かたいなか

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「……『探しものは』の歌しか思い浮かばねぇ」
今日のお題、何ですか。難しいお題ですか。
頭の中も、本棚とかも、探したけれどネタが出ないので、「お題無視」は、ダメですか。
某所在住物書きは昔々の歌の、カバー曲を聴きながら、残り2時間を切った文章投稿期限で何を書こうと葛藤していた。
9月の「踊るように」以来の踊りネタである。
ダンス必修化以前、とっくの昔に義務教育を卒業した世代である。「踊りませんか」と言われて、何の知識・経験が役に立とうか。

「今の時期の『踊る』って、盆踊りは終わっちまったし、何だろうな」
踊る、おどる、ねぇ。物書きはスマホをいじり、ネット検索に助言を求めた。

――――――

「ゴマスリが?」
「抑えろ。声がデカい」

10月始まって、はやくも5日。
今日も朝から仕事して、昼になって折り返して、午後からの夕暮れからのちょっと残業で、とっぷり夜になった。
いつも通りのサビ残で、いつも通りに帰宅、
と思ったら、いつも以上に平静な表情の先輩に呼び止められ、ふたりで話をするため、少し遠めのカフェの個室へ。
先輩がヒソヒソ声で語ったのは、ウチの部署の「ゴマスリ係長」の話だった。

先月、つまり9月16日。
ウチの係長、後増利係長が、私と先輩で進めてた仕事の案件を、お客さんとの契約締結直前で、堂々パクっていった。
普通にブチギレ案件だけど、直前で担当が私達からゴマスリ係長に変わったことで、お客さんが大激怒。
私達から手柄をむしり取ろうとした係長は、逆にお客さんにバチクソ怒られた。

で、その「お客様に怒られた後増利係長」のハナシが、お客さんから伝いに伝って、
なんと、ウチの職場のトップ、緒天戸の耳に到達。
「鶴の一声」。「オテント様が見てる」。
厳重注意のもと、場合によっては降格させよと。
そのタレコミなリークを、先輩の友人にして隣部署の主任、宇曽野主任が持ってきたらしい。

「上司にゴマすって、部下の仕事を盗んで」
先輩がコーヒーを飲みながら言った。
「その結末が『降格やむなし』だったと」
悪徳上司がとうとう懲らしめられたワケだ。喜びの舞いでも踊ろうか?
付け足す先輩は少しだけ、ほんの少しだけ、勧善懲悪劇の結果に満足してそうだった。

「4月に左遷させられたオツボネ前係長みたいに、ヒラとして総務課送りになったりしないかな」
「そこまでは聞いていない。が、違うだろうさ」
「ちぇっ」
「ウチの部署の係長職が、二度もお目玉を食らったんだ。会議にかけられないだけマシ、ということにしておけ」

「一応、これで、ハッピーエンドなのかな」
課長にゴマスリばっかりして、自分の仕事を全部部下に押し付けて、全部終わる頃に成果を持ってった係長、後増利。
ちょっとだけ、ざまーみろ、と思う。
「さぁ?」
自称捻くれ者の先輩は、片眉上げて首を傾けるだけ。
「少なくとも、お前がベソかいて私の部屋のコーヒーだの炭酸水だのを飲み干す回数は減るだろうな」
それでも少しだけ、ほんの少しだけ、唇と目が、穏やかに笑っているように、見えなくもなかった。

「ナンノ、話デセウ」
「尾壺根の確認不足。責任転嫁と理不尽な始末書。メタ的な話をすると、4月18日」
「記憶にございません。ございませぇーん」

10/5/2023, 8:23:47 AM