川柳えむ

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 麦わら帽子に憧れた。

 真夏に向日葵畑に立つ、白いワンピースを着た少女が被る、あの麦わら帽子――ではなく、海賊の頂点を目指す少年が被る、あの麦わら帽子に。

 昔から、男に混じって外で遊ぶのが好きだった。女の格好よりも男の格好をしてる方が楽だった。
 ある日、海賊ごっこをした。公園の遊具を船に見立て、通りがかった動物をワニやサメに見立て、その辺に落ちているゴミを宝に見立てた。
 船長役の子は麦わら帽子を被っていた。彼は、困っている友達をほっとけない、正義感の強い子だった。
 そこへ、いじめっ子のガキ大将が公園を占領しようとやって来た。
 船長はガキ大将をこの海賊団の宿敵だと言い、ガキ大将の前に立ちはだかった。宿敵のガキ大将は笑いながら船長を殴る。体格差は歴然。どう見ても勝ち目はなかった。
 それでも船長は負けなかった。宿敵を倒そうと、この海賊団を守ろうと、力いっぱい戦った。
 そして、宿敵はとうとう根負けし、海(公園)の平和は守られた。
 あの時の、麦わら帽子の下で輝く、彼の笑顔が忘れられなかった。

 私も、彼のようになりたかった。
 一生懸命で、何にも負けない、麦わら帽子の似合う彼に憧れた。
 いつか私も誰かを守れるかな。
 少年のような格好で、麦わら帽子を被り、外へと歩き出した。


『麦わら帽子』

8/11/2023, 3:28:44 PM