『踊りませんか?』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
俺はしがないファイターだ。日々闘いを求めてさす
らう男。
だが、現代は闘いがあまりにも少ない。前誰かと闘った
のは何時か、もう思い出せない。俺は退屈を持て余して
いた。身体もなまるし、お金も貯まらない。
昔は闘っていると見物人がやってきてお金を置いてって
くれたもんだ。それに、負けた方は殺されるのを逃れる
対価を払っていた。一回闘って勝てば半年は暮らしてい
けた。
それがなんだ、今はもう生活するのもぎりぎり。誰かの
護衛をしたり、小さい大会で優勝賞金を貰ったり、そん
なのでしか稼げない世の中になってしまった。
でも、そんな俺に朗報が舞い込んだ。
大きい大会が開催されるそうだ。主催者もしっかりして
いる。しかもこれだけ大きい大会だから強い相手も
たくさん集まるだろう。
…クククッ。
思わず笑ってしまう。久しぶりに訪れた闘いの予感に体
が震えた。
これは必ず参加しなくては。
そして頂点に立つのだ。
俺は毎日血反吐を吐くまで鍛錬した。丸太を腹に縄でく
くりつけて走ったり、岩を拳で破壊できるまで殴り続け
たり、葉を手刀で切り、落ちてくるかけらを更に切って
見えなくなるまでそれを続けたり。
大会が行われるまで、半年ずっとずっと練習したのだ。
大好きな酒も我慢した。
そして遂に今日…、大会の日がやってきた。ドレスコー
ドとして礼服を指定されたので、身も引き締まる思い
だ。
会場は広いホール。しっかりと造られたホールを用意し
てあるあたり、開催者の意気込みを感じる。
俺は、身体から溢れそうになるわくわく感を抑えながら
受付の女に招待状を差し出した。
やっと待ち望んだ武闘会。
血湧き肉躍る闘いがもうそこにあるのだ。
身体の内側が戦闘本能で疼いている。
招待状を確認し終わったようだ。受付の女が微笑む。
「はい、招待状ですね。では、どうぞ会場へ。
、、、
舞踏会を楽しんできてください」
扉の向こうには
「一緒に踊りませんか?」
とドレスを着た女が微笑んでいた…。
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踊りませんか?
「武闘会は踊る」
踊りませんか。
初めての投稿で初めてのお題がこちら。
比較的私の今の状態はそんな気分じゃない
だけど
ネガティブきっかけで始めた一言目の
(踊りませんか。)はなんだか…
え??
悪くは無いのかなって
1日を無駄にするくらい倒れ込んでたけど
そのくらい前を向こう進もうってことでもあるのかな
……なんてな
a life that someone will remember
四六時中ジョークとサーカスで笑い絶えぬ夢の国。
ただ、その国は変わってしまった。
それは優しかった王が変わったこと。王が変わったきっかけは王妃が亡くなったことだ。
王妃が亡くなってからは民を奴隷の様に扱った。
それだけでなく、つまらない者、歯向かう者は誰彼構わず首をはねるようになった。
そして、この間、この宮廷の道化師の首をはねた。
きっかけは些細なことだった。しかし、王からすれば重要なことだったのだろう。
王は王妃の命日にイベントを開催した。そこにこの宮廷の道化師を参加させた。
その道化師は調子に乗ったのか、王のウケをとった。それがいけなかったのだ。
王はその瞬間、大勢の前で道化師の首をはねた。
「はぁ…つまらない。何か面白いことは無いのか?道化師を呼べ!」
「王様。道化師はこの間王様が首をはねました。」
「チッ……。気分が悪い。ならばここに道化師となる後継の候補を連れてこい!」
「……分かりました。」
私は何故こんなことをしているのだろう……。
ただ、どう頑張っても王様に逆らうことはできない。
目の前で首をはねられるのが私になることは容易に想像できた。
早く道化師の後継を連れてこなければ。
「王様。この方達が道化師の候補です。」
まさか自分から名乗り出る者が居るとは。
しかも4人も。
「………。道化師!ここで踊ってみろ!!」
「……!?」
連れてきて早々何を言っているのだ?
やはり王の言うことは理解できない。
そして困惑した様子の道化師達は舞台へと上がって行った。
「今宵みせるは奇跡で……」
「「!?」」
その声は確かに亡くなったはずの王妃の声だった。微かではあったがしっかり聞こえた。
全員がその場で呆然していたとき、また聞こえたのだ。
「さあ!カーテンを開けて!」
王妃の声。何が起こっているのか理解ができない。
そんな中、興奮した様子の王が言った。
「お前ら!早く踊るんだ!」
戸惑いながらも道化師達は位置につく。
その時、囁くように私に言う。
__「踊りませんか?」__
・今回自信無い
・ある曲を参考に
・初心者
・語彙力皆無 …です。
「踊りませんか?」
僕の大好きなバラの庭園は、今夜兄さんの誕生日の祝いの場所になっている。普段なら誰も入ってこない、1人になれる場所なのに…と落ち込んでいるとき、誰かが僕に話しかけてきた。
「あの…顔色が悪いようですが大丈夫ですか?第二皇太子殿下」
最初は誰が、こんな駄目な第二皇太子に話しかけてきたんだと、狂ってるんじゃないかと思った。だが、それは彼女を見るまでだった。彼女はとても綺麗で、可愛らしかった。そう…言葉を失うくらいには…。地獄の枯れ果てた土地に一輪の花が咲いたようだった。誰にも会いたくないのに兄さんに「誕生日だから来てくれると嬉しいな」と言われて嫌々来たのだが、彼女に出会えた喜びでそんな嫌々しさなんて一瞬で吹っ飛んでいった。
♪~♬♪~♪♪♬~
そんな時音楽が流れ始めた…。これはチャンスでは…と思った。僕はふっと笑うと
「はい。大丈夫です、綺麗なご令嬢。どうかこんな私ですが、楽しいひとときをご令嬢にプレゼントとしたいのですが、ダンスのお誘いを引き受けてくれますか?」
跪いて微笑む俺を彼女は手を口元に持って行って、ビックリした後にその綺麗な顔で満面の笑みを作り、「はい!よろこんで、リードお願いいたします、第二皇太子殿下(*⌒▽⌒*)」
彼女と俺の物語はまだ始まったばかりだ…。
「わー…」
街を歩いていた時、君が突然とあるお店のショーウィンドウに張り付いて声を上げた。
美しい男女がくるりくるりと踊る映像が流れている。社交ダンスか。俺らもダンスするけどこういうのはやったことないな、当たり前だけど。きれーだなーうめーなー大変そうだなーとは思うけど、、
「おい、行こうぜ」
「…うん」
君は歩きながらもちらちら後ろ髪引かれるように振り返っている。
よっぽど気に入ったんだな。
君は男らしいことも大好きだけど、きれいなもの可愛いものも大好きだってこと知っている。
誰からも咎められない愛に憧れる気持ちも。
それだけは、俺、与えてやることはできない…
部屋に戻っていつもの通りに手を洗って着替えて部屋呑みの缶ビールを開けてYouTubeでもつけて。
君はさっきのことなんて忘れたみたいにいつものどうりで、ソファに腰掛けてなに見るのーなんて言っている。
「んー…これ」
それはクラシックミュージック。どっかの楽団の。俺も曲とか全然わかんないけどワルツ、で検索した。
そして俺は缶ビールをテーブルに置いて、キョトンしたままの君の前で胸に手を当てて手を差し出した。
「Shall we dance?」
「ん? なに?」
…君は英会話はほとんどできないんだった。
「踊りませんか? だよ。見よう見まねでやってみよ」
君はまだ一口しか飲んでいないのに顔を赤くして、なんだよーとかバカじゃねーのとか言いながらも俺の手を取って立ち上がった。
〝普通の恋〟はあげられないけど、こうしてたまには踊りましょう。
君と俺とのダンスはこれからも続くんだから…
▼踊りませんか?
「……『探しものは』の歌しか思い浮かばねぇ」
今日のお題、何ですか。難しいお題ですか。
頭の中も、本棚とかも、探したけれどネタが出ないので、「お題無視」は、ダメですか。
某所在住物書きは昔々の歌の、カバー曲を聴きながら、残り2時間を切った文章投稿期限で何を書こうと葛藤していた。
9月の「踊るように」以来の踊りネタである。
ダンス必修化以前、とっくの昔に義務教育を卒業した世代である。「踊りませんか」と言われて、何の知識・経験が役に立とうか。
「今の時期の『踊る』って、盆踊りは終わっちまったし、何だろうな」
踊る、おどる、ねぇ。物書きはスマホをいじり、ネット検索に助言を求めた。
――――――
「ゴマスリが?」
「抑えろ。声がデカい」
10月始まって、はやくも5日。
今日も朝から仕事して、昼になって折り返して、午後からの夕暮れからのちょっと残業で、とっぷり夜になった。
いつも通りのサビ残で、いつも通りに帰宅、
と思ったら、いつも以上に平静な表情の先輩に呼び止められ、ふたりで話をするため、少し遠めのカフェの個室へ。
先輩がヒソヒソ声で語ったのは、ウチの部署の「ゴマスリ係長」の話だった。
先月、つまり9月16日。
ウチの係長、後増利係長が、私と先輩で進めてた仕事の案件を、お客さんとの契約締結直前で、堂々パクっていった。
普通にブチギレ案件だけど、直前で担当が私達からゴマスリ係長に変わったことで、お客さんが大激怒。
私達から手柄をむしり取ろうとした係長は、逆にお客さんにバチクソ怒られた。
で、その「お客様に怒られた後増利係長」のハナシが、お客さんから伝いに伝って、
なんと、ウチの職場のトップ、緒天戸の耳に到達。
「鶴の一声」。「オテント様が見てる」。
厳重注意のもと、場合によっては降格させよと。
そのタレコミなリークを、先輩の友人にして隣部署の主任、宇曽野主任が持ってきたらしい。
「上司にゴマすって、部下の仕事を盗んで」
先輩がコーヒーを飲みながら言った。
「その結末が『降格やむなし』だったと」
悪徳上司がとうとう懲らしめられたワケだ。喜びの舞いでも踊ろうか?
付け足す先輩は少しだけ、ほんの少しだけ、勧善懲悪劇の結果に満足してそうだった。
「4月に左遷させられたオツボネ前係長みたいに、ヒラとして総務課送りになったりしないかな」
「そこまでは聞いていない。が、違うだろうさ」
「ちぇっ」
「ウチの部署の係長職が、二度もお目玉を食らったんだ。会議にかけられないだけマシ、ということにしておけ」
「一応、これで、ハッピーエンドなのかな」
課長にゴマスリばっかりして、自分の仕事を全部部下に押し付けて、全部終わる頃に成果を持ってった係長、後増利。
ちょっとだけ、ざまーみろ、と思う。
「さぁ?」
自称捻くれ者の先輩は、片眉上げて首を傾けるだけ。
「少なくとも、お前がベソかいて私の部屋のコーヒーだの炭酸水だのを飲み干す回数は減るだろうな」
それでも少しだけ、ほんの少しだけ、唇と目が、穏やかに笑っているように、見えなくもなかった。
「ナンノ、話デセウ」
「尾壺根の確認不足。責任転嫁と理不尽な始末書。メタ的な話をすると、4月18日」
「記憶にございません。ございませぇーん」
レッツ・ダンス
踊らない理由を使い果たした私は、姿見の前で途方に暮れていた。
物好きな男性から何度も誘いを受けている。その都度、適当な理由を拵えていたが彼は懲りない。それを嫌とも思えない自分が何とも歯がゆく、それでも最もらしい理由を毎回用意しては安堵していた。まるで一夜毎に命を延ばすシェヘラザードのように。
しかし、どんな物事にも限界がある。いっそ一度踊ってしまった方がいいんじゃないかと考えた私は、誰も見ているはずのない自宅のアパートで練習することにした。踊るなんて中学校以来だ。後夜祭の楽しくもなんともないマイムマイム。手のひらについた他人の汗の嫌な感覚。
ワルツなんて分からない。好きな音楽でノッてみればいい、というネットの文句をとりあえず参考にして、普段聞いている音楽をイヤホンで聞いてみる。さあ、やるぞ…と思ったらCMの耳障りな音楽が間に割って入り、それからオリンピックの時期に繰り返し流れるポップソングの前奏が流れた。
普段から聞く音楽、と言っても「他の人から評価されている音楽」しか知らない。私はとりあえず聞いていたが、それはカラオケに誘われたときに歌う曲をストックしておく為だった。だからサビが終わっても体はまともに動かなかった。部屋着でワイヤレスイヤホンをつけて、両腕を不格好に浮かせた私が棒立ちしているだけだった。私は踊らない理由を作っていたのではない。踊れないだけだったのだ。それこそ小学生の頃からずっと使ってきた姿見は残酷なまでに私の姿を晒していた。
「踊り方が分からないんです」
私は再三の彼の誘いに、そう返した。彼にとっても予想外の答えだったのだろう、慎重ながら怪訝な表情を浮かべていた。
「私、踊れません。ごめんなさい」
彼は困ったように頬を掻いてから、こう言った。
「僕だって分かんないよ」
私は顔を上げた。どんな表情をしているのか、彼は姿見じゃないから分からない。
「でも踊ってみるんだ。めちゃくちゃでも楽しいよ」
私は踊ってみることにした。
小学校低学年の頃、全校集会で「鬼のパンツ」を踊った。
いや、踊らされた。
低学年は各教室で前もって指導を受けて。
当日、一年生から六年生まで整列し
フニクリフニクラの曲に合わせて踊り始めた。
はこう はこう 鬼のパンツ~♪
のパンで全校一斉に手を叩く。
凄まじい音が響く。
児童、先生、校長までもが無表情に踊り続ける。
1回終わっても、また始まる。
思ってた以上に何度もリピートする。
何かの呪いのような光景だった。
そして大人になっても
あの振り付けは、あの替歌の歌詞は、呪われた光景は
脳裡にこびりついていて、油断すると脳内再生が始まる。
足下で枯れ葉が舞う。イヤホンから聞こえる「Shall we dance」のリズムに合わせてステップを踏んでみる。風がまるでエスコートするみたいにコートを翻した。
楽しくなって足はスキップになった。何でもないいつもの散歩道なのに、まるでダンスホールみたい。
踊りませんか?とあなたは言う。
嫌ですと断る事は許されていない。
返答はにこやかに、勿論。
ただ一言しか許されていない。
今日もあなたは偽りの好意で幸せそうに笑う。
幸せでないのは私ひとり。
世は並べてことも無し。
踊りませんか
月が出ている夜、河川敷を二人で散歩した。
大学生らしく、缶チューハイをコンビニで買って飲みながらぷらぷらと。
3%のアルコールをちみちみと飲む僕に対して、晶は6%のアルコールですっかりご機嫌だ。
「あ〜やば、最高の夜だ〜!」
「お互いレポートの締切から目を逸らしてることを除けばね…。」
「だ〜いじょうぶだって、いざとなったらチャットじーぴーてぃーがいるし!」
「うわ…僕は使い方も知らないよ…。」
「ふふふふ…いいから、ほら!」
「…なに?」
「踊ろう!」
「な、なんで…?!」
「月が綺麗で川が俺たちを祝福してるから!」
「ちょっと意味わかんない…。」
月明りのスポットライト
綺羅びやかなドレス
未明の空
二人きりの世界で
「さぁ、踊りましょ?」
踊りませんか?
自分が男性なら女性への声掛けだと思い
自分が女性なら男性からの声掛けだと思う
自分が自分に声掛けするなら
踊らされてませんか?
と言ったところでしょうか
「…私に何か御用かしら」
上級階級の身分、即ち貴族たちの社交パーティーの場で、フェリシアは不思議な視線を感じた。視線の先に居たのは一人の黒髪の騎士だった。いや、騎士と表現するのは些か正しくないかもしれない。この国では珍しい漆黒の髪を持つ彼は、オルレアン家の騎士には違いなかったが、そう表現するには彼の所作はあまりにも洗礼されている。
嫉妬、欲望、嫌悪
皇族を除いた最も強大な権力を持つアヴェーヌ家の長女として生を受けたその時から、フェリシアはあらゆる視線の的だった。普段なら視線の一つや二つなど気に止めることは無いのだか、この視線はどこか今までのものと違う気がしたのだ。
嫉妬も欲望も嫌悪も無ければ、憧憬も希望も尊敬も感じない。あるのはただ純粋な好意のようにフェリシアには思えた。
「え…?」
突然話しかれられた彼は、黒曜石のような瞳を少し見開いて驚いた。
「さっきから貴方の視線を感じていたのです。だから何か御用があるのではと思ったのですが…」
「それは申し訳ありません。無礼でした。どうやらレディーの美しさに見とれてしまったようです」
彼は彫刻のように整った顔で優しく微笑んでそう言った。微塵の悪意すらも感じさせない純粋な眼差しに、フェリシアの好奇心が動かされた。
「構いませんわ。私も貴方を見ていましたもの」
「それは、理由を聞いても構いませんか?」
微笑み返したフェリシアに彼は少し面食らったようだったが、直ぐに微笑みに戻った。
「ええ。私も貴方の容姿に見とれていましたわ」
これは本当のことだった。彼のようにあからさまに視線を飛ばすような真似はしないが、彼の容姿に目を惹かれていたのは確かだった。
「レディーがですか? それは光栄です」
「申し遅れてしまいましたね。フェリシア・アヴェーヌですわ」
「アベル・オルレアンです」
お互いに、社交界の場では危ういほどの純粋な気持ちを共有していると、ホールに流れる曲か途切れ、別の曲が流れた。
「ダンスの時間ですね」
そう言って彼は手を差し出した。
「フェリシア嬢。宜しければ私と踊ってくださいませんか?」
「ええ、喜んで」
フェリシアはそっとその手を取った。
何かが変わる。
そんな予感を胸に閉じ込めて。
お医者さんに
足に負荷をかけちゃダメって
言われてたのに
周りの人と同じ世界を
見て見たくて
陸上をしたの。
そしたら歩くのも
辛いくらい悪くなって
もうあなた無しでは
歩けないの。
ねぇ手術の前に
最期になるかも知れないから
私の足で踊らさせて?
駆け足でやって来た秋が
駆け足で行ってしまいそうで
ソワソワしている...
煌びやかな舞踏会。
絢爛豪華に着飾った男女が、仲睦まじく手を取り合い、優雅な音楽に合わせてステップを踏む。
そんな想像を頭に巡らせながら、私は夜風が当たる寒空の下に立っている。すぐ視界に映る建物からは温かみのある明かりが漏れ出ているというのに。
(いいなぁ~。私も会場の端っこでもいいから入りたかった・・・・・・)
そんな願望は儚く消え去る。私はただ舞踏会が行われているであろうこの建物の入口を、見張るだけのしがない警備員だ。
「おーい、新人。ちょうどいいから休憩してこい。どうせしばらくは誰もここを通らねぇから」
警備員の先輩から告げられた言葉に私は甘えることにする。女でありながら体力だけしか取り柄がない私は、たまたま運良くこの仕事に雇い入れてもらった。だからこそ空腹なんぞで支障を来すわけにはいかない。
私は入口から離れた庭先のベンチに腰を下ろす。やや高めの生け垣に囲まれているので、一人ゆっくりと食事をするにはちょうどいい。
「いただきまーす!」
持参した弁当のおにぎりへとかぶりつく。すると突然がさりと、後ろの生け垣の方から音がした。
「ぎゃっ!」
私は思わずベンチから飛び退る。お弁当を危うく落とすところだった。
見ると生け垣の間から、背を屈めた一人の青年が現れる。青年は「お食事中にすみません」と謝りながらも、生け垣を抜けて私の眼前へと進み出た。
「ちょっと匿っていただけませんか?」
「どうしたんですか?」
まさか悪い輩にでも追われているのだろうか。青年は正装に身を包んでいたが、生け垣を抜けたことで少し服がくたびれている。
「いえ、その、舞踏会に出たくなくて・・・・・・」
「はい?」
私の望みとは何とも真逆な青年の言葉に、私は初対面でありながらも思いっきり顔を顰めてしまう。
「実はあまりダンスが得意でなくて。それでも来たからには、誰とも踊らないという訳にはいきませんから・・・・・・。家族にも面目が立ちませんし」
「なるほど・・・・・・、だから逃げてきたと」
私は少々困り顔になった青年を見遣る。そして、ぴんっとあることを思い付き、持っていた食べかけの弁当をベンチに置いた。
「それなら私と踊りませんか?」
私は片手を青年の前に差し出した。
「え?」
「実は私、舞踏会で踊ることに憧れていたんです。それに私とならどんな踊りでも大丈夫ですよ。憧れてはいても、私自身ダンスはてんで素人なので」
私の提案に青年は面くらったようだ。しばらく放心したように口をぽかんと丸くしていたが、私が変わらず手を差し出していると、彼は何かを決意したように頷いた。
「そういことなら、喜んで。これで僕も、少なくとも誰とも踊らなかったことを隠すため、家族に嘘をついて繕わなくても済みそうですから」
そう言った青年の手を取る。
私と彼は視線を見合わせ、悪戯を共有した子供のように互いに笑んだ。
【踊りませんか?】
「踊りませんか?」
彼が自宅にやって来てから二週間が経つ
チャイムが鳴りドアを開けるとそこに立っていたのは2メートルを越す大きなヤドカリ
事態を飲み込めず呆然と立っているとヤドカリは「宿を貸していただけませんか?」と一言
夫を亡くして三年の月日が「帰ってください」の言葉を飲み込ませた
最初はお互いほとんど喋ることもなかったが一週間もすると少しずつ話すようになって食事をしながら身の上話もするようになった
私は夫が3年前にカニ漁に出て帰ることはなかったという話を
彼は脱皮のため、土に潜っていて目が覚めたらこの大きさだったという話をしてくれた
カニ漁の話をする時、少し躊躇したが気を悪くした感じはなかった
どうやらカニの事を仲間だとは思ってないらしい
「彼らはカニで私はカリなので」
彼が何気なく言った一言で思わず鼻からウドンが出てしまった
それを見た彼は笑った
それからは色んな話をした、テレビの話や映画の話…みんながしてるくだらない話…それでも私にとっては久し振りで楽しくて嬉しくて…泣いた、泣きじゃくった
部屋が静寂に包まれる
彼は言った
「私に合う貝を町工場で作って貰ってます、貝が出来たらこの町を出ます、今までお世話になりま…」
「ヤドカリさん!…借りではなくずっとウチに居てくださってもいいんですよ…」
彼はレコードの針を落として言った
「踊りませんか?」
彼は優しく私を抱き寄せ踊ってくれた
そしてキス
彼のキスは蟹工船のflavorがした
「踊りませんか?」
アン・ドゥ・トロワ
リズムに乗って
くるくる回る
アン・ドゥ・トロワ
わたしはここで
ひとりで踊る
アン・ドゥ・トロワ
できることなら
あなたと再び
アン・ドゥ・トロワ
アン・ドゥ・トロワ
アン・ドゥ・トロワ……
踊りませんか?
ふいに手を出してお辞儀してみせた。
君はふふっと笑って「お願いいたします。」と。2人だけの足音が何よりもぴったりな音楽となって、私たちを彩ってくれるだろう。この真っ暗な長い道と街灯に照らされるまま。