夜の9時。彼が仕事が終わり家に帰る時間。
そして、画面越しに彼に会える時間。
お互いに仕事が忙しいこと、家が遠いこともありなかなか会えない。いわゆる、遠距離恋愛。
少しさみしいけれど、毎日こうして顔が見れるから今はこれで十分。浮気とか、ちょっと不安もあるけど、大丈夫。声が聞けて、顔が見れるから。
今日も、疲れた顔した君が帰ってきた。鞄を定位置に置き、ネクタイを緩めソファに沈み込む。
「おかえりなさい。」
『は〜……疲れた……』
「ふふっ、お疲れ様。今日は夕飯どうするの?」
『飯……冷蔵庫なんかあったっけな。』
「ちゃんと食べなきゃだめだぞ〜。」
のろのろと立ち上がりキッチンへ向かう。冷凍食品を取り出してレンジへ。一度ソファへ戻ってくるとテレビを付けた。やっていたのは20代の女性がストーカーに殺害されたというニュース。
「怖いなぁ。私も戸締まり気をつけなきゃ。」
『ストーカーか……』
「え、なに? つけられてるとかないよね?! 帰り遅いんだし、気をつけてよ〜?」
ソファから立ち上がった彼が、こちらに真っすぐ歩いてくる。画面が揺れ、彼の顔がアップで映る。
『……俺、こんな小物買ったっけ。』
「……ふふっ、あーあ。見つかっちゃった。」
彼は、ミニチュアを集めて棚に飾っている。色々な種類があって、数も多いから1つぐらい増えても平気だと思ったけれど、想定より早く見つかっちゃった。
お部屋に遊びに行って、バレないように、部屋がよく映るように飾るの結構大変だったのに。
画面に映る彼の顔を撫でる。仕方ない。また仕掛けに行かなくちゃ。そうだ。今度は仕事の鞄にもつけておこうかな。映像はともかく、ずっと彼の声が聞けるように。
早く会いたい。でも、まだ直接会うのは恥ずかしいから。好きなことも嫌いなものも、好みのタイプも全部知ってから。
君に愛してもらえる私になってから、会いに行くね。
大丈夫。それまでずっと、君のこと見てるから。たとえどこにいたって、ずっと一緒だよ。
#26『どんなに離れていても』
4/27/2025, 4:41:18 AM