麦わら帽子をかぶるのなら、ひまわり畑に行きたい
一緒に行くのは、もちろん君がいい
赤いリボンのついた麦わら帽子がいいかな
どこかで見つけた、憧れの麦わら帽子
合わせるお洋服は黄色のワンピースがいいと思うんだ
君の好みかどうかはわからないけど
気に入ってくれたら、いいな…なんて
いつまでもゆらゆらと揺られていたかった
車窓を流れていく景色に見とれていたかった
乗降する人々の姿をぼんやり眺めていたかった
少し離れたところに座る君の姿を時々見つめていたかった
そんな何気ない、かけがえのない時間は永遠には続かない
あっという間に過ぎ去っていった
次が終点だ、と車内に流れるアナウンスが知らせる
荷物をまとめだす人
席から立ち上がりつり革に手をかける人
あぁ、みんなバラバラになっていく
なんだか切なくなった
でも私もここを出なくてはいけない
膝の上においていたリュックを背負い
ゆっくり席を立ち目の前のつり革に手をかけた
さらさらと流れていく景色がだんだんゆっくりになっていく
現実にぐっと引き戻される、大嫌いな感覚
逃げたくなってちらりと後ろを見やる
スマホに夢中な君の姿
けれどその目には何も映っていないようだった
すごく疲れたようなその無表情の向こう側で
君はどんなことを考えているんだろう
ゆっくりとブレーキがかかり、やがて、止まった
警告音とともにドアが開き、ぞろぞろとみんな駅のホームへ出ていく
私もゆっくり出口へ歩みを進める
眠たげな目を擦りながら立ち上がり
周りに流されるように歩き出す君
その後をさり気なくついて行ってみる
ほんのり、甘い香りがした
君の左の薬指と
私の左の薬指
繋ぐものが赤い糸でありますように
あまり綺麗とは言えない自分の左手を眺めて、そんなことを考えた
ハンドクリームとか、ネイルオイルとか
少し自分の手に気を遣ってみようか、なんて
何もしなかった日を積み上げていく
毎日を作業的に過ごしていく
日常を消費していく
何者にもなれなかった私が今日もまた増えていく
そこら中に転がっている私のカタチをした何かがまた増えていく
触れればサラサラと砂のように崩れていきそうで
光の宿らない瞳に映る自分が恐ろしくて
私はそれから少し離れたところに縮こまって
いつまでもそれを見つめている
ただ、ただそれを見つめ続けている
いつまで、続くのだろうか
終わりの見えない日常が
私に終わりのない恐怖だけを与える
そうしてまたもう一つ、私が増えた
考えても答えのない未来を考える
自分に都合のいい幸せを思い描く
その未来には君が隣にいると信じてる
あまりにも都合が良すぎる未来だが