『手を繋いで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「手を繋いで」
手を繋いでどうか離さないで
いつも少し冷たいその手は
いつだって私があたためるから
ねぇ 気づいてる?
こういうときって、手を繋ぐんだよ
すれ違うカップルは みんなそうしてる
こんな寒い日は 可愛い彼女の冷えた手を
自分のコートに引っ張り込んで
温めるのがセオリーなんだよ
ねぇ、わたしもう息切れ甚だしいよ
こんな坂道はね、かよわい彼女の手を引いて
坂道をフォローするもんなんだよ
なんで、そんな、
涼しい顔してさ、ねぇ、聞いてる?
だから、なんで そんな自分だけ、
サクサク進んで、いっちゃうの‥はぁ
笑ってないで、手を 引きなさいよ
えっ そりゃ 冷たいでしょうが
ケチ! ケチ! あっためろよー!あほー!
周りを、みならいなさいよ!
なんで、わたしばっかり、喋ってんの、よ!
あほー!!!!!!
(紅葉散策にて。)
◇手を繋いで◇
君と手を繋いで海辺を歩く、夢を見た
もう、君はいないのになんでだろう、
確信しちゃったよ
貴方と貴方の好きな人が付き合ってるの
もうヤダ
どうしたらいい
【手を繋いで】
翌日眼を覚ますと、僕達はずっと手を繋いだままだった。まだ眠っている彼女に何気なく眼を向けて、僕は心臓を鷲掴みにされた気がした。
透き通る程白い彼女の頬に残る、涙の跡。
(あぁ、君は……僕の代わりに泣いていたのかも知れない)
繊細な彼女にはきっと、繋いだ手から僕の欝屈した思いが伝わってしまったのだろう。
それが例え僕の痛い妄想に過ぎなくても、眼の前の彼女に心が締め付けられ、愛しく思う気持ちに嘘偽りはなかった。
独りで居られたら、なんてどうして思ったりしたのだろう。
彼女が側に居てくれて、僕はどんなに救われたか知れないのに。沢山の思いを優しさを、彼女から貰っていたというのに。
自分が彼女を苦しめてしまったと気付くのは、いつも後になってから。
自分が満たされてからでないと気付けない、僕はそんな年だけを重ね身体が大きいだけの子供なのだ。
情けなくも僕は、彼女が居ないともう一歩も進めなくて―――
でもそれを、こんなに悔しく感じたのは初めてだ。今更ガキだと自覚したからと言って、すぐに変われやしないけれど。
強くなりたい。
彼女の全てを包み込める位、側で支えてあげられる位。彼女が僕にそうしてくれた様に。
その時、もそもそと布団が動いた。
「ん……っ」
「お早う」
「おはよ……。眠れた?」
「うん」
「そう、良かった」
「多分これのお陰かな」
朝まで繋いだままだった手を、軽く持ち上げて彼女に見せた。まだ寝呆け半分の彼女も、流石に驚いて眼を見張る。
「え、これずっと?」
「そう。このままだった」
頷きながら僕が言うと、照れ臭そうに……それでいて幸せそうに彼女は笑った。つられて僕も頬が緩む。
彼女が嬉しいと、僕も嬉しい。それはこんなにも幸せで、簡単な事だったんだと実感した。
「そっか。ねえ……もうちょっと、このままでもいい?」
「うん」
その笑顔を、このささやかな幸せを守る為ならば、僕はきっと強くなってみせる。そう胸に誓い、彼女の白い手にキスをした。
*****************
※2023/11/3 お題【眠りにつく前に】の続き
※BL描写
わざわざポップコーンを皿に盛って二人並んでソファに沈んだところまではよかったのだけれど、隣に座った彼はものの三十分で寝息を立て始めた。ここ一年、気を張り続けていた彼の、肩に伝わる重みが愛おしい。
アプリのサブスクリプションで再生している映画だから、手元のリモコンですぐ止められるのだけど、もうその頃には続きが気になるほどにはストーリーに没頭していたのでそのままにしておいた。
エンドロールが流れても、穏やかな寝息はそのままだった。
「映画、終わったで」
そっと名前を呼んで声をかけるけれど、この態勢で落ち着いてしまって起きることはない。
投げ出されている手に指先で触れる。ゴツゴツしていて、マメだらけで硬い手のひら。この手が好きでたまらない。この手が自分に触れる度に胸が幸福感でいっぱいになる。
「ほら、起きよ」
手をきゅっと握ってみる。すると、その途端に指が動いて彼の手のひらに包み込まれた。
切れ長の瞼は開かれ、瞳はたっぷりと慈愛を含んでこちらを見つめている。
何か言う前に、頬を撫でられる。
「いっしょにねよ」
この甘える声、温かい手、抗えるわけもなくて、彼の胸に身を預けた。彼はそのまま後ろにゆっくり体を倒して横になり、背中に腕を回してくる。
「離れないで」
耳元で囁かれて、瞼を下ろした。
保育園からの帰り道を、母と娘が歩く。今日は少し早い時間にお迎えに行けたので、いつもは感じない夕日が眩しい。
「あのね、それでねぇ、みーちゃんといっしょに、じしゃくであそんだらねぇ」
娘が楽しそうに語る姿が愛おしい。母が仕事仕事で忙しくして、あまりコミュニケーションの取れない母娘の、数少ない憩いの時間が、この保育園からの帰宅の道のりだった。
母の手は、しっかりと娘の小さな手を握っている。母の親指を娘に握らせ、人差し指と中指で娘の手首を挟むこの繋ぎ方は、娘が何かに気を取られたり驚いたりして、急に手を離してしまっても、走りだしたりはできない。手首をがっちり挟んでいるため、ふいに車道に飛び出す心配のない繋ぎ方だった。
これは、母の母──娘の祖母が、母の幼い頃にしてくれた繋ぎ方だ。普通に手を繋いだりもしただろうが、これを聞いてから、母は己の母親から深い愛情を感じたものだった。なので、自分の娘にも実行している。
いつかこの話をしたら、娘も母の愛を感じてくれるだろうか。
楽しそうに保育園での出来事を語る娘に、母はにこにこと相槌を打つ。二つの影は寄り添いながら、長く長く伸びていた。
※BL要素を含みますので苦手な方は回れ右でお願いします。
──────
柔らかい光がカーテン越しに差し込み、ふわふわした感覚で目が覚めた。
眩しい。うっすら開けていた目をキュッと閉じた。
昨日、付き合ってから初めて身体を重ねた。
重だるい腰と足のだるさが残る身体がなぜか心地よくて、悟の心を満たしている。寝返りを打つと少し腰が痛んだが、それすらも幸せな気持ちが溢れてきた。
目の前にいる傑はまだすやすやと眠りについている。その綺麗な寝顔を見つめると昨夜のことを思い出して思わず顔が熱くなった。
俺、変なこと言ってなかったかな。
すごい気持ちよくて、我を忘れたように乱れた自分の姿を回想して傑の顔を見つめるのをやめて枕に顔を埋めた。
やべ。思い出すとすっげぇ恥ずかし…。まだ起きるなよ。今起きたら俺、発狂しそう…。
昨夜の傑はそれはそれは優しかった。終始、痛くない?ちゃんと気持ちいい?と気を遣って聞いてくれたし、悟の嫌がることは何一つしなかった。
傑のなぞる指の感覚を思い出して、しっとりと余韻に浸る。触れられた所を一つ一つ辿っていくと、ゾクッとして"気持ちいい"が溢れてくる。
おでこ、耳、首筋…唇。
そうやって傑の指の感覚を追いながら指を這わせていく。
胸の突起を触ると全身がぞわぞわして少し息があがった。
片手で優しく摘んだりくるくるとなぞったりして傑のやり方を追いかけていく。
次第にそれだけでは足りなくて、左手でそのまま突起を触りながら、右手で傑が教えてくれた一番気持ちいい場所にそっと指を入れた。
「んっ。はぁっ…。」
そこはまだ柔らかくて、ぐちゅぐちゅして温かい。弱い刺激でも全身にピリッとした感覚が駆け抜けていき、我慢できずに指をもう一本増やした。
「あ…。ここ。ここ気持ちいい…。はぁっ、ぁ。」
コリっとした部分にグッと力を込めた。それだけで頭がくらくらする。
目を閉じると、瞼の裏で傑が優しく微笑みかけてくる。
恥ずいからこっち見んなよ。俺、絶対今変な顔してる。変な声が止まらないから、頼むから見ないで…。
そう思えば思うほど、それとは裏腹に身体は素直に反応し、時折ビクンと小さく跳ねた。
目を閉じたまま必死で昨日の傑を思い出して、真似をする。
「あぅ…。あっ。んんっ。あっ、、そこ、やぁ…っ。」
必死に声を押し殺していたつもりだったが、自身の指から与えられる快感が堪らなくてつい上擦った声を出してしまった。
「悟。」
あまりの衝撃にわざとらしいほどビクッと身体が跳ねた。
え…嘘だろ…?傑起きてる…。いつから…?
一瞬にして頭が真っ白になり思考回路は全停止している。悟は目を開けることが出来ぬまま、耳まで真っ赤にしながらふとんを頭までかぶり、羞恥に耐えた。
「朝から可愛いことしてるね。感じてる悟の顔、本当好き。」
そう言って布団を握りしめた手をゆっくりと解き、手を握る。
「忘れろ。」
「やだ。」
傑はふふっと笑うと起き上がり、悟の顔を見下ろす形になった。
両手を絡めて、そっと口付けた。
くちゅくちゅ…
傑の舌が悟の口内に侵入し、いやらしい音が部屋に響いている。
いつの間にか恥ずかしさは消えていた。握り合った手の温もりが心地よくて、幸せが溢れてくる。
好き…。傑が好き。
そう心で唱えると絡めた指をぐっと握った。
【手を繋いで】
「愛斗、オレと駆け落ちしよう」
その言葉はオレが密かに恐れていた言葉だった。
「嬉しいよ でも…」
オレは答えを濁らせる。
旦那への罪悪感と同時に
愛人への後悔が心に襲いかかる。
新婚ホヤホヤのオレが旦那を裏切って
愛人と駆け落ちなんて出来るわけがもちろんない。
オレは愛人を本気にさせすぎてしまった。
今日も別れ際に愛人と手を繋いで部屋の廊下を
ヴァージンロードのように歩き 玄関に向かう。
オレはその言葉の答えを
うつむき考えながら歩いた。
【手を繋いで】
隣を歩くナナセは、相変わらず能天気だ。
黒く艶やかな長髪を風になびかせ、スカートをはためかせながらスキップしたり、たまにジャンプしてみたり。
日本から四季がなくなってしばらくが経った。
春夏秋冬という概念が消滅し、ある日には猛暑、次の日には豪雪。
そんなわけのわからない、異例の天気が続くようになって、僕たちの生活は一変した。
魚は取れず、野菜も取れず。
四季が無い他の国でも、徐々にそのような現象が広がり始めている。
次々に生物が絶滅していき、地球から生物が絶滅するのにそれほど長くはないと言われていた。
もう今までのように、僕たちは有り余る百年という寿命に安心感を覚えることはできない。
たぶん、もう、数年したら死ぬかもしれない。
科学技術が発展して、人工的に作れる農作物も増え始め、人の手で動物を保護している。
だから、もう少し、長く生きられるかもしれない。分からない。
そんな状況下でも、ナナセはやはり能天気だ。
「気楽だね。ナナセは」
僕は思わずそう口にした。
「気楽ー? 気楽だよー。悩み事ないしー、あ! 最近少し太った……とか? それくらいかなぁ。それをいうなら、シンヤ君こそ張り詰めた顔してる」
ナナセは僕の顔を覗き込むようにして、微笑んだ。
燦々と降り注ぐ太陽が隠れ始め、突然冷たい風が吹き込んでくる。
「だって。僕たちの人生は、これからどうなるかなんて分からない。どうしたら、いいんだろ」
僕にはただ一つ。このまま死ぬわけにはいかない、やり残したことがあった。
僕はナナセが好きだ。
とてもとても好きで、銀河がひっくり返っても、太陽が突然地球の周りを回り始めても、それでも彼女のことしか見えない。
それくらい彼女のことが好きなのである。
「私のことは好きですか」
僕の心を見透かしたように、唐突に、ナナセはいじわるな顔をした。
「好きですよ」
僕は正直に言ってやった。
「果たして、その恋は本当に私に向いてますか」
「ええ。向いてます。寸分の狂いなく、君に向いてます」
間違いない。
僕は君しか見えてない。
「私の恋も、シンヤ君に向いてます」
「果たして、君の心臓は、僕にときめいていますか」
「ええ。ときめいてます。それはもうイルミネーション並みにきらめいてます」
ナナセはそう言って、一歩。また一歩。
僕に近づいてくる。
「僕は君と手が繋ぎたいんです」
「果たして、君の手は、切実に私の手を求めていますか」
雪が降り始める。
強く風が吹いて、僕たちの間を白が巡る。
「ええ、求めてます。僕は君の手を、ギュと握りしめたいんです」
僕たちは手を繋いだ。
僕のポケットに、彼女の手を入れる。
それだけで、吹雪の冷たさが何倍もマシになった。
マフラーを取り出し、くるくると巻き、密接に体を近づけ合って。
僕たちは歩く。
離れないために
同じ景色を見ていたいから
どこへ行くのも
君と一緒がいい
繋いだ温もりが
いろんな思い出と共に
僕を幸せにしてくれる
今日も
手を繋いで
歩こうよ
「手を繋いで」
手を繋いで
私には愛しい愛しい恋人がいる。彼と付き合ったのは文化祭の後だった。彼はモテるから、他とは違うことをしなくちゃって、文化祭で告白なんて在り来りな事はぜったいしない!おもしれー女感を出すんだ!とか散々案を練っていたのにも関わらず、彼の隣で見た花火があんまりに美しくて、花火を見る横顔が愛おしくてどうしても我慢できなかった。
「好き!」
と花火に負けないくらいの大きな声で言ってしまった時、頭が真っ白になった。やらかした、と思った。こんな意味わかんないタイミングで…しかもこんな大きい声も出して……終わった……。周りの人の視線と彼の驚いた顔が私に注目した。顔がカアっと赤くなって、俯いた。もう人生のどん底にいる気分だった。これが私の人生最大のやらかし…と落ち込んだ時、思いもよらない言葉が私の耳に飛び込む。
「俺も!」
彼は私よりも大きな声でそう言った。何より眩しい笑顔で嬉しそうに顔を綻ばせた。彼の放った一言とその笑顔で人生のどん底に居た私は一気に有頂天まで持ち上げられた。彼と結ばれることが出来るなんて……私は前世でどんな良いことをしたのだろうか。ありがとう前世の私。ありがとう……。あの瞬間を私は一生忘れないだろうと本気で思ったのだ。確かに人生最大の幸福だった。
そんなこんなで私たちが付き合い出してから四ヶ月が経とうとしていた。好きな人と過ごす季節はあっという間でそのどれもが虹色に彩られている。楽しい時間は早く過ぎるように感じると言うが、まさにその通りだとうんうん頷いた。すっかり寒くなり、制服の上にコートを着ることも当たり前になった。吐く息は白く、霧がかった白い世界は冬を感じさせるには十分だ。そろそろ雪まで降りそうだなあと思う。
「寒いね」
「ね、今日の最低気温マイナス三度だってさ」
「え!マイナス」
「凍っちゃいそう」
彼はふふっと楽しそうに笑う。可愛い。寒さで赤くなっている鼻も、マフラーに埋めた顎も、笑うと細くなる目も、伸びてきて歩く度すこし揺れる茶髪も、ぜんぶぜんぶ可愛いなあ。彼と話す度いつもああ好きだなと思う。四ヶ月経っても、だ。ベタ惚れだという自覚はある。何をしてても、どんな事でも好きだと思うの。これは私がいけないのかなあ、いや、彼が私をこんなにさせてるんだ、と彼のせいにしてしまいたくなる。
でも、でもね。大好きだけど、ちょっぴり不満もあるんだ。何回も言っている様だが、彼とはもう付き合ってから四ヶ月が経つ。四ヶ月の間お互い予定がない時は一緒に帰ってる。晴れの日は身を寄せあい、雨の日は相合傘をして、時に嬉しいことがあった日は自慢しながら笑いあって、時に悲しいことがあった日はちょっと泣いてしまったり慰められたり…。そうやって、二人で色んな時を過ごしてきた。当初より距離はぐんと縮まって、お互いの愛は現在進行形で高まっている。
…そのはずなのに!そのはずなのに!私たちは一度も手を繋いだことが無い!こればかりは本当に頭を悩ませている。最初のころはいつ手を繋ぐんだろうか…とドキドキしていたが、もう今はどうせ今日も…と諦めムードに入ってきてしまっているほどだ。付き合ってからどのくらいで手を繋ぐものなのかと調べたことがあるが、数日で手を繋いだという人も少なくなかったし、一ヶ月でまだ…と悩んでいる人もいた。私なんて四ヶ月だぞ!と名も知れぬ人に物申したい気持ちでいっぱいになった。こうなると私のこと本当に好きなのだろうか、という不安まで付き纏うようになる。彼が私に向ける甘たるい視線や他の人とは少し違う声色や優しい語尾に私のこと好きではあるだろうと思うのだけれど、それでも不安になってしまうものだ。女の子は難しいんだよ。
でも、それを今日私は断ち切るって決めたんだ。待ってるだけじゃダメだって腹をくくった。私は告白もしたんだし、手を繋ぎたいと言うのだって告白の時に比べたらどうって事ないだろう。そう言い聞かせて、はやる心を宥める。ちらりと彼の横顔を見た。いつも通りの横顔は鼻が高くて唇が薄くて、やっぱりいつも通り整っていて思わずうっとり見蕩れてしまう。彼はこちらの視線に気付いて、ん?と不思議そうに首を傾げた。うわあ、女子が好きなやつナンバースリーの仕草だ。キョロっと周りを見渡して誰も居なかったことに胸をなでおろした。良かった周りに誰もいなくて、こんなかっこいいの誰が見たって惚れてしまうだろう。彼は未だに何も分かってなさそうな顔をしていて、かわいい…と言ってしまいたくなったが、私の気持ちも知らないで…とやっぱりちょっとムカついた。彼は手を繋ぎたくないの?ちょっとは焦ったり悩んだりしないの?そんなことを考えていると顔に出ていたみたいで彼が口を開いた。
「どうしたの?なんか嫌なことでもあった?」
私は君のことで悩んでるんだけど!と言いたくなった。はあ、とため息まで出てしまって、彼が心配そうな顔をした。
「もしかして…俺、なんかした?」
お、いい気づきだ。このまま手を繋ぎたいという気持ちを汲み取ってくれるように誘導できないだろうか…と考えて、意地悪なことを言ってみた。
「…まー、そう、かもね」
彼は分かりやすく焦った。わなわなと手を震わせて目を泳がせている。どれだろうと心当たりを探す様が必死でかわいい。その様子を飽きずにじっと見つめていればそのうち彼はハッと思いついた顔をした。ついに気づいたか!と感動した。ごめんねって言って手をぎゅっと握って欲しい。それだけで私は十分なの。私はたったそれだけで全部許して、大好きだって気持ちでいっぱいになれるから。そう次に来る言葉に期待して高鳴る胸を抑えて祈った。来たぞ!来たぞ!と頭の中で嬉しいという気持ちが踊り跳ねる。
「ごめん、俺さ、この間借りたジャージ借りっぱだわ…」
はーーーーー!?喉元まで手がかかった言葉に咄嗟に口を押えた。おいおい、違うじゃん!そんなことどうでもいいの!いや返して欲しいけど!もーーー、なんなの。今はそんなこと重要じゃない。私は…私はただ……!今度こそほんとうにムカついた。それで大きな声で言った。
「寒いね!」
「ぅ、うん?寒いね」
「だから!寒いから!手を、」
彼の顔にはハテナが浮かんでる。ほんとに鈍感なやつ。仕方ないやつ。…それでもこんな愛おしいなあ。
「てを、つなぎたかったの…」
声が震えた。あんなに大きな声を出せたのに、言いたかった言葉はうんと小さくなった。彼はあんぐり口を開けてぽかんとした顔をしている。今まで見たことの無い顔だ。それで何秒か遅れて言葉の意味を理解したあと、顔を真っ赤にした。途端に彼はうわーーっと叫んで、しゃがんだ。私は驚いて、同じようにしゃがんで顔を覗き込む。
「み、見ないで…恥ずかし…」
そんな素直な言葉に私まで照れた。恥ずかしくって、あっつい。
「おれ、も。つなぎたいと思ってたよ」
だったら早く…とかさっきので気づいてよ…とか思うことは色々あったはずだったけど、もうかわいくっていとしくってそんな事どうでも良くなってしまった。彼は勢いよく立ち上がって、私の手を掴んで私を立たせた。うわうわ、手…手を、繋いでる。私たち、手を繋いでる。嬉しくて仕方なかった。そのまま飛び跳ねて走って、どこまでも行けそうな気持ちだった。真正面の彼はまだ恥ずかしそうなのに私からは決して目を離さない。熱い視線に身体が沸騰しそうだった。世の恋人たちはもっとナチュラルに手を繋いでそれが当たり前なのかもしれないけど、私たちは違う。でも違っていいと思えた。だって、こんなにも嬉しい。行こうか、と彼が言って私たちは歩き出した。二人の距離は今までになく近くて鼓動の音まで聞こえてきそうなほどだった。左手の温度が心地よい。二人の歩幅が同じになってぴったりとくっついて二人でひとつになったみたいだ。ずっとこうしていたい。こんな時間がいつまでもつつけばいいのに。
「…これからは、手を繋いで帰りたい」
小さな声で呟いた。周りの音にかき消されてしまいそうなくらい小さかったが、彼はバッチリ聞き取って、もともと赤かった顔を更に赤く染めた。
「お、俺も!」
ギュッと強く手を握られた。そのちょっぴりの痛みが嬉しくって、彼の大きな手を私も負けじと強く握った。何だかおかしくって二人笑いあう。いつも通りの帰路がキラキラとハイライトを落としたように輝いて見えた。初めて手を繋いだ記念日だとか言う人を馬鹿みたいだなと私はそんなことしないと心のどこかで思っていたのに、今日という日に名前をつけたくて仕方がない。帰ったら、カレンダーに印を付けよう。忘れないように。私は大切な宝物がまた一つ増えた気分で胸が幸せでいっぱいだった。
無言で差し出された手を、握っていた。
しばらく歩いていたが反応がない。あっていたのか。間違っていたのか。
もうしばらく歩いてみた。
いよいよ心配になって来た。
そっと顔を盗み見る。
するとそこには夕日のせいではないくらい赤い顔をした君がいた。
つられて赤くなり手が汗ばんできた。
でも、解くのが惜しくなりやはり無言で歩いた。
仙人掌のゆびさきに折れた棘二本そのままの冬あたたかい冬
-2023/12/9
お題「手を繋いで」※①と②の二つ話全く別の話です!
①
「はぐれないようにつかまっていて」
私は言われるがまま服を掴んだ。
手を繋いでくれないんだ...。
少し期待した私が馬鹿みたい。
私は服を掴んだまま人混みに歩いた。
私の体に大勢の人がぶつかる。痛い...。
服を掴んでいて手を繋ぐよりも動きにくく不安だ。
お願い手を繋いで...。
そう言えたら今の状況は違ったのだろうか...。
②
「冷た!?」
季節は夏。
私の手に触れた友達がとっさに呟いた。
私はなぜだか反射的に謝った。
「びっくりしただけ」
と友達は言って私の手を温めてくれた。
どうしてこんなに優しいのだろう。
夏だし暑いから冷たくて気持ちいいだけかもしれないが...。
私は夏でも手が冷たいことがらしい多い。
私は冷たいことに慣れてしまってあまり自分の手が冷たいことに気がつかない。
温めてくれてすごく嬉しい。
ただ冬は友達の手が冷たくなってしまう。
私は手が冷たいことには慣れていて自分ではあまり冷たいとか寒いとかは感じないので平気だが私の手を温めて友達が風邪をひいてしまわないか心配だ。
別に手が冷たくて不便だと思ったことはない。
だが冬は
自分の冷たい手をとても恨む...。
「つなぐのはいや」を赦して顎ウールにくるむきみとなら生きてたい
「手を繋いで」
今日も一体何回この子達に怒ったんだろう
ふと鏡を見ると怖い顔の自分が写っていて、
あーこんな顔で我が子に接しているんだな、
嫌な母親だなと
何故か冷静に分析している自分がいた
でも沢山怒ったけれど、
いつもよりも沢山笑ったし
ずーっと一緒にいて濃い一日だった
我が子をこれでもかというくらい堪能し満喫しお腹いっぱいできっと幸せなんだろう
ご飯中にお菓子を食べたいと駄々をこねる下の子
私が怒っていると、
さっきまで兄弟喧嘩ばかりしていた上の子が
ママが鬼になっている…どうにかしなきゃ!とばかりに
下の子に一生懸命ごはんを食べさせたり、
ご飯食べてからにしようね?などと
説得してくれている
それを見て、あー怒りすぎているんだな、と
反省したし、すごく救われた
自分一人じゃなくて一緒に戦ってくれる存在
ありがとう
今温かなふたりが私の横ですうすうと
安らかに眠っている
ぎゅっと手を繋いで、
少しでもいい夢を見てくれますようにと
鬼の私ではなく優しい笑顔の私が
出てくるような夢でありますようにと
願ってやまない
手を繋いで
どのタイミングで手を繋いだらいいんだろう…初めて言葉を交わしてからひと月…初めて、一緒に過ごす休日、待ち合わせ時間のずっと前に、来たけれど…胸のドキドキが激しくて、手汗も気になる…昨夜も、小学生の遠足みたいに、寝付けないくらいに…初めての休日デイト、周りの恋人同士みたいに、指を絡めて歩いてみたい…段々と近付く約束の時間、止まらない胸の高鳴りに…
『手を繋いで』
手を繋いで歩いた。向日葵の咲く丘だった。真っ直ぐに太陽に向かって咲く花の、眩しい黄色が目に痛かった。遠く近く立ち上る陽炎を、透明な炎の揺らめきと表現したのは誰だったか。その熱さに焼かれて、そのまま灰になって消えてしまえればよかった。
20.手を繋いで
「お前ん家、おっばけやーしきー!」
君の耳元で叫んだ。君は何も反応がない。
いつものことだ。僕は死んでいるからね。
それはそうだ。っと肩をすくめて笑った。
僕は君の横顔を見る。前は恥ずかしそうに
「やめてよ。笑」って言っていたのに今はこんなに
近づいてもこっちを見ることはない。君に触れたくて
手を伸ばしてもすり抜ける。
わかっていることだが、やっぱり悲しい。
君は夜になると泣いていた。僕のことでね…
僕はいつも優しく声をかけてあげていた。
いつか君に声が聞こえると信じて
「いつも君のそばにいるよ。君を見守ってる。」
君は泣き疲れたのかそのまま寝てしまっていた。
僕は君をできるはずのないハグをして。
できるはずのない君の手を握った。
「もう一度、生きてる時に手を繋ぎたかったよ。」
と、僕は涙を流していた。