【手を繋いで】
隣を歩くナナセは、相変わらず能天気だ。
黒く艶やかな長髪を風になびかせ、スカートをはためかせながらスキップしたり、たまにジャンプしてみたり。
日本から四季がなくなってしばらくが経った。
春夏秋冬という概念が消滅し、ある日には猛暑、次の日には豪雪。
そんなわけのわからない、異例の天気が続くようになって、僕たちの生活は一変した。
魚は取れず、野菜も取れず。
四季が無い他の国でも、徐々にそのような現象が広がり始めている。
次々に生物が絶滅していき、地球から生物が絶滅するのにそれほど長くはないと言われていた。
もう今までのように、僕たちは有り余る百年という寿命に安心感を覚えることはできない。
たぶん、もう、数年したら死ぬかもしれない。
科学技術が発展して、人工的に作れる農作物も増え始め、人の手で動物を保護している。
だから、もう少し、長く生きられるかもしれない。分からない。
そんな状況下でも、ナナセはやはり能天気だ。
「気楽だね。ナナセは」
僕は思わずそう口にした。
「気楽ー? 気楽だよー。悩み事ないしー、あ! 最近少し太った……とか? それくらいかなぁ。それをいうなら、シンヤ君こそ張り詰めた顔してる」
ナナセは僕の顔を覗き込むようにして、微笑んだ。
燦々と降り注ぐ太陽が隠れ始め、突然冷たい風が吹き込んでくる。
「だって。僕たちの人生は、これからどうなるかなんて分からない。どうしたら、いいんだろ」
僕にはただ一つ。このまま死ぬわけにはいかない、やり残したことがあった。
僕はナナセが好きだ。
とてもとても好きで、銀河がひっくり返っても、太陽が突然地球の周りを回り始めても、それでも彼女のことしか見えない。
それくらい彼女のことが好きなのである。
「私のことは好きですか」
僕の心を見透かしたように、唐突に、ナナセはいじわるな顔をした。
「好きですよ」
僕は正直に言ってやった。
「果たして、その恋は本当に私に向いてますか」
「ええ。向いてます。寸分の狂いなく、君に向いてます」
間違いない。
僕は君しか見えてない。
「私の恋も、シンヤ君に向いてます」
「果たして、君の心臓は、僕にときめいていますか」
「ええ。ときめいてます。それはもうイルミネーション並みにきらめいてます」
ナナセはそう言って、一歩。また一歩。
僕に近づいてくる。
「僕は君と手が繋ぎたいんです」
「果たして、君の手は、切実に私の手を求めていますか」
雪が降り始める。
強く風が吹いて、僕たちの間を白が巡る。
「ええ、求めてます。僕は君の手を、ギュと握りしめたいんです」
僕たちは手を繋いだ。
僕のポケットに、彼女の手を入れる。
それだけで、吹雪の冷たさが何倍もマシになった。
マフラーを取り出し、くるくると巻き、密接に体を近づけ合って。
僕たちは歩く。
12/9/2023, 3:00:55 PM