『鐘の音』
───鐘の音が聞こえる。僕を嘲笑うような、あの音が。
今日、幼なじみのあの子が結婚する。
相手はそれなりに立派な会社で働くサラリーマン。僕とは大学の頃から居酒屋でよく肩を並べて愚痴り合う、そんな奴だ。
あの子とアイツが出会ったのは、ミンミン煩い音で茹で上がって仕舞うような暑さの僕の家だった。リビングでアイツと二人してヒーヒー言いながら課題に取り組んでいた中、あの子がお裾分けにと持って来てくれた美味しそうなスイカと、夏の日差しのようなあの子の得意げな笑顔を、今でもよく覚えている。
「あの時一緒にいた彼と仲いいの?」
後日、あの子に聞かれた最初の一言も、よく覚えている。僕は一瞬頭が真っ白になってしまって、「まあ、それなりにはね。」なんて当たり障りの無い言葉を返したような気がする。あの時の彼女の顔を見れば、あの子の気持ちなんて誰だって分かるだろう。…幼なじみの僕なら尚更。
大切な幼なじみの頼みならば一肌脱がねばと僕は大学でヤツに掛け合ってみた。するとアイツもほんの少し頬を染め、まんざらでも無い様子が見て取れてしまった。
それからの僕は、二人の仲を取り持つのに奮闘した。僕はいわゆる二人の恋のキューピッドというやつだった。時には二人のすれ違いにヒヤヒヤしたり、奥手な二人にやきもきすることもあったけれど、二人に揃って交際の報告を受けたときには思わず目尻に涙が浮かんでしまった。
そして今日、二人は結婚式を挙げる。厳かな挙式を終え、式場の庭園に出て来た二人の周りには、多くの笑顔が溢れている。僕は、そんな二人を少しだけ離れた場所から見詰めていた。…アイツの隣で輝くように笑うあの子の顔が、あの日と重なる。
アイツは良いヤツだ。絶対にあの子を幸せにしてくれる。そんなこと、友人である僕が一番分かっている。
だからこそ、今だけは鳴り響くこの鐘の音が憎たらしかった。あの子の隣を奪われた滑稽な僕を、神様が笑っているように思える。…だからどうか、この鐘の音が鳴り終えるまで、醜く嫉妬してしまう僕を赦してくれないか。
鐘の音が鳴り終えたその時、僕は神様に「それでも僕は二人が大好きなんだ、バカヤロー!」って言い返してやるんだからさ。
8/6/2024, 4:17:12 AM