『貝殻』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
手のひらに乗っけた貝殻をひとつひとつ木のフレームに貼り付けていく。
夏の思い出を閉じ込めた写真立て。
君は笑っていて僕は眩しそうに目を細めている。
眩しい夏はもう戻ってこない。
だからあの時拾った貝殻で飾り付けよう。
秋が来ても寂しくないように。
冬が来ても涙が出ないように。
春が来ても生きていられるように。
▷貝殻
揺れる電車に身を任せ、車窓は私を反射させる。草臥れた顔とスーツは都会で錆びついた無味乾燥な大人かのように思わせた。様々な電光を潜り抜ける電車は、ただの小さなアパートへ向かう。しかし、私は潮騒の音を思い出す。耳をすませば、電車の音は霞んでいき波の音に変わっていく。海音貝を耳に当てるかのように、私の心はいつでも故郷へ帰れる。ほら、潮の匂いも感じてきた。決して褪せず常に湧き上がる居場所がそこにはある。揺れる電車に身を任せ、車窓は海を反射させる。そして、私は貝殻の耳を堪能する。
「貝殻」
貝殻
幼い頃、よく一緒にいた男の子に小さい貝殻を貰った。
「綺麗でしょ?良かったらあげるよ。まだ持ってるから」
そう言って、優しく包んだ貝殻を差し出す。
私が受け取ると、友達に呼ばれ走り去ってしまった。
渡す時の優しさと駆け出した笑顔に、私はすっかり心酔していた。
彼と話したかったし仲良くなりたかったけれど、上手く話せず苦手意識を持たれたり、ついうっかり気持ちを漏らしてしまうのが怖くて何も出来なかった。
そんな私に、告白する勇気なんか持てなかった。
彼は海での急な水難事故によって死んでしまって、私は悲しさが通り越して泣けずに唖然としていて、何も出来なくなっていた。
生きている間に何も出来なかったことは、月日がたった今も後悔しているし、これからもずっと引き摺って私を呪うのだろう。
行き場の失くした私の呪いは私の恋を吸収し、私を締め付けていた。
唯一、私と彼を繋いでくれた貝殻を、両手で優しく包み込んで胸に当てて、彼を思い出してはまた呪われて、それでも手放すことは出来なかった。
そんな時、私の気持ちを知っている親友から風鈴を貰った。
「風鈴の音が鳴るところ?舌?って言うんだけど、そこ壊しちゃったからあげるよ。貝殻をつけてみたらどう?」
言われた通りに私は、貝殻に穴を開け糸を通して繋げた。
風に吹かれて綺麗な音色を奏でて、彼の明るい笑顔を思い出した。
周りを自然と笑顔にするような、無邪気で優しいその輝きに、私は恋をしていたことを改めて思い知らされた。
そんなことを思い出させる、優しく癒すような音を出す煌びやかなガラス細工に、私の心は幾分か救われた。
彼が、前の向き方を教えてくれているような気がした。
「貝殻、シェルパウダー、シェルフレーク、シェルビーズ。ハンドメイド以外だと、クラムシェルなんて言葉もあるんだな」
わぁ。なかなかに手強いお題が来た。某所在住物書きは「貝殻」から連想し得る複数個を検索し、それらの物語を仮組みし、途中で「無理」と挫折を繰り返している。エモネタが不得意なのだ。
「貝殻そのものを使うって言ったら、耳に当てて『海の音』とか、法螺貝とか、あとは螺鈿細工?」
牡蠣の貝殻は肥料としても優秀らしいが、それで物語組めるかっつったら、俺の固い頭じゃねぇ。
物書きはため息を吐き、ネタ探しを続けた。
――――――
最近最近の都内某所、某一軒家。
夫婦1組に一人娘、3人構成の家庭に、諸事情で夫側の親友が避難してきている。
早い話が元恋人によるストーカー数歩手前。
被害者にして避難者の名前を藤森、その元恋人が加元、避難場所提供一家は宇曽野という。
加元と完全に縁切って、8年逃げ続けてきた藤森。
最近加元に職場がバレてしまい、現住所の特定も時間の問題であった。
加元はかつて、藤森をディスりにディスり、その心をズッタズタのボロッボロに壊した。
そのくせして、逃げた藤森を追うのである。
『加元には、二度と藤森の心を壊させやしない』
宇曽野は即日決心し、真の友情を誓い合う親友に隠れ家を提供した、のだが。
「ただいま」
避難場所提供の礼として、掃除洗濯、消耗品の補充、それから料理に至るまで、手伝える家事は率先して手伝う藤森。
今夜はシーフード、特に貝類という女性陣の要望に従い、貝殻付きのホタテとマグロの柵(さく)、それから卵といくつかの野菜を買ってきた。
賞味期限間近、タイムセール、店舗間の価格差。
目の付け所が家計の番人のそれであった。
「随分遅かったな?」
2時間で帰宅すると言っていた藤森が、時計を見れば遅れに遅れ、家を出てから4時間半後の帰宅。
「何かあったのか?」
藤森の心の優しさと、加元の執着の強さの双方を知る宇曽野は、気が気でないとまでは言わないが、それでも心配はしていた様子。
加元とはち合わせたか、それでとうとう藤森の心が折れたか、なんなら宇曽野に黙って遠くへ逃げたか。
様々想定した宇曽野に藤森が言った言葉が悪かった。
「例の私の後輩が、加元さんの無理矢理雇った探偵に尾行されていたから、事情を話して成功報酬の2倍で手を打ってもらってきた」
詳しくは前回投稿分参照である。
「かもとの、たんてい?」
「私の居場所を知っていると踏んで、行動調査の依頼を出したらしい。加元さんと私の関係と、経緯を簡単に話して、『ストーカー数歩手前だ』と」
「加元の目の前に、お前、出てったのか」
「加元さん本人ではない。それに、私のせいで、後輩がプライバシーの実害を被ったんだ。見過ごせない」
「でてった、のか」
「それより宇曽野、お前も一緒にメシ作らないか。マグロの漬けサラダと、ホタテの貝焼きの予定でな」
「ふじもり、」
「貝殻の上にホタテだの溶き卵だの、味噌だの入れて、その貝殻ごと焼くんだ。うまいぞ」
「おまえ!わざわざ自分を危険に晒しやがって!」
「は?!」
ポコロポコロポコロ。
突然勃発する親友同士の大喧嘩はほぼ月例イベント。
5月13日に6月23日、7月15日に8月17日、それから今日。既に見慣れた光景である。
宇曽野家の女性陣も我関せず。ただ藤森の購入してきた食材を、それの入ったエコバッグを、淡々粛々とキッチンに退避させている。
「母さん、また父さんと藤森さんプロレスしてる」
「放っときなさい。10分20分すれば勝手に電池切れるから」
ポカポカポカ、ドッタンバッタン。
ひとしきり暴れてスッキリして、ケロッと瞬時に仲直りの藤森と宇曽野。
その後「喧嘩する前にまずお互いの意見を聞きましょう」と、仁王立ちする宇曽野の嫁の前に、ふたりして正座してしょんぼり頭を下げていたか、否かは、
敢えて、ここでは明記しないものとする。
泣きたくなるほど 優しい 音が降る
言の葉ひとつひとつが
音符のひとつひとつが
うす紅の貝殻になって
ざあんざあんと波に打ち寄せられ
私の心の浜辺に集まる
その貝殻は なぜかほの温かく
私を泣かせる
がまんしなくていいよ
かんじょうに ふたをしなくていいよ
いままで よくひとりで がんばったね
いまも よくがんばっているよ
優しい 優しい 音
うす紅の 貝殻
俺には珍しく、海にやってきた。
数十年ぶりだが、砂浜で貝殻を探すだけでも結構楽しいものだ。
一人寂しく何をやっているのかと言われたら、一人で海に行って何が悪いと言い返したい所存である。
そんな捻くれ者なのだが、子供には案外わからないものなのだろうか?
何故か俺は数人の子供に懐かれ?(もとい遊ばれ)ている。
まあこれだけだとハテナが浮かぶだけだろうから説明すると、、、
俺は海で遊び疲れて、砂浜の貸し出しパラソルを借りて涼んでいた。
すると一人の子供がやってきて、俺の隣に座った
【貝殻の思い出】
(……君は、覚えてるかな)
午後9時、仕事帰りに浜辺を歩きながら過去に思いを馳せる。
『いつかおとなになったら、ぼくとけっこんしてください!』
そう言いながら小さくて綺麗な貝殻を渡した、10年以上も昔の、ごっこ遊でしかない思い出。
「……ずっと覚えてて、待っててくれてたら」
あの時と同じような貝殻を拾って、八つ当たりじみたことを呟く。
そんな資格は、無いというのに。
明日は、君の結婚式だ。
自分に招待状は来ていない。……あれだけ酷いことをしたのに、呼ばれることはもうない。
君に会うことさえも。
(今更こんな気持ちに気づくなんて、俺はなんて馬鹿なんだろう)
気づいたところで、もう遅い。
拾った貝殻はあの時と違って、すこしだけ、砂で汚れていた。
・貝殻
ほら、自分の殻を破ってみよう?
…自分の殻って何だよ。いつも、心の中で毒づきながら愛想笑いを浮かべる。だけどそれも、そろそろ限界だ。
自分の殻。ここから飛び降りれば、破れるだろうか…
ひゅおう、と風が頬を叩く。一歩先に、地面は存在しない。さあ、早く。誰かにせかされるように、俺は足を浮かす。
「待って!」
マジか。自殺直前に引き止められるシチュとか、漫画の中の話だと思っていた。ゆるゆる、俺は振り向く。女の人だ。新人のカウンセラーだろうか。それなら用はない。
「あなた、死ぬんでしょ。その前にあなたの殻を買わせてちょうだい」
はあ?
「だから、あなたの殻よ。せっかく立派な殻なのに勿体無い。何円なら売ってくれるの?」
そう言いながら、その人は距離を詰めてくる。俺は動けない。
俺の殻を買わせろ、なんてそんなの、信じる方が狂っている。そして俺は、今から自殺しようなんて考えている、天下の狂人だった。
「殻がなくなれば、楽になりますか」
「それは、生きている人の話かしら。それなら、楽になんてならないわ」
そうか。それなら、未練はない。
「言わせてもらうとね、あなたの殻はあなたを閉じ込めるものじゃないのよ。それどころかあなたを、守ってくれるもの。人間は勘違いしてるのよ。本当に大切なのは、殻を破ることじゃなくて、ほんの少しずらすことなのに」
わからない。頭の中で、俺の周りを囲っている丸いシェルターが振動する。
ずらす、ってなんだ?まともに聞いているのがバカなのか?困惑する俺のすぐ目の前にたって、彼女はにっこり微笑んだ。
「…あなた、生きたいのね。殻は…しかたないわね。手伝ってあげる」
そうひょいっと俺を引き上げる。すごい力だ。突然の至近距離に、こんな状況にも関わらず心臓が鳴る。
「しばらく、預かってあげるわ。欲しくなったら、ここにいらっしゃい」
次の瞬間、俺は屋上に佇んでいた。
彼女の手には、硬く滑らかな貝殻が一つ。何か大切なものが抜け落ちたような、忌まわしいものが消え去ったような、変な感覚。
涙が一筋、ほおを伝った。
『はまべのうた』
砂浜にひとりぽっち 犬の散歩のおっさんの口笛と波の音 割れた貝殻見つめてる ロマンスの欠片も無いけど それなりに心地よい 中途半端な人との関わりより 海を見にいこう 浜辺に出よう
故郷には海が無かった。
だから若かった私たちは自転車で、制服のまま湖を目指し、浅瀬ではしゃいだ。
何してるの
ふたりでみずうみー
濡れないように携帯で他の子達に話しながら、片手で水中を探る。ちらりと友人を見ると、けらけら笑いながら楽しそうにこちらに水を飛ばしていた。
暑さも、日差しも、透けて見える水中も。
光る水飛沫も、いつも見ていた笑顔も。
思い出に、なった。
tu eres mi media naranja と聞いて、思い出したのは、ずっと一緒だったきみだった。
まるで、ふたつでひとつの貝殻だったように。
いつまでも、一緒だと思っていた。
またね、が永遠に来ないなんて
「貝殻」
題:貝殻
貝殻ってね、
割れてるものもあるし
綺麗な形のままのやつもあるの。
綺麗な形でも色が鮮やかじゃなかったり、
割れちゃってるけど色が鮮やかなやつもあるの。
これは汚いから要らないって捨てたやつを
他の人が綺麗だと言って手に取るかもしれない。
貝殻と人間を一緒にするなって思うかもしれないけど
一緒だと思ってもいいと思うよ。
あなたを捨てる人が居ても
あなたを欲する人がいるかもしれない。
だから大丈夫。
大丈夫だよ。
貝殻
「貝殻とゴッホは似てるんだよ」
空を見ながら天気の話をするように彼女は言った。唐突に意味のわからないことを言うことがよくある子だけど、今回は群を抜いていて怪訝な顔をしてしまった。そんな私なんかを気にかけず淡々と語り始めた。
「貝殻ってね貝が死んだ後に残るものなんだ」
「生きてる間は中のウネウネが気持ち悪いって言われるのに死んじゃったら綺麗って言われるようになるの」
「ゴッホも生前は一枚しか絵が売れなかったんだって」
そこまで話して彼女は私の方を向いた。
「そこにあったものは変わらないのに評価が変わるなんて変だと思わない?」
この顔は私の反応を楽しんでるだけだ。別になにか良い答えを期待しているわけじゃない。それでも意趣返しがしたくて5秒くらい考えた。
「でも生きてる間だって同じだよ。同じことをしても同じ様には評価されないことばっかりだよ」
そこまで話して彼女の意図にようやく気づいた。彼女は涙が出るほど笑った。
「そっか! じゃあ生きてたほうがいいね!」
流石に分が悪くなって私は屋上の縁からひらりと着地した。今日も勝てなかった。
「もう遅いし帰ろ!」
ようやく日誌が書き終わった時と同じ笑顔でドアへ向かい始めた。嬉しさが滲み出る背中を見ながら思った。実のところ死にたがりは私の方で、変人だと思われてる彼女に毎日生かされてるなんて誰が信じるだろうか。もしかしたらバレてるかもしれないし、一生誰も気づかないかもしれない。でもそんなことはどうだっていい。
この歪な関係だけが私を生かしてくれるのだから。
貝殻といえば、貝。貝といえば、しじみやアサリ。
私は山生まれ山育ちだから海に行った事もほとんどないし、波の音がする貝殻なんて実際に触った事も拾った事もない。だからといって別に今も拾って是非波の音とやらを聴いてみたい!なんて気持ちもない。私の中では貝は食べる物、美味しいものというイメージの方が強いのはその所為なのか否か、、。しじみとアサリのお味噌汁が食べたい23時30分。
#貝殻
貝殻というと、子どもの頃は写真立てに張り付けた覚えがある。
海辺ではお皿代わりに使ったり、他にもなにか再利用して使われているのでは-と思い、ググってみた。
すると、太古から装飾品として飾ってきたというのもあれば、意外にも化粧品や肥料、洗剤などにも使われているという。
ホタテの貝殻に限るものであったりするのだが、なるほど これも昔からのSDGsといっても過言ではない。
まだまだ可能性はたくさんありそうだと思わせてくれるし、貝殻は中身だけでなく、海からの贈り物なのだと思う。海にも感謝である。
地球にとっての人間は何のためにいるのかは分からないが、それでも人類の進化、それも地球が少しでも長く生き残っていくためには人間が頭を使っていくことなんだろうなと思う。
貝殻
手の平ぐらいの帆立貝のからを乳バンドにしてたのは人魚だったかビーナスだったか?常磐ハワイアンセンターの踊り子だったか?ハワイのダンサーはココナッツを二つに割ったやつだったか?
いろんな絵があると思えるがビーナスはお化け貝の殻に乗って両乳を片手の肘から先で隠してパンツが帆立貝の殻だったか?
海坊主とか人魚はジュゴンで胸あたりに貝殻がくっいて、人魚の髪は海藻が乗っかっていたとか!そう思うと夢がない。人魚もビーナスも実在したと思いたい。深海では大クジラと大ダコが格闘しているらしい。人工衛星から見えるらしい。400年も生きてるクジラがいるらしいし!
法螺貝は山伏や戦国時代の戦の時に使われた。
螺鈿細工は鮑の貝殻の光沢のある方を使った漆工芸の装飾技法だ。
砂浜でいろんな種類の大小色とりどりの貝殻を図鑑を見ながら収集するのも楽しい。これは毒があるとか無いし食べたら美味しいとか言いながら。特に子供の時には。
子供の頃高級赤貝(身の詰まった毒有り注意)二俵くらい採った 徳博
□貝殻
貝殻というお題で ぱっ! っと私の頭に思い浮かんだもの。
螺鈿細工…。
なんで螺鈿細工だったのか?
それは子どもと歴史博物館みたいなところで
ちょっとした螺鈿細工体験をやったから。
娘が一生懸命作ってた姿が印象的。
息子は火おこし体験を必死にやってた。
その次に浮かんだものは ホタテと牡蠣とはまぐり…。
私の食べたいものなんだろうな。
じゃあその後は…。
貝殻で金儲けできないかな…。
アホですね。
なんか40に近づくに連れて、生きるって大変だなとものすごく感じているのだが、このお題で連想したものがこんな感じになってしまいまして…。
考えるって大事だけど、思いついたことを即アウトプットしてみたら、アホな自分を認識でき、悩まないで行動した気分にもなれて、なんかちょっとスッキリ。
このアプリ、楽しいね♪
幼き頃、海は苦手だった。日が強く照りつけ、わたしの白い肌では火傷していまう。日が照りつけると、黒いマントを着る。此れが、とても暑いのだ。だから、海と船にはあまり行きたくなかった。
でも、夜の船旅は好きだった。夜空は、地上よりずっと広くて綺麗だった。
そして、海をずっと東に渡れば、わたしの思い出の地が在る。その国には、もう訪れるは叶わない。でも、大好きな国だった。幼きわたしに多くの世界を見せてくれた。大好きなお世話になった人々が、暮らす国。平和で、貧しくとも困らぬ国。
彼らの教えは、今のわたしを模っている。
師に連れられ、訪れた。海は、わたしの故郷とは全く別物だった。この国の砂浜を彩る、貝殻の美しきことに驚いた。流れ着いた大きな貝殻を耳にあてると、海の音が聞こえた。
人生で初めて感動した瞬間だった。
又、いつか…あの国に訪れ、大好きな人々と再会を果し、礼を言いたいものである。
…願わくば、叶えたい。戦の世に、無謀とも云えるこの夢を。
指先に乗るほどの
小さな貝殻を、夏が終わり
静けさを取り戻した浜辺で見つけた。
今夏も、暑過ぎて
真夏の海を訪れることは
出来なかった。
体力は、吸い上げられるように
日に日に奪われ
点滴が、ポタポタと落ちる
あの光景が、夏の思い出だなんて。
少し悲しくて
夏の名残惜しい気持ちを
残したくなくて、海に来た。
ただ、実際に来てみれば
波のぶつかる音や、海風は
そんなちっぽけな感情を吹き飛ばして
くれるほど、力強くて
素晴らしかった。
そっと、小さな貝殻を浜辺に戻して
もう少し歩く事にした。
人生は、何が起こるか分からない。
見たいものは、見るべきだなと
水平線を横目に…思った。
【お題:貝殻】
貝殻 砂浜 海の音
細波 焚火 火の鱗粉
海は深く 耳は重く うねる螺旋の
奥深く 深海 青暗く 呼吸は泡に
反響する 薄膜の 殻は硬く
砂に潜る 音を聞く 月下の
小さな雑音は殻の外を通り過ぎた
砂の粒は数多に吹きすさび彼方に入れ替わる
永遠は渦の底に伸ばす手はない
隙間に見上げる月光陽光
粒を呼吸を泡を言葉を
閉じて聞こえるさざめきを
「なんでさあ」
「?」
「貝殻を耳にあてると、波の音がするの?」
「さあ…」
「なんで?」
「…世の中には、説明しないほうがいいことがあるんだ」
「ちぇっ、インテリ気取り」
「正確な答えかはわからないけど、仮説とか推論とか聞きたい?」
「るっせえな!お前こそいちいち理屈っぽいの直せよ」
(うっ…)
「別にそう言われたら聞きたかねえし。…でも思ったんだよ。なんでかなって」
「ふーん…」
「『ふーん』?ああそう、ふーん、『ふーん』ね、ふーん」
「…そういうこと考えるの苦手なんだよ」
「?」
「でも、たまにはそういうのもいいかもね」
「よくわかんないけど、お前にもわからないことあるんだな。じゃ、とりあえずAIにきく?」
「だからそういう話じゃねえ!!」
「あのー、なんで貝殻を耳に当てると波の音がするんですか?」
「あああああ…」
詩情と理の間に挟まれながら、愉しく、揺蕩うことの難しさよ…。
「あのさー」
「…」
「ボタン長押ししてたら変な画面が出てきたんだけど…、これどーやんの?」
「………」
「うひっ、つべてえ」
「貝でも取って帰るか…」
*「貝殻」