小絲さなこ

Open App

「マフラー」




この先、完成することは無い。
わかっているなら、ほどいてしまえばいいのに。

部屋の隅に追いやられた、編みかけのマフラー。
彼のために選んだ、ネイビーの毛糸。

夏の終わりの「さようなら」
思い出の品。渡すつもりだったモノ。

今年中に片付けようと思っているけど、やる気が出ないまま。

「こんなんじゃ、だめだ……」

意を決して、編みかけのマフラーを手に取った。
私の好みではない色。
このまま続きを編んで完成させても、自分用に使おうとは思えないだろう。

毛糸を引っ張ると、するするとほどけていく。


「明日、この色に合う色を買いに行こう……」

編んだクセがついている毛糸を、ぐるぐると球状に丸めていった。


────部屋の片隅で

12/8/2024, 9:03:26 AM