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『部屋の片隅で』

薄暗い室内。雨の音。通知を知らせる無機質な液晶。
通知音を消してもなお主張を続けるそれが煩わしくて、とうとう横のボタンごと強く握り込んでスマホの電源を落とした。

『大丈夫か?』
『返事してくれ』
『なぁ、俺なんかした?』

ロック画面上にちらりと見えたメッセージ達は、揃いも揃って同じ差出人の名前を掲げていた。
純粋に、一人の友人として心配してくれているのは分かっている。あいつは何も悪くない。ただ勝手に期待して傷付いて、全部拒絶して塞ぎ込んでいるこっちが百パー悪い。そこまで分かっていながら連絡を返す気が一切湧いてこないのは、多分今の状態であいつに接してしまえば、今まで隠してきた物を一つ残らず曝け出してしまうという確信があったからだ。

『俺さ、結婚しようと思ってるんだよね』

脳内で何度も響く大好きな声。
数ヶ月越しに会って早々放たれたのは、世界で一番聞きたくなかった言葉だった。
濁った煙の充満した部屋の隅っこで、膝を抱えてぎゅっと小さくうずくまる。
おめでとう。真っ白な頭のままで贈った祝福の言葉は、不自然に震えてはいなかっただろうか。

「好き、だったなぁ」

ぽつりと溢れた本音は、誰にも届くことはない。届かなくて良いと思う。この先一生、一人で抱えて生きていく覚悟なんてどこにもないけれど。

小さな嗚咽が一つ、肩を預けた壁にぶつかってそのまま溶けて消えた。

12/8/2024, 9:32:33 AM