『鐘の音』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『鐘の音』でふと、思い出したことがある。
よく耳にするのは
「彼と出会った時、鐘の音が聞こえたの!
だから、私は彼と結婚する運命なの」
と、女友達から聞いたことがある。
蛇足ですが、
あのココシャネルは、数多くの波乱な恋に出会い
自分の地位を築き上げることができたらしい。
もし、私の彼女と同じような大恋愛をしていたら
私は今頃、どんな人生を歩み、
誰と共に仕事をしていたのだろうか。
私はココシャネルの恋ほど波乱に満ちた恋には
未だかつて出会ったことはない。
だけど、もし人生の道筋を大きく変える人がいれば
教会の鐘の音が聞こえるのかと、
ふと疑問に思う。
結婚までは至らなくても、
自分の何かを変えてくれる人だと
キリストが知らせてくれるかもしれない
と、思ってしまった今日だった。
「午後三時。門前町。古民家カフェ。」
日中、毎正時に聞こえてくるのだと、あの人は言っていた。
三つ鳴らしたあとに、時刻と同数の鐘の音。
あの人の軌跡を辿る旅は、ここから始めることにした。
もう二度と会うことができない。
もっと、教わりたいことがあったのに。
この先もずっと、見守っていてほしかったのに。
それよりもなによりも、あの人自身もやりたかったこと、やり残したことがあったのに。
寺を中心に発展した町。
あの人が生まれ育った町の、路地裏を歩く。
古い建物を改修や改築したカフェや本屋、雑貨屋があちこちにある。
「リノベーションか……」
鐘の音が聞こえてきた。
午後三時。
目についたカフェに入り、ノートを開く。
あの人が残したもの。
それらはもしかしたら、あの人が俺に出した最後の課題なのかもしれない。
────鐘の音
教会の鐘の音を聞くと、何故か浄化されるような気分になる。
という話を友人にしたら
「お前悪霊だったのか」
とエンガチョされた。
(お題:鐘の音)
鐘の音
「なつくん、これからもずっと一緒にいようね?」
こさめがそう言うとなつくんは優しくほほえんだ。
今日は待ちに待ったこさめたちの最高に幸せな日。
なのになつくんはどこか悲しそう。
笑顔なのに今にも涙が溢れだしそうな顔をしている気がする。
どうしてだろう。
これから先に不安があるのだろうか。
分からない。
でもこれから先、絶対なつくんを幸せにする!
なつくんと一緒に幸せになる!
そう心の中で誓うと同時にウェディングベルを二人で鳴らした。
辺りに鐘の音が響き渡った。
______
頭上でアラームの音鳴っている。
目を開けると見慣れた天井が視界に入る。
「あぁ、夢か、」
毎日のようにみるなつくんとの結婚式の夢。
もう叶えることの出来ないこさめの夢。
「おはよう、なつくん…いってきます」
なつくんの写真を見ながらそう言うとこさめは重い玄関の扉を開いて家を出た。
鐘の音
近所のお寺には鐘がある。
大きな梵鐘と言われるタイプだ。
昔は夕刻になると鐘の音が響き渡っていたが
最近は聞かなくなった。
住宅がお寺の近く密接に建つようになって
お寺側も音を控えているのかもしれない
それでも年末の除夜の鐘の音だけは
今も毎年続いており、密かに楽しみにしている
曰く、父と初めて出会ったその瞬間、
母の脳内で鐘の音が鳴り響いたそうな
だから父さんは母さんの運命の人なのよー、と
子供心に「何を馬鹿な」とは思ったが、賢明な当時の俺は決して口には出さなかった
ちょっとめんどくさかったのもある
大体鐘って……
寺とか?
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チリン
え…?ア"ッ!?
あ"ーーーー!?
落としたー!!
波紋を広げる池を前に、デカい声で悲嘆に暮れている知らん人を見つめながら、つられて蘇ってきた遠い記憶にそんなことを思う
よくこんなエピソード覚えてたな、俺
思い浮かぶままつらつらと変な感心の仕方をしていると、目の前の人物はフラリと立ち上がり涙目でボトムの裾をたくし上げ始めている
おいおい…この寒空の中池さらう気か
ギョッとして思わず止めに入ってしまってから、やめときゃいいのになあと自分でもちょっと思った
……風邪ひきませんように
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指先に触れる小さな鈴のついた飾りひもを掬い上げ、チリリと目の高さに持ち上げて持ち主に確認する
コレ?
っ…それ!
ありがとう、ありがとうっっ!!
ほらと手に乗せてやると、ぎゅうと鈴を握りしめて礼を言われた
ありがとうございます…!としっかりとこちらを見つめ感謝を告げる、へにゃりとした泣き笑いのその表情に
チリン、と頭の片隅で小さな鈴の音が響いた気がした
『鐘の音』
/(……物理的に鳴ったな)
3分間の全集中
間、1分のインターバルを設けて
12ラウンドを闘い抜く
短い時間の中に
夢と希望と挫折とロマンが溢れてる
#鐘の音
【お題:鐘の音 20240805】
都にも、街にも、村にも、人の住む場所には必ず鐘楼がある。
鐘楼には鐘の魔具が設えられており、日に二度奏でられる鐘の音が、魔物から人々の生活と命を護る。
特殊な力を宿した道具を魔具と言い、魔具を作る者を魔具師と呼ぶ。
魔具師は誰でもなれるわけではなく、己の魔力を他へ移すことが出来る者のみがなれる職業である。
そして、彼の祖父もまた魔具師であった。
「そろそろだな」
彼はすくりと立ち上がると、部屋の奥の扉を開けた。
人ひとりが通れるほどのドアを潜ると、両の手を伸ばせば壁につくほどの狭い空間に出る。
そこに設えられた、木の梯子に手を掛け彼は躊躇無く登り始める。
建物の高さにして五階分以上、部屋自体も地上四階に位置しているため、上まで登ればその高さは目も眩むほどだ。
最後の段を登り、彼は目を細める。
東側の山の稜線が薄っすらと色付き始めている。
藍色の空が次第に明るくなり、朱色に染まりだす。
じきに太陽が顔を出し、この断崖にへばりつく様にしてできた小さな村にもその光の恩恵をもたらすのだろう。
村の北側、背後に絶壁を背負うような形でこの村の鐘楼は建っている。
東側は北側から続く急峻な山、西も同じく山ではあるがこちらはなだらかな斜面で、柑橘の木が植えられている。
そして目の前、南側には数件の古びた建物と、目が覚めるほど青い色をした海が広がっている。
「今日も平和な一日でありますように」
別に決まりという訳では無いが、彼は毎日そう口にしてから鐘を鳴らす。
一際大きな鐘を三回、小さい鐘と中くらいの鐘を交互に四回、大きい鐘、小さい鐘、大きい鐘中くらいの鐘、と複雑に組合せて独特の音色を響かせる。
鐘の音は背後の絶壁に反響し、遠くの東の山にぶつかって戻ってくる。
この鐘の音が聞こえる範囲が鐘の魔具の有効範囲。
鐘の音が澄んで聞こえればそれだけ魔具の効果は高い。
大きな都市などは大鐘楼を中心として複数の鐘楼を配置し、大鐘楼の鐘の音に合わせ他の鐘楼も鐘を鳴らすことで範囲を広げ、効果を高めていると聞く。
最後に大きな鐘を鳴らし、その音が大気に溶け込み消えるまで彼は目を閉じていた。
彼の家はその昔、この地を収める領主の一族だった。
優秀な兄の元、兄を支え共に領地の民に平和と繁栄をと身を粉にして働いていた。
だが、狡猾な臣下に騙され兄を罠にはめる形となってしまった彼の先祖は自ら兄に申し出て、領地の最果てのこの地に居を移した。
かつて良質な宝石が採掘された東の山の管理という名目で。
既に石は枯れ、猫の額ほどの土地では自分達が食べるものを作るので精一杯。
目の前の海には高い断崖を下って行くしか方法がなく、また海に出たとしても大型の魔物が生息しているため漁に出ることも難しい。
そんな誰からみてもなんの旨味もない、寧ろあるだけ管理に手間がかかるような土地に彼は今、ひとりで住んでいる。
三年前、流行病で相次いで両親を亡くし、魔具師であり、彼の師匠である祖父も前の冬に老衰で旅立った。
彼に兄弟はなく、一族の者も皆死に絶えた。
彼が最後のひとりなのだった。
「さて、食糧の買い出しに行かないと」
無駄に広い屋敷は、ここに移り住んだ際に領主である兄が建ててくれた物だと聞いている。
事実、屋敷の造りは古く200年ほど前の建築様式だ。
ただ、この屋敷がほぼ当時のまま保たれているのは、屋敷の至る所にある魔具のおかげだ。
劣化することも汚れることも無く、破損しても時間が経てば元の状態に戻るようになっている。
そしてその魔具の多くは初代の手で作り出されたもので、鐘楼の大きい鐘も初代が作ったものだった。
彼は部屋に戻りマントを羽織る。
深い緑色のマントは父が使っていた物だ。
因みに家具や服、小物等も魔具のおかげか劣化することがない。
ただし、食べ物や飲み物等はその範囲では無いようで、普通に悪くなる。
目下、彼の目標は食べ物や飲み物の劣化を防ぐ、若しくは遅らせる魔具の作成だ。
「おっと、薬草薬草っと」
山で採取した薬草は街でいい値段で売れる。
時間を見ては山に入り、採取した薬草を乾燥させている。
溜まった薬草を革袋に入れ、腰に剣を穿き馬を車に繋ぐ。
西の山を越えた先、隣の領へ続く街道沿いにある街まで三時間ほど。
今から出れば、日が落ちる前には余裕で戻ってこられる。
「準備よし!」
両親がいた頃は、街に泊まって翌日に帰る事もあった。
その時に聞く、村とは違う鐘の音を今でもたまに思い出す。
一人になってしまった今は、村から出られるのは朝の鐘と夜の鐘の間だけ。
鐘を鳴らし忘れると、家畜や畑が魔物に荒らされる。
先祖が守ってきた土地を、そんな事で失うわけには行かないのだから。
「さ、出発だ」
この先どれだけの鐘を鳴らすのか、彼には分からない。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、風の日も、うだるほど暑い朝も、凍えるほど寒い夜も、彼は鐘を鳴らす。
今はその音を耳にするのがたとえ自分一人だけで、誰もいない村に虚しく響くだけだとしても。
この小さな村とも呼べない場所で彼は待つ。
彼の鳴らす鐘の音を、共に聞いてくれる誰かが来るのを。
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(´-ι_-`) カエルノタメニカネハナル ル҉*\( * ॑˘ ॑* )
誰にも聞こえない
私の心のなかだけで響く鐘の音
静かに
ときにけたたましく
尾を引くように
木霊のように
近く
また
遠く
しかし決して
止むことはない
私の心のなかの
鐘の音
誰か気づいたら
あなたの鐘も
鳴らしてほしい
そっと
耳を澄ますから
★鐘の音
今日は、広島に原爆が落ちた日。
蝉の声を聴きながら、79年前の今日に想いを馳せた。
世界中のみんなが幸せになりますように。
「こんな時間にカフェでコーヒーなんていつぐらいぶりかしら…」
時計はようやく10時を回ったところだった
まわりに目をやると、遅めの朝食を摂るすでにリタイアしていると思しき男性がゆったりと新聞を眺めていたり、パソコンに向かい、コーヒーに手をつけることも忘れて忙しなくキーボードを叩くサラリーマン風の男性
紗代子のような主婦らしき人はひとりも居ないことに、すこし後ろめたさを感じた
もちろん紗代子も、普段のこの時間は家事に追われ家中を小鳥の様に飛び回っている
ところが今朝夫との会話のふとした一言が、紗代子の家事モードのスイッチをブチ壊した
何もかもが馬鹿らしくなり、食事の後片付けもろくにせず、残す家事もすべて放り出して家を出て来たのだ
「あなた!また奥のタオルから使っちゃったの?手前から使ってっていつも言ってるじゃないの!」
何度注意しても夫はキレイに畳まれ整然と並べられたタオルの列に無造作に手を突っ込みタオルを掴み取るのだ
「そんなつまらないことにいちいち拘るなよ!タオルなんてどれも同じじゃないか! あれはこうしろ、これはああしろ!ってそんなつまらないことに何の意味があるんだよ!」
紗代子の頭の中の何かの線が、ブチッ!と音を立てた
(つまらないことですって?! 何の意味があるかですって?! そりゃ、お給料もらう貴方の仕事はさぞ意味があるでしょうよ
それに比べたら、私の毎日の家事なんて意味の無いことでしょうよ
やったって、やったって、目に見えた成果があるわけじゃなし、掃除したってすぐに汚れる、食事を作ったってあっという間に食べ終わる、私のやってることなんて、やったことも分からない様な不毛なことだらけよ!
家政婦でも頼めば済むことばかり
私じゃなくたって、お金で解決することばかりよ!
もう!やってられない!!)
そう心の中で湧き上がる思いをぶちまけた
毎日欠かさない夫の見送りにも出なかった
コーヒーのお陰で少し心が落ち着くと、たいして化粧もせず普段着で飛び出して来たことを後悔した
「これじゃ、気晴らしにショッピングなんて気にもならないわ」
紗代子はとりあえず美容院でシャンプーとセットをして貰うことにした
ヘアースタイルが整うと気分も上るし見栄えも格段に良くなる
簡単なメイクなら頼めば施して貰えるはずだ
「たまには、そんな贅沢したって罰は当たらないわよね」
予定外の美容院はリッチな気分がした
髪は整い薄く化粧で仕上げられた紗代子の顔はいつもよりスッキリとずっと若く見えたが、心は少しもスッキリしなかった
いつもなら次から次に追われる家事を恨めしく思っている時間が、今日はやけにその流れが遅い
せっかくキレイになってショッピングを楽しむはずだったが、何故が心が弾まない
こんな時だから、奮発してランチでもとも思ったが、店の看板のメニューを見てもつい、「こんなの家で作れば簡単に出来るのに、勿体ない!」なんて思ってしまう貧乏性な自分にも呆れてしまう
なんとなく時間を潰しているうちに何だかもう、あれぼどの怒りもどこかへ行ってしまった…
時計をチラチラ見ては、そろそろ洗濯物を入れる時間だわとか、夕飯の仕込みをしておかなくちゃ、なんてことを結局考えているのだ
「そうね、もうこの辺にしておきますか…結局は私は家庭の主婦なのよね
つまらないことでも結構!不毛な仕事で結構! でも、そのお陰で日々の生活が滞りなく回っているのよ、私が細かいことに気を配っているから貴方が気持ちよく生活出来てるのよ、分かってるの?」と心の中の夫に向かって言い聞かせた
「さて、夕飯の買い物でもして行きますか…」
紗代子はいつものスーパーへ向って歩き出した
その足取りは今日一番軽ろやかに感じられた
『つまらないことでも』
・鐘の音
17時だよー、と健気に教えてくれるあの音は今の子供達にも効力があるのだろうか。
思えば昔の俺にも確かに効いてたはずなのに、いつからあの音が耳に響かなくなったのか。
暗い帰り道が怖くなくなってから?
家に帰る事よりも優先しなきゃいけない事が増えたから?
もう身の危険を案じる人がいなくなったから?
まぁ理由はなんだっていいか。
今の俺にあのチャイムはなんの意味も効力もないのは事実だし。
でもまぁ出来ることなら、大人になった俺だって、あの音と一緒にまっすぐ家に帰りたい。
『鐘の音』
───鐘の音が聞こえる。僕を嘲笑うような、あの音が。
今日、幼なじみのあの子が結婚する。
相手はそれなりに立派な会社で働くサラリーマン。僕とは大学の頃から居酒屋でよく肩を並べて愚痴り合う、そんな奴だ。
あの子とアイツが出会ったのは、ミンミン煩い音で茹で上がって仕舞うような暑さの僕の家だった。リビングでアイツと二人してヒーヒー言いながら課題に取り組んでいた中、あの子がお裾分けにと持って来てくれた美味しそうなスイカと、夏の日差しのようなあの子の得意げな笑顔を、今でもよく覚えている。
「あの時一緒にいた彼と仲いいの?」
後日、あの子に聞かれた最初の一言も、よく覚えている。僕は一瞬頭が真っ白になってしまって、「まあ、それなりにはね。」なんて当たり障りの無い言葉を返したような気がする。あの時の彼女の顔を見れば、あの子の気持ちなんて誰だって分かるだろう。…幼なじみの僕なら尚更。
大切な幼なじみの頼みならば一肌脱がねばと僕は大学でヤツに掛け合ってみた。するとアイツもほんの少し頬を染め、まんざらでも無い様子が見て取れてしまった。
それからの僕は、二人の仲を取り持つのに奮闘した。僕はいわゆる二人の恋のキューピッドというやつだった。時には二人のすれ違いにヒヤヒヤしたり、奥手な二人にやきもきすることもあったけれど、二人に揃って交際の報告を受けたときには思わず目尻に涙が浮かんでしまった。
そして今日、二人は結婚式を挙げる。厳かな挙式を終え、式場の庭園に出て来た二人の周りには、多くの笑顔が溢れている。僕は、そんな二人を少しだけ離れた場所から見詰めていた。…アイツの隣で輝くように笑うあの子の顔が、あの日と重なる。
アイツは良いヤツだ。絶対にあの子を幸せにしてくれる。そんなこと、友人である僕が一番分かっている。
だからこそ、今だけは鳴り響くこの鐘の音が憎たらしかった。あの子の隣を奪われた滑稽な僕を、神様が笑っているように思える。…だからどうか、この鐘の音が鳴り終えるまで、醜く嫉妬してしまう僕を赦してくれないか。
鐘の音が鳴り終えたその時、僕は神様に「それでも僕は二人が大好きなんだ、バカヤロー!」って言い返してやるんだからさ。
学生時代の私は、類を見ない居眠り魔で。1時間目から6時間目まで制覇したこともあるほど。
それなのに要領がいいのか、テストに出そうなことを先生が言う直前には必ず目が覚めて。成績はいつも良くて、品行方正で優等生。
先生もまさか寝てるとは思わないのか、もしくは気づいていたのか。注意されたのは高校の時に一度だけでした。
「寝てただろ。」
と先生に起こされ、
「寝てません。」
と答えたら、
「寝てなかったのならごめんなさい。」
って。さすがにあれは先生がかわいそうだったな。
大学の時なんて、いつも寝てばっかりだった授業のテストがAだったんだけど。同じ授業を受けていた友達に言われた言葉が、今でも忘れられない。
「私は毎回起きてがんばって授業聞いてるのに。私より成績がいいのはおかしい。」
私だってさ、寝たくて寝てるんじゃないんだよ。起きていたいけど寝ちゃうんだよ。寝ないようにコーヒー飲んだり、メントールみたいのを鼻に塗ったり努力してきたんだよ。でもさ、どれも全く効果がなかったんだから。
あっ、一つだけ効果があるものがありました。授業の終わりを知らせるチャイムの音。あの音を聞くとスッキリ目が覚めて、休み時間は起きてられたなあ。
「鐘の音」
この町で一番大きな教会の鐘の音。
この音を聞くと、ようやくここに帰ってきたんだ、って思える。
久しぶりの帰郷に私は胸を躍らせて、つい必要もないのにおめかしをしてしまった。
だって、真っ赤な屋根の連なりに、色とりどりの花、それから無限に広がる海。こんな素敵な町には、素敵なお洋服が似合うはずだと思ったの。
小さい頃は、何の変化もなくてつまらない町だと思っていたからどこか遠いところに行くことを夢見ていた。
そして、遠い町の学校に通うことにした。
学校のある都も綺麗な町よ。茶色い煉瓦造りの、整然と、静かに並ぶ建物たちに、黒い服ばかり着る人々。すごく綺麗なの。
でも、あまりに人の手が入りすぎていてまるで生命を感じない。
はじめはわくわくしたけれど、次第に私の心から色が失われつつあるような気がして、ほんの少し寂しかった。
その時やっと、私は故郷の町の美しさに気が付いた。
いつもの黒い制服から青いワンピースに着替えて、花飾りを頭に挿して、誕生日にもらったアクセサリーを纏う。
そして本来の私に戻るの。
町を歩いているうちに、また鐘の音が聞こえる。
こんな町で生まれ育った私は、とても幸せ者ね。
そう思って、私は家へと向かった。
毎月第3金曜日。4限目の終わりを告げるチャイムが、争奪戦開始の合図だ。
購買部ではこの日だけ、月替わりの特別なパンが並ぶ。今月はカレー焼きそばパンとフルーツサンドが各限定20個。破格の150円。
僕ら男子のお目当てはボリュームたっぷりスパイシーなカレー味の焼きそばパン、女子は生クリームたっぷりフルーツサンドときれいに別れる。あんなふわふわの生クリームで腹が膨れるのかね。
先月は先生が時間をオーバーしたせいで、完全に出遅れて、僕らのクラスは誰一人月替わりパンをゲットできなかった。この時ばかりは先輩後輩もない。ガチの勝負だ。
「では授業終わります。」の先生の声とともに「キーンコーンカーンコーン」チャイムが鳴り始めた。
待ってろカレー焼きそばパン!クラス中の奴らが一斉にドアに向かって走り出した。
お題「鐘の音」
鐘の音が町中に響き渡る
時を伝え、日々の暮らしを見守るその鐘はしばしこの街を象徴するように鎮座している
私たちも、伝えていこう
その鐘の音を
【鐘の音】
僕の街では鐘の音が鳴ると敵が攻めてくる合図として使われていた
だから僕は鐘の音はとても怖いものだとずっと思って育ってきた
とても……とても怖い……音……
悪夢としてでてくるくらいだった
両親を早くにして無くしているから何事も僕1人でやらないといけない……
ギターをお小遣いで買って引くのが唯一楽しい時間だった
今僕が生きてるこの時代や世界……
生きるという事は常に隣には死がある
僕は強く生きていくために路地裏で今日も歌っている
こんなくだらない戦いが終わるまで……
鐘の音
除夜の鐘は108回
煩悩の数らしい
鐘の音
純白のドレスに
祝福のフラワーシャワー
鐘の音
それは人生の節目の音
「『風鈴とは、日本の夏に家の軒下などに吊り下げて用いられる小型の鐘鈴』。
去年はコレで、風鈴のハナシ書いたわ。『暑い夏に、部屋で吊るせる風鈴を贈ろう』って」
今年はどうすっかな。風鐸かな。銅鐸かな。
某所在住は鐘をネット検索しながら、どこかに書きやすい抜け道など無いか思考を巡らせた。
「『鐘(しょう)』なら寺にあるみたいな釣り鐘、
『当たり鐘』であれば福引等のガランガラン、
ハンドベル、振り鈴も構造としては『鐘(ベル)』。
ドア開いた時のチリンチリンは『ドアベル』か」
手強い。難しい。 なおも鐘を漁る物書きの目に、今年も「風鈴」のウィキページが留まる。
結局、身近にある事物が一番王道で近道のような気がするが、はてさて、云々。
――――――
酷く暑い「微熱程度の気温」が勢力を弱めて、酷暑間近から猛暑間近まで、少しだけ、限りなく少しだけ予想最高気温の下がった都内某所です。
カラカラカラ、ちりりりちん。
某深めの森の中にある、某不思議な稲荷神社の敷地内では、手水の屋根の上にガラスの風鈴と鋼のウィンドチャイムが飾られました。
森によって微量若干だけ冷まされた風は、小さな鐘鈴に当たってそれらを揺り動かします。
カラカラカラ、ちりりりちん。
鐘鈴の音は、稲荷神社に涼しく、美しく響きます。
聴覚的な涼しさと日陰の心地良さは、参拝客を少しだけ、夏の暑さから遠ざけるのでした。
で、
その風鈴風鐘のゆらゆらチリチリを、
揺れる猫じゃらしか何かと間違えているのか、
手水の岩の上にお座りして凝視する子狐が1匹。
その子狐の今後が簡単に予測できてしまうので、ハンドタオルを用意してそれを見守る参拝者がひとり。
参拝者は名前を藤森といい、
鐘鈴を狙う子狐は神社在住の子狐でした。
「子狐。おい、こぎつね」
チベットスナギツネのジト目で、藤森、神社名物の冷やし甘酒を堪能しつつ鐘の音の下を見守ります。
「手水に落ちるぞ。降りなさい」
藤森の声なんか、子狐、知りません。
だって眼前で狩猟本能をくすぐる物体が揺れているのです。小さく動いているのです。
これは狐として見過ごせぬ。コンコンこやこや。
「だから。その過程で手水に落ちると言っているんだ。ほら、良い子だから、降りなさい」
良いんですか、あのままにしておいて。
藤森、稲荷神社の売店の巫女さんに確認します。
落ちて濡れて嫌な気分になれば学びますし、落ちて冷たく心地よかったらそれも学びますよ。
売店の巫女さん、穏やかに笑って藤森に答えます。
ふたりの問答なんて知ったこっちゃねぇのコンコン子狐は、手水のド真ん中に陣取る風鐘をロックオン。
これを得ようと、心に決めました。
まぁ、落ちるでしょう。お約束です。
最終的に手水にドボン。あわあわ慌てて這い上がって、ぶるんぶるん。御狐ドリルするのです。
「参拝者さん、冷やし甘酒のおかわりはいかが?」
「十分です。ありがとうございます」
「では、甘酒を使ったかき氷は?」
「本当に、十分です。また今度いただきます。
ちょっとこの後、寄りたい店がありまして」
「なるほど。私の娘のとこの茶葉屋で水出し茶葉を買いたいから、出費を節約しておきたいわけだ」
「えっ、」
「今週限定で、レモンと柚子ブレンドの塩が少しだけ入ったフレーバーティーが3割引きですよ」
「なぜ、……え?」
「娘の店をごヒイキ頂き、ありがとうございます」
「はぁ……お世話になっております」
「5箱くらい取り置きさせましょう」
「すいませんそんなに要りません。自分で店に行きますのでお気遣い結構です」
まぁまぁ遠慮なさらず。 いや本当に結構です。
藤森と売店の巫女さん、商売繁盛なおしゃべりをして、ペコペコ勘弁してくださいのお辞儀して、また来てねからのスタコラサッサ。
カラカラカラ、ちりりりちん。
風鈴風鐘の音はそれらすべてを包み込み、
結局コンコン子狐は、手水の屋根に吊り下げられた風鐘に飛びかかろうとしてボッチャン。
お約束どおり、手水の冷水にダイブしましたとさ。