シシー

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 きみはいつも、どこか遠くにいる

 子どもの頃にした約束はもう色褪せていて、何の拘束力もないのだろう。現にきみは忘れてしまっていて、覚えているのは僕だけだ。イミテーションの宝石をくっつけただけの玩具ですらその片割れをとうに失っている。

 偶然の再会とは、別に運命的なものではなかった。傷だらけで帰ってきたきみを守る口実ができただけ、きみにとって僕は恐怖の対象の1つでしかない。でも昔から変わらない弱い面影をみつけては少しずつ言葉を交わせるようになる日々は幸せだったんだ。

 触れ合うことなんてまだできる段階でもない。それでも側にいられるなら、と差し出したものは実にあっさりと受け入れられた。愛の言葉も誓いもきみにとっては呪いだということを知っていたから、公的に認められた書類の束にたくさん署名をすることで安心してもらえるならいくらでもしよう。ちゃんと、きみのヒーローになりたいから。

 掬っても、掬っても、零れ落ちてしまう。
 水のように、砂のように、何も残してくれやしない。
 お揃いの証だけが左手薬指に光る。

 悪者を倒す僕をみないでほしい。
きみは綺麗なまま、今度こそ光の中で笑うのだ。そのためならなんだってやる。これが愛なのだと伝わるように。
痛いのも苦しいのも、それらは愛じゃない。欲を満たすための道具であると気づいて逃げて助けを求めればいい。



『きみは、きみを愛する人に気づけるように頑張ってね』




            【題:言葉にならないもの】

8/13/2025, 2:54:43 PM