さぶろー

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「1つだけ〜わがままを許してもらえるなら〜君の〜隣にいさせてください〜」
思いっきり握りしめたマイクに曲と共に想いを乗せてその子の方を見た。曲名は【1つだけの】
1週間前、『好きな子とカラオケに行くならこの曲を歌ってみな。落ちるぞ』と先輩に教えてもらった。

向かいのソファに座るその子は、表情を変えずに画面を見続けていて、こちらの想いは届いていない様子。
先輩の嘘つき。そもそもあの人歌が上手いからモテてるだけなんじゃ、と頭の中で詰り、演奏中止ボタンを押した。
「もういいの?」
「いやぁ、思ったより歌いづらかったから」
本当は3時間練習したけど。
「ふーん、そっか…」
なんとなく気まずい空気が流れた気がして、なにか話題を探さないと、と頭をフル回転させているとその子が口を開いた。
「この曲を歌えば私を落とせると思った?」
「えっ」
「おおかた、私とカラオケ行くって決まった時に先輩にでも聞いたんでしょ」
「なんでそれを…!」
「歌うんなら最後まで歌えばいいのに。そうやって怖気付いてやめちゃうとことか、すぐ人を頼るとことかどうかと思う」
なぜ今説教されているんだ。というか、なんで気持ちがバレているんだ…。
フル回転させた脳は使い物にならず、1人パニックになっていると、その子がゆっくり近づいてきた。

「でもまぁ、そういうとこも好きだけどね」

4/4/2024, 6:07:40 AM