毛玉みけ

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終点は今日、此処にした。

僕がいま決めた。

思い立ったが吉日、と言うし。



それに、今日ほどぴったりな日は今後ないかもしれないのだから!



じんわり汗が出るくらいの、丁度いい暑さ。

うるさいくらいの蝉の声。今はそれが心地いい。

見晴らしもいいし、爽やかな風も頬を撫でてくれる。

何より良いのが空が私の好きな色の青だってこと。


「ふぅー……。」


僕の生まれ育った街を見下ろす。

満足げな溜息。

これは誰のものでもなく僕のものだ。

24年間、耐えてきた僕の。


「んふ……、」


思わず笑みが零れる。

さっきコンビニで買った、家で食べようと思っていたパンを取り出してひとくちかじる。

1番好きなパンを買っておいてよかった。

やっぱり砂糖がたくさんかかったこれをじゃりじゃり食べているときが最高に幸せだ。

こんなにお腹の底まで息を吸えたのは久しぶりな気がする

空気が美味しい……気がした。



ゆっくりと砂糖を味わいながら、少し遠くの街を眺める。



街を見下ろしても思い出すものは何も無い。

いや……それは嘘だけれど、
でも別に思い出したくもないから、そう言い聞かせる。


24年間、頑張った。

どこで間違えたのか分からないけど、頑張ってきたことだけは事実だ。

少なくとも、自分にとっては事実。
誰になんと言われようが。

……もし自分が間違えたところに戻れて良い方へやり直せるんだとしたら、僕は果たして過去に戻るだろうか?


「…………。」


落ちてしまった気分を押し込むようにして最後のパンの欠片を口に入れる。

もう1度味わい直そう。

じゃりじゃり美味しい私の好きなパン。

うるさいくらいの蝉の声。

心地いい風。



そろそろ、行こうか。



「まだ登るのー!?」

「もうちょっとだってば、めっちゃ景色いいから」


背後から男と女の声。
思わず振り向く。

疲れたような足音が聞こえる。

「ほら着いた。めっちゃ景色、いいから……」

「つかれたぁあ、こんな歩くなら言っといて……」

「…………。」

3人とも目が合って、微妙な空気が流れる。

小声になる男女2人。

カップルらしい、手を繋いでいる。


さて、僕はそろそろ帰ろうかな。

ここは僕の終点の候補地として、覚えておこう。

でも今日じゃなかったな。

今日っぽいと思ったのは、きっと僕の勘違いだったんだろうから。

カップルに軽くお辞儀をして、自転車に跨る。

早く家に帰ろう。






END
「終点」



8/11/2024, 8:56:00 AM