草臥れた偏屈屋

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揺れる電車に身を任せ、車窓は私を反射させる。草臥れた顔とスーツは都会で錆びついた無味乾燥な大人かのように思わせた。様々な電光を潜り抜ける電車は、ただの小さなアパートへ向かう。しかし、私は潮騒の音を思い出す。耳をすませば、電車の音は霞んでいき波の音に変わっていく。海音貝を耳に当てるかのように、私の心はいつでも故郷へ帰れる。ほら、潮の匂いも感じてきた。決して褪せず常に湧き上がる居場所がそこにはある。揺れる電車に身を任せ、車窓は海を反射させる。そして、私は貝殻の耳を堪能する。

「貝殻」

9/5/2023, 3:29:51 PM