『部屋の片隅で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『部屋の片隅で』
薄暗い室内。雨の音。通知を知らせる無機質な液晶。
通知音を消してもなお主張を続けるそれが煩わしくて、とうとう横のボタンごと強く握り込んでスマホの電源を落とした。
『大丈夫か?』
『返事してくれ』
『なぁ、俺なんかした?』
ロック画面上にちらりと見えたメッセージ達は、揃いも揃って同じ差出人の名前を掲げていた。
純粋に、一人の友人として心配してくれているのは分かっている。あいつは何も悪くない。ただ勝手に期待して傷付いて、全部拒絶して塞ぎ込んでいるこっちが百パー悪い。そこまで分かっていながら連絡を返す気が一切湧いてこないのは、多分今の状態であいつに接してしまえば、今まで隠してきた物を一つ残らず曝け出してしまうという確信があったからだ。
『俺さ、結婚しようと思ってるんだよね』
脳内で何度も響く大好きな声。
数ヶ月越しに会って早々放たれたのは、世界で一番聞きたくなかった言葉だった。
濁った煙の充満した部屋の隅っこで、膝を抱えてぎゅっと小さくうずくまる。
おめでとう。真っ白な頭のままで贈った祝福の言葉は、不自然に震えてはいなかっただろうか。
「好き、だったなぁ」
ぽつりと溢れた本音は、誰にも届くことはない。届かなくて良いと思う。この先一生、一人で抱えて生きていく覚悟なんてどこにもないけれど。
小さな嗚咽が一つ、肩を預けた壁にぶつかってそのまま溶けて消えた。
部屋の片隅で、小さく蹲って震えている子どもがいる。
どんなに経験を重ねて大人になっても、その子は私の心から消えない。
臆病で傷つきやすくてわがままで、子どものような私は、どんなに大人のふりをしても、いなくなりはしない。
これじゃ、いつまでも幼稚なままで、駄目だろうか。
時々そう考えて悩むけれど、これが私だからしょうがないんだって、もう開き直ることにした。
普段はちゃんと隅っこにいて主張が激しいわけでもないし。たまに主張してきても、それも私の個性かなって。
だから、決めたのだ。
部屋の片隅で震えるこの子も私の一部として、抱きしめて、一緒に生きていくんだと。
だってここが一番落ち着く。背中に逃げ場がないから。
あの頃の 思い出達が 息潜め まだかまだかと 待つは片付け
【部屋の片隅で】
僕の部屋の片隅には幽霊というものが住んでいる。だからと言って怖いわけではない。
むしろーーーーーー
「ただいまぁ〜」
「お帰りなさい…」
その幽霊は挨拶だけだが必ず応えてくれる。それは一人暮らしの僕にとっては帰る家があるという感じがして心地がいい。
いつかーーーーーーー
部屋の片隅なんかではなく、
「一緒にご飯食べようよ」
「……」
円卓を囲めればいいと、そう思ってしまうのだ。
相手は幽霊だけど。
ーーーーーー
部屋の片隅で
部屋の片隅で息をするということ
昨日、灯した明かりが
消えかかったので
今日、新たな火を
つけに行く
ここは薄ら寒い
どこかにまた穴が空いたのだろう
温もりを帯びた針と
眠りで紡いだ糸で
ゆっくりと
繕う
紅茶の湯気と
本を栄養剤にして
柔らかな腐葉土を
いくつも
作る
鼓動の波打つ音を確かめて
生きる、という言葉を
反芻する
ひとつの心の臓
その小さな隙間すら
まだ
埋められずとも
未だ、そこすら
埋められずとも
お題:部屋の片隅で
部屋の片隅にライトノベルがいくつか置かれている。
それを見ると、愛しい恋人がこの家にいると言う実感が湧く。
恋人の山田一郎は自分の気持ちを素直に言うタイプではない。だからって本音を隠すようなタイプでもない。知らず知らず、心の奥底に本音を溜めてしまう癖がある。
最近は左馬刻の仕事が忙しく、2人で同棲し始めた家に一緒にいる機会が少ない。
今日は少しでも早く帰って、愛する人の顔を見たい、その一心でここまできた。
が、家に帰ったのは20時。萬屋の仕事を早めに終えた一郎は入浴中だった。
愛おしい
「部屋の片隅で」 無季俳句
盗み食い
部屋の片隅で
こそこそ
あの日、部屋の隅に置いてきた
悲しみ、苦しみは
きっと今でもそこにあるけれど
もうしばらくは振り返らずに進むから
またいつかその時は
“部屋の片隅で”
部屋の片隅で泣いてるあの子を見つめているだけの私に1つ、耳打ちされた言葉に気付いた。
あの子は昔の私の姿。気付いた瞬間、あの子の部屋は薄暗くなり壁の白さが一層かすむ。気付いた私は心配そうな顔であの子の隣に寄り添った。
助けを求めた昔の私に気付かなかった非情な私
助けを求めた昔の私に気付いた私を知ってる私
心配な顔をしていても心に届かない可哀想な私
部屋の片隅で私が私を見ている。
「……すき、だなぁ」
今日も部屋の片隅で闇に溶けて、堕落した一時を過ごす。
明日も朝早いんだ。だから早く寝ないといけないのに。いつから涙が頬を伝っていたんだろう。
手のひらで目元を拭う。決して綺麗ではない泥沼のような感情が吐いても吐いても止めどない。
もう口癖になってしまった言葉を息をするように吐き出す。
「ああ...しにたい」
─部屋の片隅で─ #134
(共依存とかの激重系が大好物です(重い過去など背負っていると尚良し)。その割には自分では書けなくて苦戦してます)
「マフラー」
この先、完成することは無い。
わかっているなら、ほどいてしまえばいいのに。
部屋の隅に追いやられた、編みかけのマフラー。
彼のために選んだ、ネイビーの毛糸。
夏の終わりの「さようなら」
思い出の品。渡すつもりだったモノ。
今年中に片付けようと思っているけど、やる気が出ないまま。
「こんなんじゃ、だめだ……」
意を決して、編みかけのマフラーを手に取った。
私の好みではない色。
このまま続きを編んで完成させても、自分用に使おうとは思えないだろう。
毛糸を引っ張ると、するするとほどけていく。
「明日、この色に合う色を買いに行こう……」
編んだクセがついている毛糸を、ぐるぐると球状に丸めていった。
────部屋の片隅で
部屋の片隅で
「なあ、無意味な日々を辞めたくないかい?」
そう言ったのは誰か知らない男だった。
でも見たことのある、誰?という前にまず出てきたのが
んじゃあ、なにをするの?そもそも僕は無意味な日々なんて送ってないよ
と言った。そんな僕に対して
「いいや、君は暇を持て余していることが多いし…
なんせ休日になると寝て起きてご飯食べてだらだら動画見てるだけじゃないか?
平日だとまあ学校があるにしても学校に早い時間に行って、帰りのHRが終わると即帰宅してほぼ誰とも話していないで帰って、何もすることがないからテキトーにゲームして、動画見て
それで楽しいかもしれないが、“無意味”だと思うぞ」
何をそんなに僕のことを知っているんだ、と思ったが図星ではあった
僕は無意味な日々を送っているつもりはなかったが、友達が忙しい理由が分からないし、自分にだらけて自分に都合のいい言いわけを探している日々な気がする。
そして本当に何もしていない日々は多い。
学校も即帰宅して、クラスメイトと話すことも特になくただ暇を持て余しWi-Fiがあるからと家で動画を見る…
「だからな、配信をしろ
お前はよく独り言を言っているし、絵を描くんだろ?
人と話すのも好きだろ?
だったらぴったりだよ
人と話すことが好きだが、なかなか対面では出来ない
それが配信では気軽に話せるし“お前”に興味を持った奴が来るじゃねえか
やってみるだけタダなんだ、やってみろ」
何故だが、その人を信じたくなり
…………
今俺は配信をしている。
あの時の謎の夢のような、よくわからない男は多分…いや今の俺だと思う。
意外と配信は良いもので、人に話しかけやすくなったり楽しいことが増えたり、無意味な日々が消えてとても充実が出来ていると思う。
たくさん配信から学んだことがある
そして今日は初めてまだ1年経っていないが合計配信時間が500時間になる
「みんな、おはよう。配信を始めるよ」
俺のその呟きで来てくれる人がまた増える
それが楽しく
それが嬉しい
さあ、やってやれ。俺
部屋の片隅で
恋と愛の違いなんて知らない。
ずっと私に愛をくれなかったのはだれ。
なのに今更私にお説教ですか。
親として。娘として。
なんなら、なんで?私を愛してくれなかったの
私を好きだと言う人について行ってなにがだめ?
毎回姉ばっかりじゃない。
私は?ねぇ私をもっとあいしてよ
もう娘とおもわないって?
逆にずっと、ずっとそんな風にされてたらこっち側は
父親面なんだよ。
私はダメで、姉は良いんだ。
理不尽よね。私だけ毎回置いてけぼりじゃない。
頑張って、頑張って、積み上げてきたけど
積み木みたいに壊れやすいんだな。
馬鹿らしい。だからこの家嫌いなんだよ。
部屋の片隅で泣いてた私も消えたいって思ってた時も
知らないくせに。見たこともないくせに。
今怒られたって、なんの意味もないんだよ。
幸せになって欲しい?違う道に行って欲しくない?
人が堕落していくの見たくない??
だから私が話を聞いてない。こいつはもう何言っても無駄なんだって、呆れられて、段々と家に居れなくなるのかな、何言ったって私が悪いんだから仕方ないね。
バカだし。堕落した人間だから。もう他人なんだってさ
そう簡単に親子として縁を切られるのが普通に残念だ。
父親ってなぁに。
「もう、どうすればいいか、分からないよ…」
そう、震えた声を出す。だけど、ボクの声に答える音は、時々聞こえる銃声と悲鳴だけ。
もう何時間も、誰の…何者の血なのかも分からない血がへばりついているナイフを構え、部屋の角で震えている。
「もう、やだ…。父さんと、母さんに、会いたい……それだけなのに、どうして…?」
何故、こんなにも恐ろしい、デスゲームにボクは巻き込まれているんだ……?
なんでこんな、人間も化け物も、みんなみんな殺し合う事しかしない場所に、ボクはいるんだよ…?
⸺ガララッ!
っ、……ついに、この部屋に、誰か来た。来てしまった。
ボクは、生きたい。生きたいけど、化け物なら、ともかく…人を、殺すなんて、出来ないよ……。
『⸺おっやぁ…?どーやら隠れて生き延びようとする小虫がいるみたいデスねぇ。α−SEVEN、ドウしますか?』
この声……合成音声?それも、時々名前を聞く、ボーカロイドの声じゃ…。それに、アルファ……セブン?それが、今部屋に入ってきた男の名前、なの?
⸺って、ボクのことバレてるの!?ど、どうしよう!?
「……どこだ?」
『実は、この部屋なのデスよ!いやぁ、α−SEVENが優秀といっても、隠れる小虫の存在や位置を把握することは難しいのデスねぇ♪』
「………そろそろ三時間経つぞ」
『⸺おや、本当デスねぇ!とても華麗かつスマートに天使ドモを処理していくα−SEVENのお供はとても楽しかったのデスが、仕方ありませんね。……デ、モォ〜、ここに隠れている小虫は、β−ONE、だということは吐いておきましょう〜♪⸺ミッション達成の報酬である、アシストナビゲーションの使用可能時間は残り、0分です⸺終了、しました⸺ガガガッ』
ベータ、ワン…って、ボクのこと、だよね?
なんでそんな名前?がつけられてるんだ…?
「…やっぱ、現代的な手段より、魔法とかの方が効率的だな。いやまぁ、科学が駄目とは言ってないが、何も持ってないって場面だと、魔力使うだけで選択肢が星の数ほど増える魔法のほうがいいんだよなぁ」
⸺……え?
一瞬、瞬きのために目を閉じた、その一瞬の内に、部屋の中が明るくなっている……なん、で?
「…この部屋、監視カメラとか壊れてるし、部屋の周りはあの異形連中と、どっかの傭兵集団が陣地争いしてる地帯だから、余計な奴らも寄り付かなそうだな。ここを拠点して、休息と補給のために、一度帰るか………で、お前は何時まで部屋の隅で震えてる気だ?」
なんで、場所、バレ…ってか、魔法?え???
「⸺あ、やべ……あー、うん。口が軽くなってるのは、アホ上司に自白剤を盛られたからって言い訳するか、全く違うって訳じゃないし。悪いけどそろそろ喋ってくれる?このままだと僕、おしゃべりな奴って思われるからさ」
「あ、えっと……殺さ、ない?」
「殺さん殺さん」
渋々、男の前へ出る。
だけど、ナイフは構えたままで。
「警戒心が高いな〜。僕のことは、A−SEVENじゃなくて……俺は別に、了承したわけじゃないんだが⸺スペードって呼んで。今だけしか呼ばんだろうけど」
「スペードさん、ですか?……あ、えと、ボクは、細石光って名前、です」
「光くんね………ちょっと目、合わせるよ」
「え、あの?」
な、なんで、てかちっ、近い……///
「ありがと」
「ど、どういたしまして?」
び、びっくりした……⸺なんか、足元光ってる!?
「あっ、あのスペードさん!?今何をしているんですか!?」
「位置的には、この術式をベースに防御と混乱防止と……⸺なに、光くんを無事に元の世界に送り届ける為の魔法を発動させてるだけさ」
「か、帰れるの!?」
「もちろん……元々、この世界の生物はとっくの昔に滅びていてね。今この世界にいるのは、この世界の人間に作られたAIや、世界間移動ができるまで科学が発達した世界、安住の地を求める種族。それと、僕みたいな怪しい奴。それと、光くんみたく、運悪くこの世界に迷い込んでしまった者たちだけなんだ。⸺よし、光くん。今、一番帰りたい場所を思い出して……あぁ、目を瞑ってからね」
帰りたい、場所。父さん、母さん……帰り、たい。家に、家族がいる家に!!!
「⸺次会うときは、平和な時と場所で会えることを願っておくね〜、覚えてるかは分かんないけどね⸺」
◆◇◆◇◆
気づいたらボクは、無傷で家の前に立っていた。
いつの間にか無くしていたランドセルを背負い、左手にピアニカを持っていた。ボロボロで、泥と血で汚れていた服も、きれいになっていた。
家に入ると、母さんが夕飯を作っていた。
声をかけると、「今日は帰ってくるのが遅かったね」と笑いながら、ボクが手を洗ったら、夕飯作りを手伝ってほしいと続けた。
ボクは手を洗いながら、時間がそれほど経っていないことに安心する。良かった、母さんたちを困らせてなかったって。でも、”母さんたちを困らせるようなこと”の記憶が、凄くぼんやりとしているのは、なんでかな?
◆◇◆◇◆
「光ー!こっちの赤いハートの箱のチョコか、こっちの青い車の箱のチョコ、お父さんに贈ったら、どっちの方が喜ぶか意見を聞きたいわ〜!!!」
「ちょっ、母さん!そんな大声出さなくても聞こえてるからっ!」
今日は母さんと一緒に、バレンタインに父さんへ渡すチョコの下見に、ショッピングモールに来ていた。そんな時、ふとある会話が耳に入る。
「今年こそ私が!先に!スペードにチョコを渡すから!」
「えぇ〜、俺が先に渡すと、目をウルウルさせて上目遣いしてくるハートを見れるから渡してあげてるのに〜w」
「いやだ何故こっちの好意を最大限誇示出来るバレンタインの日に先回りされるとか女子のプライドが泣くわ!」
「じゃ、俺に勝てるまでバレンタインの贈り物を探し続けろよ〜」
「へ?⸺なっ!?まって、私を置いて帰んないでよ!」
ハート…スペード…なんで、記号で互いを呼び合っているんだろう?
でも、スペードって男に、覚えが…ある、気がす⸺
「光!母さん決めたわ!この虫型のチョコをお父さんに渡すわ!!!」
「⸺わぁ!?ちょっと母さん!今何か思い出せそうだったのに!」
「あらそうなの?ごめんなさいね〜」
「…はぁ、でもいいや。どうでもいいことだろうから」
【部屋の片隅の記憶は、記憶の片隅に】
オマケ
「…やっぱり、記憶消去は必須だな」
「何をどう思ってその言葉が出てきたん?!」
「俺だって抜けてるとこはあるからなぁって考えから」
「そ、そっか」
部屋の片隅で
部屋の片隅という
どこか寂しい響き
描きたいのは
寂しさじゃないせいか
言葉が浮かばない
[お題]部屋の片隅
時が経ち 溜まる埃は 部屋の隅
部屋の片隅で
部屋の片隅で私は泣いていた。
部屋の片隅であの子も泣いていた。
窓の外を見ると雨が降っている。
もうここから出なくてすむのなら。
楽になれるのに。
お前は見たことがあるか
窓辺から差し込む朝の日差しのように、こちらをぱちと覗き込むあの黄金の瞳を
部屋の隅に丸まり背を向けていても、つきつきと背中を突き刺すあの業火のような眼差しを
お前きっと、見たことなんかないんだろ……
お題「部屋の隅で」 おまねむ
部屋の外の世界は今もきちんと存在しているか、
耳を澄まして確かめる。