【終点】2023/08/11
─── じゃあ、また明日な。
父が躊躇いがちにそう言った。
何処となくこちらの様子を伺うようなおよいだ視線。
何回も緩ませてヨレヨレになったネクタイ。
ずっっと前からモジモジしている足元。
これら全部、父が緊張した時に見せる癖だ。
父が今までにないほどに緊張しているのは明確だった。
それもそのはず。
明日、初めて私は、父の再婚相手に会うことになってい
るからだ。
私はそんな様子の父に、いつもと変わらない様子で何も
気取られないように告げた。
─── うん!会うの、楽しみにしてる。
昨日の夜のことを思い出しながら、妙に頭に響く電車の音を聞き流す。あと2駅で待ち合わせ場所に着く。父が指定してきたその場所は、再婚相手の地元らしく、父曰く、彼女のことを知ってもらうため、彼女が1番リラックスできる地元がいいとのことだった。
写真を見せてもらったが、なかなかきれいで、穏やかそうな温かい感じの人だった。確かにこれなら、父が好きになるのも分かる。別に再婚に反対なわけじゃないし、この人なら家族になれるような気がした。
─── でも、私にとっての「母さん」は、1人だけ。
少し景色の変わってきた窓の外を見ながら、自分の唇を強く噛み締める。
『次は○○、◯◯に止まります。お出口は───』
お決まりのアナウンスが響く。気づいたら、もう目的地に到着していたらしい。
ため息をつきながら、私は席を立ってドアの前まで移動する。
この電車は、あと3駅で終点だ。
ドアの上の画面を見つめながら、私はため息をつく。
─── このまま、終点まで行っちゃおうかな。
8/11/2023, 12:10:49 AM