『時を告げる』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
高らかな猫の一声が、薄暗い社の中に響き渡った。
「猫が来たぞ!猫の子らの力を必要とするのは誰だ?」
ちりん、と真鍮の鈴が鳴る。
蜘蛛に片割れの腕から音もなく降り立ち、無遠慮とさえ思えるほどに堂々と開け放たれた社の中に踏み入れた。だがその足はぴたりと止まる。
猫の視線が社の奥に座る少女の姿を捕らえ、苛立たしげに低く唸り尾を打ち据えた。
後に続く蜘蛛達も、程度の差はあれど同じように眉をひそめた。
「なんだオマエは。ニンゲンのくせにほとんど空っぽじゃないか。オマエが猫の子らの力を必要としているのならば、猫は拒否するぞ。どうせその望みは他のヤツの代弁だろう」
少女を睨めつけ吐き捨てる。
猫の眼には少女の呪は見えていない。だが人としては随分と希薄な気配や纏わり付く微かな死の匂いは、人よりも化生に近い。
人のようで化生のような中途半端な匂いが、猫の本能を騒つかせ警戒させる。
「猫の子?」
「なんだ、違うのか。それならばいい。いいが…ニンゲン。オマエの名は何だ?あと、好きなものを答えてみろ」
猫の言葉に困惑する少女の人の匂いが、少しだけ強くなる。おや、と首を傾げ、警戒しつつも変化に沸いた興味に矢継ぎ早に問いを重ね。
しかしそれを制すように、蜘蛛の腕が猫を抱き上げた。
「駄目だよ、日向《ひなた》。この子の名前はおそらく呼んではいけないものだ。それだけではないのだろうけれど、この子の虚ろは名前が強く関係しているように見えるよ」
「だな。しかも最近、何度か強く呼ばれて虚ろが広がってる。大方ここの祭神が不用意に呼んだんだろ」
そうか、と納得して警戒を解き、するりと蜘蛛の腕を抜け出して少女の目の前に座る。
そして蜘蛛が止めるよりも早く、同じ問いを繰り返した。
「オマエの名を答えろ。それで好きなものも言ってみろ」
猫は単純だ。だが愚かではない。
それを知っている蜘蛛達は、猫の意図を察せずとも静観する。猫の行動はいつも唐突だが、最悪にはならないはずだ。
問われた少女は眼を瞬かせ、首を傾げながらも名を答える。
「零《れい》」
その瞬間、ぞわりとした感覚に猫の毛が逆立った。
「なんだそれは!オマエはここに確かにいるのに、ないとはどういうことだ!だからいろいろが零れていくんだ。駄目だ。猫は気に入らない。だから猫はオマエを壱《いち》と呼ぶ事にする!」
猫の行動はいつでも唐突であり、それ故に誰にも止める事は出来ない。
不快な名が許せず新たに名付けた猫に、蜘蛛達は呆れ、気まずさに顔を覆い。名付けられた少女は壱、と何度か繰り返し痛みを堪えるような表情をした。
猫の叫んだその名に強制力はないが、人ならざるモノに呼ばれる名は呪のように人に絡みつき影響を及ぼす。特に真逆な意味を含んだ名だ。元の名と反発して痛みを生じているのかもしれない。
だが悲しい事に猫は感情の機微に疎く、少女を気にかける事もなく問いかけた。
「壱。好きなものはなんだ。ちゃんと答えてみろ。大事な事だぞ」
「好きなもの」
眉根を寄せつつ、少女は視線を彷徨わせる。記憶を辿り、けれど思い浮かばぬのか、ゆるりと首を振った。
「思い出せない。好きとは、何?」
「分からないのか。零れ落ちすぎて残りがまったくないな。ならば仕方ない。壱は今から猫の子だ!猫がオヤとして、しっかりと教えてやろう!」
猫とは突拍子もないモノである。
慌てる蜘蛛達を歯牙にもかけず、瞬く間にその姿を人の形へと変化させ少女の手を引き立ち上がらせた。
「ちょっと待て。勝手に子を増やすな。ここに来た目的は呼ばれたからだろうが!」
「猫は難しい事は分からない。そっちは銅藍《どうらん》と瑪瑙《めのう》に任せる。大丈夫だ、銅藍も瑪瑙もすごいからな。猫と違って難しい話も分かるし、何でも出来るから何も心配いらない。それに嫌な事は嫌と言えるんだ。壱も二人みたいに、しっかり好きと嫌いを言えるようにならないとな」
蜘蛛に答えながらも、猫は娘の手を引く事を止めない。
猫は一度決めた事は曲げない。それを知る蜘蛛の二人は諦めたように溜息を吐き、相変わらずな猫に苦笑した。
「気をつけてね。その子は人間なのを忘れないで」
「問題ない。後は銅藍も瑪瑙に任せるから、気に入らなければ戻ってくるといいぞ。そうしたら皆で帰ろう」
社を出て行く猫と少女を見送って、蜘蛛は不快に顔を顰め、憐憫さに目を細めた。
「おい、説明しろ。何だあれは。気持ち悪い」
ゆらりと空気が揺らめき、社に奉られた神が姿を現す。
腕を組み蜘蛛を見下ろすその表情は険しく、不機嫌さを隠しもしない。
「貴様らには関係のない娘だ。呼び寄せた狐は外におる故、疾く出て行け」
「日向が連れて行った。関係はあるだろうが。それにあんな生に執着した餓鬼の呪が、俺らの猫に危害を加えないとも限らないしな」
「口を慎め、土蜘蛛。妖に成ってまで生に縋ったのは貴様らも同じであろう」
忌々しいと舌打ちをし。殺気立つ蜘蛛に、しかしもう一人の蜘蛛は冷静に銅藍、と片割れの名を呼んだ。
「たぶん前提が違う。あの子は望んで呪を施されたわけではないよ」
「抵抗した感じはなかった。拒絶はしていないだろう」
「気づけないんじゃないかな。本質はずっと眠っているように見える。時々目覚めていたのかもしれないけれど。今のあの子は呪の後の伽藍堂に元の子の記憶と周りに応え続けた結果が入り込んで出来たものだよ」
蜘蛛の言葉に片割れの殺気は収まるが、嫌な事を聞いたと目を逸らす。
神は何も言わず。しかし幾分か険しさが和らいだ表情で、見定めるように蜘蛛を見ていた。
「それが日向が呼んだ名前によって、眼が開いた。まだ覚醒はしていないけれど、痛みを覚えるくらいだ。少しは満たされていくだろうね」
「目覚めを告げる猫ってか。恐ろしいな俺らの猫は」
「日向だからね」
くすりと笑い、神を見る。
「僕達の猫と片割れが失礼しました」
「構わぬ。外で狐が待っておる。行くとよい」
険しさも不機嫌さも消えた神は、一つ頷いて社の外を指し示した。
一礼し、社の外へと向かう。その背を見送り、神は静かに眼を閉じた。
「始まったか」
始まりを告げた猫は自由気ままに、娘を人へと引き戻し。
猫の子らである蜘蛛は、狐に連れられた人の子の望みに応えるだろう。
変わらない。娘と出会い、視た未来《さき》と何一つ。
これが最良かは、始まってしまった今となっては知りようがない。
せめて娘に訪れる別れが、その痛みが少しでも和らげばと思うのみだ。
20240907 『時を告げる』
「時を告げる」
「前回までのあらすじ」────────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
……ついに裁判の時が来たよ。ボクはボクの守りたいものを全部守るんだ。
そういえば、ほとんど変化はないけどちょっとあらすじを書き換えたよ!!!
多少は読みやすくなっているといいが!!!
書いている途中でうっかり寝てしまったのでこんな時間に投稿してしまいます。うわー……( ˘ω˘ ) スヤァ…
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ついにこの日を迎えてしまった。あっという間だったね。
ボクはたった一人のきょうだいを、お父さん───博士と一緒に守りたかったきょうだいの裁きの日を、まさか現実に迎えてしまうとは。
ようやくこれで過去の呪縛から解放される。努力が報われる。
いや、もし失敗したらどうするんだ?守れずに終わってしまったら?そもそも、宇宙管理機構はどうなるんだ?
準備はしてきたつもりだが、正直言えば見切り発車みたいなものだ。どうする。どうするんだ?
当日になって不安になってきた。
「■■ちゃん、どちたの?こわいのー?」
「こわいって???ボクはなーんにも怖くないよ?!!」
「んー。■■ちゃん、ちょとへんなのー。」
……不安なのがバレたのかな。……ここでボクがしっかりしていないと□□を守れないじゃないか!いつも通り、ボクのしたいようにするだけだ。ただ、それだけじゃないか!
「□□、今日は裁判の日だよ!キミともう一人のお姉さんは、被告人として───」
「■■ちゃん」「ん?」「さいばん ってなあに?」「あ~そっからか~」
「裁判っていうのはね、悪いことをした人と、その被害にあった人がそれぞれ法律を根拠に意見を述べ合って、最終的にその意見をもとに悪いことをした人がどんな罰を受けるかどうか、あるいは受けないかどうかを決めるものだよ。」
「じゃー、ひこくにん ってなに?」「悪いことをした人だよ。」
「キミとお姉さんは宇宙を壊した。覚えているね?」「んー。」
「宇宙を壊すっていう悪いことをしたから、被告人として出廷するんだよ。」
「ん。わかった。でも、なんで■■ちゃんもいっちょなの?」
「え?」「ボクとおねーしゃん、わるいことちたの。でもねー、■■ちゃんはわるいことないないなの。」「そうだね」
「ボクはキミたちの弁護士……キミたちを必要以上の罰から守るために一緒にいるんだよ。……キミがアーカイブになっている間にたくさん勉強したんだ。」
「■■ちゃんえらいえらーい!」「それほどでもあるなあ!!!」
「というわけで、今日は練習したとおりに頑張っておしゃべりするんだよ、□□。」
「はーい!」
何も変なことが起こらないといいが……。
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簡易裁判所にて
うわあ……□□、やっぱりキミは恐ろしいことをしてくれたね。
相手を見たまえよ。宇宙管理部の一番上から法務部で一番弁の立つあいつまでいる。まあボクには劣るが!!!
あの連中は何か一つのことしかできないが、ボクはなんだって出来る。
よくも悪くもキミのおかげだよ、ボクのきょうだい。
だからこそ、この時を一番うまく乗り越えなければ。
裁判の始まりを告げるブザーが鳴る。
原告の訴えはこうだ。意図的な宇宙の損壊とそれをほう助した被告ふたりを、宇宙管理法第7条第13番をもとにスクラップ───破砕するよう訴えた。なるほどね。妥当な判断だよ。
スクラップをわかりやすく言えば再生不可能なレベルにバラバラにされる状態で、生き物で言えば事実上の死刑宣告だ。
まあ、宇宙の損壊はそれだけの重罪だから納得せざるを得ない。
だが!!!甘いね!!!このボクを相手にするというのに、そーんなちゃっちい主張をしてくるとは!!!なめられたものだ!!!
ついにボク達が話す番が回ってきた。
まずは宇宙を損壊した張本人、旧型管理士が自分の罪について話す。……彼女にはなんの練習もさせていないから不安だ。
「被告人その1、あなたは第712宇宙をその身に吸収し、損壊しましたね。」「はい。」「それに対しての気持ちを述べなさい。」
「私はただ、とても混乱していました。知らない子供がいつのどこかかで、私を起こそうとしているところから記憶が始まります。そこから彼の力を借りて、その場所を出ました。」
「そこからの記憶もとぎれとぎれではあるものの、今思えば酷いことばかりしていたように思います。今私の弁護人を務めている彼にも、原告の方々に対しても申し訳ない気持ちでいっぱいです。」
まともなことを言ってくれてよかった。
次は⬜︎⬜︎の番だ。不安そうな顔だな……。心配だ……。
「被告人その2。……随分と幼いように見えますが、年齢は?」
「ねんれい?」「何歳ですか?って聞かれているんだよ(小声)」
「ねんれい……えーっと……にしゃい?」
「ああ、正確にはおおよそ700兆歳です。」
「そうですか。それでは被告人2、あなたは被告人1を目覚めさせ宇宙を破壊するよう仕向けました。」
「さらに、宇宙管理機構所属の公認宇宙管理士を破損しましたね。これらに対して感想を述べなさい。」
「んー……。」
「えとねー。いっぱいのひとに、ごめんなさいちたいです。ボク、わるいこといっぱいちたの。ニンゲンしゃんも、ボクのおとーともおけがでいたいいたいでちた。」
「でもねー。わるいこと、いやいや。おとーとといちょにがんばるー!いいひとになりたいです!」
……よしよし、よく頑張った!
「……これを受け、弁護人にお聞きします。彼らにとって、起訴状の求刑内容は妥当だと思いますか。」
「いいえ、そこまで厳しい求刑の必要はないでしょう。彼らはそもそも現役の宇宙管理士ではありません。宇宙並びに公認宇宙管理士を損壊したのは事実ですが、情状酌量が認められるのではないでしょうか。」
「情状酌量?」「はい。」「被告人1と呼ばれている彼女は、元はと言えば生き物です。機械が搭載されているとはいえ、彼女にも人格や尊厳があるはずでしょう?」
「生命はかけがえのないものです。そんな大切なものを、いとも簡単に奪ってしまって良いものでしょうか?」
「また、被告人2は、わたくしの兄です。機械にきょうだいなどいるはずがない……と、そう思われても仕方はありませんが、我々は『感情型』と呼ばれる特別な機械です。」
「わたくしたちを開発した研究者、そして一緒に生まれたきょうだいを大切に想うことに、何ら違和感はないでしょう?」
「ですので、更生の余地のあるふたりの被告人には───宇宙管理士の資格を剥奪する、つまり、事実上の無力化を行うだけで十分だと考えます。」
「なるほど。そのようなお考えなのですね。」「はい。」
その後も裁判は続く。
原告はボクが提供したデータを証拠とした、そこから導き出される甚大な被害から、求刑内容の妥当性を主張した。
だがこちらにも言い分はある。
もし彼らが適切な処置を施されていたならば、このような罪を起こさずに済んだはずだ。
それに───それに、有事に備えて宇宙の復旧がすぐにできるようにボクがあらかじめ準備をしたのだから、そこまで厳しい求刑を受ける必要がない。
ボクだって宇宙が大好きなんだから、自分の管理する宇宙を蔑ろにはしたくはない。だからこそ、自らの手で十二分に守れるように、予め下準備を整えていたのさ。
ボクの事前準備のおかげで、ボク達にとって少し有利に進んだ。
だが、ずっと気になっていたことがある。
いくら感情があるとはいえ、兄は機械だ。
……機械を裁いた前例はない。だからどう進むか予測不可能だ。
双方の意見を参考に、裁判官たちの話し合いが行われる。
……随分と時間がかかっているな。
彼らをスクラップにするつもりなのか?
それとも、ボク達の主張が認められるのだろうか。
そこからしばらくして、求刑の時を告げるブザーが鳴った。
不安と期待で頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ついに判決が言い渡される。
「それでは、ふたりの被告人への判決を言い渡します。」
「被告人1。あなたには、旧宇宙管理士の資格の剥奪並びに能力の無効化を言い渡します。」
「そして被告人2。あなたには公認宇宙管理士の資格剥奪と、今後50年の資格取得が不可能となる処分をくだします。」
……よし!やった。
「第294001番、こちらの資格剥奪を───「ちょっと待って!!!」「弁護人、静粛に。」「いやいや、あのねえ!!!その番号さ!!!ボクのなんだが?!!」
「大変失礼した。第293999番の資格を剥奪いたします。」
……全く。今、法務部の連中がどさくさに紛れて処分されたらよかったのにって舌打ちしてたね?聞き逃していないよ?
いやしかし、ここまで上手くいってしまうとは……!!!さすがボクだ!!!
これで控訴も上告もいらない。
これでボクの長い闘いから解放されるんだ!
「以上の罰則を、彼らにはきちんと受けさせます。」
「それから、被告人のふたりに伝えたいことがあります。」
「これからは、もっとキミたちらしく自由に過ごしてください。いつでもわたくしを頼ってください。」
「はーい!」「……はい。」
こうして、裁判は無事閉会された。
……だがボクにはすべきことがある。
とはいえ肩の荷が降りたからか、少し気が緩んでいるな。
気を引き締めないと。
でも……やっぱりよかった。
救いたいひとを、ものを、無事守れたんだ。
まだ自覚は持てないが、本当に嬉しい。
満足感を心に満たして、ボク達は裁判所をあとにした。
「せんせぇ! はやくはやく!」
「走ると危ないですよ」
そう言いつつ、先生は駆け足で追いかけてきてくれた。そんな小さな行動が嬉しくてたまらない。待ちに待ったデートだから、テンションが上がりすぎているのだろうか。
私たちは今、動物園に来ている。おうちデートもいいけど、思い出の品を作るにはやはり外がいいだろう。
入園して最初に目に入るのはホッキョクグマエリアだ。階段を登り、上から見物する。2頭はそれぞれ陸でウロウロしたり、プールで泳いだりしていた。
「シロクマさーーん!!」
隣で見ていた5〜6歳くらいの女の子が叫んで手を振った。お父さんらしき人が微笑ましく見守っている。
「小さい頃を思い出します。私も父と来て、あんな風に手を振ってました」
「素敵な思い出ですね」
「私たちも作りましょう。行きますよ!」
私は先生の手を引いた。
猿、キリン、カバ、ゾウ……いろんな動物たちと相見える。ライオンの檻の前では写真を撮った。
実は小1の時、同じく父と写真に写った。でもその時の私は泣き顔。なぜなら百獣の王ライオンに背中を見せたら、襲われるのではないかと怖かったから。
今では笑い話だが、当時は号泣するほど怖かった。
帰ったら父にこの話をして、写真を見せよう。きっと成長したなと褒めてくれるだろう。
この動物園にはアトラクションもある。ランチの後はそこで遊ぶと決めていた。コーヒカップ、空中ブランコ、バイキング。小1の時は身長制限で乗れなかったものもあった。私は先生の手を握って楽しんだ。
池のほとりを散歩していると、対岸をスケッチしているおじさんに出会った。見せてもらったが非常に上手い。プロなのかと思ったが、本人はただの趣味だと言っていた。
「そろそろ時間ですよ」
おじさんとの会話に花を咲かせていると、先生が遠慮がちにそう言った。私はおじさんにお礼を言って、先生とギフトショップへ向かった。
「わー、いっぱいある。先生、どれがいいですか?」
「君の好きなものがいいですね」
どうせなら動物モチーフのものがいい。ハンカチか、シャーペンか、マグカップか……手ぬぐいや、がま口財布なんかもある。
「あ、これはどうですか」
迷いまくって決められない私を見かねたのか、先生がひとつ指差した。
「ライオンのキーホルダー?」
「日常使いできるもので、長持ちするものといえばこれです」
雄々しいたてがみがお洒落なシルバーのキーホルダー。たしかにこれなら長持ちしそうだし、大人の先生が持っていても違和感がない。私にとっても、幼稚に見えないのは助かる。
「いいですね、これにしましょう!」
私の答えに、先生はニッコリと微笑んだ。
その時、閉園間近を伝える鐘が鳴った。
帰宅して、父にも買っておいたお土産を渡す。『うさぎのフンチョコレート』を見てちょっと引き攣った顔をしたが、食べると美味しかったらしく、選んでよかったと思った。
「ねぇ父さん。今日ね、ライオンと写真撮ったよ。今度は泣かなかった」
「おお、そうか。成長したな」
父はチョコレートがついたのとは反対の手で私の頭をなでた。
「もう10年か」
「うん……」
私がこの家に来てから、今年で10年になる。
テーマ「時を告げる」
この世界では時間は自分で絶えず進んでいる。
そう思っているだろう。
これは世界の裏側の話。
誰にも見えない、世界から逸脱し時間の狭間で戦い続ける人達の話である。
透き通るような青空の下で歩いている人たちがいる。
何気ない日常の風景。
ただ違うのはその空間に時は流れておらず止まっている人たちの傍を黒い外套に身を包んだ人たちが通り過ぎていることだ。
水が流れるように火があらゆるものを焼き尽くすように森羅万象に定められた人間、その一族。
人類の為に生贄として捧げられた哀れな一族。
それが時告げという一族である。
そして全てで12人いる彼らの別名を円卓の騎士と呼ぶ。
もう誰もが忘れ去った一族。その一欠片を含む物語が「アーサー物語」である。
一番目立つ中心部に1人だけ白髪混じりの男が立つ。
彼の役職名はアーサー。時告げの一族の長である。
彼に名前はない。かつてはあったがこの世界に連れ去られる時、世界の全てから忘れ去られてしまったからだ。
チッチッチっとアーサーの持つ時計が無機質な音出しながら時を刻む。そして深夜0時に秒針が重なると、
「定刻だ、はじめよう。」
そう時を告げた。
これは毎日行われる世界を確定するためのお話。
お題時を告げる
ここまで読んでくださってありがとうございました。
目覚まし時計をかけても起きれない時
母が私を声を掛けて起こしてくれる。
「朝だよ。時間だよ。起きなさい。」
「いい加減に起きなさい。朝だってば」
「起きなさいって言ってるでしょっ。
遅刻する!起きなさいっ!」
と、大体3回目になると布団を剥がされる勢いで起こされる。
母の立場になって子ども達を朝起こす時
「お母さんって3回目起こす時凄く怖くなるよね。何で?」と言われた。
私も同じ事母に尋ねた事を思い出す。
「お婆ちゃんがぁ‥」と話すが、
本当の気持ちは貴方が誰かを起こす時のお楽しみ。
時を告げる鐘がなる。
何処かのお姫様にでもなった気がした。
さようなら、そう言い駆け出す。
これ以上は、もう会えない。
きっと貴方を困らせてしまうから、
ごめんね、
そう言い溢れ出す涙を飲みこみ姿を消した。
時を告げる
空と海のあいだ。
昼と夜の狭間。
光と闇のあわい。
白い花が揺れる野原に、星が光り始めた。
二人だけ誰もいなくて。
いつまでもここにいたくなるけど、
それじゃ駄目なんだ。
時を告げる鐘が鳴ったら、
繋いだこの手を離すよ。
もう一度、巡り合うために。
時間はかかるかもしれない、
でも待っていて
わかった、約束だよ。
優しい声に想いが込められている。
大丈夫。必ず見つけるから、
思い出してね。
うん、きっと会える。
――大好きだよ。
太陽が赤い。
今は。夏か、秋か、
一日のうちに、何度か変わる。
太陽が大きく赤色が濃くなっていく。
夜が近づいてくるのが目に見える。
だんだんと暗く。
自然が時を告げるのはいつも曖昧だ。
時を告げる
ピッピッ…ピッ…ピッ…
一定に鳴っていた電子音が段々と音の鳴る間隔が長くなる
「あなた、今までお疲れ様でした」
愛しい彼の手を繋ぎながら労いの言葉をかける
「いつまでも愛していますよ…」
愛の言葉を伝えるとピーと長く鳴る電子音
その後に担当医から「ご愁傷さまです」と伝えられ、頭を下げられる
私は子供のように泣き喚いた
彼は多くの罪を犯してきた。宝物のように思っていたあの子を守る為に。
彼は捕われ、冷たく堅牢な牢獄に繋がれている。数々の罪をその命で償う日が来るまで。
鉄格子越しに臨む夜闇が徐々に白んでいく。今日も長い一日が始まる。
独房に満ちている深々とした静寂を、複数の靴音が破った。
無機質で規則的な靴音が近づいてくる。やがてそれは、彼が収監されている独房の前で止まった。
ああ、ついに罪を償う日がやってきたのか──。
解錠され、扉が軋みながら開かれる。それは、贖罪の時を告げる瞬間を意味していた。
テーマ【時を告げる】
うたた寝から覚めた夕方5時
田舎町に鳴り響く童謡
ああそうだここは実家だ
仕事も人間関係も何もかも嫌になって逃げ帰って
今日でもう1週間がたつ。
何も言わずに毎日温かいご飯をくれる祖母に
少し後ろめたさと居心地の悪さを感じ始めた。
いつまでも途方に暮れては居られないなぁ
そう感じられる程には身も心も元気を蓄えられた。
台風が過ぎ、さらさらと心地の良い風が吹いた。
さあ前に進もう。
私の人生、転んだってまだまだ序章だ。
時を告げる…
貴方と逢っている時間はあっという間で、
時計の秒針は刻一刻と進み、残酷にも時を告げる…
限られた時間の中で何度も重なり合って、愛を囁いて…
幸せな時間はあっという間に過ぎる
…あぁ、この時間がずっと続けばいいのに。
次に逢えることが分かっていても、
別れの時間は、刻一刻と近付き、時を告げる。
さっき別れたばかりなのに
もう貴方に逢いたい…
時を告げる鐘が鳴る。
学校が鳴らす下校のチャイムが鳴った暫く後、防災無線から流れる5時の定時メロディが鳴った。
秋の秋分が近い夕暮れは短くなりつつあり、あっという間に暗くなるだろう。
それでも、進路選択の進路用紙に何も書けない私は、帰れなかった。
……むしろ、帰りたくなかった。
白紙の進路用紙を抱えたまま、いっそ怪談の、教室の幽霊でもなりたいな……。
学校にずっといたい、何もかわりたくない。このままでいたい。
薄明時が時を告げた
あの人から告げられたタイムリミット
それが、今日の薄明時。
逃げなきゃ
地平線から徐々に姿を見せる太陽から、必死に逃げた。
逃げて 逃げて 逃げて 逃げ続けて
靴がボロボロになっても
人々が私を邪魔しようとも
生きたい 生きなきゃいけない 生きなくてはいけない
死にたくない 死ねない 死んではいけない
後ろから爆発音が聞こえてくる
人々の悲鳴が聞こえる
タイムリミットの時を告げた太陽は
全てに等しく死を与えた
お題『時を告げる』
時を告げるものと言えば「鐘」であろう。
我らの精神の中に気付かぬ間に植え付けられた「鐘」の音で、切り替える、という習慣。
学校での授業の終始を告げる鐘。
年末年始を告げる鐘。
毎日午前と午後の六時を告げる寺の鐘。
気付かないだけで他にもきっとある。
少し耳を澄まして聴き慣れてしまったその「鐘」の音を今一度心に刻んでみてはいかが?
-時を告げる-
テーマだけ確保します
後日執筆予定
【時を告げる】
四月二十日、学校の始業式だった。始業式なんて言っても別にホームルームを受ければ終わるだけの短く簡単なもので、出てしまえば単位になるので出ない選択肢なんて無かった。
そんな私は学校の教室で永遠と授業が始まるまで同級生と後輩の存在を待ち続けるが、自分の友人は一人しか来ない。他の友人は皆、専門学校に進学したのか?でも進学したなら『専門学校に合格したから専門学校に進学するんだ』とかぐらいは言ってくれるかと思いながら始業式という名のホームルー厶が始まる。やっぱり友人は遅れて来ないし、連絡もよこさない。不安に駆られながら過ごしたホームルームはあっという間に終わった。
そこから数ヶ月後のこと。
授業内で夏季のスクーリングの手紙を貰った事を名簿に記入をしなければならなかったので名簿を見たのだが、不意に見えた友人の指名欄横には退学と転籍の文字があった。その瞬間、別れを告げる文字を見てしまったと酷く後悔した。
そういえば退学した友人は『僕はもう戻らない』と私に告げていた事を思い出したが、私は「来年度には戻ってくるだろう」とその言葉の意味を深く考えずにいた。けれども転籍した友人は何も告げはしなかったが、誰も悪くは無い事象のせいで距離が出来ていた。
私の友人は皆、元気にしているだろうか。退学、転学、転籍、休学。どの選択肢を取ろうが、私は何も口を出すことは出来ない。それは友人が選んだ道を他人の言葉ひとつで消したくは無いからだ。でも元気にやっているのなら別に大丈夫、大丈夫。
「時を告げる行列」とやらに並んでみた。
ポストに入っていたチラシを見るに、場所は新宿駅の真下にあるという。駅ビルの地下街だろうか。
というより、時を告げるとは、何だろう。
私は疑問を解決しにいった。空席状況の目立つ電車に乗り、世界の迷宮たる新宿駅へ降りた。
フロアマップと家から持ってきたチラシ、双方を見比べながら、目的地の在処を比較検討する。
別に正確な位置を特定する必要はないのだ。
行列なのだから、どこかしらにぴょこっと最後尾が……あっ!
地下X階。だいぶ階段を降りたが、やっとそれらしきものが見えた。
ちゃんと「最後尾」と書かれたプラカードを持ったガールが立って、異様な長さの存在感を放っている。
私はその列の最後尾に並んだ。
それから、時間が経つごとに行列の順番待ちをする。
「時を告げる」とあるように、カフェの小さなチャイムが鳴るごとに一歩前に進む。
一人ずつ店内に入っているのだ。
これが「時を告げる」という意味なのか、と一人得心した。
ただ、何の店なのかはよく知らない。
初めはラーメン屋の人気店の名前だと思って来てみたが、ラーメンどころか美味しそうな匂いは漂っては来なかった。
飲食店ですらないのかもしれない。
例えば、有名な美容室だとか、ネイルサロンとか。地下街に惑わされてはならない。例えば温泉……とか?
想像が膨らみを持つ。
きっと到着すれば、何かしら知れると思った。
私の今の身分はニートという、世間でいうところの思想家に当たるので、時間があり余っている。
家でも、行列に並んで待つ間でも、思索をすることには変わらない。この行列の正体を知るまで、考え抜こうじゃないか。
……そういえば、お腹が空かないな。
「すみません、あとどれくらいですか」
最後尾を示すガールに聞いてみた。笑みを浮かべて答えてくれた。唇が妙に色っぽい。
「待ち人数はあなたでちょうど20人おりますので、うまく行けば20分で済むと思いますよ」
「なるほど、そうですか」
「ええ、寝ていればすぐです」
私は窓の方へふと向き、ひょっと、一瞬できた影を目撃した……ような気がした。
下から上へ、細く長く上がるもの。
普通に考えたらツバメか。
などと考えたが、地下街なのに外が見える窓があることに気づくべきだった。
そうすれば私も……うっ、なんだっ。
急に、眠く……。
そこにシャランとチャイムが鳴り、そこで意識は切れた。
「では、長い間おつかれさまでーす!」
20分後。気づいた。
ああ。なんで気づかなかったのだろう。
彼女の背中には、翼が。
そして、私は空に向かって落ちるように飛んだ。
立ち上る霧につまらない形を与えて洋子に見せたあなたに、微笑することしかできなかった。
地平線の向こうから亀裂が広がる。
東から昇る太陽が夜明けを告げる。
wip
時を告げる