八ツ刻 粗茶

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9/5/2023, 3:09:26 PM

【貝殻の思い出】



(……君は、覚えてるかな)

午後9時、仕事帰りに浜辺を歩きながら過去に思いを馳せる。

『いつかおとなになったら、ぼくとけっこんしてください!』

そう言いながら小さくて綺麗な貝殻を渡した、10年以上も昔の、ごっこ遊でしかない思い出。


「……ずっと覚えてて、待っててくれてたら」


あの時と同じような貝殻を拾って、八つ当たりじみたことを呟く。
そんな資格は、無いというのに。




明日は、君の結婚式だ。
自分に招待状は来ていない。……あれだけ酷いことをしたのに、呼ばれることはもうない。
君に会うことさえも。


(今更こんな気持ちに気づくなんて、俺はなんて馬鹿なんだろう)


気づいたところで、もう遅い。
拾った貝殻はあの時と違って、すこしだけ、砂で汚れていた。

9/4/2023, 2:02:09 PM

「あ、」

できるだけ綺麗な流星群がみたくて、街灯の少ない山道の駐車場へきた。
空を飛び交う流れ星が綺麗で、隣で見ている彼女の表情が見たくて顔をむける。

「綺麗だねぇ」

そういう彼女の黒い瞳に映る、輝く星々。
空にあるものよりももっと綺麗に見えて、ずっと見ていたくなる。

「なぁに?」
そう言いながら微笑む彼女に、なんでもないと返しながら手を握った。

(空じゃなくても、特別な天体イベントじゃなくても、きらめきってすぐそばにあるんだな)

このきらめきは奇跡だ。この先失ったらもう二度と手に入らない何よりも貴重なもの。
ずっと大切にしよう。そう心にきめて、握る手に力を込めた。