『麦わら帽子』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『とある彼女』
彼女はいつも、夏に麦わら帽子を被っていた。
笑顔がとても素敵で、あの、白いワンピースと向日葵が似合う女性だった。
その人が、この世の人ではないのだと気付いたのは、知り合ってから少し経った頃だった。
「そういえば、ユリさんってどこらへんに住んでるんですか?」
「んー、今はもう無いけれど…向こうの方よ」
「今はもう無い?」
「そう。私、貴方と普通に話しているけど、言ってなかったことがあるのよね」
「なんですか?」
「私、……約、20年前に死んだの。
結構ニュースになってたんだけど、まだ君は生まれてないかもね」
彼女が言うのは20年前の、一家殺人についてだった。父、母、三人の子供が就寝中に殺された、無差別殺人。その被害者だと言う。
「…………そんな」
僕は正直、彼女に恋をしていた。だからショックだった。居ない人だとは思わなかった。
お題:《麦わら帽子》
一番初めに浮かぶのは、夏
暑い日差しの中、上を向く向日葵と同じ方を見る少女
その少女が被っているそれは風にさらわれそうになるが、
少女の細い右手がそれを阻止する
朝起きてラジオ体操に向かう。
今日もあの子は赤いリボンの麦わら帽子。
僕はいつもその子の斜め後ろで体操する。
この夏休みの体操が終わる頃までには
話しかけられると
いいな
ひまわり畑の真ん中に
麦わら帽子の影一つ
少女の小さな笑み一つ
3年前の真夏の日
昨日訪れた畑には
焼けて爛れた影一つ
ただ一つ小さな思い出
彼女はもうこの世にいない
......3年前、ここを焼き払って去っていった戦闘機のエンジン音を、私は一生忘れない。
【麦わら帽子】
私は夏になると、麦わら帽子を作る爺さんを思い出す。
そう、最後に会ったのは猛暑だった。
ジリジリと焼けつく暑さと蝉の声がうるさくて、私はいつものように爺さんの家に転がり込んだ。
昔ながらの平屋。
縁側にゴロンと横になって景色を眺めると、緑の茂った山と青い空のコントラストはなかなかのものだ。
「おや、また来たのかい」
家の持ち主がやってきた。
愛想のいい、腰の曲がった爺さんだ。
私は片手をあげ挨拶すると、ふと彼の頭に視線をやった。
この家の爺さんはよく麦わら帽子を被っている。それが私にはどうにも不思議でたまらなかった。
人が帽子をかぶるのは珍しくない。問題はそのデザインだ。
彼の帽子は鍔が広く、花柄のピンクのリボンがついていた。
「前から不思議に思うが、なぜ爺さんはその帽子をかぶるんだ? 花柄は女物なのだろう?」
私は、水を差し出してくれた爺さんに思わず尋ねた。
爺さんは少し驚いた仕草をしたが、すぐに帽子に手をやった。
「変かい? 俺は変とは思わないんじゃがね」
「爺さんが普通でも、私は変だと思うよ」
「ははは、おまえさんに変と言われる日が来るとは、驚きじゃなぁ」
爺さんは屈託なく笑うと、隣に腰掛けて帽子を脱いだ。
「この帽子はなぁ……婆さんのために編んだ帽子なんじゃよ」
話をまとめると、こうだ。
帽子屋を始めて一番最初に編んだのが、老婆さんのための麦わら帽子だったそう。
老婆さんが亡くなり形見となると、彼女を忘れたくないと持ち歩くようになったのだ。
「誰しも。自分の死より悲しいものがあるとするなら、誰かに忘れられることじゃないかと思ってなぁ」
爺さんが愛おしそうに麦わら帽子をなでる。
その言葉に、私は亡き親友を思い出した。
自害をした私の友。
自ら車の前に飛び出しての最後だった。
『消えたい』と、いう彼の最後の言葉は、『忘れて欲しい』という言葉によく似てる、と。
でももしかしたら、『忘れないで』という言葉の裏返しだったかも知れない。
「そうかも知れないね」
「ははは、おまえにわかってもらえるとは意外じゃな」
爺さんは呑気に笑い、また帽子を被った。
その帽子が、私はどうしようもなく羨ましく思えた。
「なぁ、爺さん。私にもひとつ帽子を編んでおくれよ。そいつとお揃いのやつでいい」
「おまえさんにかい?」
「変かい? 私は変とは思わないんだがね」
私の言葉に爺さんは、声をあげて笑っていた。
そして私の帽子が、彼の最後の作品となった。
それ以来、毎日のように小さな麦わら帽子を被る。
私のような『猫』が帽子をかぶるのはおかしいかい?
だが、私は変とは思わない。
帽子の中には私の思い出が、たくさん詰まっているからだ。
麦わら帽子のあの子は、今日も寂しそうに川を眺めている。
その子は、雪のように肌が白く、炭のように黒く染まった髪をしていて、真っ白で薄手のワンピースを着ていた。
年齢は10代といっていいだろう。
その子は、人からは透明人間扱いをされていて、いつもひとりぼっちだったと言う。
そのせいか君と僕は妙に相性があった。
彼女が嫌いな色は赤色で、嫌いなタイプは目がつり目になっている人、そして嫌いな場所は、神社と道路らしい。
そして、いつも帰るときには、「もう帰っちゃうの?寂しいよ、怖いよ、ねぇ明日も絶対来てくれるよね?、絶対に約束だよ」と言う。
しかし、君とだんだん仲良くなっていくたびに、周りの目がおかしくなる。
そんなある日、ある坊さんが僕にこう言った
「こりゃぁ、たくさんついとるな」って
ある日、出掛けていた家族3人のうち全員が交通事故でなくなったらしい。
夫婦ともに即死だったが、1人の女の子だけは、まだ生きていたらしく、苦しかったのかこう叫んでいた、「ねぇ、寂しいよ、こわいよ」と、その子を見るにはもう悲惨過ぎて見るに忍びなかったらしい。
真っ赤に染まったワンピース、真っ黒に染まった髪の毛、そして雪が透き通るように美しい白い肌
そして犯人の特徴は、つり目だった。らしい
涼しくなりましたか?
夏なので、、、
耳に触れる藁と髪
かさかさ ざあざあ さらさら
夏はこころもこんな音
転んでしまったからだろうか。膝に抱えた麦わら帽子はつばに解れているところがあって自分のすり傷よりももっと可哀想に見えた。私は泣き出した。誰もいない畦道だった。誰も助けには来なかった。やっぱり照りつける太陽だけが涙を乾かした。しっぽの生えた麦わら帽子を被り直してもう太陽の励ましなんていらないから、と言うように右足から走り始めた。誰もいない畦道だった。入道雲が青く見えた。私は走った。
お題「麦わら帽子」
夏のイメージのひとつに
麦わら帽子がある
イラストや歌の歌詞、写真にも出てくる
けれど私は被ったことがない
街中で被るのはもっぱら布地
幼少期ぐらいはと思っても
意外にも記憶にも記録にもない
理由を母に尋ねようにも
今は空の上
だからイメージの中のアイテムのひとつ
なんだか現実味のない
少し憧れもある夏の風物詩
麦わら帽子
私は、海の麒麟である海麟と申します。
私が王気を見出したあの人は麦わら帽子が似合う方でした。
麦わら帽子
夏の田舎、田んぼ道を歩いていると良く見かけていた。
日除けに良いのだろ。
しかも、ちょっとすずしそう⋯
麦わら帽子に憧れた。
真夏に向日葵畑に立つ、白いワンピースを着た少女が被る、あの麦わら帽子――ではなく、海賊の頂点を目指す少年が被る、あの麦わら帽子に。
昔から、男に混じって外で遊ぶのが好きだった。女の格好よりも男の格好をしてる方が楽だった。
ある日、海賊ごっこをした。公園の遊具を船に見立て、通りがかった動物をワニやサメに見立て、その辺に落ちているゴミを宝に見立てた。
船長役の子は麦わら帽子を被っていた。彼は、困っている友達をほっとけない、正義感の強い子だった。
そこへ、いじめっ子のガキ大将が公園を占領しようとやって来た。
船長はガキ大将をこの海賊団の宿敵だと言い、ガキ大将の前に立ちはだかった。宿敵のガキ大将は笑いながら船長を殴る。体格差は歴然。どう見ても勝ち目はなかった。
それでも船長は負けなかった。宿敵を倒そうと、この海賊団を守ろうと、力いっぱい戦った。
そして、宿敵はとうとう根負けし、海(公園)の平和は守られた。
あの時の、麦わら帽子の下で輝く、彼の笑顔が忘れられなかった。
私も、彼のようになりたかった。
一生懸命で、何にも負けない、麦わら帽子の似合う彼に憧れた。
いつか私も誰かを守れるかな。
少年のような格好で、麦わら帽子を被り、外へと歩き出した。
『麦わら帽子』
「はい、どうぞー」
にぱっと明るい笑顔で拳を突き出した姪っ子は珍しく機嫌がいい。つい最近姉が二人目の子を出産したためあまり構ってもらえなかったのが寂しかったのだろう。おやつや玩具を買っても見向きもせず、わんわんと大泣きしては暴れ回った。
これにはさすがに姉も参ってしまったようでしばらく俺と弟で預かることになったのだ。男所帯に幼い女の子を一人放り込むなんて、とは思ったがこれがまた可愛くて目に入れても痛くないとはこのことかと納得したほどだ。
俺も弟も夏休み中であることを言い訳に姪っ子を甘やかしまくった。可愛らしいパフェが人気の店やSNS映えする写真スポット、夏定番の海やプールに花火大会や夏祭りまで。姪っ子が喜びそうなところをピックアップして連れ回した。
最初こそ人見知りしていたが、今では大声で名前を呼んで抱きついてきてくれるようになったのだ。そして行きたい場所や食べたいものを百点満点の笑顔と上目遣いでおねだりしてくる立派なレディーに成長した。姪っ子が尊い。
だが楽しい時間ほどあっという間に過ぎていくものだ。気づけば夏休み最終日となり、姪っ子も姉夫婦の元へ帰ってしまう。寂しさのあまり姪っ子より先に咽び泣いて「帰らないでぇ!」と叫びちらした。姉にぶん殴られ姪っ子にヨシヨシされてまた泣いた。めっちゃ天使。
ついにやってきたお別れのとき、走り寄ってきた姪っ子の冒頭の「はい、どうぞー」である。
膝をついて目線を合わせてやると、突き出した拳を開いて可愛らしいヘアピンを2つ差し出した。「ありがとう」と屈託のない笑顔でいわれて、さらに俺と弟の髪にヘアピンをさした。
「これねお揃いなの!失くしちゃだめだよ!」
「「めっちゃ大事にする!!」」
夏がくる度に思い出す。ガチャガチャで引き当てたヘアピンは未だ捨てられず、ずっと俺たちの髪を飾りたててくれている。またいつか、姪っ子の手で飾りつけてほしいものだ。
仕事場に向かうため、ヘアピンをした上から麦わら帽子を被って歩く。いつも通りの道の端、小さな花束と見覚えのある缶ジュースが供えられていた。まだ新しいそれらをみて先を越されたなと独りごちる。
「まだまだ連れていってやりたいところあったのになぁ」
【題:麦わら帽子】
深く深く麦わら帽子を被って
深く深く息を吐いた
木にくっついたその宝石を
捕まえられたらいち早く見せて自慢する
夏の音 夏の声
今となっては終わりの青
麦わら帽子
雲の隙間に見える青空
ひまわり畑のなかを駆け回る君
追いつけないまま飛んでった麦わら帽子
一面のひまわり畑の合間から
彼女の、少し大きな麦わら帽子が
見える。
ひまわりの葉のように、濃い緑の
リボンが巻かれた、あの帽子は
彼女によく似合う。
俺は、この3年彼女を連れ出しては
沢山の写真を撮ってきた。
今もまた、レンズ越しの世界を
美しいままで…と シャッターを切る。
『いよいよ…最期かもしれないの』
昨夜、残念そうに悔しそうに
だが気丈に彼女は…俺に告げた。
この3年で、彼女は徐々に
儚く白く細く…確実に痩せていった。
力加減も分からなくなるほど
華奢な身体を、何度も抱きしめた。
少し遠出になる外出も
辛いはずなのに…
『私、ひまわりが1番好きなの』と
麦わら帽子を、抱えて微笑む彼女に
行かないとは言えなかった。
ひまわり畑から、顔を出した
彼女が、大きく手を振る。
俺の最愛の人。
君は、この世で1番美しい。
【お題:麦わら帽子】
夏風に
麦わら帽子
飛ばされて
無骨な指と
僅かに触れる
【麦わら帽子】
まだ日差しの強い秋口。レイは一人でばら園に来ていた。
レイは花が好きだ。
小さい頃家族で旅行に行った沖縄で、南国のカラフルな花々を見て衝撃を受けてから、花をモチーフにしたデザインをたくさん描いてきた。特に、「いぺー」と呼ばれる濃い黄色の花を見て感激し、部屋にはイエローのカラードレスのデザインが何枚もある。いつかもっと自由に使えるお金ができたら、実際に作るつもりだ。
そういう理由で、今でも時々花園に出かけては写真を撮ったり、簡単なデッサンをしている。
斜面に植えられたバラの華やかさを堪能し、トンネルになった温室を抜ける。香りもいい刺激になる。甘く誘惑するような香りや、ただひたすらに美しく爽やかに立ち去るような香りもいい。バラにはたくさんの種類があるから、見ていて飽きない。ベルベットのような肌触りの真紅のバラや、少し触れただけで裂けてしまいそうな透き通る白い一重咲きのバラ、かすれたようなピンクの花びらが重なりあって陰影が美しいバラ・・・。一つ一つモチーフにしてドレスを作って、そのバラの名前を付けたいくらいだ。
円形になった花壇の中で、エレガントレディという名前のバラが気を引いた。柔らかくしなやかな花びらは、中心から端に向かってクリーム色から可愛らしいピンクへと変化する。華やかというよりは、純真で優しいイメージだ。
秋空に向かって背を伸ばすその姿を写真に納めてふと振り返ったレイは一人の少女に目を奪われた。
透け感のある柔らかなアイボリーのワンピースに、麦わら帽子。少女はとても華奢で、色が白く、儚くて、今にも消えてしまいそうに見える。そんなからだとは対照的に、興奮を隠しきれない明るい笑顔がとてもまぶしい。少女はちょうど温室から出てきたところで、眼下に広がる美しい景色にとてもはしゃいでいるようだ。
こちらの視線に気づいたのか、少女が少し不思議そうな顔になった。すぐに後ろから母親らしき女性が顔を出し、こちらを伺うようにして見る。
今日のレイはフード付きのカジュアルなロングワンピースを着ていて、キャップをかぶっていた。暑いのは覚悟でミディアムの長さのウィッグをかぶり、三つ編みにしていた。遠目には男だとは分からないだろう。軽く会釈をして立ち去ろうとしたとき、母親らしき女性の方が話しかけてきた。
「もしかして、レイくんじゃない?」
レイは驚いて立ち止まった。
「はい・・・。どこかでお会いしましたか?」
「もう覚えてないかもね。むかーし、公園でサキと何度か遊んでくれたことがあるのよ。」
後ろに立つ麦わら帽子の少女を指さす。
「サキちゃん・・・?」
懐かしい記憶が呼び出された。そういえば、あの頃もこんな麦わら帽子をかぶった女の子が公園にいて、一緒に遊んだっけ。
「サキは覚えてない?ほらあなた、体が弱いからなかなか他の子と一緒に遊べなくて、でもレイ君は一緒に木陰で花冠作って遊んでくれたでしょう。」
「あ・・・!覚えてる・・・!」
「あの時から美少年だったけど、ほんと素敵に成長したわね。」
サキの母親がにっこりと笑う。すっと通った鼻筋に、流し目が色っぽい表情を作る。素敵という言葉はあなたのためにあるのでは、とレイは思った。名前は確か、藤本さんだ。
「そういえばよく、親子と間違われていましたね。サキちゃんはお父さん似で。あ、今日はお父さんは・・・?」
「ああ、あの後離婚したのよ。今は二人暮らし。」
藤本さんが肩をすくめた。
「って言っても、わたしはほとんど病院だけどね。」
二人ともあっけらかんとしている。
「レイ君は一人?」
「はい、たまに一人で来るんです。花を見てるといろんな服のデザインが思い浮かぶから。」
「あら、デザイナーさん目指してるの?」
それからしばらく雑談をして、連絡先を交換した。
「サキとまたお友達になってちょうだい。この子、あんまり友達いないから。」
「いないこともないわよ。」
ふくれっ面もかわいらしい。
別れてからもしばらく、ワンピースをなびかせながら歩いていくサキの後姿を眺めていた。麦わら帽子のつばからのぞく白いうなじが、日差しを浴びて輝いているように見えた。一言でいうと、儚げな少女。
(もしかしてモデルにぴったり…?)
麦わら帽子
うちの猫が女の子だったら
麦わら帽子が似合うと思う
うちの猫が女の子だったら
夏の暑い日
麦わら帽子をかぶって
とてもかわいいと思う
うちの猫が女の子だったら
麦わら帽子をかぶって
一緒に暑い中
たくさんお出掛けしたいな
でもうちの猫は猫だから
麦わら帽子なんて
さっぱり分からなくて
なんだこれって
がりがりかじっちゃうんだけどね
あきかぜ
私の父は
昔からだいたいいつも
帽子をかぶっています
野球帽だったり
カウボーイハットだったり
畑仕事や海なんかは
決まって麦わら帽子です
今はストローハットですか
父の日にも幾つかプレゼントしました
父の麦わら帽子を見ると
幼い頃の暑い夏の
太陽を背に笑顔の父が
目に浮かびます
何時までも元気でいて下さい