『終点』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
名前
静寂には音がある。
名前とは祈りであり、回帰を望む海の音色が鳴る。
エントロピーが折りたたまれていく精神の傍らで、物質の枠に囚われた肉体は崩れていく。
寄せては返す波のような、始まりも終わりもない、時間軸から解放された夢を見ていたい。
揺らぐ視座から落とされた光は波を超えてゆく。
終わりのない旅だった気がする。
あてのない彷徨だった気がする。
ただ、遠くへ。
どこか遠くへ行きたいと、そう願っていたような。
──とうに働きを失った心の片隅で、そんなことを、思っていたような。
ぼんやりとした思考で足を進める。意思も目的もなにも持たないまま、ただ世界の果てに向けて歩む。
身につけた鎧と剣が重い。■■の証は擦り切れはてて、微かに名残が見えるだけ。だってここにいるのは■■の絞りカスだ。なにもなし得なかった残骸だ。
使命、とか。
平和、とか。
■■、とか。
なんだっけ。なにか大切なものがあったはずなのに。
ぜんぶ、ぜんぶ、わすれてしまって。
──ああ。
はやく、おわってしまいたい、と。
そんなことだけを祈って、棒きれのような足を進める。
終点の匂いかなこれ
どうだろう。誰か教えて。
ついちゃう前に
終点
「この電車は快速電車東京駅行きです。終点の停車駅は大船駅まで停まりません。他の電車へ乗り換えなさる方は東京駅で乗り換えをお願いいたします。」
と電車のアナウンスが言った。
僕は仕事でもなくただ1人で電車に乗り自分探しの旅に出ていた。
僕「横浜駅まで降りないから大丈夫。横浜駅着いたらいろいろまわってみよう。」
しばらく電車に乗り、目的地の横浜駅に着いた。僕は横浜でいろんなところをまわってみようとまた電車に乗り、中華街まで行った。
中華街に着いたら、ご飯を食べるためにお店に入った。
僕「これこれ!中華街に来たら食べようと思ってた肉まん!うめぇ!やっぱ肉まんっていいなぁ!」
とか言いながら肉まんをほおばるのだった。
肉まん食べ終えたら次は他の食べ物屋さんにも足を運び、そこでも買って食べ、お土産もついでに買うと次もまた電車に乗りみなとみらい駅に行くのだった。
みなとみらい駅に着いた。
僕「おー、やっぱ横浜に来たって感じするなぁ!すげぇ!景色やっぱすげぇ!」
と感動に浸りつつ、まわって見ることにした。
僕「ランドマークから見る景色もいいなぁ。やぁ、楽しい!1人で来てみてよかった。」
ランドマークやいろんなところをいっぱいまわって疲れた僕は帰ることにした。
日帰り旅行だったのだ。
僕「やぁ、自分探しの旅に来たけどなんかスッキリした。また横浜に来よう!楽しかった!ありがとう、横浜!」
自分探しの旅はこれで終わった。
なんだかスッキリしたし、また頑張ろうという気持ちにもなったのでよかった。
電車のアナウンスが言った。
「次の電車は終点の東京駅です。乗り換えの方は東京駅で乗り換えをして下さい。」
終わり
【終点】2023/08/11
─── じゃあ、また明日な。
父が躊躇いがちにそう言った。
何処となくこちらの様子を伺うようなおよいだ視線。
何回も緩ませてヨレヨレになったネクタイ。
ずっっと前からモジモジしている足元。
これら全部、父が緊張した時に見せる癖だ。
父が今までにないほどに緊張しているのは明確だった。
それもそのはず。
明日、初めて私は、父の再婚相手に会うことになってい
るからだ。
私はそんな様子の父に、いつもと変わらない様子で何も
気取られないように告げた。
─── うん!会うの、楽しみにしてる。
昨日の夜のことを思い出しながら、妙に頭に響く電車の音を聞き流す。あと2駅で待ち合わせ場所に着く。父が指定してきたその場所は、再婚相手の地元らしく、父曰く、彼女のことを知ってもらうため、彼女が1番リラックスできる地元がいいとのことだった。
写真を見せてもらったが、なかなかきれいで、穏やかそうな温かい感じの人だった。確かにこれなら、父が好きになるのも分かる。別に再婚に反対なわけじゃないし、この人なら家族になれるような気がした。
─── でも、私にとっての「母さん」は、1人だけ。
少し景色の変わってきた窓の外を見ながら、自分の唇を強く噛み締める。
『次は○○、◯◯に止まります。お出口は───』
お決まりのアナウンスが響く。気づいたら、もう目的地に到着していたらしい。
ため息をつきながら、私は席を立ってドアの前まで移動する。
この電車は、あと3駅で終点だ。
ドアの上の画面を見つめながら、私はため息をつく。
─── このまま、終点まで行っちゃおうかな。
/終点/
その電車で私と彼はいつも終点まで乗っていた。
終点にあるのは彼の家。私の家はその3駅前。
それなのに私が最後まで乗っていたのは、彼と出掛けた帰りはいつも「もう少し一緒に居ようよ」とどちらからともなく言い出していたから。
今、私はその電車に一人で乗っている。ひと月前に彼と別れてから、初めての乗車だった。
他に好きな人が出来たらしい。少し前から私への興味が薄くなっていることは何となく分かっていた。私は私の事を好きな人が好きで、同棲に近かったのに平気で他の女に魅力を感じる男なんか嫌いだ。だから、もういいのだ。
市街地で友達とレイトショーを観て、解散し、今はその帰り。最終便に近いこの時間帯はそれなりに混んで席が埋まっていたので、私はつり革を掴み、外を見ていた。
いつもの夜景だった。見慣れている店、見慣れている街。変わらない建物だけじゃなくて、変化するはずの空でさえ夜だから黒一色で、これも見慣れていた。
(……あぁ。面倒なことになった)
今更、気が付いてしまった。
選択をしなければいけないことに。
この電車にただ揺られるだけで終点まで行ける。降りる場所を決める権利が私にあることに、気が付いてしまった。
私はこれから先、終点まで「行かない」選択肢を取り続けなければならないんだ。そんなこと考えたくもなかった。ただ何も考えずに乗り続けていられれば良かった。
私は終点まで行きたかった。
終点から3つ前、電車が停まる。
「--駅、--駅。ご乗車ありがとうございました 」
人の群衆が一斉に電車の先頭、出口へと動いていく。私はつり革をぐっと握り締め、そして離した。
「終点」
終わらせようとしたところ
一区切りであってまだ先はある
〜鯖缶のコーナー〜
急に湧く鯖缶です。
みなさん、暑い日や変わりやすい天候
が続いていますが、お変わりございま
せんか。
これからも体調を崩さないように、ど
うか、ご自愛くださいませ。
たぶんね
人生に終点なんて
ないんだろうね
目標に到達したら終点?
ううん
終点の隣には
始点がある
目標に到達したら
新しい目標をもって
始点に立つ
いつもね
終点の隣には始点がある
そんな繰り返しで
私たちは成長していく
「終点」
人生の終点は、誰にも分からない。
死ぬときが分かっていれば、それまでにやりたいことをやれば良いが、そんな優しい世の中ではない。
限りある日を一日でも楽しく過ごそうではないか😊
今回も!!全然思いつかなかった~!!!
いつ
どこへ
何を求めて
終わりなんかない
人生なにが
起こるかわからない
だから
今を精一杯
生きるだけ
きみが
教えてくれた
偽りのない
人生を
真っ直ぐに
【終点】
私は電車に乗っていた。
私は3つだけ駅を乗るつもりで乗った。
この電車は区間の距離がかなり長いために私は寝てしまった。
起きた頃には、終点に着いていて、車掌も誰もいなかった。
電光掲示板には、【次はdhciros3!,&;@/@駅です】と文字化けしていた。その上を見ようとしたが、その時
私の意識は消え、また電車の中にいた。
まだ1駅目のようだ。
私はもう一度寝ることにした。
【終点】
驚くほど静かに車両が滑って進む。
僅かな引っ掛かりに当たったときの振動なんて無い。
この氷の上を進む様な感覚は、窓の外を見れば直ぐに理由が解るだろう。
海。
夜空に溶けていきそうなほど、暗く、儚く、繊細な色をした海。
まず初めに見た時、美しいと思った。
それからじわじわと怖いという感覚が胸の内を焼いた。
でもそれは心地悪いものではなく、癖になるような優しい痛みを発した。
線路の上なんて、この電車は通っていない。
俺がの手が透けているのも、足元からどんどんと消えていっているのも、
まあ、知らないということにしておこう。
頭にビルの屋上から一歩踏み出す景色がチラつくが、その後の景色は見たくなかったため脳をシャットアウトさせた。
夜空のちらちらと輝く星と、控えめに佇む月が海に反射する。
反射した光は、海をほんのりとした灯りで包む。
この光景は、いつまでも見続けられそうなほど綺麗だった。
足元から消えていっていたのが、今は胴まで侵食している。
腰が消えたのに、何で座席に座れているかはよく分からない。
ま、当然というか何というか、歩けはしなかった。
上半身だけで這いずり回るでもなく、その空間に固定されたようにピタッと止まって動くことができない。
どうせ消えるなら海に飛び込んでみたいと思っていたのに。残念だ。
頭まで消えてきて、目の部分が少し残っている。
口が消えたら喋れないのだろうかと少し試したが、喋れ無かった。
後は消えるのを待つだけだ。
怖くはない。あまり覚えていないが、俺は多分自分から死を選んだ。
死ぬ時どんな気持ちだったのか、何故死のうと思ったのか。
それは何も覚えていない。
今は、死んで良かったかな。ということは少し思っている。
ここが黄泉なのか何なのかは知らないが、こんなに綺麗なものが見れたのだから。
名前:〇〇 〇〇
年齢:26
死人番号:53-280896324
死因:自殺(転落死)
53-280896324の切符は無事に海に還すことができました。
ご冥福をお祈りします。
「ここが終点、人生の終わりだ」
目の前の彼はそう言う
私はいつの間にか教会のような美しいステンドグラスが張りめぐらされた廊下で小柄な男性と対峙していた
「んー、わかってなさそうだね君。ま、大体の人は君とおんなじ反応するし…」
「ここ、どこですか?」
「え?そこから?」
男はキョトンとした顔をした
どうやら知っていて当然らしい
「君どうやってここに来たか覚えてる?」
「いいえ、全く覚えてません」
「えっまじか...」
目の前にいる人?は気まずそうな顔をした
顔だけで会話出来ちゃいそう
「えっと、ここ死後の世界なんだ」
「あ、だから終点って言ったんですか」
「そう。そして人生の始まりでもある」
?どういうことだろう
「いわゆる転生ってやつだね。終わりがあるなら始まりだってあるだろ?」
「へーなんかすごいですね」
「でしょ、……そろそろ時間だ。第2の人生、たのしんでね」
その言葉と共に辺りが明るく輝きはじめた
「終わり」は始まり
「始まり」は終わり
「終わり」に着いても
そこから歩き始めれば終わりじゃない
『終点』
ここは世界の端、終点だ。
なんの色もないここは酷く寂しく感じた。
空は灰色の雲が分厚くかかっていた。
なぜ僕はここにいるのだろう。
どうやってここに来たのだろう。
なんのためにここに来たのだろう。
戻ることは出来ないのだろうか。
見渡してみても何も無い。
障害物が無いここは遠くまで見えるせいか
どこまでもこの景色が広がっているように感じた。
あぁ、世界の終点で僕も終わってしまうのだろうか。
─────『終点』
終わりのない世界から私は降りる
私が終わりを迎えても世界は進む
真の終わりはこの世界の終焉の時
#終点
『終点』
ある日、その男はどうしても列車から降りる気になれなかった。それは、端と端が繋がったフィルムのように廻り続ける人生に嫌気が差したとかいう、酷く文学に侵された下らない理由などではない。
確かに彼の人生は下らなかったが、それでもその駅で降りることを選び続けたということは、彼の人生における数少ない誇りの一つだった。そして実際にその選択は正しく、その駅で降り続けるということは、現代人にとっての完徳に違いないのであった。
だが、今日という今日ついに、彼は疑問という堕落に片脚を踏み入れたのである。それは前述の通り彼のビデオ録画の如く日常に対してではない、それであれば彼のような生粋の現代的完徳者は、そのような真理への挑発すら、自らの糧にしてしまうだろう。
だからここに言う彼の疑問というのは、それよりももっとくだらなくて、もっと怠惰で、それでいて最も高慢で、無意味かつ真理的でなくてはいけない。
つまり彼は、列車から降りるということを疑ったのである。実のところ、彼は降りる気にならなかったのではなく、最初から降りぬために列車に乗ったのである。
そうして彼が、眠ることも、目覚めることもせずに、ただ列車を味わっているうちに、列車は当然ながら一つの駅に辿り着いた。そして、もうその列車は、次の駅へ向かう気は無い様だった。
その駅は、大きくも小さくもない、実につまらない駅だった。列車の座席に腰掛けたままの男は、居眠り客を起こして回る車掌の足音に気が付いた。男は車掌に、ここがどこか尋ねることにしたが、車掌に声をかけてから、思いなおしてそれをやめた。
名前を聞いてみたところで、男にとってその駅が終点以外の何ものかに変化することはないと考えてのことだった。
その代わりに男は、車掌にこう自慢した。
「これからこの列車は、次に行かぬために走り出すのだ。この私のように。」
車掌は、こちらを一瞥したが、特別彼の言葉を気に留めるふうでもなく次の車両へ歩き始めた。専ら彼の関心は眠っている客であって、その大いなる目的の前にあっては、目覚めたる男の独り言なぞに用はないのであった。
男は、この列車は毎日、今日の男と同じような決意を持って生きているのだと感じて、列車と離れたくないと感じたが、そういうわけにもいかなかった。
男は渋々プラットホオムに降りた。寂れているが、特別叙情的に寂れているわけでもないその駅は、一つの階段の他に、隣接する全寮制のお嬢様学校への学生専用連絡通路がひとつ、門を閉じた状態で設置されているだけの、やはりつまらない駅だった。
振り向いて、列車の走り去ったあとに残った、左右に続く線路を見る限り、この駅がこの電鉄の一番端の駅ということではないようだった。
その事実は男に、あの行くには遅く、帰るには早い、無意味な列車が、一層無意味に向かうという意味を持って走っていたものであったと思わせたようだった。
そして男はその姿と自分を重ねて、このつまらない駅に、辿り着かぬために辿り着いたのは自分くらいのものだろうと、密かに誇りに思ったのだ。
そして男は、駅の外に出た。
そこに広がるのは、やはりつまらない景色であった。それは男の思うつまらなさを、あまりに巧みに写し出した景色であったから、その様を記そうにも、記すべき点が一つも見つからぬほどであった。
だからそこには、純粋にただ景色だけがあった。
そしてその景色を横切ったのは、これまた純粋に女学生としか言いようのない女だった。
どうやらこの女は、隣接する学校の生徒らしかった。
その帰郷は、全く無意味な時期の帰郷であったから、男にもそれが、すぐになんらかの凶報によるものであると察しが付いた。
男は女を追って、駅に引き換えした。
これから帰られぬことを知るために帰ろうという、女のそのアンビバレントを見届けるためである。
今日の男は、珍しく矛盾を受け入れる心があった。
しかし、男の意に反して、女学生はやってきた列車の写真を取ると、すぐに帰ってしまった。
男は少し不貞腐れたような声で一言つぶやいて、折り返しの電車に乗った。
「電車は乗るものだ。」
そしてすっかり興が削がれた男は、少しも眠ることなくいつもの駅まで列車に乗ったのだった。
そしてその日はもう、男は電車には乗らなかった。
男の半端な堕落は、ただそれだけのことであった。
だがしかし、やはり男が堕落者たる所以は、ただそれだけで十分なのであった。
人生の
終点にたつ時
何を感じるだろう
お題
終点
【終点】
ゴトンゴトンと音を立てて、電車が揺れる。満員だったはずの電車は駅に停まるたびに人を吐き出し続け、いつしか車両の中には私と君の二人だけになっていた。
私の肩に頭を預けて静かな寝息を立てる君の目元には、ひどい隈が浮かんでいる。車窓から差し込む太陽の光の眩しさがあまりに不釣り合いで、無駄とは知りながら君の顔の前に手を翳した。
制服のポケットの中でスマホが震える。ちらりと通知を見れば、無断欠席をしたことに対する友人からの心配のチャットだった。見なかったことにしてスマホの画面を消す。私にとっては数だけは多い表面上の友人たちなんかより、君一人のほうがずっと大切だった。
学校へ行くための乗り換え駅に辿り着いた時、君が「降りたくないなぁ」と小さくこぼしたから。私は君の腕を取って、電車を降りるのをやめさせた。そうして二人きり、電車に揺られ続けてここまでやってきた。
車掌のアナウンスが終点を告げる。その音に君の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「おはよう」
「……おはよ」
まだぼんやりとしているのか、反応が普段よりも一拍遅い。眠たそうに目を擦った君は、そこではたと現状を思い出したのか眉を下げて私を見つめた。
「こんな所まで来てどうするの?」
「んー。終点で降りて、二人で日が暮れるまで遊ぼうよ」
夜になったら帰らなければならない。このまま二人で遠くまで逃げようと言ってあげられほど、私は世間の厳しさを舐めてはいなかった。高校も卒業していない世間知らずの家出人二人が真っ当に生きていくなんて、できるはずもない。
電車の終点までの、一日だけの逃避行。私が君にあげられるものはそれだけだ。なのに君は、この世で一番嬉しい言葉でも聞いたかのように、今にも泣きそうな顔でくしゃりと笑った。
「ありがとう」
ゆっくりと電車がスピードを落とす。ああ、もっと遠くまでこの線路がつながっていてくれれば良かったのに。たまに避暑へと訪れる隣県の山間の地名を眺めながら、心の中だけで呟いた。
「きさらぎ駅って知ってる?」
近くに座っている女子高生が何やら楽しそうに会話するのが聞こえてきた。
懐かしい響きだ。確かそんな都市伝説が流行っていたっけ。電車を乗り過ごして気付くと知らない駅に着いていて、そこには「きさらぎ駅」と書かれていた――とかそんな話だった気がする。行った人は戻れないんだっけ。だとしたら、誰がそれを掲示板に載せたんだって話だ。
そういえば、最近その都市伝説を元にした同名の映画が動画サイトに上がっていたのを見た。あれはあのサイトオリジナルの作品だったんだろうか。ホラー映画は好きだが観るのはいつも洋画ばかり。邦画となると、ホラーでも、貞子とか伽耶子とか有名どころの作品しかわからない。そういえば、貞子と伽耶子が戦う映画もあったよな…。予告を見た位だけど、電車にも乗っていた気がする。そのうち貞子と伽耶子がきさらぎ駅に行って恐怖の三つ巴になる作品とか出たりして……。
1人でそんな妄想続けながら電車は一駅、また一駅と進んでいく。鈍行列車の帰宅ラッシュど真ん中。当駅発に乗ったので座れてこそいるが、電車の中の人口密度は考えたく無い。空調も効かず汗と脂と香水と柔軟剤と…この時期なら制汗剤という可能性もありそうだ。とにかく色んなものが混じった嫌な臭いが車内に充満していた。
とはいえ乗り始めて10駅近く乗っている。もうむわっとするその臭いを感じられない程に鼻が慣れてしまっていた。
満員電車の鈍行に乗り始発から終点まで2時間の電車通勤り今日も高生生の話に耳を傾けてはそこから妄想を広げていく。これが私の通勤時間の楽しみである。スマホを見るのも本を読むのも悪く無いが、2時間の間沿線沿いに多数ある学校の高校生が乗り降りする電車で会話を盗み聞きするのは面白い。
高校生というのは、やはり時代の最先端をいっている。というのが私の持論である。いつの時代でも、流行の最先端は高校生だ。自分もそうだった。今でこそしがないOLで、髪も暗い茶色にオフィスカジュアルな洋服、黒いバッグなんて面白みの無い格好をしているが、高校生の時はそれは派手だった。
きさらぎ駅の噂が流行った2000年代。聞くところによると最近はその時代のファッションが再ブームきているらしい。そんなのもあってさっきの女子高生もきさらぎ駅の話をしていたのだろうか。
言われてみると、最近の若い子を見ていると自分の時代に流行ったものを身に付けている事が多いと思う。
レッグウォーマーにアームウォーマー、厚底の靴やミニスカ、ヘソ出しスタイル。昔と全く同じでは無いがらあの頃のファッションを更にパワーアップさせたような出立に懐かしさを感じるのは確かだ。
やっぱり自分達が着ていた頃のファッションに近いものを見ると可愛いと思う反面、再ブームと呼ばれる程時が経ってしまったのだと実感する。
それもそのはずだ。ブームは大抵10年周期らしいじゃ無いか。40代を間近に控え、高校生だった頃など20年近く前の話である。流行りが戻ってきてもおかしくない程には歳をとってしまったのだ。
しばらくしたらスマホをデコったり、バッグに大量のキーホルダーが付くのだろうか。付けまつ毛を重ね付けし長い付け爪をデコったギャルや、真っ黒く焼いて髪や服を盛るヤマンバギャルなんかが、パワーアップして戻ってくるのだろうか。そもそもギャル自体最近じゃ絶滅危惧種だと思う。そういえば、森ガールなんてのも流行ったっけ。
森ガールもパワーアップしたら面白いな。しかしギャルも森ガールもあれはもうあの時代だけのものなのだろう。なんとなくだが、そんな気がする。
どれだけ流行が周ろうと、その時代を象徴するものっていうのは、ずっとその時代だけに残ってしまっているものだ。受け継がれる事がないからこそ、象徴と呼ばれるのであろう。
と、そんな妄想を繰り広げていたら、いつの間にあの女子高生達は居なくなっている。きさらぎ駅の話を、もう少し聞きたかったな。惜しい事をした気がする。話をしている女子高生に直接聞く訳にもいかないが、懐かし名前がまた流行ってるのだとしたらなんとなく嬉しい気持ちになるものだ。それが例え都市伝説だとしても。
そういえば都市伝説という存在自体最近では聞かないなと、ふと思った。昔は、それはもう都市伝説が流行っていた。テレビでもよく取り上げられていたし友達ともその話題で盛り上がっていたっけ。そうか、それももう昔になってしまったのだな。そう思うと少し寂しい気持ちにすらなる。
10年一昔と言うなら、私の青春はふた昔も前になってしまう。流行りが戻ってきたと言われ、あの頃の思い出が懐かしいものとして語り継がれる事も無くなってしまう。寂しいな、これが歳をとるということ…つまりは人生の終点に向かうという事なのだろう。うん。上手い事を言った気がする。
頭の中で誇らし気な気分になっていると、車内アナウンスが流れた。
「まもなく終点〜終点○○でございます。お降りのお客様は〜……」
タイミングが良い。本当に終点が来てしまった。いつもより早い気もするが、楽しい事を考えているとそんなものだろう。
速度を落とす電車。私は抱えていた荷物を手に持ち、ドアの方を見つめる。そういえば今日はやたらと外が暗い気がするな。気の所為だろうか。天気予報では晴れだったと思うのだが…まだそこまで暗くなる程遅く無かった筈だ。
スマホで天気予報を確認しようと思うと圏外になっている。おかしいと思い顔を上げると車内には自分以外居なかった。
「おっと……?これはどういう事だ……?」
電車が止まり、ドアが開く。さっきまでは確かに、車内に人が居たし、最寄りの駅に向かっていた筈なのだが何処で間違えたのだろう。
車内の電気がチカチカと点滅する。早く降りろという事だろうか。この展開は予想していなかった。
私は立ち上がり、恐る恐る駅へと降り立つ。私が降りたのを確認したかの様に電車は扉を閉じ、また何処かへ向かって走り去ってしまった。ここは終点、奥に線路は無いはずなのに、繋がっている線路の奥は暗闇で何も見えない。
見慣れない風景に古びたコンクリートの駅。チカチカと点滅する街頭が青白い光でその看板をやけにはっきりと映し出していた。
『きさらぎ駅』と。
【きさらぎ駅】 #終点