曰く、父と初めて出会ったその瞬間、
母の脳内で鐘の音が鳴り響いたそうな
だから父さんは母さんの運命の人なのよー、と
子供心に「何を馬鹿な」とは思ったが、賢明な当時の俺は決して口には出さなかった
ちょっとめんどくさかったのもある
大体鐘って……
寺とか?
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チリン
え…?ア"ッ!?
あ"ーーーー!?
落としたー!!
波紋を広げる池を前に、デカい声で悲嘆に暮れている知らん人を見つめながら、つられて蘇ってきた遠い記憶にそんなことを思う
よくこんなエピソード覚えてたな、俺
思い浮かぶままつらつらと変な感心の仕方をしていると、目の前の人物はフラリと立ち上がり涙目でボトムの裾をたくし上げ始めている
おいおい…この寒空の中池さらう気か
ギョッとして思わず止めに入ってしまってから、やめときゃいいのになあと自分でもちょっと思った
……風邪ひきませんように
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指先に触れる小さな鈴のついた飾りひもを掬い上げ、チリリと目の高さに持ち上げて持ち主に確認する
コレ?
っ…それ!
ありがとう、ありがとうっっ!!
ほらと手に乗せてやると、ぎゅうと鈴を握りしめて礼を言われた
ありがとうございます…!としっかりとこちらを見つめ感謝を告げる、へにゃりとした泣き笑いのその表情に
チリン、と頭の片隅で小さな鈴の音が響いた気がした
『鐘の音』
/(……物理的に鳴ったな)
8/6/2024, 4:55:54 AM