かたいなか

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「去年の3月1日から、1つだけずっと続けてる縛り設定といえば、登場人物約1名の『性別を明確にしない』なんだわ。面倒だけど、まぁまぁ、楽しいぜ」
最初は「こいつを男にするか女にするかまだ決めてない」だったんだがな。1年経って、今はもう意地な。
某所在住物書きは過去作を辿りながらポツリ。
現代ネタの連載風として書き続けてきた人物の、これまで一度もHeもSheも決めていないことを、今更ながら再認識している。

「他に投稿のとき自分で決めてる縛りといえば、『指示語等々を多用しないこと』かなぁ」
物書きは言った。
「『彼』、『彼女』、『アレ』、『それ』。指示語は結構便利だから、多用しちまうのよ。あと『◯◯と言った』、『◯◯と鳴った』の『と』とか。
……まぁ結局頼り過ぎちまって、執筆後に大量に削る作業が残るワケだけど」

――――――

せっかく桜が咲いたのに、東京は今日も曇り空。
明日は雨予報だし、土日も雨か曇りだし、
呟きックスのフォロワーさんの中には、東京を脱出して晴れ空の桜を撮りに行くんだって、今後の予定をポスってる人までいる。
私はといえば、今日も明日も、明後日の午前中も、仕事しごとシゴト。
3月から支店に異動してきて、そこが来客のバチクソ少ないチルな支店で、
私はモンスターカスタマー様からも、おクソ上司様からもフリーな職場で、本店に居た時とほぼ同じような仕事を、ストレスフリーに捌いてる。

1つだけ不満があるとすれば「先輩」だ。
3月にこの支店に異動になるまで、ずっと、数年間仕事を一緒にしてた、藤森っていう先輩だ。
先輩も3月でどこかに異動になって、でもその「どこか」が分からない。
先輩の異動にはアレコレ云々、去年の夏頃から続く一連の面倒があるんだけど、ここでは割愛する。
メタいハナシをすると過去投稿分、3月30日と31日頃のやつを参照すると面倒の一端が垣間見えると思うけど、まぁまぁ、気にしない。

ともかく、長年一緒に仕事してた先輩が行方不明。
これだ。1つだけ不満があるとすれば、これなのだ。

「後輩ちゃん後輩ちゃん。本店の総務課からメール来てるよ。印刷しといたよ」
「ヘイ付烏月さん面倒だから読んで」
「ピロン。俺附子山だよ後輩ちゃん」
「それ言ったら私あなたの後輩じゃないですけど、そこんとこどうなんですかツウキさん」

「本日の自家製おやつ、1つだけ選べるとしたらプチレモンタルトとプチタルトタタン、どっち?」
「レモンタルトください附子山さん」

もうすぐお昼休憩の頃。
私が2月まで居た本店の、同じ階の奥、いわゆるトップ直属ともいえる総務課からメールが届いた。
どうせ「今年もノルマもとい、営業目標達成目指して頑張りましょう」とかでしょ、
と思ったら、
昨日の例の地震と、今日の11時の東京23区震源の小さな揺れに関連付けて、近日中に少し防災訓練と、防災用備蓄の点検を行うって内容だった。

『大きな地震は、いつか必ず来ます』
そのメールの文面にすごく見覚えがあった。

『今回の訓練が、あなたの、あるいは、あなたの同僚やご家族の被災時の手助けになるかもしれません』
テンプレート・ナニソレな文章、小難しい表現を極力取っ払った言葉選び、
なにより、総務課特有の隠しきれないバチクソ小さな「俺等、お前等より偉いんだぜ」が無い。

『ご面倒と思いますが、ぜひ積極的な参加とフィードバックのご協力をお願いします』
それは2月まで一緒に仕事してた先輩が、本店から支店にメールを送るときの文面に、よく似てた。

先輩は総務課に居るのかもしれない。
トップ直属の総務課に。

「ハイ後輩ちゃん、タルトどーぞ」
「……」
「後輩ちゃん、こーはいちゃん?」
「……このメールのコピー貰うね」
「へ?」

先輩の文面によく似た、総務課から来たメール。
私にはそれが、今どこに居るとも知れない先輩の居場所を知るための、ただ1つだけの手がかりに見えた。
「あの、後輩ちゃん、見ましたのハンコ、サイン」
「ハンコならそっから持ってって」
「そーじゃなくて、あのね、それ社内文書……」

4/4/2024, 3:48:27 AM