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1/10/2026, 1:38:52 AM

【三日月】

 すうと細められたあなたの目が、色素のうすさも相まって三日月みたいに見えた。
 なんて、そんなことを言えばあなたはきっと照れてしまうだろうから、口には出さなかった。そっぽを向かれるのは嫌だったから、ただじっと黙っていた。あなたが不思議そうに首を傾げるまで、大好きな三日月を堪能した。

1/8/2026, 5:01:18 PM

【色とりどり】

 穏やかな陽光に照らされて、露がきらきらと輝いている。昨朝に降った雪によって真っ白に染められた村は、一日経ってすっかりその様相を変化させていた。昨日まで雪に覆われていた色とりどりの花々が、陽の光を浴びながら緩やかに揺れている。
 一面無機質な色だった山々も、今は点々と色付いている。幼かった頃はあの山を、野原を、日が暮れるまで駆け回ったものだ。そしてその隣では、気心知れた幼馴染が息を切らしながら無邪気に笑っている。それももう、今は遠い昔の記憶になってしまったけれど。
 
『雪、好きなんだね』

 見渡す限り見事な雪景色になった野原を見て目を輝かせる俺に、いつだか幼馴染がそう言ってきたことがあった。その時は、迷うことなく頷いた。でも今は違う。雪は嫌いだ。はらはらと舞う白を見る度、思い出すのはもう見ることの叶わない横顔ばかりだから。遠く離れた街に越したっきり、会えなくなった彼女のことが、ひどく恋しくなってしまうから。だから、雪は、嫌いだ。

 一つ、大きく息を吐く。宙にぼんやりと浮かんだ白から目を逸らして、代わりに色とりどりの花々を見下ろした。


1/8/2026, 12:16:11 AM

【雪】

 はらり。視界の端に舞い散る何かが映り込んで、半ば条件反射のように窓の外を見やる。勢いよく降り始めた雪が、無機質な景色を真っ白に塗り替えようとしているところだった。

 この街に越してきてから、もう何度目の雪だろう。
もう片手では足りないことは確かで、けれど年々指折り数えていくのが辛くて、正確な回数を記憶するのもやめてしまった。ここで迎える冬を数えるのは、幼い頃育った故郷と、大好きだった幼馴染と離れてから経ってしまった年数を数えることと同義だったから。

 目を閉じる。懐かしいあの場所で見た雪が、雪を見てはしゃぐ彼の姿が、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。

『ね!見て!積もり始めたよ!』

 心の底から嬉しくてたまらないというふうに、記憶の中の彼が笑う。思わず目を開いた。眼前の街が、少しずつ雪景色へと変わっていく。

「ほんとだね」

 ぽつりと小さく、呟いた。彼に釣られて微笑んで、けれど視界はぼやりと滲んで。きっと誰にも見せられないような情けない顔をしながら、私は降りしきる雪を眺め続けた。

1/7/2026, 2:13:55 AM

【君と一緒に】

「きっと幸せになれないよ」

ひどく震える手を、自分の掌でそっと包み込んだ。冷たかった指先が、二人分の体温に染まっていく。

「なれるよ、一緒なら」

はく、と呼吸が止まる音がした。伏せられていた顔が、ゆっくりと上げられる。

「一緒に、いていいの?」
「いいよ」
「おれで、いいの?」
「…じゃなきゃ、嫌だよ」

見開かれた真っ黒な両目から、ぼろぼろと透明の雫が溢れては落ちていく。心の柔らかなところが剥がれていくのが、目に見えるようだった。

「おれも、いっしょが、いい」

初めて聞けた本音。胸にあたたかなものがこみ上げて、思わず目の前の体を引き寄せた。割れ物のように慎重に、壊してしまわないように抱きしめる。
世間体だとか、将来のことだとか、どうでもよかった。

今はただ、ただ、君と一緒に。




1/5/2026, 9:43:23 AM

【幸せとは】

「幸せってなんだと思う?」

 そうやって問いかけてきたあなたの表情を、今でもはっきり覚えている。少し意地悪げに笑いながら、僕の顔を覗き込むようにして、あなたは突然そんな質問を投げかけた。
あの日、僕はたしか、分からないとだけ答えた。あなたは一瞬だけまん丸な瞳で僕を見つめた後、そっか、となぜだかひどく面白そうに目を細めた。
幸せというものが何なのか、今でも答えは出ないまま。
でも一つ、ただ一つだけたしかなことは。

「少なくとも今の僕は、絶対に幸せじゃないよ」

ぽつり。啜り泣きの声と芳香だけが満ちる室内に、僕の呟きが小さく落ちて溶ける。眼前、無機質な色の花々に囲まれて目を閉じるあなたは、果たして最期まで幸せでいられたのだろうか。

「ねえ、しあわせって、なんだろうね」

答えは、返ってこないまま。
色のない頬に触れた指が、ゆっくりと凍えていった。

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