「もし明日死ぬとしてどんな風に死にたいですか?」
まるで明日の天気を聞くみたいにサラッと口にした。
覚えたての用語をすぐに乱用するのは小学生のようだが、先生の貸してくれた本の影響なのだからこれぐらい許して欲しい。
「また随分物騒な…死ぬ…。あぁ、昨日の本のこと?」
「そうですっ、で、どうなんです?」
正直ミステリアスな先生の死生観は気になる。
どんな風に生きることを捉えているのかあの本を読んでから知りたくなってしまったのだ。
「そういう貴方は?どうやって死にたいのさ」
かけていた眼鏡を外して優しく机の上に置く。
予想外の質問にワンテンポ返事が遅れてしまう。
そう言われても自分が死ぬ想像などまだできない。
このまま時間が進むなら永遠に生きれる気さえする。
「ぁ…えと……ん~寿命ですかね、無難に」
「まぁ、一般的な答えだね。普通」
つまらないって顔に書いてありますよ。
先生が聞いてきたくせに。なんて可愛くないことは言わないけど。
「私は言いました。先生の聞かせてくださいよっ」
「じゃあひとつ約束して、俺がどんなことを言っても引かないって」
「わ、分かりました…引きません」
先生のつめたい小指が私の小指にきゅっと絡まる。
絡ませた指先は氷のようにつめたく私の熱が奪われてゆく
約束、と小さく口にした先生は内緒話をするみたいに声のトーンを一段階落として、言った。
「俺はねぇ…好きな人と心中したいの。その人が望むならどんな死に方でも受け入れるよ。よく死ぬ迄一緒って言葉があるでしょう?でも俺は死んでからも好きな人と一緒に居たいなぁって…ぁ、引いてる?」
「い、いえ引いてません。全然これっぽっちも」
「ほぉら、やっぱりこうなるじゃない。完全に引いてる反応なのよそれは。…そんな貴方にこれをオススメしてあげる、はい」
ぱっと繋がった手を離した先生は積み上がった本の山から1冊の本を取り出した。
「人間失格…、」
「その中で着物の帯で2人を縛って心中する描写があるんだけどそれが俺の理想。まぁでも現代に帯なんて少ないだろうし手なんか繋いでさ、死んでも一緒ってね」
「へぇ…先生って案外ロマンチストなんですね」
「あ、ありがとう…?」
曖昧な言葉を繋いで誤魔化した。
だって一瞬でも、最後まで先生と人生を共に出来たらどれだけ幸せか想像してしまったから。
先生の最後の記憶に残るのが私だったらいいのに。
2023.12.9『手を繋いで』
12/9/2023, 1:38:00 PM