小説だのの描写で葬式や誰かが亡くなるシーンがあると、たいてい雨だ。
太陽が照りつけた眩い日差しの中で葬式ってのはなんだか、中々見かけない。暗い雰囲気が丁度いいんだろう。読者にもどんよりとした感じが伝わりやすい。
逆に結婚式だのは大抵晴れだ。教会の外を歩くシーンなんかを入れたりするには雨は邪魔。柔らかい日差しの中で、二人幸せそうに笑う。大抵そんなもん。
だが、実際は天候はこっちの都合なんて考えちゃくれない。今日は親友の晴れ舞台だってのに外は大雨。
足元の悪い中〜、なんて台詞から新郎新婦の挨拶が始まる。
BGMがかかれば雨音なんざ言うほど目立たないもんで、皆天気なんか忘れて笑顔で祝福してる。
今日は、親友の結婚式。高校時代からの付き合いで、もう知り合ってから十年も経つ親友の。
そして、俺の好きだったやつを親友に奪われた日だ。「その結婚ちょっと待った!」なんてやるほど馬鹿じゃない。二人ともムカつくほど幸せそうだ。
新郎の友人代表でスピーチをする。当たり障りのない思い出話と、おめでとうと祝いの言葉を。俺が彼女を好きだったことを、あいつは知らない。だから別に、怒りもなにもない。ただ、俺はつくづく恋愛運がねぇなぁと。
式が終わり二次会があるらしい。誘われたから行く。
外は相変わらずの大雨だ。
……俺の失恋を嘆いてくれてんのかな、なんて。
そんなこと言うような柄じゃないし、絶対イタイし自分でもうわぁと思ってしまったから、二次会でたらふく酒を飲んで忘れてしまうことにしよう。
#14『空が泣く』
朝。ベッドに寝転んだままスマホを手に取り、今日もいつものように君に『おはよう』の一言を某メッセージアプリで送る。飯食って支度して、バイトに向かう。
昼、何かしら君に共有したいものがあれば写真を送る。日向ぼっこをする猫とか、新作の映画のポスターとか、君の好きそうなものを。
夜。今日も、昨日と同じ様にに君に『おやすみ』と送って1日を終える。
何日も、何週間も、何ヶ月も。僕は君に送り続けている。君のスマホは棚の上に置いた君の写真の前に。画面は酷く割れ、もう二度と電源はつかない。
僕をかばって車に轢かれて死んだ君から、返信がないことなんか分かってる。始めは四十九日がすぎれば終わりにしようと思っていたのに、すっかり習慣になってしまった。
たとえ無意味なことだとしても、以前君が僕に送ってくれていたように。君を、忘れてしまわないためにも。
今日もいつものように、君へのLINEから1日が始まる。
『おはよう。今日は新作の映画を見に行ってくるよ。あまり僕の好きなジャンルの映画ではないけど、君があれだけおすすめしていたからね。』
送信ボタンを押し、スマホを机に置こうとしたその時。静かな部屋に通知音が鳴り響いた。咄嗟に画面を見る。
届いていたのは公式アカウントからのお知らせ。
……うん、当たり前だ。分かってただろう? なのに、何、馬鹿な期待を…………
もう二度と、私の言葉は君へ届くことはないし、君からのLINEは、絶対に、届かないんだ。
#13『君からのLINE』
今日もまた、舞台に上がる。
観客の歓声を浴びながら眩いスポットライトに照らされ、満員の客席の前に1人、姿を表す。
「Ladies and Gentlemen! ようこそ、我がサーカスへ! 今宵は心ゆくまで、どうぞ、お楽しみください!」
言い終えれば態とらしく大きく礼をし、始めの演目を紹介する。
どの演目も歓声はやまない。老若男女問わず皆が釘付けになり、笑顔で。
この空間が、この時間が、私にとっての生きがいだ。
この命の尽きるまで、団長というこの特等席を譲る気はない。
#12『命が燃え尽きるまで』
朝、通勤ラッシュになる一本前の電車に乗り込む。
それでもそこそこ人はいるけれど、今日はどうにか座ることができた。
ここから6つ先の駅で降りて、快速に乗り換えて4つ先が私の通う学校の最寄り駅。
……行きたく、無いなぁ。
別に虐められてるとか、体調が悪いとか、嫌いな科目があるとか、そんなんじゃない。友達と話すのは楽しいし、めちゃくちゃ元気出し、得意な体育があるから楽しみまである。でも、なんだか、そーいう気分なんだ。
この電車の終点には何があるんだろう。通学以外で使ったことがないから、いつも降りている駅以外は知らない。
寝過ごしたことにして、少し先まで行ってみようかな。
先生にもお母さんにも怒られるだろうけど、それでも。
「今日だけ……良いかな。」
目を閉じてうとうとしながら電車に揺られる。どれくらい経ったか。終点を告げるアナウンスが流れる。
……ほんとに来ちゃった。少しの罪悪感とそれをかき消すほどのわくわく。
車両にはほとんど人がいない。扉が開き、聞こえてきた音に急いで外に飛び出す。
波の音と潮風の匂い。
「海だ……!」
海に続いてるだなんて知らなかった。
海なんていつぶりだろう? 昔家族で行ったっきりだから……6年前?
駅を出て海辺に向かう。海水浴場になっていないからか、小さな海岸だからか真夏なのに誰もいない。
靴と靴下を脱いで、そっと海水に足を浸す。
「冷たっ! あはは、気持ち〜」
しばらく一人でそうして水遊びしてると、友達から電話がかかってきた。
『あ、かかった! どこにいるのさ、もうせんせーくるよ? 今日休み?』
「電車乗り過ごして終点まで来ちゃった!」
『嘘!? 間に合うの?』
「んーん、今日はもういいや。」
一言二言話して電話を切った。あとで、学校にも連絡しなきゃ。
波を待って膝下ぐらいまで脚を濡らして、綺麗な貝殻を探して、シーグラスも見つけた。
暫く遊んだら、体育用に持ってきていたタオルで足を拭いて帰路につく。電車、本数少なそうだけど帰れるかな。
いつもの路線の終点は、私の密かなお気に入りスポットになっていた。
#11『終点』
暖かい日差し。明るく照らされる街の中を大勢の人間が歩き回る。会社に学校、買い物などなど……。
色んな方向、色んな場所に、わらわらと流れていく。
朝は騒がしい。明るくなると街が賑わう。
昼になると少し減る。嗚呼、休日はその限りじゃないけど。逆に一番騒がしい時間帯になる。
日が沈みだすとまた人が増える。一日を終えて家に帰る疲れ切った大人がたくさん。
そして、夜。
太陽が完全に沈み、人もまばらになる深夜。
静かな街をゆっくり歩く。これからが俺の活動時間。
ネオン街へ足を運べば客引き酔っ払い不良少年少女で賑わっている。治安は最悪。でも仕方がない。俺は太陽の下を歩くことはできないから。
「そこの綺麗なおねーさん。この後ご予定は? 特に無いなら、どう?」
誰でもいいわけじゃない。多少酒が入ってねぇとついてこねぇけど、泥酔してんのは質が劣る。なるべく若いに越したことはない。健康的なのが一番だ。
何人か適当に声をかければ日に一人は必ず釣れる。
手近なホテルに連れ込んで、暴れたり逃げたりしないよう目隠しと手を拘束。
嫌がるやつは適当にあしらって、首元開けさせる。
「んじゃ、イタダキマス」
終われば拘束を解いて、だいたい意識失ってるからホテル代は払っといてそのままサヨナラ。
意識があって、質問してきたら答えてやる。大体聞いてくることはみんな一緒。
「なにをしたの」と「どうして」のふたつだ。答えは簡単。
「俺が吸血鬼だから、アンタの血を飲んだ。」
正直に吸わせてくれなんて言ってついてくる馬鹿はいない。サキュバスじゃないんで体に興味はない。だから、食事が済めば後はどうでもいい。
3日に一度ほど。見つけて誘ってイタダキマス。
面倒だし、飲まなくていいなら俺だってこんなことはしない。
でも、そういうわけにもいかないから、目が痛くなるようなネオンの中を今日も行く。
陽の光なんて浴びれない。その暖かさも俺は知らない。
吸血鬼に太陽─そんなもん─は必要ない。
#10『太陽』