シシー

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「はい、どうぞー」

 にぱっと明るい笑顔で拳を突き出した姪っ子は珍しく機嫌がいい。つい最近姉が二人目の子を出産したためあまり構ってもらえなかったのが寂しかったのだろう。おやつや玩具を買っても見向きもせず、わんわんと大泣きしては暴れ回った。
これにはさすがに姉も参ってしまったようでしばらく俺と弟で預かることになったのだ。男所帯に幼い女の子を一人放り込むなんて、とは思ったがこれがまた可愛くて目に入れても痛くないとはこのことかと納得したほどだ。

 俺も弟も夏休み中であることを言い訳に姪っ子を甘やかしまくった。可愛らしいパフェが人気の店やSNS映えする写真スポット、夏定番の海やプールに花火大会や夏祭りまで。姪っ子が喜びそうなところをピックアップして連れ回した。
 最初こそ人見知りしていたが、今では大声で名前を呼んで抱きついてきてくれるようになったのだ。そして行きたい場所や食べたいものを百点満点の笑顔と上目遣いでおねだりしてくる立派なレディーに成長した。姪っ子が尊い。

 だが楽しい時間ほどあっという間に過ぎていくものだ。気づけば夏休み最終日となり、姪っ子も姉夫婦の元へ帰ってしまう。寂しさのあまり姪っ子より先に咽び泣いて「帰らないでぇ!」と叫びちらした。姉にぶん殴られ姪っ子にヨシヨシされてまた泣いた。めっちゃ天使。
 ついにやってきたお別れのとき、走り寄ってきた姪っ子の冒頭の「はい、どうぞー」である。
膝をついて目線を合わせてやると、突き出した拳を開いて可愛らしいヘアピンを2つ差し出した。「ありがとう」と屈託のない笑顔でいわれて、さらに俺と弟の髪にヘアピンをさした。

「これねお揃いなの!失くしちゃだめだよ!」

「「めっちゃ大事にする!!」」

 夏がくる度に思い出す。ガチャガチャで引き当てたヘアピンは未だ捨てられず、ずっと俺たちの髪を飾りたててくれている。またいつか、姪っ子の手で飾りつけてほしいものだ。
 仕事場に向かうため、ヘアピンをした上から麦わら帽子を被って歩く。いつも通りの道の端、小さな花束と見覚えのある缶ジュースが供えられていた。まだ新しいそれらをみて先を越されたなと独りごちる。

「まだまだ連れていってやりたいところあったのになぁ」




               【題:麦わら帽子】

8/11/2023, 3:27:02 PM