「鐘の音」
この町で一番大きな教会の鐘の音。
この音を聞くと、ようやくここに帰ってきたんだ、って思える。
久しぶりの帰郷に私は胸を躍らせて、つい必要もないのにおめかしをしてしまった。
だって、真っ赤な屋根の連なりに、色とりどりの花、それから無限に広がる海。こんな素敵な町には、素敵なお洋服が似合うはずだと思ったの。
小さい頃は、何の変化もなくてつまらない町だと思っていたからどこか遠いところに行くことを夢見ていた。
そして、遠い町の学校に通うことにした。
学校のある都も綺麗な町よ。茶色い煉瓦造りの、整然と、静かに並ぶ建物たちに、黒い服ばかり着る人々。すごく綺麗なの。
でも、あまりに人の手が入りすぎていてまるで生命を感じない。
はじめはわくわくしたけれど、次第に私の心から色が失われつつあるような気がして、ほんの少し寂しかった。
その時やっと、私は故郷の町の美しさに気が付いた。
いつもの黒い制服から青いワンピースに着替えて、花飾りを頭に挿して、誕生日にもらったアクセサリーを纏う。
そして本来の私に戻るの。
町を歩いているうちに、また鐘の音が聞こえる。
こんな町で生まれ育った私は、とても幸せ者ね。
そう思って、私は家へと向かった。
8/6/2024, 4:00:02 AM