もしも、
もしも。
もしもあの日、
いつも通りの電車に乗れていたのなら。
今も貴女と笑い合う未来があったのだろうか。
『未知の交差点』
/それはあったかもしれないしあわせな
「単品で見たの初めてかも」「単品て」
苦笑いと共にはい、とこちらに手渡されたのは、光に透けるピンク色の可憐な花弁。
フィルムで簡素に包まれた一輪のコスモスだった。
私の中のコスモスは、あたり一面緑とピンクと白に覆われた花畑の印象であり、さあっと吹き過ぎる風に吹かれてそよそよとたなびくイメージだ。一輪での印象は無きに等しい。
「かわいいねぇ…ありがと」
一輪だと可憐さと繊細さの主張強いな…などと益体もないことを考えながらも、思わぬプレゼントにじわじわと頬が緩むのを感じる。
大事にするね、と顔をあげて礼を告げると、言われた彼は少し目を見張ってこちらを見てきた。
それどういう反応?
「……今度咲いてるとこ見に行こうか」
おお、楽しそうなお誘い。
「群生地?」
「うん、群生地……」
情緒〜〜〜〜と苦笑する彼の手を取り、ゆっくりと歩き出す。
なんで笑ってるんだろう。
『一輪のコスモス』
/魚群みたいに言うな
もういいよ
(お願い、あと少しだけ)
このまま私のことなんか忘れて
(うそ、本当はもっと一緒にいたかった)
「アンタなんていらなぁい」
どうか、幸せになって
(…………しょうがないかー)
『愛する、それ故に』
/さっさとどっか行っちゃえ!
「ユーザーさん?どうしたんスか?大丈夫?」
「んーーー……うん、うん。大丈夫よー」
ありがとー、と顔の横で手をヒラヒラと振って見せる。
「お疲れ?」
「………どうだろ、そうかも?」
心配かけてといてごめんだけど、眉がへにょってるのかわいいね。
あ"ーーー……思考が散漫だわ。
考えも続かないし。
なんか勝手に流れるSNSのタイムラインを無感動に見流している感じ。
眠いだけだったり?
……わからない。
なあんにも頭に入ってこない。
思考は脳を上滑りして、するすると抜け落ちていく。
時間だけが無意味に溶けていく。
視界の端にはヤキモキ顔の相棒が映り込んでいる。
眉は相変わらずのへの字だ。かわいいね。
心配かけてんなあと思う。
心配されていることにちょっと癒されている自分もいる。
自分勝手な酷い話だ。
でも
今日はもう浮上する気力が尽きてるのよ。
はい。もう今日は終了。売り切れ。おしまい。
ごめんね。
明日にはいつものユーザーに戻るからね。
『今日だけ許して』
/甘えちゃってごめんね
泣かないでいてくれると嬉しい
なんなら気付かないままでいてほしい
幸せで
幸せでいて
どこか遠くで
俺の知らないところで
勝手に幸せになってください
どうか
どうか
『泣かないで』
/忘れていいよ