『病室』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
入学して丁度1ヶ月の体育の授業中に倒れた
原因は、貧血とストレスという至ってシンプルなものだ
すぐ治るものだと思い保健室で寝ることにした
保健室には先客がいて、寝ていたから身長はわからないが
細身の男子が寝ていた
使えるベッドが一つしかないから今日は帰ることにした
家に帰ってすぐのことだ
学校から電話が来て病院に行くことになった
話の内容はわからないからとりあえず母と車で病院へ向かった
まさかの入院と言うことになった
色んな手続きをして病室へ向かっている途中、
見覚えのある後ろ姿が見えた気がした
荷物をなおしてベッドで外を眺めていたら隣のベッドの人が
帰ってきた
私は制服のままだったからか隣の人が話しかけてきた
「〇〇高校の子?」
「なんでわかるんですか」
「いやいや、ここら辺の高校でしょ」
「確かにそうですけど」
「それに、俺も同じ高校だし」
そう言われて、ばっと隣を見た
まさかの保健室の男子だった
『え、なんでいるんだよ、てか、急に話しかけないでくれ』
そう思いながら、適当に話を流した
その日から毎日話すようになった
名前は遥兎で、3年らしい
話し始めてから毎日が楽しく感じた
歳の差はあるが相談をよくするようになった
遥兎の前では泣くのも恥ずかしいと思わなかった
退院したくないと思うほどに、
入院してから3ヶ月ほど経った頃に、遥兎に告白された
私も好きだし、告白されて嬉しかった
でも、もし自分の体のことが悪化したらって考えたらOKするか
迷ってしまう
それに、いつもみたいに話しかけてくれないかもしれないと思
うと少し複雑な気持ちになった
告白の返事は、NOを選んだ
退院して少しした頃、私より1週間くらい早く退院した遥兎に
学校で会った
それも、保健室でだ
気まづすぎるが遥兎は話しかけてきた
「返事ちゃんと考え直してくれたりした?」
確かにそう言われた気がする
「考えたよ、でも、」
「あの日の告白は忘れてくれていいよ」
「…え?」
私はあの日の告白はとても嬉しかったし、OKしようとしていた
忘れられるはずない
「遥兎待って!わたしちゃんと考え直した!私は遥兎が話しか
けてくれた時から遥兎のことが気になってた!今OKしても許し
てくれる?」
少し怖かった、泣きそうだった
どんな返しが来るのか聞きたくもなかった
「いいの?ほんとに?後悔しない?」
まさかこんな返しが来るとは思っていなくて泣いてしまった
後から聞いた話だが、あそこの病室は必ず男女隣になったら
付き合うらしい
だからこう言われている。
【運命の病室】と、
昔一度、検査で入院したことがある。
4人部屋だったけど、挨拶程度にしか話さなかったから一人音楽を聴いたり携帯を見たりしていた。
夜中になっても一向に眠れない。一日ベッドにいるだけだから眠くならない。辺りは静寂な闇。誰の寝息も聞こえない。灯りを消していないのはたぶんわたしだけ。ベッドを囲むカーテンに映る自分の影をじっと見つめた。手で影絵を作ってみたりした。
何故か涙が出た。心細くなったのか、帰りたくなったのか。ただ、そこでは静寂と影がわたしを独りにしていた。
太陽の光が窓から差し込み
窓から時折風が吹いてくる
気持ちいい朝を迎え
星が輝く夜を迎え
ここで過ごす1日はとても早い
動かない足 弱々しく動く腕
ずっと想像していた
いつか僕の足や腕が動くようになって
ずっと見上げていたここを歩いて日差しを浴びたい
今願ってももう遅いだろう
ここの名前、何か忘れてしまった
意識がもう遠い
ここ、病室で僕の体は動かなくなった
嗚呼、最期に一度だけでも病室を歩いてみたかった。
入院なんて人生デ一度もしたことがないので病室のことなんて全く分からないけど、個人的にはかなり質素でつまらなさそうだと思う。しかも、病院にいるのだから、何かしらの病気を抱えている。ネガティブなイメージが大半だ。
でも、考え方を変えると、病室は日常から少し離れた空間で、自由な時間が増えるのではないか。好きなことをしたり、寝たりと自分のやりたいことができる。病気という辛い状況を少しでも和らげてくれるのが病室なのではないかと僕は思う。
「病室」
赤ちゃんを抱いて病室から巣立っていくママたちに。
お産を乗り越えた称賛と精一杯の愛情を注ぎたい。
病室
ゆらゆらと真っ白なハネが舞う
目を固く閉じ、祈るように手を組む人々をちらりと見る
ベッドに横たわるこの人がそんなに大切なのだろうか
ぼくは光をほとんど宿さない眼をじっと見つめ、近づいた
細い首を、強い力で握りしめる
それと同時にピーという音が病室に鳴り響く
耳を貫くような悲鳴を聴きながら振り返らず部屋を出る
毎日毎日これの繰り返しだ
ブラック企業と呼ばれる人間の会社よりよっぽどブラックではなかろうかとぼくは思う
「病室」
あまり病室に行く機会がないからな…。
数少ない経験から思いつくのは、緊張かな。
あの独特の雰囲気のせいか行くと、緊張してしまう。
あとは滅多に病室というのに行かないから、
どんな風になっているのか観察してしまう。
TV、棚、をどうやって使うのか?
洗面所、風呂はどうなってるのか?
コインランドリーがあってビックリした覚えも。
談話室みたいなところは人がいっぱいいたな、とか。
病室には病室の世界があるんだな、と気付かされた。
『病室』
怪我で手術をした友人の麻理香を見舞うため、川沿いにある総合病院を訪れた。受付で、骸骨のように痩せた係の女性に言われるまま手続きをして、病棟に入る。静かな病棟からは時々、見舞客と思われる女性や子供の声が聞こえていた。しかし、やはり病人がいる場所なので、全体的に静寂の中に沈んでいる。
病室のドアをノックして中に入った。クリーム色の壁紙が張られた部屋の中、四つ並ぶベッドの最も入口に近い一つに、麻理香がいた。上体を起こしてはいるが、足には包帯が幾重にも巻かれていて痛々しい。
「薫。来てくれたんだね」
私の姿を認め、麻理香は弱々しく微笑んだ。私は、持ってきたリンゴと白桃を手提げから出し、麻理香の前に置いた。
「これ、近くの果物屋であまりにも美味しそうだったから買ってきたの。よかったら食べてね」
肉の加工工場に勤めている麻理香は、実は肉よりも果物の方が好きなのだ。私もそれを知っていたので、お見舞いには果物を持っていこうと決めていた。
案の定、麻理香は目を輝かせた。
「凄い。薫は私のことを本当にわかってくれてるね」
「それはそうだよ。何年友達付き合いしてると思ってるの?」
私の問いには答えず、麻理香はにっこりと笑って白桃にかぶりついた。先ほどまでの弱々しい姿が嘘のようだ。
「美味しい。甘味が濃厚で、とろけそうな感じ。病院食って味が薄いから、こういうものが食べたくて仕方がなかったんだ」
無邪気な笑顔で言い、さらにかぶりつく。こういう現金な所が麻理香の長所だと、私は思う。
カーテンで区切られた隣のベッドから、咳払いが聞こえた。気のせいか、途端に病室の壁の色が少し青褪めたような気がした。
「やばい。隣の人、また怒ってる」
麻理香が慌てて口の中のものを飲み込み、ちらりと奥にあるベッドを窺った。そして声を潜める。
「隣の人、死神なんだって。あまり怒らせるとあの世に連れてくよって、毎日脅されてるんだ」
そういう麻理香は、魔女の資格を持っている。
この世界に住む一部の人間が魔力を持つようになったのは、百年以上前だと言われている。麻理香は、いわゆる善性の魔女で、食べ物を美味しく加工する魔術が得意だった。しかし、魔力を持つ人間全てが善性とは限らない。時には、死神と呼ばれるような恐ろしい力を有する者もいる。
ここは、魔力を持つ人間専用の病院だ。見舞客には私も含め、力を持たない者もいるけれど、病院スタッフや患者たちは皆が魔力を持っている。
声のトーンを落としたまま、麻理香が言った。
「おととい、隣の人と斜め前の人が喧嘩した時もひどかったんだよ。斜め前の人が水の魔術を使って、この部屋を水浸しにしちゃってね。隣の人も怒って、あの世に送る呪文を唱えようとするし。結局は看護師さんが、雷を呼ぶ魔術を使って二人を黙らせて終わり。怖い怖い。みんながもっといいことに魔力を使えたらいいのにね」
同感だ。私は苦笑いして頷いた。
それにしても、魔術を使う者同士で喧嘩とは。ここでの入院生活も何かと大変そうだ。
元気に帰って来てね❣️
死んだらまたどこかで絶対に、会おう🥺
病室
二年前の中学三年の夏、私は病室のベッドの上にいた。
二年前のあの夏、私は「周期性嘔吐症」という病気で入院した。周期性嘔吐症は嘔気や嘔吐が何時間も持続する病気でいまのところ、原因は分かっていない。そしていつ起きるかわからないというのがこの病気の特徴でもある。
私は二年前の夏の入院をしてから定期的に同じ病で度々入院している。そして退院するたびに学校に行くのが怖くなる。というのも高校一年の冬に二回目の入院をして、しばらく学校を休んだあと久しぶりに学校に行ったら、学校の先生がどうだった?楽しかった?ってニヤニヤ笑いなから私にそう聞いてきた。その言葉は私の心に大きな傷を作った。その言葉を聴いた時に私は、この先生が何を言っているのか分からなかった。人の気持ちを踏みにじる浅はかな言葉に私はかなり傷ついた。入院が楽しいわけ無いだろ!大変で苦しい事ばかりだよ!とそう叫びたかったけれどショックで反論する事もできなかった。
先生にそう言われてから私は学校に行くのが怖くなってしまった。その高校の先生は高校が系列している学童の先生でもある。しかしそんな事を言う人が学童と高校の先生だなんて信じられなかった。高校でも学童でも部屋でなるべく一人でいるようにした。先生にこっちにおいでと言われても一人で居たいと言って一人で居るようにした。またあんな事言われるんじゃないかとビクビクしながら通う日々だった。
今私は高校二年生。先生の言動に傷つけられたりもしたけれど残りの一年を充実した一年にできると良いな。
毎日通ったその部屋は、アルコールの匂いで包まれていた。数歩歩けば外を見る君。”どこ”に行ってしまったんだろう。かくれんぼは小学校で卒業したよ。
病室
病室か
なんの思いもないな
でも曾祖母?
おばあちゃんのお母さんが入院してて
もう亡くなったけど
見舞いに行ってて楽しかったな
コロナになってからは行けなくなったけど
いつも笑顔で迎え入れてくれて
毎回すごく嬉しかった
葬式でなんか昔の事忘れて
全く泣けなかったけど
いい思い出だった気がする
その頃は多分大好きだったんだろうな
会えるならもう1回会いたいな
「もっと前行けー!」
「パス出せパス!」
「ちゃんとボール追え!」
窓の外から聞こえる青春の声。
そこで走り続けている、私の恋人。
先生から特別に許可をいただいてグラウンドの見える病室へと移して貰ってから、早くも半年が経とうとしている。
日に日に腕に繋がる針の数は増えていく。
『シュート打て!』
その優しくも厳しい声は遠のいて、華やかな景色もぼやけていく。
ああ、私の愛しい人。
どうか私の分まで走り続けてくれますように――。
清潔そうな白い部屋
薬品の匂い
それでも不潔に感じられるのは、
病人特有の匂いのせいだろうか
塩分のカットされた、
とろみ剤の混ざった病院食の匂い
おじいちゃんに会いに来たであろう孫の笑い声と、
しーっと口に指を当てる母親
チカチカと光る音の聞こえないテレビ
カーテンの隙間から見えるベッド
スライドドアの静かな開閉音
廊下の向こうからは、
エレベーターの呼出音
あ、僕の来客の足音がする
『病室』
病室
基本的に虚無である。本当に暇。
電波を発する類の機器はダメだし、起き上がれないと本すら読めない。隣人との会話もなし。コロナ禍では面会も謝絶だ。本当に辛かった…。
題 病室
ここから見る景色はいつも一緒
木が茂っている。
病院の中庭が見える。
こんなに近く見えるのに、手で触れられそうなのに、私はここから動けない。
体が生まれつき弱いから。
看護師さんに病室のベッドから窓を開けてもらって外の風を受ける。
柔らかい。夏になりかけの、少し草の匂いがする風。
息を吸い込むと心地よくてそのまま目をつぶって外の風を感じ続ける。
目を開いて、さわさわと揺れる葉っぱを見る。
とても鮮やかな色だ。
下に行きたい。
葉っぱに触れてみたい。
この窓から身を乗り出して、木に乗り移って、そのまま下に降りてしまいたい。
・・・でも、出来ない。
やりたいこと、たくさんある。
でもそのほとんどは出来ない。
私には希望がない。
さっきまで柔らかく感じていた風が急に無味乾燥なものに感じてしまう。
両手で目を覆う。
どうして
どうして
何回も繰り返した問いかけ。
私にはどうして自由がないの?
外で歩き回ることすら許されないの?
私はなんでここにいるの?
でもその度に声がするんだ。
だって、命があるから。
だって大事な家族が愛してくれるから。
だって美しいこの世の全てを目に焼き付けて、そして五感で感じられるものがあるから。
頭の中に響く声。
その声は甘やかで優しくて、私はその声にいつも心が優しくなるのを感じる。
そうだよね。
そうだね。
私は生きていられる。
私は考えられる。
私は風を感じられる。
美味しいもの食べられる。
それがどんなに幸せか忘れそうになる。
欲しいものに手を伸ばし続けて、いまある豊かさを忘れてしまいそうになる。
でも、私の頭の声がいつもそれを思い出させてくれる。
ありがとう。
どんな存在か分からないけど、私にいつも言葉の贈り物をくれてありがとう。
そうして再び目を移した窓の外は、例え外へ行けなくてもとても美しく輝いて見えたんだ。
くも膜下出血で倒れ
2週間ICUにいた母親
見慣れた母親の顔はなく
キツネみたいな顔で
ギョロついた目で
私を見てくるのが怖かった
毎回会いに行くのも怖かった
でも、居なくなるのが
もっと怖かったから
どんな姿形でもいい
生き延びてくれ、と神様に
何度も願った
殺風景なベッド周りを
折り紙で飾ったりして
生き延びていく楽しさを
全力で伝えようとしていたな
病室
最期は手を握った
臨終で涙が出た
不思議だった
あれほど嫌いな
親父だったのに
今でも許してはいない
でも、あの瞬間は許したのかも
「病室」
弱ったあなたを見るのが
本当に辛かった。
あなたを失う事に怯えていた。
本当に辛かったのは
あなたなのに。
途中です
①出会い
あさひは、ピアノ教室の帰りだった。
ピアノバッグが足の前に来るように持ち、
右足を踏み出すときは左足で、
左足を踏み出すときは右足でバッグを蹴る。
もしお母さんがここにいたら怒るだろうなと
考えながら家に帰っていると、
ちょうど公園に通りかかった。
いつも誰もいない公園。
滑り台も、ブランコもないから当たり前なのだが。
あるのは、トンネルくらい。
トンネルでさえ古びていて、いつもはあんまり近づきたくないと思うのだが……
「あれ?」
きらっとトンネルの奥の方で何か光ったような。
あさひはなんか気になっトンネルに近づいた。
トンネルを覗き込み、はっと息を呑む。
なんと、トンネルを抜けた先は、大きな大きな木と、ちっちゃくて可愛らしい白い花がたくさんさいている原っぱに見えたのだ。
慌ててトンネルの中からではなく外から反対側を
見ても、そこにはただの砂場が見えるだけ。
木も、花も、原っぱもない。
もう一度トンネルを覗く。
ほっぺたをつねる。
夢じゃない。
あさひは確信した。
トンネルの向こうは、別の世界だ!!!
そう思ったら、体は勝手に動いていた。
トンネルの中に入り、反対側へとハイハイで向かう。
向こう側へ出ると、あさひは思わず呟いた。
「…きれい……」
どこまでも広がる原っぱ。
草花はさわさわとそよ風に揺られている。
白の花たちの上をモンシロチョウやアゲハチョウが
舞い、大樹からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
思わず目を閉じ、耳を澄ませ、小鳥のさえずりに耳を傾ける。
思い切り深呼吸すると、草花のにおいが鼻に入ってくる。
「どうしたの?こんなところで。」
目を開けると、そこには一人の男の子が立っていた。
名前は、みなとで8歳だと優しい笑顔で教えてくれた。
自分はあさひで5歳だと言うと、みなとは
あさひって呼び捨てでもいい?と聞いた。
うん、と言うと、みなとはなんだかすごく嬉しそうった。
みなとは、痩せ気味で色白の男の子だった。
あさひは、ずっとみなとを見ながら、ガリガリだなぁ、と思っていた。
しばらく遊んでいるうちにすっかり打ち解け、
あさひも最初はみなとくん、と呼んでいたけれど、
最後の方はみなと、と呼び捨てにしていた。
少し疲れたので大樹の下で休んでいると、
みなとが少し強張った顔で言った。
「もし、良かったらなんだけどさ…
みなとお兄ちゃんって呼んでくれないかな?」
「わかった!じゃあさ、みなとお兄ちゃん、
明日も遊んでくれる?」
「うん、いいよ。でも晴れたらね。晴れたら、
今日と同じ時間に、ここで遊ぼう。」
みなとは嬉しそうに笑った。
②楽しい日々
次の日。
あさひは昨日と同じ時間、泣きながら公園に行き、トンネルをくぐった。
お母さんに怒られてしまったのだ。
毎日少しはピアノの練習をすると決めているのに
それをさぼったからだった。
「だってっっ、毎日同じことするとかつまんないんだもんっっ。」
「そんなに悲しそうな顔してどうしたの?」
優しい声がした。
気づけば、みなとが心配そうにあさひの顔を覗き込んでいる。
あさひは、お母さんに練習をさぼって怒られたことを伝えた。
みなとはうーんとしばらく考えたあと、
口を開いた。
「あさひはピアノ好き?」
「うん、練習は嫌いだけど。
いろんな音が出て、いろんな曲が弾けるとこが好
きなの。」
「」
③みなとが本当におにいちゃんであることが発覚
家に帰って玄関で靴を脱いでいると、
靴箱が目に止まった。
「え…なんでみなとお兄ちゃんの写真がここに?」
「え、なんでみなとのこと知ってるの?」
声がした方を見上げると、お母さんがいた。
なかなかあさひがリビングにやってこないので
様子見にしに来たのだ。
「え…」
あさひはお母さんがみなとを知っていることに
驚いた。
「あ、もしかしてばあばに聞いた?
みなとは、あさひのお兄ちゃんだってこと。」
「…え?そうなの?」
「あれ?ばあばに聞いたんじゃなかったの?」
「……」
あさひは驚きのあまり、言葉が出なかった。
「…で、でもさ、私、お兄ちゃんに会ったことないよ?」
「え、それもばあばに聞いたんじゃないの?
まあ、いいか。えーっと……。」
お母さんは、あさひにどういう伝え方をするか迷っているようだった。
しばらくの沈黙の後、お母さんはゆっくりと口を開く。
「…みなとはね、あさひがまだ赤ちゃんの頃に病気になっちゃったの。…それで、天国に行っちゃったのよ。」
「え…。」
みなとお兄ちゃんは、もう死んでる?
生きてない?
じゃあ、私が遊んでるみなとお兄ちゃんは誰?
もしかして、幽霊?
考える前に体が動いていた。
「お母さん、ちょっとだけ散歩行ってくる!!」
突然あさひは家を飛び出した。
いつもの原っぱに行かなきゃ。
聞かなくちゃ。
早く行かないと、もう会えなくなる気がするから。
「あさひー!どこ行くのよ!!!」
後ろの方で、お母さんの声が聞こえる。
急に家を飛び出したのだから、当たり前だ。
でも今は、そんなこと気にしてる場合じゃない。
前だけ見て走る。
家を出てすぐ左に曲がり、まっすぐ進む。
突き当り右に曲がり、またしばらくまっすぐ進む。
下校中の小学生がちらほらいる。
のんびり談笑しながら帰る小学生達と、
必死に走るあさひは対照的だ。
息を切らしてもまだなお必死に走る5歳の女の子というのは珍しいので、目で追われる。
額にたれてきた汗をぐっと拭う。
あと少し。
「はぁ、はぁ。」
だいぶ息苦しくなってきた。
公園が見えてくると、息苦しいことを忘れ、自然とスピードを一段階上がった。
「はあっ、はあっ、おぅ、おぅぇっっ」
吐き気を気合で抑え込み、公園へ一直線。
公園には、誰もいなかった。
いつもいないけど。
トンネルへ走る。
中へ入って、反対側へ急いだ。
手や足の汗で滑ってこけかけたし、進みづらかった。
トンネルの向こうは、いつもと同じ、大きい大きい木と、原っぱと、原っぱに咲く小さな白い花々だった。
だけれど、少し違ったのは、世界が優しいオレンジで包まれていることだった。
あたたかい西日が、全てをやわらかく包みこんでいるようで心地よい。
それから、いつもなら木の前でにこにこしている
はずのみなとが、今は寂しそうに笑っていた。
「……みなと……お兄ちゃん……」
声がかすれる。
「気づいちゃった?僕の正体。」
みなとは優しく言った。
「みなとお兄ちゃんは、ほんとのお兄ちゃんなの?
幽霊なの?」
「そうだよ。今まで黙ってて、ごめんね。」
「…なんでわたしは幽霊が見えてるの?」
「それは、僕が神様にお願いしたからだよ。
僕、ずっとずっと遊びたかったんだ、
あさひと。」
「…わたしと遊びたかった…?」
「うん。僕はあさひが生まれてから、お母さんが
あさひのお世話ずっとしてたから、
嫌だったんだ。だから、あさひも嫌いだった。
だから、全然遊んであげなかった。
それを、死んでから後悔したんだ。」
「そうなの?」
「あさひがお母さんのお腹の中にいるって
知ったとき、僕、絶対にいいお兄ちゃんになる
って、決めてたんだ。だけど、生まれてからは
お母さんがあさひに取られちゃった気分で、
悲しくて、そんなことすっかり忘れてたんだ
よ。」
「……。」
「死んだあと、気づいたんだよ。
あさひのいいお兄ちゃんになるって決めたのに、
僕はそれが生きている間にできなかった。
それがすごく悔しかったから、もう一度だけ
チャンスをくださいって神様にお願いしたんだ
よ。」
「そう、なんだ。でも、そのチャンスってさ、
お母さんとかお父さんに会うのに使ったら
良かったんじゃない?」
「うーん。確かに会いたいんだけど。。。
死んだすぐ後は、
お母さんにお父さんにゆうたくんに
はやとくんにおばあちゃんにおじいちゃんに
いとこのはっちゃんに、もう会えないのがすごく
悲しかった。
けど、ある日お父さんが言ったんだ。
こんなに多くの人に悲しんでもらえて、
みなとは幸せだろうなって。」
「…悲しいのに幸せなの?」
「そうだよ。
悲しんでくれるってことはそれだけ僕のことを
大切に思ってくれてるからなんだよ。
それって幸せなことだと思うな。」
あさひが眉間にシワを寄せて考えていると、
みなとは笑った。
「ふふっ、難しいよね。
わからなくてもいいよ。
僕は、皆が僕のことを大切に思ってくれてた
ことを知れて嬉しかった。別にもう会えなくて
も、それだけでいいかもなって思ったんだ。」
「なんか難しいけど、みなとお兄ちゃんは嬉しそう
だから、きっと良いことなんだね。」
みなとは頷いた。
「うん。。。こうやってあさひとたくさん遊べて、
お世話できて、僕はすごく楽しかったけど、
いいお兄ちゃんになれたのかなぁ。。。」
「もちろん!みなとお兄ちゃんは
すごくいいお兄ちゃんに決まってるじゃん!!
いっぱい遊んでくれるし、
優しくしてくれるし、かっこいいし、
あと、あと……」
あさひは放っておいたらみなとのいいお兄ちゃんポイントを永遠とあげていきそうだった。
みなとは恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら
初めてあさひの話をさえぎる。
「ちょっちょっ、ちょっとまってあさひ。」
「え?なんで?まだあるよ。足もすごく速いし…
ぎゅーってしてほしいって言ったらしてくれる
し…」
「いや、いい!もういいから!わかったわかった!
あさひが僕のこといいお兄ちゃんだと思ってくれ
てるのはすごくわかったから!!!」
「…そう?」
「うん、うん!すごくわかった!ありがとう。」
すごく恥ずかしかったけど、あさひが本当にみなとをいいお兄ちゃんだと思ってくれてるのが分かって
すごく嬉しかった。
「良かった……いいお兄ちゃんになれた……」
思わず呟くと、すかさずあさひが言った。
「そうだよ!!みなとお兄ちゃんは、すごく
いいお兄ちゃんだよ!」
みなとは嬉しそうに、そして、満足気に笑った。
と同時に、みなとの周りに小さなキラキラが現れる。
だんだんキラキラは、みなとの体を優しく包み込むようにして増えていく。
「え…?何これ?」
あさひが不思議そうに言うと、みなとが答えた。
「もう、あさひとバイバイしないと。」
「わかった!明日も晴れたら今日と同じ時間に
ここだよね?」
みなとはゆっくり首を振った。
「え?違うの?あ!もしかして、雨が降っても遊んでくれるの?嬉しい!」
みなとはあさひの前向きさでもっと悲しくなった。
「違うんだ…違うんだよ、あさひ。」
「違う…?どういうこと?」
「もう、僕はあさひとは会えなくなるんだ。
ずっとバイバイってことだよ。」
あさひは一瞬驚きで固まった。
その後すぐ、たくさんの大粒の涙があさひの顔をポロポロと流れる。
「うわーーーーんうわーーーーーん
なんでっ…?なんで?みなとお兄ちゃんはっ、
ずっとっ、あさひのっ、そばにっ、
いてくれるんっじゃないのっ?」
嗚咽を混じりらせながら一生懸命に訴えるあさひを見てみなとも胸が痛くなる。
みなとはあさひをぎゅっと抱きしめ、背中をさすってあげた。
それからしばらくはずっと、世界はあさひの鳴き声で満たされていた。
あさひが泣き止むまでの間、みなとはずっと
あさひを抱きしめ、優しい言葉をかけ続けた。
あさひが少し落ち着いてきたとき、みなとは言った。
「どうしてもあさひに会いたいって神様にわがまま
言って願いを叶えてもらったんだ。
その代わり、僕があさひのいいお兄ちゃんになれ
たって分かったらすぐ戻るって約束したんだ。
少ししか一緒にいられなかったけど、
すごく楽しかった。ありがとう。」
あさひは、みなとの方に埋めていた顔を上げ、
みなとの顔を見た。
「……わたしもっ、楽しかったっ」
「…良かった…」
キラキラがより一層濃くなる。
幼いあさひでも分かった、もうお別れの時間だと。
もうみなとがあと何秒ここにいるかわからないと
自覚する。
あさひは思わず口を開いた。
「…お兄ちゃん、大好き。」
もっともっとキラキラは濃くなり、だんだんみなとが見えなくなっていく。
みなとは顔をほころばせて、言葉を返した。
「ありがとう。。。僕もあさひのことが大好きだよ。。。」
そして、、、ついにみなとは見えなくなった。
気づくと、あさひは公園のトンネルの前で
空を見上げていた。
もう、オレンジ色の空ではなく、赤紫の空へと変化している。
雲一つない綺麗な夕焼け空を見上げながら、
あさひは思った。
みなとと晴れの日しか遊べなかったのは、
きっと、雲があったら雲が邪魔で、空から降りてこられなかったからだ。
だからみなとはいつも言っていたのだ。
「明日晴れたら、遊ぼうね。」
と。