『終点』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
※ホラー
気づけば電車に乗っていた。
周囲の乗客は皆俯き、動かない。
車内は薄暗く、静かだ。外は夜の暗闇が広がり、遥か遠くに微かな灯りが点在しているのみで、何処を走っているのかは分からない。
この電車は何処へ向かうのだろうか。
随分と凪いだ意識の中、考える。
最近は公私共に忙しく、たとえ移動途中であろうとこうしてゆっくりとした時間を取ることが出来なかった。規則正しい電車の揺れが心地よく、眠気を誘う。
少し眠ってしまってもいいのかもしれない。
終点は分からない。だが着いてからどうするかを考えてもいいのではないかとそう思い、ゆっくりと目を閉じて。
電車の速度が緩やかになっていくのを感じた。
アナウンスは聞こえない。周囲の乗客はまだ、誰一人として動く様子もなく。
ただ漠然と、次が終点なのだという意識に、閉じていた瞼を開けた。
外は暗闇が広がり、しかし夜の群青とは異なる暗い緑に山奥を走っている事を察する。
さらに速度は緩やかになり、進む先に駅の姿を捉えた。近づくにつれはっきりと見えてくる駅は小さく寂れているようで、やはり見覚えはない。どうやら無人駅のようだが、果たして近くに泊まる所はあるのだろうかと、視線を窓の外から車内へと戻し。
自分を取り囲む乗客達に、声にならない悲鳴が漏れた。
変わらず乗客達は俯いたまま、表情を窺う事は出来ず。微動だにせずこれ以上近づく事もないため、どうにか脇を通り抜けられないかと苦慮し。
ぱちん、と何かが弾けるような音を立て、意識が鮮明になる。
「なっ、あ、なん、で」
何故。どうして。
いつ電車に乗ったのか。
ここは何処なのか。
何故疑問を持たなかったのか。
自分は何処へ向かおうとしているのか。
目の前の乗客は誰だ。
次から次へと疑問が溢れ出し。声にならない呻きが漏れ。
電車が駅に止まり、小さく音を立てて扉が開いた。
「っやめろ!離せ!」
扉が開いた瞬間、微動だにしなかった乗客が一斉に手を伸ばし。腕を体を掴んで、扉へと向かう。
抵抗するも、それは数の前では意味をなさず。ずるずると引き摺られ、駅へと連れられ。
その最中、座席に座ったままでこちらを見つめる、制服姿の少女と目が合った。
「助けてくれ!お願いだ。頼むからっ!」
必死で助けを求めるも、少女が動く事はなく。表情はなく黙したまま、駅へと連れ出されるまでを見られていた。
ホームに降り改札を抜け、引き摺られながら駅を出て。
広がる光景に、一層抵抗を強くした。
「離せっ!嫌だ、嫌だぁぁぁ!」
墓地。墓標が並ぶその先。一つだけ空いた墓石。
なりふり構わず暴れようと、それでも手が離れる事はなく。少しずつ距離が近づいていく。
やめろ、離せと叫んでも、誰も聞かず。
何故、どうしてと嘆いても、誰も答えず。
距離が近づく。どんなに拒んでも止められない。
そして墓石の前まで引き摺られ。
無理やり体を詰められていく。
逃れようと暴れても意味をなさず、足から順に詰められ。
最後に残った頭を見て、詰めていた一人の女が笑った。
その女の顔に、見覚えがあった。
先週死んだ女。電車に飛び込んだとニュースで知った。
結婚すると言いながら金を貢がせ、捨てた女。
視線だけを動かし、周囲を見る。
あぁ、と声にならない吐息が漏れた。
ここにいるのは皆、自分が騙してきた奴らじゃあないか。
引き摺られていく男を見送り、隣で眠る少女の肩を揺する。
「んっ、なに…?」
「こんな所で寝たらまた悪い夢を見るよ。ほら、ちゃんと起きて」
「わかっ、た」
寝ぼけ眼で頷く少女の姿が、霞んで消えていく。それを見届けて、立ち上がる。
相変わらず、彼女は変なものに巻き込まれ易い。無事に戻れたようであるし、己も戻るべきかと逡巡し、結局は駅に降りる。
改札を抜け、駅を出る。
ちょうど骨壷に収められた先ほどの男が墓に入れられる所を見遣り、僅かに表情を険しくする。
立ち並ぶ墓石に腰掛ける己と同じ姿をした誰かが、こちらを見て笑いかけた。
「気にしないでイイよ。ちょっとだけ姿を借りているだけだから。それよりもアレを食べに来たんでしょう?」
あれ、と奥の墓石を指差され、不快さに眉根が寄る。
人の魂を喰らうなど、あってはならない事だ。
思わず言い返そうと口を開きかけ。
「喰らわぬよ。そこまで堕とす訳にはいかぬ」
背後から口を塞がれ、声を出す事を封じられた。
「邪魔しないでよ」
「それは常世の主に対する叛逆となるが良いのか、獏よ」
静かに諭す声に、目の前の誰かの顔が僅かに歪む。
「ちょうど主の子も来たようであるが、如何する?」
「?何の、話」
気づけば隣には幼い少女の姿。無感情な眼がこちらを見上げ、誰かを見つめ近づいていく。
「別に。何もナイよ」
視線を逸らし、その姿が掻き消える。
立ち止まり、少女は首を傾げる。しばらくして何かに納得したのか小さく頷くと、奥の墓石の方へと歩き出した。
「行くぞ、娘」
それと同時に塞がれた口はそのままに、駅へと引き摺られる。
ホームまで戻り、ようやく解放されて大きく息を吐いた。
「何、急に…というか、知り合い?」
「知らぬ」
随分と機嫌が悪い。
知っているのか、それとも視ていたのかは分からないが、聞いても答えてはくれないのだろう。
仕方がないと目を閉じ、意識を浮上させる。
「神様」
「何だ」
「さっきはありがとう」
目が覚める直前、小さく礼を言う。詳しくは分からないものの、庇われた事には変わらないはずだ。
「ありがとう」
もう一度呟いて、目が覚める。
こちらを覗き込む少女に、心配させぬよう笑いかけ。
ふと巻き込まれているのはこの子ではなく。
己の方ではないのかと、嫌な胸騒ぎを覚えた。
20240811 『終点』
朝、通勤ラッシュになる一本前の電車に乗り込む。
それでもそこそこ人はいるけれど、今日はどうにか座ることができた。
ここから6つ先の駅で降りて、快速に乗り換えて4つ先が私の通う学校の最寄り駅。
……行きたく、無いなぁ。
別に虐められてるとか、体調が悪いとか、嫌いな科目があるとか、そんなんじゃない。友達と話すのは楽しいし、めちゃくちゃ元気出し、得意な体育があるから楽しみまである。でも、なんだか、そーいう気分なんだ。
この電車の終点には何があるんだろう。通学以外で使ったことがないから、いつも降りている駅以外は知らない。
寝過ごしたことにして、少し先まで行ってみようかな。
先生にもお母さんにも怒られるだろうけど、それでも。
「今日だけ……良いかな。」
目を閉じてうとうとしながら電車に揺られる。どれくらい経ったか。終点を告げるアナウンスが流れる。
……ほんとに来ちゃった。少しの罪悪感とそれをかき消すほどのわくわく。
車両にはほとんど人がいない。扉が開き、聞こえてきた音に急いで外に飛び出す。
波の音と潮風の匂い。
「海だ……!」
海に続いてるだなんて知らなかった。
海なんていつぶりだろう? 昔家族で行ったっきりだから……6年前?
駅を出て海辺に向かう。海水浴場になっていないからか、小さな海岸だからか真夏なのに誰もいない。
靴と靴下を脱いで、そっと海水に足を浸す。
「冷たっ! あはは、気持ち〜」
しばらく一人でそうして水遊びしてると、友達から電話がかかってきた。
『あ、かかった! どこにいるのさ、もうせんせーくるよ? 今日休み?』
「電車乗り過ごして終点まで来ちゃった!」
『嘘!? 間に合うの?』
「んーん、今日はもういいや。」
一言二言話して電話を切った。あとで、学校にも連絡しなきゃ。
波を待って膝下ぐらいまで脚を濡らして、綺麗な貝殻を探して、シーグラスも見つけた。
暫く遊んだら、体育用に持ってきていたタオルで足を拭いて帰路につく。電車、本数少なそうだけど帰れるかな。
いつもの路線の終点は、私の密かなお気に入りスポットになっていた。
#11『終点』
「終点」
ふと目を覚ますと、私は列車にいた。
周りには知らないひとがたくさんいる。
隣にいるのは家族、だろうか?
彼らは私を形づくり、教え、笑い、ともに眠る。
私が歩いて、動いて、話せるようになった時には友達もできた。
たくさんのひとびとはどこからか列車に乗り、どこかで降りて、いつのまにか入れ替わっている。
それでも私は気にしなかった。
だがある日、友達が知らない駅で列車を降りた。
「また会おう」そう言ったのに、二度と会えなかった。
その後、父が、母が降りていった。
寂しそうな目でこちらを見て、降りていった。
私も後を追おうとしたが、見えない壁に阻まれて動けない。
ひとりになってしまったある日。
私はひとりの少女に出会う。
酷く苦しみながら使命を果たそうとする彼女を、
私はなんとか助けたかった。
考えうる全てのことをした。
だがある日、彼女も列車を降りた。
その時やっと気づいた。
列車を降りたひとたちには、もう会えないことに。
彼らを取り戻せないことに。
だから私は、どんなことがあっても崩れない、そんな存在を欲した。
終わりの来ない、永遠の命の宿った存在を求めた。
もし彼らに何かがあっても互いに助け合えるように、そんな子どもをふたり生み出した。
とても幸せだった。
でもひとりはすぐに列車を降りてしまった。
心が虚になった。
だから私は残ったひとりをずっと見守った。
話を聞きながら、たくさん抱きしめた。
だが、私にも列車を降りる時が来てしまったようだ。
私にとっての終点は、どうやらここのようだ。
悲しそうな顔をして私を見送る君を、私は見つめることしかできなかった。
本当は君に終点なんてあってほしくはないが、もしその時が来てもいいように、準備をしておこうか。
でも、君のことだからきっと大丈夫だ。
そうだろう?……そうだったらいいな。
……ありがとう。ごめんね。
さようなら。
【終点】
僕は死んだ。旅行先での交通事故だ。修学旅行だったのに、僕が死んで誰もが嫌な思い出となるだろう。ごめんな。でも、僕だけが死んでよかった。僕以外の誰もがこの事故で死ななかったのだから。未練はある。親や親戚、友達とお別れもできていない。好きな人だっていた。告白もできていない。こんなバッドな終わり方は嫌だ。
周り一面白色の世界。何かあるわけでもない。「ここが天国か?」と誤解しそうな無の世界。誰もいない。
神「やぁ、佐々木海星くん。ごめんね。僕のせいで死なせちゃって。」
海星「え?あ、はい。どちら様でしょうか?」
神「あぁ、名乗り遅れた。私はこの世界を作った神だ。見ての通り、姿も神っぽくないか?」
海星「んー。なんかチャラい男みたいな格好ですね。」
なんとまぁそいつは現役ヤンキーが来ているようなガラの悪い服を着ていた。
神「な、なんだと…これでも地上世界で流行している服と聞いて着ているのに。」
海星「どこのどいつがそれを教えたのですか?」
神「私の優しい知り合いさ。この前も食べ物を…というか話ズレてないか?」
海星「いやいや、ずらしたのあんたですけど。」
神「あははは。すまんて。で話の途中なんだが…君を死なせたのは私のミスでね。君頃の世代は今の時期を楽しんでいるのに、それを壊してしまって申し
訳なくって。」
海星「じゃぁ、元の世界にまた生き返らせてくださいよ。」
神「それがだなぁ。できないんだよ。死んだのに生きた状態。矛盾が発生し、君が死の世界に行けなくなるんだ。君一人だけが、この白い世界に残るような感じだ。」
海星「じゃぁ、僕をどうするんですか?」
神「んー。転生してみるか?」
海星「転生?男?女?」
神「最初にそれ聞くのか…なんかやばいこと考えてないよな?」
海星「何もそんな変なこと考えてねぇよ。」
神「ま、男子か女子かはガチャ、二分の一だな。んで、転生してみるか?」
海星「まぁそうですね。元の世界に未練はありましたけど、来世は幸せに暮らしたいので、死の世界に行く前に一度別の違う世界に行ってみたいです。」
神「そうか。では、君を転生させる。せいぜい、良い人生を掴めよ。」
その言葉を最後に僕は意識を失った。
目が覚める。この天井は病院だろうか。母や父らしき人が僕を笑顔で見つめてくる。その次に、姉らしき人物が登場。あれ?どこかで見たような。
母「まぁ、この子大人しいわね。こっちを見ているわ。」
父「そうだな。産んでくれてありがとう。」
霊夢「ママ、この子だれ?」
母「あなたの弟よ。」
霊夢「弟?」
父「そうだ。霊夢には弟ができたんだ。優しくしろよ。」
霊夢「わーい。弟、弟。私に弟ができたわーい。」
十二年後。季節の流れは早かった。僕は中学生。姉は高校一年生になっていた。年が増えるに連れ、薄々気づいたことがあった。それは…「転生先が自分の好きな人の弟だった」ということだ。生まれたときから「なんか、顔似てるな。あの人の小さい頃みたいだ。」と思っていた。完全に築いてからはとんでもない。自分の姉を異性だと思うようになっていた。しかし、それは気づいてから少しの間だけだった。両親が仕事で他県に移動することとなった。そのせいか、僕と姉は家で二人生活を送るようになった。初めは好きな人と一緒に生活できるとウキウキしていた。だが、いざ二人暮らしをしてみると、姉は家事全般不得意だった。さらに、部屋も散らかしたまま。おまけに、すべての仕事を僕に押し付けるようなひどい姉だった。
元海星「姉さん。ぐーたらしてないで、仕事手伝ってくんね?」
霊夢「えー、やだよ。私家事できないし。めんどくさいし。」
元海星「でも、一人暮らしになったとき何もできないよ。」
霊夢「家から近い学校に行って、会社も近いところ選べば平気じゃん。」
元海星「僕がいなくなったらどうするねん。」
海星「大丈夫だって、あんたが大人になった頃はもう親は帰ってると思うから。」
こいつ、僕や親がいないと何もできないくせに…。好きだと思っていた自分が馬鹿だった。とりあえず、どうしよっかな~。仕返ししたいし、今日は友達の家に泊まってみるかな。そう言って僕はスマホを開いた。
〈この話に関連するお題が出た場合、続きを書きます〉
終点を考えたくはない
終点を知りたくはない
だけど終点は必ず来る
そして終点を受け入れる
終点は出発点でもある。
旅の終わりを惜しむように降車する人たち、
これから始まる長い旅への期待に胸を膨らませながら
発車を待つ人たち。
今日も走れ、たくさんの人と物語を乗せて。
一本の線とは多数の点が集まったもの
数学の先生が教えてくれたこと
僕は時折思い出しては考える
では、僕たちが目にしているものも
全て点の集まりではないか
始点があれば終点もある
では、僕が今感じている感情というものにも
終わりがあるのではないか
考えれば考えるほど
僕は一種の狂気に満ち溢れる
僕は答えを導き出せるのだろうか
「今の辛い生活に終わりが見えないと言うがどんなものにも必ず終わりは来る、電車だってたとえ時間がかかってもいつかは終点に着く!普通か急行かの違いなだけだ」
「環状線だったらどうするんだ?一生苦しみがぐるぐると回り続けるんだ、抜け出せるのは終点ではなく人生の終電の時だけだよ」
「そうかな?環状線と思って同じホームから乗ったら実はそれが大和路線、時間かけて1周したら急に終点に切り替わるかもしれないぜ?」
「それ、いいね」
「ちなみに俺は寝過ごした結果、日帰り奈良旅行をするハメになった」
「それも人生だな」
終点
人生の終点?
目的地としての終点?
出来事へのピリオド
辺境にある点
ただの点
終わりは見えて見えてない
終点って、多いように見えて実は特殊な条件下でないと成立しない。
バスや電車など公共交通機関に終点が設定されているが、乗客を降ろしてしばらく経つと、行き先を変更して戻っていく。
都会式パーキングの円盤のように、ベクトルが向きを真反対にするための所要時間のようである。
そうして終点が起点となって、また動き出す。
何事もなく電車を見届けると、終点って何なんだろう。
と思えてしまう。
夜間、営業が終わっても、それは休眠状態であり、時間が経てば再び動きだす。
物体は物体である限り、操作者の思った通りに動く。見えない糸に繋がれて、その通りの動き方をする。
数十年後。
経年劣化による車両の引退セレモニーがあり、その後こそ「終点」ということになるだろうが、それは電車の終点にほかならない。
車庫で解体され、部品レベルまで分解されて、再利用されたり大事に保管されたりなんかして、別の役目を与えられる。
終わりは、一つの区切りでしかない。
本当の終わりなんてもの、果たしてあるのだろうか?
始まりがあって終わりがある。
と、人間はそう思いたい。
終わりを見届けることができないから。
物事が無限に続くことに、心底人は理解できないから。
でも、実は、その中間辺りの、始まりと終わりの途上にいることのほうが多い。
途上であれば休眠状態もあるし、静止状態もある。
春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬……過去にもずっと続き、未来にもずっと続くと思う。
それを諸行無常と昔の人は捉えたのだ。
そういえば、ずっと続くものは、理解不能だ。
だから、歴史というものがある。
歴史は、始まりがある。
ビッグバンから始まって、地球ができて、地上ができて、自然があって、人間が住むようになった。
壮大で膨大なストーリーだが、ちょっと待ってほしい。
歴史が物語のように感じられるのは、どこか作為的な感がする。
紡げない糸は縫合されずに放置されるように、落葉した枯れ葉が土に煮溶けた夏はいくらでもあっただろう。
そう都合よく、人間がわかる通りの物語風になること自体、疑うべきなのだ。
校長先生の長台詞はつまらないと決めつけて、もはや眠ってしまうことがある。永遠と続く時間に、春夏秋冬というものさしで区切って断片化しようとする。
季節は四段階で繰り返されるから、人間は普遍に対し特別感を出そうとする。
ゲリラ豪雨。
熱射。猛暑酷暑。
暖冬。
落葉シーズン。
通勤電車。
桜咲く。散る。盛る。セミの音。
特別感が、終わりなく続くことはありえないから。
いつか終わりがあるから特別なのだ。
特別が終わって次の特別に気づき、もう始まっている特別に酔いしれ、終わって特別になる。
悠久たる普遍を細分化して、数多ある特別を配置した。特別は繰り返すから、終点があり、終わりがある。
人生に終点があって、そこで終わると事前にそう思い込みたいから。
本当は道半ばで終わると思う。
だって終着駅のホームすれすれに、電車が停まることはありえないじゃないか。危険だよ。
いつも一歩手前で停まり、そして、機械のベクトルは引き返す。
ここが真の終わりではないと知っているかのように。
僕は熱いホームで見送る。
ここが終点か。
僕は君の後ろをずっと追いかけてきた。
君を追い越したいと思うけれど、追い越したくない。
憧れは僕の歩みを進めてくれる。
けれど、1位にはなることができない。
ずっと憧れでいたいから。
君を最後まで憧れ続けていたかったから。
僕は今日、君を抜く。
これは終点である。
そして、線路を変えるだけ。
先頭に立ち、進み続ける。
さようなら、そしてありがとう。
僕は君の前に立つ。
終点は一つの道が終わるだけ。
僕の挑戦の道は続いていくんだ。
#5
#終点
「世界が壊れるってなんだろうね」
頭蓋の隙間からするりと落ちてきたような一言は、どこか遠くに逃げていた意識をあるべき場所へとすとんと落とした。
並んで見ているテレビの中、いつも淡々と話しているアナウンサーが、目頭を押さえながら緊迫した声で非現実的な出来事を読み上げる。
ある日突然世界に空いた穴はついに太平洋の大部分を飲み込み、もうあと一週間ほどで本州に到達する勢いだそうだ。
SNSでは恐怖と諦念の奔流があちらこちらで噴出し、神に救いを求める人、見たこともない穴の中に夢を見る人、手当たり次第に怒りをぶつける人で溢れかえっている。誰も彼もが日常から切り離されて宙ぶらりんになってしまった感情を持て余していた。
「明日からどうしようか」
「映画ならたくさんあるよ」
緊張感のない言葉に二人して吹き出す。
初めて世界に穴が空いた日。小さな小さなそれを皆が面白おかしく騒ぎ立てていて、その例に漏れずどこか非日常に浮かされていた自分たちが買い込んだものだ。
ラインナップにもそれが色濃く映し出されていて、世界滅亡系やら、酷評されていたものやら、いわゆるZ級映画やらでまともなものは数本しかない。
「もっとちゃんと選んどきゃよかった」
「ちゃんと選んだじゃん」
「どこがだ」
「止めないのが悪い」
隣の頭に軽くチョップを振り下ろせば、暴力反対と大袈裟に痛がる素振りをする。追撃すればそれを見切ったように躱し、パッケージにサメが描かれた映画を取り出すと再生機に入れた。
「電気が通ってるうちに全部見るから覚悟してね」
テレビの画面がニュースから切り替わる。
ちらりと見えたアナウンサーの頬には涙の筋ができていた。
二人でいるとまるで平穏な日々の中にいる感覚に陥る。だが一瞬の静寂がそこが既に崩れてしまった場所なのだと思い知らせてくる。
もう手が届かない日常は沈み、一週間だけの小さな非日常は進んでいく。
じっと画面を見つめる横顔に置いて行かれまいと、ふっと息を吐き出し、画面の中の世界へと一つ踏み出した。
今日も列車に揺られている。どこか揺籠のようで、残業疲れの俺にとって睡眠導入剤になるには十分すぎた。働いて、働いて、安定した老後を過ごすために。...ああ、寝てしまいそうだ。
明日もどうせ残業、明後日も残業。変わらぬ日々を繰り返すのみ。毎度鏡を見て、クマがこびりついた顔と睨めっこだ。
駅へ向かうために一歩を踏み出す。
はずだったが、なぜか足は正反対の方向へ。
ソファに飛び込み、だらしなくシャツのボタンを開ける。上司には仮病の連絡。耳が痛いが無視をする。そうして静かに目を閉じて...
目を覚ます。視界に入るには吊り革やホームドア。どうやら寝てしまっていたようだ。
丁度最寄駅だったため、急いで飛び降りる。なんだか幸せな夢を見た気がする。
まだ俺の人生は始まったばかりなのに、何故生き急ぐように動いていたのか。
明日は休もう。そしてたくさん寝て、出前でも取って、映画でも見よう。
俺の終点はまだまだ先なんだ。
2024/08/10 #終点
終点??乗り過ごして終点まで行った事あるーっていう人よくおるけど、私はないなあ。
「新たな出会いを」
「コートに襟を立てて一番寒い時間」
「荒波をのまれないように戦っている」
「泳ぎ回る」
「眺めていて、いつか、はっと気づく答えが出ることを願っている」
まとめられないので、それぞれ受け止めて下さい。
🪄🪄🪄
答えは出てた。その名が分からなかった。只々、そうだと気が付かなかっただけ。
その答えを、心の底から出したいと願っている。それが、どれくらいの力かは分からない。それが、私の人生だから。
また一人だな。楽し過ぎて泣笑。十分だ。
月曜日まで持っとくには重かったので。
終点84
また月曜日に
「お仕事頑張って」
寂しい
暗い窓にもたれかかって
ひとりぼっち
終点は今日、此処にした。
僕がいま決めた。
思い立ったが吉日、と言うし。
それに、今日ほどぴったりな日は今後ないかもしれないのだから!
じんわり汗が出るくらいの、丁度いい暑さ。
うるさいくらいの蝉の声。今はそれが心地いい。
見晴らしもいいし、爽やかな風も頬を撫でてくれる。
何より良いのが空が私の好きな色の青だってこと。
「ふぅー……。」
僕の生まれ育った街を見下ろす。
満足げな溜息。
これは誰のものでもなく僕のものだ。
24年間、耐えてきた僕の。
「んふ……、」
思わず笑みが零れる。
さっきコンビニで買った、家で食べようと思っていたパンを取り出してひとくちかじる。
1番好きなパンを買っておいてよかった。
やっぱり砂糖がたくさんかかったこれをじゃりじゃり食べているときが最高に幸せだ。
こんなにお腹の底まで息を吸えたのは久しぶりな気がする
空気が美味しい……気がした。
ゆっくりと砂糖を味わいながら、少し遠くの街を眺める。
街を見下ろしても思い出すものは何も無い。
いや……それは嘘だけれど、
でも別に思い出したくもないから、そう言い聞かせる。
24年間、頑張った。
どこで間違えたのか分からないけど、頑張ってきたことだけは事実だ。
少なくとも、自分にとっては事実。
誰になんと言われようが。
……もし自分が間違えたところに戻れて良い方へやり直せるんだとしたら、僕は果たして過去に戻るだろうか?
「…………。」
落ちてしまった気分を押し込むようにして最後のパンの欠片を口に入れる。
もう1度味わい直そう。
じゃりじゃり美味しい私の好きなパン。
うるさいくらいの蝉の声。
心地いい風。
そろそろ、行こうか。
「まだ登るのー!?」
「もうちょっとだってば、めっちゃ景色いいから」
背後から男と女の声。
思わず振り向く。
疲れたような足音が聞こえる。
「ほら着いた。めっちゃ景色、いいから……」
「つかれたぁあ、こんな歩くなら言っといて……」
「…………。」
3人とも目が合って、微妙な空気が流れる。
小声になる男女2人。
カップルらしい、手を繋いでいる。
さて、僕はそろそろ帰ろうかな。
ここは僕の終点の候補地として、覚えておこう。
でも今日じゃなかったな。
今日っぽいと思ったのは、きっと僕の勘違いだったんだろうから。
カップルに軽くお辞儀をして、自転車に跨る。
早く家に帰ろう。
END
「終点」
終点
次は〜終点〜。次元の扉〜、次元の扉〜
「この電車を降りたら、大きな扉があるのでそこに向かってください。そうすればあなたは人間の世界に帰れますよ」
「大丈夫、何かあったら私が飛んでいきますよ。」
不思議な世界に迷い込んだ私を、終点まで送り届けてくれた彼は今まで見た誰よりも穏やかな笑みを浮かべていた。
いつまで走ればいいのだろう
間違ってないと思っても
周りは許してくれない
温かい環境に包まれて
眠ってしまいたい
終点は
どこにあるの
いつまでもゆらゆらと揺られていたかった
車窓を流れていく景色に見とれていたかった
乗降する人々の姿をぼんやり眺めていたかった
少し離れたところに座る君の姿を時々見つめていたかった
そんな何気ない、かけがえのない時間は永遠には続かない
あっという間に過ぎ去っていった
次が終点だ、と車内に流れるアナウンスが知らせる
荷物をまとめだす人
席から立ち上がりつり革に手をかける人
あぁ、みんなバラバラになっていく
なんだか切なくなった
でも私もここを出なくてはいけない
膝の上においていたリュックを背負い
ゆっくり席を立ち目の前のつり革に手をかけた
さらさらと流れていく景色がだんだんゆっくりになっていく
現実にぐっと引き戻される、大嫌いな感覚
逃げたくなってちらりと後ろを見やる
スマホに夢中な君の姿
けれどその目には何も映っていないようだった
すごく疲れたようなその無表情の向こう側で
君はどんなことを考えているんだろう
ゆっくりとブレーキがかかり、やがて、止まった
警告音とともにドアが開き、ぞろぞろとみんな駅のホームへ出ていく
私もゆっくり出口へ歩みを進める
眠たげな目を擦りながら立ち上がり
周りに流されるように歩き出す君
その後をさり気なくついて行ってみる
ほんのり、甘い香りがした