『とある彼女』
彼女はいつも、夏に麦わら帽子を被っていた。
笑顔がとても素敵で、あの、白いワンピースと向日葵が似合う女性だった。
その人が、この世の人ではないのだと気付いたのは、知り合ってから少し経った頃だった。
「そういえば、ユリさんってどこらへんに住んでるんですか?」
「んー、今はもう無いけれど…向こうの方よ」
「今はもう無い?」
「そう。私、貴方と普通に話しているけど、言ってなかったことがあるのよね」
「なんですか?」
「私、……約、20年前に死んだの。
結構ニュースになってたんだけど、まだ君は生まれてないかもね」
彼女が言うのは20年前の、一家殺人についてだった。父、母、三人の子供が就寝中に殺された、無差別殺人。その被害者だと言う。
「…………そんな」
僕は正直、彼女に恋をしていた。だからショックだった。居ない人だとは思わなかった。
お題:《麦わら帽子》
8/11/2023, 4:43:03 PM