『手を繋いで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
暗闇の中
しっかり握りしめて歩いた
ほら、もう大丈夫
そっとひらいて
光をのせよう
「手を繋いで」
#267
【手を繋いで】
小さな頃、入るなと常々聞かされてきた森に好奇心で入ったことがあった。
自分の背丈より何倍も大きい木々。恐ろしいほどに何も聞こえない森の中。
虫や小鳥が鳴く音はまだしも、木が擦れる音さえも聞こえなくて、小さいながらも底知れない恐怖を感じたのを覚えている。
お母さんとお父さんの居る家に戻ろうと思い後ろに振り返ったが、いつの間にか森の深いところまで来ていたようで、どこをどう行けば良いのか分からない。
早く帰りたいのに、歩いても歩いても森から出ることが出来ない。
怖くなって、泣きそうになっていた時だった。
こっちよ、こっち。
きゃははっ、そんな笑い声と共に、同じ位の歳の女の子の声が聞こえた。
ぐるりと周りを見渡すが、誰も居ない。
おーいで、おいで、声の聞こえる方に。
んふふふ、また笑い声と共に声が聞こえた。
誰でもいいから人に会いたいと望んでいた体は、ふらふらと声の聞こえる方に向かって行っていた。
歩いている間にも、止めどなく声が聞こえてくる。
声が聞こえる度に笑い声も聞こえてきて、なんて明るい子なんだろうと頭の片隅が考えていた。
どれくらい歩いただろうか、いつの間にか目の前に大きな大きな鳥居が立っていた。
見慣れている赤色の鳥居ではなくて、白色に金色の模様が入ったやつ。
信じれないほどに綺麗で、暫く見惚れた気がする。
おいで、階段の上よ。
あはは、また笑い声と一緒に声が聞こえた。
白の鳥居をくぐって、階段をどんどんと登っていく。
階段の周りは霧が立ち込めていて、上に伸びている階段以外のものは全く見えなかった。
段数を重ねる毎にどんどんと辺りが暗くなってきて空を見上げると、早送りをしたみたいに空の時間が過ぎていた。
不思議に思いながらも階段を登っていくと、足を踏み出した瞬間に後ろから手を掴まれて体がつんのめる。
ばっと後ろを振り返ると、10歳位の男の子が自分の腕を掴んでいた。
顔の上半分を黒色に金色で装飾した狐面で隠している。
『…だめだ、帰れなくなるぞ』
ハウリングしたような声が脳みそに直接響いてきて驚く。
何が起きているのか分からずに目を白黒させていると、男の子は説明もせず自分の手を引いて階段を降り始めた。
「なんでかえれないの?」
『…ここのやつが悪いやつだからだ』
ふーん、とあまり分からないまま返事を返す。
自分から話題を広げる気は無いのか、静かに階段を降りていく狐面の男の子。
「きつねのおめんかっこいいね」
『…そうか』
あ、ちょっと照れてる。
照れさせたことに気分が良くなって、上がった気持ちで階段を降りていく。
手元を見ると、優しく、でも決して離さないように手を繋がれていて、なんだか嬉しくなった。
『…手は離すなよ』
「はなさないよ」
ぎゅっと手を握って、離さないことをアピールする。
それで少し満足したのか、男の子は少し止めていた足を再び動かした。
手は、しっかりと握ったまま。
これは、手を繋いで森から出してくれた、あの男の子の記憶。
本当にあったことなのか、自分でも分からない記憶。
でも、あの時の手の暖かさは今でも思い出せる、不思議な記憶。
あなたの体温を感じる。
あったかい。
やさしい。
とても綺麗。
純粋無垢。
誰にも触れられたくない。
このままでいてほしい。
自分でもびっくりする。
こんなにも愛情を感じるのは初めて。
手は届かない。
あなたは差し伸べてくれているのかな。
光が輝やきすぎて見えない。
……いや、手が無いのか?
あなたは手を差し伸べないのではなく。
差し伸べられないのか。
あなたは泣いてる?
大丈夫だよ。
手がなくても、抱きしめるんだ。
そうすれば気にせずに済むよ。
手が無くとも、顔に傷ができようと。
頭を剃ろうと、殴ろうと。
イラつくも悲しいも苦しいもあるだろうさ。
でも、最後はやっぱり愛があるんだ。
どんなあなたでも愛そう。
ほら、こっちおいで。
抱きしめるから。
_2023.12.9「手を繋いで」
心で手を繋げれば、それでいい。
ジグザグが強く食い込む冬の道
恥ずかしい名前のつなぎ方を握りしめて
(手を繋いで)
「手を繋いで」12/9
手を繋いで、落ちていこう
明るい未来の為に
来世があるかは分からないけれど、
次も、貴女と一緒にいられるように
手を繋いで
伝わる温度を求めて
お人形と真似事をするの
心の穴を埋めるように
だけど
虚しくなるほど
手の中のそれは冷たくて
結局ひとりでは
生きていけないのだと
酷く思い知らされる
手を繋いで抱き締めて
優しく頭を撫でるような
そんな些細で稀有な触れ合いが
心を慰める
僕は手をつなぐのが好きだ。
お母さんと手をつなぐ。
とても優しくてあったかい手。
お父さんと手をつなぐ。
大きくて頼もしい手。
みんな手があったかくて心もあったかい人ばかりだ。
でも、そんなお母さんとお父さんはもあいない。
だから、僕があったかい手で迷子の子供や困ってる人の手を取るんだ。
きっとお母さんやお父さんも喜ぶ。
とあるところに一人の男がいました。
男は生まれた時からひとりぼっちで、
誰も友達にはなってくれませんでした。
男の部屋にあるブラウン管テレビから
こんな歌が流れてきました。
『友達100人目指そう!隣人も友人♪
怖がらないで~歩み寄って〜
さあみんなで手を繋ごう♪』
そうだ、自分から歩み寄らねばいけなかったんだ
それから男は老若男女とわず捕まえてきては
無理やり自分の友達にしました。
男の杜撰な縫合技術により、彼らの手と手を繋ぎ合わせ、ひとつの輪を作り上げていきます。
そして月日は経ち、
男は友達100人作ることに成功したのです。
彼らは仲良く手を繋いで男を取り囲みます。
冷たくなった友達の輪の中で
男は幸せそうにいつまでもいつまでも踊り続けました
おしまい
お題「手を繋いで」
心温まる話が出てこない。
むしろ、手を繋ぐ……パーソナルスペースを越える身体接触?
外国人は挨拶としてよく握手するが、お辞儀文化の日本人の距離感に慣れていると、人の手に触れることに抵抗がある。
子どものときは手繋ぎ鬼をしたり大人と手を繋いだり、わりと平気だったのが、自我が固まってくると他人との接触にためらいが出てくる。危機回避のためには自然なことかもしれない。
もう一生することはないだろうフォークダンスとか、介助とか、必要に迫られてする以外で、手を繋ぐという行為は性別問わず信頼する相手でないと厳しい。
手を繫げそうな相手を思い浮かべるとごく少数で、やはり特別に思っている人たちだ。
『手を繋いで』
私は和菓子が大好きだ。
20年以上の付き合いになるヤスコは、私が落ち込んだ時は励ましに、良いことがあった時は一緒に喜びに、甘味処に誘ってくれる。
あんみつ、ぜんざい、抹茶アイス…数々の美味しいものをたくさん一緒に食べてきた。
近頃は洋菓子店が増えたように感じるが、毎回いろいろな場所で美味しい甘味処を見つけてきてくれて、ありがとうの気持ちがどんどんと大きくなってくる。
だけど本当は、ヤスコは洋菓子の方が好きなんだよね。和菓子を食べる機会の方が圧倒的に多くてごめんね。「一緒に食べられるなら何でもいい!」って言ってくれたのは本当に嬉しかった。ありがとう!
君の手は冷たい。
私の手も冷たい。
でも、手を繋げば
カイロを触るより
ポッケに手を入れるより
暖炉に当たるより
手も、心も
暖かくなるの。
【手を繋いで】
#1
手を繋いで、繋ぎ返して、
私のよりも一回り二回り大きい、
その骨貼った暖かい手のひらを、
もし私が、
貴方が朝家を出る時に握った手を離さなければ、
もし私が、
貴方が二度寝しようと駄々を捏ねた手を離さなければ、
貴方はまだ私の手を握っていてくれたのかな。
私が寂しい時、ずっとそばにいるって、言ったじゃん。
こうやって手を握るよって、言ってくれたじゃん。
ねぇ、私幽霊ダメって言ったけど、
それは嘘だから、
幽霊で良いから、幽霊が良いから、
貴方であれば本当にそれで良いから、
ほんの少しだけ、この月が出て居る時だけ、
この涙が渇くまで、
側で手を繋いでいてよ…
相手を信頼しているという証明。
傷つけることもできるのに、それを封じる。
私たちは強い。
お題:手を繋いで
[手を繋いで]
ゆっくりでいいから歩いて行こう
君がもう駄目だなて思ったら
僕の手を貸して繋いであげるから
また一緒に手を繋いで
あの世に流れていこう
繋いた手から
強さから
愛が伝わって来たよ
でもその手で
私の携帯を
見た
記憶を
思いを
見て
その手は冷たく
力弱くなった
手を繋ぐのが
好きな人だった
この子が誰かと手を取って…
僕の手を離す日は…
そんなに…
いつか必ず来るから…
だからお願い…
この子の幸せを…
お願いだよ…
時間を…
時間を下さい…
もう少しだけ…
俺に時間を下さい…
最期の時間は…
この子に記憶を…
手の温もりを残したい…
愛された記憶を…
……
幸せへと たどり着く近道は知らない
限りのない毎日に悔いは残さない
喜びと悲しみ背中合わせ
燃える涙は こぼれ落ち…
松山千春 燃える涙
ー九重親方 工藤公康さんの生き方に感謝してー
キミといつまでも
永遠を夢見ていた
そんな青い景色を
大切に仕舞ってさ
今此処で眺めてる
キミは星になった
もう届かないんだ
そう言い聞かせた
キミではなかった
ボクではなかった
ただそれだけの話
『手を繋いで』
手を繋いで
どこかに行こう。
近所に綺麗な花が咲いてる道があるんだ。
そこを通ってスーパーで好きなお菓子をたくさん買って帰ろう。
今日は特別。
ねぇ、いいでしょう?
「もし明日死ぬとしてどんな風に死にたいですか?」
まるで明日の天気を聞くみたいにサラッと口にした。
覚えたての用語をすぐに乱用するのは小学生のようだが、先生の貸してくれた本の影響なのだからこれぐらい許して欲しい。
「また随分物騒な…死ぬ…。あぁ、昨日の本のこと?」
「そうですっ、で、どうなんです?」
正直ミステリアスな先生の死生観は気になる。
どんな風に生きることを捉えているのかあの本を読んでから知りたくなってしまったのだ。
「そういう貴方は?どうやって死にたいのさ」
かけていた眼鏡を外して優しく机の上に置く。
予想外の質問にワンテンポ返事が遅れてしまう。
そう言われても自分が死ぬ想像などまだできない。
このまま時間が進むなら永遠に生きれる気さえする。
「ぁ…えと……ん~寿命ですかね、無難に」
「まぁ、一般的な答えだね。普通」
つまらないって顔に書いてありますよ。
先生が聞いてきたくせに。なんて可愛くないことは言わないけど。
「私は言いました。先生の聞かせてくださいよっ」
「じゃあひとつ約束して、俺がどんなことを言っても引かないって」
「わ、分かりました…引きません」
先生のつめたい小指が私の小指にきゅっと絡まる。
絡ませた指先は氷のようにつめたく私の熱が奪われてゆく
約束、と小さく口にした先生は内緒話をするみたいに声のトーンを一段階落として、言った。
「俺はねぇ…好きな人と心中したいの。その人が望むならどんな死に方でも受け入れるよ。よく死ぬ迄一緒って言葉があるでしょう?でも俺は死んでからも好きな人と一緒に居たいなぁって…ぁ、引いてる?」
「い、いえ引いてません。全然これっぽっちも」
「ほぉら、やっぱりこうなるじゃない。完全に引いてる反応なのよそれは。…そんな貴方にこれをオススメしてあげる、はい」
ぱっと繋がった手を離した先生は積み上がった本の山から1冊の本を取り出した。
「人間失格…、」
「その中で着物の帯で2人を縛って心中する描写があるんだけどそれが俺の理想。まぁでも現代に帯なんて少ないだろうし手なんか繋いでさ、死んでも一緒ってね」
「へぇ…先生って案外ロマンチストなんですね」
「あ、ありがとう…?」
曖昧な言葉を繋いで誤魔化した。
だって一瞬でも、最後まで先生と人生を共に出来たらどれだけ幸せか想像してしまったから。
先生の最後の記憶に残るのが私だったらいいのに。
2023.12.9『手を繋いで』
一番古い記憶は幼馴染家族と行った近所の小さなお祭り。3歳位だっただろうか。人混みで親とはぐれて泣きそうになりながら、2歳年上の彼と手を繋いで探し歩いた。
職場に母が倒れたと連絡が入り、同僚に謝り倒して病院に向かった。すでに手術を終えていた母はたくさんの管に繋がれたまま穏やかに寝息を立てていた。久々に見た母の顔はシワやシミが増え、痩けている。しばらく帰省していなかったことに気付いた。
「久しぶり」
ぼんやりと痩せ細った母の手を撫でていると、聞き慣れない声が聞こえた。小学生以来ろくに話もしていなかったはずなのに、顔を見ると何故か安心した。
「ありがとう」
無意識に目頭が熱くなる。静かに隣に座ると、するっと手を繋がれる。こんなゴツゴツした手は知らないはずなのに、懐かしい温かさに涙が溢れた。