『忘れられない、いつまでも。』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
(忘れられない、いつまでも)(二次創作)
今まで数多の牧場主がこの土地に来て、様々な人生を送り消えていったのを、女神はずっと見ていた。ミネラルタウンは彼女の箱庭であり、愛すべき小さな世界である。女神の姿を見、その声を耳にできる人間は牧場主を除き皆無だが、女神の愛は牧場主含め街の人間すべてに惜しみなく注がれていた。
それは、昨日まで降り続いた雨がやみ、まだ雲の残る空に綺麗な虹の掛かった春の終わりのことだった。女神はその日、マザーズ・ヒル中腹の湖の中にいた。
「こんな日は、どうしても思い出しちゃうわねえ」
「…………」
相対するはかっぱ、もう一人のこの地の神である。但し、女神と異なり、人間をはじめとした他者に一切の興味を抱かない存在でもあった。
「ねえ覚えてる?あなたと絶対結婚するんだって息巻いてた子がいたじゃない」
かっぱはふい、とそっぽを向くと、泉の底の方に泳いでいった。つまんないの、と呟く女神の目は笑っている。そう、その牧場主は、今まで出会った牧場主の中で一番奇抜な人間だった。
牧場に来た初日にかっぱを釣り上げ、かっぱに一目惚れをしたらしい彼は、毎日湖に通いながらもかっぱに認められるべく奔走していた。出荷できるものは全て出荷し、全種類の坂を釣り上げ、かっぱの秘宝だって手に入れた彼を、かっぱは全く気にしないままに年数が過ぎていく。そうして6年目になり、かっぱへの結婚が教会で許された日、その牧場主は、街の娘と結婚した。
妥協なのかもしれない。娘の一途な想いに負けたのかもしれない。とにかく、その日から彼は、二度と湖の前に現れることはなかった。それどころか、泉にすら足を運ばない。別に、女神は彼の決断を非難するつもりはなかったのに。
(家畜を極めた牧場主、大農場を作り上げた牧場主、まったく何もせずに寝てばかり過ごしていた牧場主、街の若者全員と恋人になった牧場主、いろんな牧場主がいたけれど)
女神は思い出して笑う。
(虹を見上げたまま寿命を終えたあなたが、一番面白かったわ。かっぱちゃんを振り回したあなたが、ね)
「忘れられない、いつまでも。」
今日は自分にしては珍しく遠出をする。時々聴いているドビュッシーのピアノ曲を集めたコンサートが開催されると聞いて興味を持ったんだ。
「あ!!!今日はちょっと早起きだね!!!お出かけかい?!!」
おはよう。今日は少し出かけるから留守番を頼む。
「留守番って!!!ボクはキミにしか見えないんだから呼び鈴を押されても何にも出来ないよ?!!だから!!!ボクもキミについて行くことにするよ!!!いいでしょ?!!」
……構わないが、コンサートだから静かにするんだぞ?
「やったー!!!」
こうして、自称マッドサイエンティストとともにピアノコンサートに行くことになった。
コンサートホールまで電車に乗って向かう。
休日だからだろうか、この時間でも珍しく空いている。
「前に乗った時も思ったんだけど、電車の中って意外と広告がいっぱいだよねー!!!へー!!!あれ見てよ!!!さくらんぼフェスタだって!!!気になる!!!」
広告を見てあいつははしゃいでいる。
そんなに面白いものなのだろうか?
自分も釣られて広告を見る。雑誌、イベント、旅行。色々ある。
「ねー!!!あとでさ、日帰りでいいから旅行に行こうよ!!!」
急に何を言い出すかと思えば……。
「ほら!!!これこれ!!!このチケットを買えば海の見える綺麗な町や古い城下町、秘境にある神社まで行けるんだって!!!すごいじゃないか!!!」
広告を指差しながら言う。
「交通費もお土産代もボクが出すからさ!!!」
……わかったよ。「やったー!!!」
話しているうちにコンサートホールの最寄駅に着いた。
コンサートのはじまりを沈黙とともに待つ。
幕が開く。静かな旋律に、音の光に耳を傾ける。
月の光、アラベスク第一番、夢想。
それから、亜麻色の髪の乙女、水の反映、沈める寺。
かつて孤独と不安を埋めてくれた曲たちが演奏された。
透明で深い青色の、淡い光に包まれるような、そんな不思議な心地だ。自称マッドサイエンティストも静かに曲を聴いている。
全ての曲が演奏されて、コンサートは幕を閉じた。
もっとこの時間が続けばいいのに、そう思いながら席を立った。
「いやぁ、素晴らしい演奏だったね!」
「ニンゲンは絵や彫刻だけではなく音楽を使って何かを表現することもあるのか!!!俄然興味がわいてきたぞ!!!」
「よし!!!このままの勢いで日帰り旅行に行くよ!!!」
そういって元気そうに走り出す。自分としてはもう少し余韻に浸りたいのだが......。
まあいいか。とにかくおいて行かれないように速足で駅まで向かった。
「あ、そういえばどこに行こうか?!!何も決めていなかっただろう?!!ボクはおいしいものがたくさん食べられる綺麗な町に行きたい!!!」
……そうだな、その町に行こうか。
しばらく電車に揺られながら、窓から見える風景を見つめる。
知らない街並み、たくさんの花、広大な海。
まだ何も決めていないのに、なんだかワクワクする。
あいつは相変わらず車内広告に興味津々で、随分とはしゃいでいる。
「百貨店でいろんな文房具が買えるみたいだよ!!!」
「来月にお祭りがあるんだって!!!ボクも行きたい!!!」
少しは静かにしたほうがいいんじゃないか?
「どうせキミ以外にボクを認知するニンゲンはいないんだからいいだろう?!!」
「それよりも、この広告のキャッチコピー、なかなかいいと思うんだが!!!見たかい?!!」
そういって近くにあった広告を指さす。
「忘れられない、いつまでも。」手書き風の字体で書かれたシンプルなメッセージだ。
何の変哲もない、よくあるキャッチコピーだと思ったが、どこに惹かれたんだろうか。
「ご存じの通り!!!ボクは途方もない時間を公認宇宙管理士として過ごしているのさ!!!確かにデータとして今までの記録は残っているが、おそらくいつまでも忘れられないなんてことはそうそうない!!!」
「だからこそ、いつまでも忘れられないような思い出を作りたいのだよ!!!キミと一緒にね!!!」
……そうだった。あんたは自分よりもずっと長い時間、ほとんど一人で宇宙を管理しているんだったよな。
いくら宇宙が好きだからと言っても、楽しいことばかりをしているわけじゃないだろう。
……少しでも楽しい時間が過ごせたら、きっと苦労も報われる。そう信じたい。
「あ!!!そろそろ着くよ!!!」
嬉しそうに電車を降りて、海のよく見える町へと向かう。
天気がいい。海も町もとても美しかった。
「ここ、すごくいい匂いがする!!!海の幸をたっぷり使ったスパゲッティだって!!!さあ!!!ここでランチでもいかがかな?!!いいでしょ?!!」
言われるがままにレストランに入り、お目当てのスパゲッティを注文する。十分に食べられるように大盛りにした。
「海辺の町だから新鮮な魚介類が食べられるんだろうね!!!楽しみだよ!!!」
程なくしてスパゲッティが出された。たしかに美味そうだ。
「いっただっきまーす!!!おいしい!!!」
……美味い。旨みという旨みが凝縮している。こんなに美味いスパゲッティを食べたのはいつ振りだろうか。
「ごちそうさまでした!!!」
あっという間に食べ終わってしまった。
「次はガラス細工のお店に行こうか!!!この町はガラス細工で有名らしいね!!!せっかくだから思い出を形に残しておこうよ!!!」
……休む間もない。まあいいか。
レストランを出てすぐのところにガラス細工を扱う雑貨屋があった。動物や花、食べ物を模ったものから精巧に作られた食器、サンキャッチャーなど多種多様なガラス製品が並んでいる。
「好きなものを一個ずつ選ぼう!!!」
おい、あんまりはしゃぐなよ?割れたら洒落にならないから。
「わかってるよー!!!」
自分はこの町のシンボルである白い灯台のガラス細工を、自称マッドサイエンティストは桜餅を選んだ。……桜餅のガラス細工なんてあるのか……。
「それじゃあ、最後にあの灯台に登ってみようよ!!!」
気づけば夕方が近づいていた。もうそんな時間か。
そう思いながら灯台へと向かう。
「灯台って思ったより背が高いんだねぇ!!!これ、展望台に上るの大変なんじゃないかな?!!」
……そうだな、と思いながら灯台へと入る。
中にはエレベーターが付いていた。これで展望台まで行けるらしい。
「なーんだ!!!エレベーターがあるのか!!!」
夕焼け色に染まりつつある海と街並みを見下ろす。
静かな海とうっすら赤い太陽に照らされる町が見えた。
ここに来たのは初めてなのに、なぜかとても懐かしい気持ちだ。
海風に吹かれて揺れる柔らかいミントグリーンの髪の毛を見て思った。
またいつか、あんたとここに来たいな。
「じゃあ、明日もここに来ようよ!!!」
もう少し間を空けないか……?
とにかく、今日は忘れられない日になりそうだ。
忘れられない、いつまでも
「傍にいてよ。僕には君しか居ないんだよ。別れてから君を忘れようとして違う子と付き合おうとしてもダメだったんだ。君を忘れられない、いつまでも傍に居るって言ってたあの言葉は嘘だったの?嘘じゃないよね。だからずっと離れないよ。」
昔一度だけ、父にあった事がある。
暗い赤の瞳にたくさんの感情を乗せて、ただ私を見ていた。
怒り。悲しみ。迷い。
そんな父が呟いた言葉を、今も覚えている。
「どうした?」
「何でもない。少しだけ、お父さんの事、思い出してた」
ゆるりと首を振ると、触れているだけだった手をそっと握られた。
優しい人だ。そして、とても強い人。
自分の中の想いに押し潰されない、強くて優しい人。
父〈あのひと〉とは違う。
「あの、さ」
「なあに?」
「多分だけど、寂しかったんだと思う。好きで、誰よりも大切にしたかった人がいなくなって、寂しくて、会いたくて」
「うん」
きっと、それは正しい。
父は弱い人だった。
ずっと母だけを求めていた。それ以外は見えなくなってしまっていた。
自分の中の想いに潰されて、食べられて。
そうして、残ったものが変わっていってしまったのだ。
「俺はまだ子どもだから、まだ全部は分かんねぇけど、大切な人がいなくなるのはきっとダメだ。もう一度会えるなら、それしかないなら、俺も同じになると思う」
そう言っても、同じ事にはならないのだろう。もしその時が来たとしても、彼は絶対に道を間違えたりはしない。
知っている。
彼は、彼自身よりも他を選ぶような、そんな優しい人だ。
「だから、さ…あの人は、シロを憎んではいなかったよ。寂しくて、間違っただけなんだ」
彼なりの不器用な慰めが、背中合わせの温もりが何だかとても心地良かった。
「…会えたかな」
「何?」
「お父さん。お母さんに、会えたのかな」
人の身で常世に渡った父を思う。
常世の瘴気は、現世に生きる人を腐らせてしまうといっていた。
体も、魂も。全てを腐らせ、土に還すのだと。
「会えたさ。どんな形でも。会いたいって望んだんだから」
「そっか…ありがとう」
彼の言葉に、目を閉じる。
「あのね。ちゃんと、知っていたよ」
繋いだ手は、まだ離れない。
「知っていたよ。お父さん、不器用なんだって」
一度だけ会った、父の言葉を今も覚えている。
『シオンがいたら、ちゃんと愛せたのかな…ごめんな』
瞳にたくさんの感情を乗せて。
触れようと伸ばした手を、伸ばせずに握りしめて。
『ごめん』
まるで泣いているみたいな表情〈かお〉をした父を。
きっとこの先も忘れる事なんてできない。
「だから、」
「ツキシロ」
夜みたいに静かな声音で、彼が呼ぶ。
「ん、なあに?」
「ツキシロ」
もう一度、彼に呼ばれて、背中の温もりが離れていく。
それでも、手は繋いだまま。
その手を引かれて振り返ると、そのまま優しく抱きしめられた。
繋いでいない片手が、背中を宥めるように撫でていく。
「がんばったな。いい子いい子」
「っ、子ども扱い、しないでよ」
「まだ子どもだろ、俺達」
「バカ、クロノの大バカ、悪い子、バカ」
「だからバカ多いって」
背中を撫でる手は、どこまでも優しい。
その優しさが、触れる温もりが何故か苦しくて。
痛くて。寂しくて。怖くて。
彼の腕の中で、只々声を上げて泣いていた。
20240510 『忘れられない、いつまでも。』
🍀忘れられない、いつまでも。
あなたの優しさ。
忘れられない、いつまでも
【刹那 続編】
オヤジが亡くなってもうすぐ3回忌になる。
会社は、小さいながらも希望どうりエンジニアの職につけた。
幸い同僚にも恵まれ、学生時代から交際っている彼女とも大きなケンカもなく上手くいっている。
そんな彼女から言われた言葉が気になってしょうがない。
「何か心配事でもあるの?」
「いや、何もないよ。どうして?」
「最近、元気がないみたいだから仕事で何かあったのかなと思って」
「何もないよ。大丈夫だよ」
「そう、それならいいんだけど」
彼女には大丈夫だと言ったが、自分でも感じていたのだ。
“何かが物足りない”と。
その夜、夢を見た。
誰かがこちらに向かって来る。ゆっくりとゆっくりと、まるで焦る事はないとでもいうように。
オヤジだ。
オヤジが優しく微笑みかけてくる。
「お前の人生はまだ長い、少しくらい遠回りをしたっていいじゃないか」
オレは、ゆっくりと目を覚ました。その視線の先には形見のカメラがあった。
その時、気付いたのだ。何が物足りないのか。忘れようとしていた。でも、忘れられないでいたファインダーを覗いている時の胸の高鳴り。
3回忌の朝再び、あの場所に立った。
強くて大きな背中でした。
大きな怖いばけものから、一太刀で守ってくれた
その人は、とても格好よくて。
多分初恋でした。一目で好きになりました。
一緒に遊んでくれる足が、
優しく撫でてくれる手が、
行道を寿ぎ帰道を慶ぶ声が、
いつも隣に居てくれた人が、
大好きでした。今も大好きです。
だから、だから、きっとずっと、
ずっと一緒にーーー
「……………馬鹿な夢。」
まだ薄明るい窓の下、固まった身体を伸ばすように
鏡を手に取った。
目と肌の色は問題ない。でも髪を伸ばしすぎた。
表情筋を調整して、屈託ない笑顔になるように。
声の低さが届かないままだけど、今度の報酬で
目処が着く、筈。
夢想の背中を思い出す。
爪先まで天辺まで強く強く思い返す。
まだ全然違う身体を、どう修正する。
あの正しい心根を、どうやって再現する。
どうすればあの人は戻ってくる。
あの日死ぬべきだった私の代わりに、
もう焼け落ちた身体の代わりに、
あの人を、その名を、存在を、
私が確かにしなければ。
必ずあの人を蘇らせなければ。
<忘れられない、いつまでも。>
忘れられない、いつまでも。
人間は忘れる生き物だから
忘れちゃうのはしょうがない
忘れちゃ困ることは
メモを取ったり
何度も繰り返し確かめたり
いろいろがんばるけど
大事なことに限って
どうして?ってくらい簡単に
忘れてしまうことがある
忘れたくない思い出だって
大切に大切に
繰り返し思い返しているはずなのに
ほんのりぼやけてしまったり
微妙な思い違いをしていたり
つまり
忘れちゃうし勘違いしちゃう生き物なのだ
なのに、忘れたいことに限って
臨場感たっっぷりに、よみがえる
事細かにその時の感情の揺れもそのままに
悲しみも悔しさも恥ずかしさも
いろいろ、いろいろ込めて
あああ〜
ってなるから余計に
忘れちゃう生き物のはずなのに
忘れられない
そう、いつまても
【忘れられない、いつまでも】#1
数十年前
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「甘美、ちょっとこっち来て。」
「うん。」
「あのさ。そろそろウザくない?千香。」
「え、?………そうだね。」
「うちら、千香のこと無視しようかな。」
(私の友達…。分かっててやってるのかな。でも愛には逆らえない…。ごめんなさい。)
「い、いんじゃないかな。私もそう思ってた。」
「うん。じゃあ、うちらの班に来なよ。修学旅行アイツと一緒は嫌でしょ。」
「あ、うん。ありがとう。じゃあ入るよ。」
(最近クラスの雰囲気暗くなったかな。でも良いや。お気にのサンドバックあるし。)
「あ、愛〜。次、誰やる?千香はもういいじゃん。時々しか来ないし、」
「確かにwじゃあ、次は誰にするか決めとくわ。」
(最初は友達って思ってたけど、案外価値なかったなぁ。よし、帰ろ。)
『速報です。昨夜11時半頃に都内の女子中学生が倒れていると通報されました。女子中学生のDNAを確認すると、荒山中学校で名前は“佐々木 千香”だと判明しました。警察はどのようにしてそうなったか解明の為捜査を続けています。そして-』
「うそ、でしょ?千香?それに内の学校…。わたし、が死なせた?ううん。私はやってない。やってない。やって…やって…。うぅう…………。」バタッ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
という記憶よ。あれは“誰”の記憶なのでしょう。私は、山田甘美。同姓同名なんだけど、私は虐めなんてしてないの。でも、何故かいつまでも忘れられない。私には大事な友達がいたような…。
「佐々木さーん。食事のお時間ですよー。」
「あれまぁ、私はもう食べたわ。お昼に夕食をね。美味しかったわ。」
「夕食はご飯じゃないよ笑。」
「あらあら、あなたったら何を言ってるの。今私が着てる服は紫よ。」
「もう笑今着ているのは赤色ですよ。」
おばあちゃん、苦しくないかな。あの日の記憶。虐められて悲しかったんだろな。苦しかったんだろな。孫の私が“千香婆ちゃん”を支えなきゃ。
今も今で良い関係を築けていると思う。
でも、ギラギラした目がふっと緩むのとか、甘ったるい声で告げられるかわいいとか、唇をなぞる指先とか、切羽詰りながら俺の名を呼ぶ声とか、慈しむように顔中に降ってくるキスとか、
そういう、俺があんたのもんやったときのことがふとした時にぶわぁっと甦ってくる。
やから優しくせんとってよ。セピア色の思い出にさせてよ。
『忘れられない、いつまでも』
(まだあんたに色付いたまま)
作者の自我コーナー
いつもの。少しおセンチな話ですね。
思い出が思い出にならないくらいいつも一緒にいるふたりの話。恋人になろうがならまいがこの二人の関係は変わらないんですよね、矛盾。
僕は中学生とき1回だけ家出したことがあるんだ。
特に理由があった訳では無い。
何となく家から出たくなった。ただそれだけ。
たった数日だけのちっさな逃避。
そして、3日くらいたった日に腹が減ってたまらなかった。
その時どこからともなくいい匂いが漂って来たんだ。
抗えない甘い匂い。
そんな匂いにつられて行った先にあったのは小さい小さい建物。
道の奥にあって、誰が来るんだ?
ってくらい見つけづらそうな場所にある建物。
匂いは間違いなくここから来ている。
そっと木の扉を開いたの。
中には丸っとしたおばさんと、紳士って感じのおじさんがいた。
びっくりした2人の顔を見て、僕は涙が溢れた。
お母さんに会いたい。家に帰りたい。って
そんな僕を見て二人は何か言う訳でなく、
ただそばにいて、ホットケーキを焼いてくれた。
「特別だよ?」
って4段に重なったキレイなホットケーキを焼いてくれた。
ふんわり香るバターの匂いと
黄金に輝くメープルシロップの甘さ
わがままで飛び出した僕に
与えてくれたこの温かさを
きっと僕は
ーー忘れられない、いつまでも
『忘れられない、いつまでも』
20代半ばの頃に勤めていた
職場の上司のAさん。
そのAさんは今のわたしより
10歳も若かったのですが、
とにかく頭の切れる人でした。
そのAさんの一日の睡眠時間は
2時間とのことで、
それは休日も関係なく
1年通してその睡眠時間とのことでした。
理由を聞いたところ
「長く寝るとリズムが崩れて
次の日も眠くなるから」
そして他の時間は全てと言っていいほど
仕事を、そして仕事につながることを
やっていました。
そのことにも驚きますが、
なにより私がすごいなと思っていたのは
その人と関わる人たちはみな
だんだんと表情が明るくなり
生き生きとしはじめるのです。
上司はとにかく話を聴く人でした。
そして自分の考えをきちんと
伝える人でもありました。
わたしは25年近く経っても
よくその人を思い出します。
そして前向きな自分でありたいと願うのは
そのAさんの影響に他ならないのです。
私はきっとこれから先も
ことあるごとにAさんのことを思い出し
感謝していくのだと思います。
2024 5/10(金)
忘れるわけがなかった。
たった一枚の柔らかな写真が
簡単に私をあの頃に連れ戻してしまうの
#21 忘れられない、いつまでも
「宇宙旅行に行くことにしたの」
真夜中の訪問者は重そうな旅行鞄を持ち、楽しげに言った。寝ぼけた頭で彼女の言葉を反芻していると、彼女は続けた。
「あなたも、私と一緒に宇宙に行かない?」
彼女は旅行鞄から、紙切れ二枚を取り出した。
「ほら、あなたの分のチケットも用意してもらったし」
手渡された紙切れを見る。彼女がチケットと呼ぶ紙切れには、満点の星空を背景に真ん中には『地球⇔宇宙の果て』と印刷されていた。往復できるようだ。
「いつ帰ってこれるか分からないけど、あなたと一緒ならきっと楽しいだろうし。ねえ、私と行かない?」
彼女にすがり付くような目で見つめられ、返答に詰まった。彼女は僕が行かないなんて、言わないと思っているのだろう。だって、僕たちは友達だし。でも宇宙の果てまで行ったら、きっと家族や友人たちに二度と会えなくなる。それが怖いのだ。だけど、彼女を帰ってきたときに一人ぼっちにするのも気が引ける。
「行かないって選択はないの?」
「どうして?ただの旅行だよ」
「家族に二度と会えなくなるかもしれないんだよ」
「別にいいよ。あなたが隣にいてくれればそれで」
彼女は不安そうに眉を寄せた。
「もしかして旅行に乗り気じゃない?」
「そんなこと…」
「あるでしょ。家族のことなんか心配して…」
彼女はうつむいてしまった。どう声をかけようかと考えていると、彼女は顔を上げた。
「ねえ、だったら夜明けまで待つから来てよ。荷物まとめていつもの公園で集合ね」
彼女は一気に言うと泣きそうな顔で待ってるから、と家を出ていった。家族と彼女を天秤にかけて考えていたが結局答えは出ず、そのまま眠ってしまっていた。目が覚め、日が高くなっていることに気づいたときにはもう彼女は地球にいなかった。
#02 『幸運を。』
「今日の授業では“リマインテージ”について扱う。」
先生の言葉に心がドキリと音をたてた。
「リマインテージとは簡単に言えば魔力が刻まれた特殊な魔道具のことを言う。」
汗ばむ手の平を膝の上でギュッと握った。
「リマインテージが最初に創られたのは約500年前、魔術史での夕幻時代の頃になる」
ただ教科書を見ながら先生の話を聞くのはなんだか落ち着かなくて、ペンをクルクルと回してみる。やっぱり落ち着かなくて、寮のふかふかベッドに思いを馳せる。
「エリーナ、授業に集中しろ!」
あ、怒られた……。
私の家は由緒正しき魔術師の家系、の分家だ。それこそ本家は夕幻時代の前から続いてる家。分家ではあったけど本家との仲は悪くなくて(寧ろ魔術師の中では仲が良い方だ)、私は幼い頃から本家のお屋敷に行っては本家の子といっしょに遊んでいた。お屋敷には面白い物がいっぱいあった。あちこちに飾られた魔生動物の素材や魔生植物のドライフラワー、空飛ぶカトラリーに開ける度に中の部屋が変わる扉だって!
なんでもあるお屋敷の中でも特に好きだったのは倉庫だった。いろんな物が乱雑に詰め込まれた倉庫はお屋敷の中をギュッと凝縮したみたいでとびきり楽しかったのを憶えている。独りでに喋るパペット人形に自分じゃない誰かが写る鏡、デタラメしか書けない日記帳なんてのもあった。勿論何にもならないガラクタだったけど、まだ幼くてなかなか魔術に触れさせてくれなかったからか倉庫の中は私にとって宝箱みたいだった。
私がそんな中から見つけ出したのは一本の万年筆だった。細かいキズが付いて使い古された万年筆。キズだらけだったけど、小さい頃の私にはそれがとてつもなくカッコよくて、特別に見えて、コッソリとポケットに入れて倉庫から持ち出したんだ。
「リマインテージ、かぁ……」
考えていたことがそのまま口から出て慌てて手で抑えた。危ない、同室のサンドラに聞かれてたら変に見られるところだった。
リマインテージ。すごーく昔に作られた特殊な魔道具。それを作る技術は第一次魔術大戦の時に消失してしまったらしい。私はこの万年筆がリマインテージではないかと疑っていた。
この万年筆は特別だった。この万年筆で文章を書くと、絶対最後に『Good luck.』と締めくくってしまうのだ。数式を解いてるときも、魔術式を書いているときも、日記を書いているときも手紙を書いているときだって。最初は私の思い通りに動くのに最後の最後で勝手に動いて『Good luck.』と書いてしまう。数式の最後に書かれた『Good luck.』なんて、ちょーダサかった。誰にも見せなかったけど、一人でずーっと笑えた。今だって思い出し笑いができるくらい、ダサかった。
そんな『Good luck.』という言葉にも、この万年筆にも、なにか思いが込められているかもしれない。そんな事を授業が終わってから考えていた。リマインテージには、その道具の使用者の思いが、魔力が、今の技術じゃ再現できないくらい深く刻まれているらしい。もし、この万年筆がリマインテージだったとしたら、これを使っていた人はきっと『Good luck.』の言葉に強く強く思いを乗せていたんだと思う。ただの一本の万年筆が長い年月をかけても忘れられないくらい、強く。
手紙でも書いていたんだろうか。ふと、そう思った。家族か、友人か、恋人か、誰かはわかんないけど、とても大きな何かに向かって行く人がいて、その人に手紙を送っていたとしたら。『Good luck.』で締めるのは、とてもぴったりなんじゃないか。だったらきっと、この万年筆の持ち主にとって、手紙の受取主はとても大切な人だったんだろう──────
「……ナ!……ーナ!エリーナ!こっちに戻ってきて!」
「うわっ!?びっくりしたぁ。何か用?サンドラ」
「ずっと呼びかけてるのに気付かないんだから。もう夕飯の時間よ」
「え、もう!?」
どうやら考え事をしすぎて時間を忘れてしまっていたらしい。夕飯は寮のみんなで食べるから、遅れると寮長に怒られちゃう。
「サンドラ、速くいこう!」
「遅れてたのはエリーナのほうでしょ!?」
──────。
「エリーナ・アシュリー二等魔術師。貴様はエルドンムンドに配属だ」
ついに、来てしまった。最近物騒になって、いろいろな所で戦火が広がり始めている。一応は魔術師だし、教会勤めだからいつかは指令がやって来ると思っていた。でも、こんなにも早いとは思わなかった。
エルドンムンドは現在時点での最前線だ。すでにそこで何人かの先輩達が、同級生達が、戦い亡くなっているのを知っている。そして、次は私の番らしい。
サンドラは元気だろうか。魔術学校時代は勝ち気で実践魔法の授業が大好きだったけど、いつの間にか彼女は古代魔術研究者の道に進んでいた。進路が決まった時、同級生たちにに「お前ら逆だろ!」と言われて笑われたのを憶えている。彼女は今魔術大学校で古代魔術の研究に勤しんでいるはずだ。なかなかに優秀だし、前線に送られることは余っ程のことがない限りないはずだ。
手紙を書こう。もう、いつ死ぬかわからないのだから。エルドンムンドに配属されたから、きっと生きていても終戦までは彼女には会えない。
教会付きの寮に戻って便箋を取り出す。どのペンで書くか悩んで、机の引き出しの奥に仕舞っていた古い万年筆を選んだ。この万年筆が、私の思いをサンドラに届けてくれる気がした。
Dear Sandra
────────
────────
────Good luck.
忘れられない、いつまでも
あんまりないかもなぁ忘れられないこと
もちろん嫌なことはあったし、
忘れられないことでもあるけど
これから先もずっと忘れられないことってわけじゃないな
これからできるのかもね
そういう人とか
もしできたら、
編集して書き直すね。
忘れられない、いつまでも
親に連れられたあの景色
友達と走り回ったあの景色
車に揺られながら眺めていたあの景色
あなたと一緒に見たあの綺麗な景色
戻りたくとも戻れないあの景色
今見ている景色はあの時見ていた景色とは全く違う
あの時見ていた景色と比べ全く魅力も価値も感じない
いつか魅力や価値を見出すことは出来るのだろうか
もう一度あの景色を見れたなら
もう一度皆のいるあの景色を見れたなら
ただただ戻りたい
あの時に
忘れられない、いつまでも
「僕、ずっと忘れられないんだよね。」
おん、どうしたの急に。
「めっちゃ綺麗な泥団子作れたこと。」
…なるほど、子供の頃の記憶か。
「車に轢かれそうになったこと。」
なるほど、恐怖体験か。
「好きな女優が、めっちゃ急に結婚報告して驚いたこと。」
…好きな女優が忘れられない、って訳でもないんだ。
「誕プレが欲しいゲームだったこと。」
嬉しかったことか。
「そのゲームをお前が壊したこと。」
ごめんって。いやホントごめんって。
「出席番号が2年2組22番だったこと。」
いつまでも忘れられないことか…
「お前と8年間同じクラスだったこと。」
忘れようと思っても忘れられないってことか
「お前に彼女が出来たこと。」
普段やっている事とかか?習慣とか
「…お前が交通事故にあったこと。」
あ………
「お前のいない日々は想像以上に、面白くないこと。」
…そういえば
「僕は一生、お前のこと忘れないからなぁ!!!」
「俺、家の鍵閉めたっけ?」
「思いっきり忘れてんなぁ!」
あの日の優しい目が、いつまで経っても忘れられない
『忘れられない、いつまでも』
寂しいからスマホを開いた。
虚しいからスマホを閉じた。
脳裏をよぎるは幼馴染の笑み。
と、そのすぐ横で満面の笑みを浮かべる彼。
「私のほうが」と溢れる遺憾。
私のほうが先に出会ったのに、
私のほうが先に惚れたのに、
私のほうが先に追いついたのに、
あんなのを選ぶだなんて。
私のほうがずっと優秀だし、
私のほうがずっと落ち着きがあるし、
私のほうがずっと寄り添ってあげられるし、
幸せにしてやれる。
なのに、なんで。
『初デート!おそろいカチューシャでピース』
忘れられない、あなた方のメモリアル。
それと、
(初デートに遊園地?
決めたのはあいつね。
彼は本来インドアだし本好きだから、
静かなカフェとかお洒落な本屋のほうが
いいのに。
付き合うぐらいには仲良かったのに
そんなことも分かんないの?)
忘れられない、あなたへの未練。