保育園からの帰り道を、母と娘が歩く。今日は少し早い時間にお迎えに行けたので、いつもは感じない夕日が眩しい。
「あのね、それでねぇ、みーちゃんといっしょに、じしゃくであそんだらねぇ」
娘が楽しそうに語る姿が愛おしい。母が仕事仕事で忙しくして、あまりコミュニケーションの取れない母娘の、数少ない憩いの時間が、この保育園からの帰宅の道のりだった。
母の手は、しっかりと娘の小さな手を握っている。母の親指を娘に握らせ、人差し指と中指で娘の手首を挟むこの繋ぎ方は、娘が何かに気を取られたり驚いたりして、急に手を離してしまっても、走りだしたりはできない。手首をがっちり挟んでいるため、ふいに車道に飛び出す心配のない繋ぎ方だった。
これは、母の母──娘の祖母が、母の幼い頃にしてくれた繋ぎ方だ。普通に手を繋いだりもしただろうが、これを聞いてから、母は己の母親から深い愛情を感じたものだった。なので、自分の娘にも実行している。
いつかこの話をしたら、娘も母の愛を感じてくれるだろうか。
楽しそうに保育園での出来事を語る娘に、母はにこにこと相槌を打つ。二つの影は寄り添いながら、長く長く伸びていた。
12/9/2023, 3:05:04 PM