皿をつつくと、ないはずのうずらのたまごが野菜の山から発見される。
「たまごはひとりにつき1つだけだからね」
項垂れる生徒。ほっと胸を撫で下ろす給食係たち。教師は颯爽と自席に戻り、声高らかに宣言する。
「それではみんなでいただきましょう。いただきます」
「「「いただきます」」」
1つだけ、なんでも手に入れられるなら何が欲しい?
「世界。」
予想外の規模の大きさ。冗談を言っているのか、本気なのかは目を見れば分かるけれど、それにしたって世界なんて。
「1つだけ、とかセコくないか。おれには欲しいものがたくさんある。1つだけじゃ満足できない。」
おまえだけで満足、とは言ってくれないの。
「それはおまえの気持ち?それとも存在?」
……どっちも。
「ふざけんなよ。おまえと過ごすためには生きなきゃならない。一緒に過ごす時間も、金もいる。全然足りない。」
だから世界なの?
「世界だ。おまえだけで満足しろって言われて、はいって言えるような出来た人間じゃないんでね。おれはおまえも、その他も全部欲しい。」
まさに俺様。ジコチュー。子供みたい。
「なんとでも言えよ。おれは諦めねぇから。」
知ってる。
「なら、いい」
にぎられた手のひらが、じんわり熱くなった気がした。
「願いごと一つだけ」
「一つだけ 選んで」
なんて特別で贅沢な響きだろう
選ばれたものたちのこの上ない愛しさよ
1:一つだけ
「去年の3月1日から、1つだけずっと続けてる縛り設定といえば、登場人物約1名の『性別を明確にしない』なんだわ。面倒だけど、まぁまぁ、楽しいぜ」
最初は「こいつを男にするか女にするかまだ決めてない」だったんだがな。1年経って、今はもう意地な。
某所在住物書きは過去作を辿りながらポツリ。
現代ネタの連載風として書き続けてきた人物の、これまで一度もHeもSheも決めていないことを、今更ながら再認識している。
「他に投稿のとき自分で決めてる縛りといえば、『指示語等々を多用しないこと』かなぁ」
物書きは言った。
「『彼』、『彼女』、『アレ』、『それ』。指示語は結構便利だから、多用しちまうのよ。あと『◯◯と言った』、『◯◯と鳴った』の『と』とか。
……まぁ結局頼り過ぎちまって、執筆後に大量に削る作業が残るワケだけど」
――――――
せっかく桜が咲いたのに、東京は今日も曇り空。
明日は雨予報だし、土日も雨か曇りだし、
呟きックスのフォロワーさんの中には、東京を脱出して晴れ空の桜を撮りに行くんだって、今後の予定をポスってる人までいる。
私はといえば、今日も明日も、明後日の午前中も、仕事しごとシゴト。
3月から支店に異動してきて、そこが来客のバチクソ少ないチルな支店で、
私はモンスターカスタマー様からも、おクソ上司様からもフリーな職場で、本店に居た時とほぼ同じような仕事を、ストレスフリーに捌いてる。
1つだけ不満があるとすれば「先輩」だ。
3月にこの支店に異動になるまで、ずっと、数年間仕事を一緒にしてた、藤森っていう先輩だ。
先輩も3月でどこかに異動になって、でもその「どこか」が分からない。
先輩の異動にはアレコレ云々、去年の夏頃から続く一連の面倒があるんだけど、ここでは割愛する。
メタいハナシをすると過去投稿分、3月30日と31日頃のやつを参照すると面倒の一端が垣間見えると思うけど、まぁまぁ、気にしない。
ともかく、長年一緒に仕事してた先輩が行方不明。
これだ。1つだけ不満があるとすれば、これなのだ。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。本店の総務課からメール来てるよ。印刷しといたよ」
「ヘイ付烏月さん面倒だから読んで」
「ピロン。俺附子山だよ後輩ちゃん」
「それ言ったら私あなたの後輩じゃないですけど、そこんとこどうなんですかツウキさん」
「本日の自家製おやつ、1つだけ選べるとしたらプチレモンタルトとプチタルトタタン、どっち?」
「レモンタルトください附子山さん」
もうすぐお昼休憩の頃。
私が2月まで居た本店の、同じ階の奥、いわゆるトップ直属ともいえる総務課からメールが届いた。
どうせ「今年もノルマもとい、営業目標達成目指して頑張りましょう」とかでしょ、
と思ったら、
昨日の例の地震と、今日の11時の東京23区震源の小さな揺れに関連付けて、近日中に少し防災訓練と、防災用備蓄の点検を行うって内容だった。
『大きな地震は、いつか必ず来ます』
そのメールの文面にすごく見覚えがあった。
『今回の訓練が、あなたの、あるいは、あなたの同僚やご家族の被災時の手助けになるかもしれません』
テンプレート・ナニソレな文章、小難しい表現を極力取っ払った言葉選び、
なにより、総務課特有の隠しきれないバチクソ小さな「俺等、お前等より偉いんだぜ」が無い。
『ご面倒と思いますが、ぜひ積極的な参加とフィードバックのご協力をお願いします』
それは2月まで一緒に仕事してた先輩が、本店から支店にメールを送るときの文面に、よく似てた。
先輩は総務課に居るのかもしれない。
トップ直属の総務課に。
「ハイ後輩ちゃん、タルトどーぞ」
「……」
「後輩ちゃん、こーはいちゃん?」
「……このメールのコピー貰うね」
「へ?」
先輩の文面によく似た、総務課から来たメール。
私にはそれが、今どこに居るとも知れない先輩の居場所を知るための、ただ1つだけの手がかりに見えた。
「あの、後輩ちゃん、見ましたのハンコ、サイン」
「ハンコならそっから持ってって」
「そーじゃなくて、あのね、それ社内文書……」
桜咲くこの季節に、新しい生活を始める。
親元を離れ、一人暮らしのワンルーム。
荷物の片付けを終えて、夜を迎える。
父親がビールを飲みながら見るナイターの歓声も、
母親が夕食後に食器を洗う水の音も聞こえない。
遠くから、街のどこかを走る救急車のサイレン。
コンビニ弁当をダンボール箱の上に置いて、
昨夜までとのギャップに心が沈んでゆく。
不安と寂しさ。
今はまだ知り合いもいないこの街で、
たった一人で生きてゆく。
遠く離れた故郷で暮らす両親の顔が思い浮かんだ。
自分が心身共に支えられていたことに気付く。
ただひとつだけ、今日という日に手に入れたもの。
どう生きていくかを選べる自由。
選択を誤れば、すべてが自分に返ってくる。
やっと、自分の時間が動き出したような気がする。
夜が深くなるにつれ、不安と寂しさにもうひとつ、
感謝が加わった。
両親に対する感謝、
こんな自分を受け入れてくれる世の中に対する感謝。
冷たい洗礼を食らう可能性もあるけど、
皆と同じスタートラインには立てた。
すべてはこれからの自分次第だ。
明日は仕事初日。
コンビニ弁当のゴミ分別も怠らずに、
今夜のところはダンボールベッドで夜を越えよう。
人生第二幕の扉が開く音を聴きながら、就寝。
一つだけ
昔から言われてた事がある
「ありがとう」と「ごめんなさい」を言えるようになりなさい。
何かあったらすぐ「ごめんなさい」と
何かして貰ったらすぐ「ありがとう」と