狼藉 楓悟

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 朝、通勤ラッシュになる一本前の電車に乗り込む。
 それでもそこそこ人はいるけれど、今日はどうにか座ることができた。
 ここから6つ先の駅で降りて、快速に乗り換えて4つ先が私の通う学校の最寄り駅。
 ……行きたく、無いなぁ。
 別に虐められてるとか、体調が悪いとか、嫌いな科目があるとか、そんなんじゃない。友達と話すのは楽しいし、めちゃくちゃ元気出し、得意な体育があるから楽しみまである。でも、なんだか、そーいう気分なんだ。
 この電車の終点には何があるんだろう。通学以外で使ったことがないから、いつも降りている駅以外は知らない。
 寝過ごしたことにして、少し先まで行ってみようかな。
 先生にもお母さんにも怒られるだろうけど、それでも。

「今日だけ……良いかな。」


 目を閉じてうとうとしながら電車に揺られる。どれくらい経ったか。終点を告げるアナウンスが流れる。
 ……ほんとに来ちゃった。少しの罪悪感とそれをかき消すほどのわくわく。
 車両にはほとんど人がいない。扉が開き、聞こえてきた音に急いで外に飛び出す。
 波の音と潮風の匂い。

「海だ……!」

 海に続いてるだなんて知らなかった。
 海なんていつぶりだろう? 昔家族で行ったっきりだから……6年前?
 駅を出て海辺に向かう。海水浴場になっていないからか、小さな海岸だからか真夏なのに誰もいない。
 靴と靴下を脱いで、そっと海水に足を浸す。

「冷たっ! あはは、気持ち〜」

 しばらく一人でそうして水遊びしてると、友達から電話がかかってきた。

『あ、かかった! どこにいるのさ、もうせんせーくるよ? 今日休み?』
「電車乗り過ごして終点まで来ちゃった!」
『嘘!? 間に合うの?』
「んーん、今日はもういいや。」

 一言二言話して電話を切った。あとで、学校にも連絡しなきゃ。
 波を待って膝下ぐらいまで脚を濡らして、綺麗な貝殻を探して、シーグラスも見つけた。
 暫く遊んだら、体育用に持ってきていたタオルで足を拭いて帰路につく。電車、本数少なそうだけど帰れるかな。

 いつもの路線の終点は、私の密かなお気に入りスポットになっていた。


#11『終点』

8/11/2024, 4:09:30 PM