終わりの日
今日に何かこだわりがあるわけではないです
でも区切りがいいので終わりには丁度いいと思いました
苦しいことも辛いこともたくさんありました
嬉しいことも楽しいこともあったのかもしれません
私はそれを思い出すことができませんがそれでいいと思います
何一つ未練を残すことなくパッと消えることができるからです
幽霊や死後の世界があったとしても私はなりたくないし行きたくもありません
この世にもあの世にもどこにも私という存在がなくなってほしいからです
みんな私を邪魔だと言います
消えてしまえ、死んでしまえ、と言われます
だからその通りにするために私は消えたいです
私はバカだからみんなの言う通りにしておけば全てが上手くいくのです
みんなの幸せのために私は消えるのが正解です
楽しい世の中になるために必要なことです
誰も悲しまない世界になりますように
―――こういっておけば少しはそれらしくなるのかな
夏の夕方に生まれた私は沈む運命なんだよ
そうだよね
そうだよね
ねえ
嬉しいでしょう
【題:8月31日 午後5時】
「あんなののどこがいいんだ」
別に意地悪を言っているわけではない。
あいつは口も性格も悪いし、こいつには殊更辛く当たる。
何も言い返さないのをいいことに、いつまでもグチグチと嫌味やら悪口やら言うものだから心配しただけだ。
なのに、こいつときたらキョトンとした顔で首を傾げたかと思うと心底不思議そうにこういった。
「あいつのどこが悪いんだ」
優しいやつも厳しいやつもたくさんいるここで、こいつにとっての一番は決まっているのだ。何を言われても平気なのではなく、それが自分にだけ与えられる情だと信じて疑わない。
感じ方も価値観も人それぞれだと分かってはいるが、こればかりは理解できない。雛のように自分を拾ったあいつを親のように慕う姿には呆れる。
見知らぬ街で心細くとも、あいつに懐くのだけは、全く理解できない。その純粋な目から光が失われることがないように俺だけでもしっかり見といてやらないといけないな。
厄介なガキがまた増えた。あいつもこいつも勝手で生意気で勘弁してほしいものだ。
【題:見知らぬ街】
何かの特別になりたい
この計画だってきっとまた失敗する。でも数十分もあれば確実な効果を得られるが失敗したら身体機能が失われる、お手軽でハイリスクな方法だ。
歪な輪っかを作ってみて、どうにも勇気が出なくてプラプラと揺らしてその様子をみる。これをどこかに吊るして、もういないあなたを思い出せばちゃんとできるのだろうか。
時間薬だと言う、そんな戯言を大声で叫んでおいて悲しみもしない他人とは違う。寄り添うフリをして傷口を広げる人たちにかける言葉も善意もないのだ。痛くて苦しくてどうしようもない私は他人なのだから、そう他人なのだから、近づかないで。
結局、渡してくれなかった小さな箱を受け取った。
あのときから私は壊れてしまった。ラッピングは綺麗なままで、有名なブランドのロゴがあって、色んな記憶が浮かんでは消えてを繰り返す。見たら分かるのにそれらしく嘘をついて、何か演出を考えていたのも知ってるのに、分かりやすいから知らないフリしたのに。なんで。
上品な色の箱にスパンコールが散りばめられて星空みたいなんだ。白いリボンは、なんだっけ、星雲だったかなあれみたいで綺麗だよ。別に星空に思い出なんてないけど、帰るときはいつも暗い時間だったから一緒にみる機会は多かったね。そういう何気ない日常を意識したのかな、私よりロマンチストだからあり得そう。女々しいやつめ。
「…私より先に行かないでよ」
【題:Midnight Blue】
きみはいつも、どこか遠くにいる
子どもの頃にした約束はもう色褪せていて、何の拘束力もないのだろう。現にきみは忘れてしまっていて、覚えているのは僕だけだ。イミテーションの宝石をくっつけただけの玩具ですらその片割れをとうに失っている。
偶然の再会とは、別に運命的なものではなかった。傷だらけで帰ってきたきみを守る口実ができただけ、きみにとって僕は恐怖の対象の1つでしかない。でも昔から変わらない弱い面影をみつけては少しずつ言葉を交わせるようになる日々は幸せだったんだ。
触れ合うことなんてまだできる段階でもない。それでも側にいられるなら、と差し出したものは実にあっさりと受け入れられた。愛の言葉も誓いもきみにとっては呪いだということを知っていたから、公的に認められた書類の束にたくさん署名をすることで安心してもらえるならいくらでもしよう。ちゃんと、きみのヒーローになりたいから。
掬っても、掬っても、零れ落ちてしまう。
水のように、砂のように、何も残してくれやしない。
お揃いの証だけが左手薬指に光る。
悪者を倒す僕をみないでほしい。
きみは綺麗なまま、今度こそ光の中で笑うのだ。そのためならなんだってやる。これが愛なのだと伝わるように。
痛いのも苦しいのも、それらは愛じゃない。欲を満たすための道具であると気づいて逃げて助けを求めればいい。
『きみは、きみを愛する人に気づけるように頑張ってね』
【題:言葉にならないもの】
私が死んだら喜んでくれますか
聞くまでもなかったね
じゃあ永遠にさようなら
二度と出会いませんように
…夢じゃないよ、あなたたちが私を殺したの
【題:夢じゃない】