いつまでもゆらゆらと揺られていたかった
車窓を流れていく景色に見とれていたかった
乗降する人々の姿をぼんやり眺めていたかった
少し離れたところに座る君の姿を時々見つめていたかった
そんな何気ない、かけがえのない時間は永遠には続かない
あっという間に過ぎ去っていった
次が終点だ、と車内に流れるアナウンスが知らせる
荷物をまとめだす人
席から立ち上がりつり革に手をかける人
あぁ、みんなバラバラになっていく
なんだか切なくなった
でも私もここを出なくてはいけない
膝の上においていたリュックを背負い
ゆっくり席を立ち目の前のつり革に手をかけた
さらさらと流れていく景色がだんだんゆっくりになっていく
現実にぐっと引き戻される、大嫌いな感覚
逃げたくなってちらりと後ろを見やる
スマホに夢中な君の姿
けれどその目には何も映っていないようだった
すごく疲れたようなその無表情の向こう側で
君はどんなことを考えているんだろう
ゆっくりとブレーキがかかり、やがて、止まった
警告音とともにドアが開き、ぞろぞろとみんな駅のホームへ出ていく
私もゆっくり出口へ歩みを進める
眠たげな目を擦りながら立ち上がり
周りに流されるように歩き出す君
その後をさり気なくついて行ってみる
ほんのり、甘い香りがした
8/11/2024, 8:32:32 AM