【貝殻の思い出】
(……君は、覚えてるかな)
午後9時、仕事帰りに浜辺を歩きながら過去に思いを馳せる。
『いつかおとなになったら、ぼくとけっこんしてください!』
そう言いながら小さくて綺麗な貝殻を渡した、10年以上も昔の、ごっこ遊でしかない思い出。
「……ずっと覚えてて、待っててくれてたら」
あの時と同じような貝殻を拾って、八つ当たりじみたことを呟く。
そんな資格は、無いというのに。
明日は、君の結婚式だ。
自分に招待状は来ていない。……あれだけ酷いことをしたのに、呼ばれることはもうない。
君に会うことさえも。
(今更こんな気持ちに気づくなんて、俺はなんて馬鹿なんだろう)
気づいたところで、もう遅い。
拾った貝殻はあの時と違って、すこしだけ、砂で汚れていた。
9/5/2023, 3:09:26 PM