「宇宙旅行に行くことにしたの」
真夜中の訪問者は重そうな旅行鞄を持ち、楽しげに言った。寝ぼけた頭で彼女の言葉を反芻していると、彼女は続けた。
「あなたも、私と一緒に宇宙に行かない?」
彼女は旅行鞄から、紙切れ二枚を取り出した。
「ほら、あなたの分のチケットも用意してもらったし」
手渡された紙切れを見る。彼女がチケットと呼ぶ紙切れには、満点の星空を背景に真ん中には『地球⇔宇宙の果て』と印刷されていた。往復できるようだ。
「いつ帰ってこれるか分からないけど、あなたと一緒ならきっと楽しいだろうし。ねえ、私と行かない?」
彼女にすがり付くような目で見つめられ、返答に詰まった。彼女は僕が行かないなんて、言わないと思っているのだろう。だって、僕たちは友達だし。でも宇宙の果てまで行ったら、きっと家族や友人たちに二度と会えなくなる。それが怖いのだ。だけど、彼女を帰ってきたときに一人ぼっちにするのも気が引ける。
「行かないって選択はないの?」
「どうして?ただの旅行だよ」
「家族に二度と会えなくなるかもしれないんだよ」
「別にいいよ。あなたが隣にいてくれればそれで」
彼女は不安そうに眉を寄せた。
「もしかして旅行に乗り気じゃない?」
「そんなこと…」
「あるでしょ。家族のことなんか心配して…」
彼女はうつむいてしまった。どう声をかけようかと考えていると、彼女は顔を上げた。
「ねえ、だったら夜明けまで待つから来てよ。荷物まとめていつもの公園で集合ね」
彼女は一気に言うと泣きそうな顔で待ってるから、と家を出ていった。家族と彼女を天秤にかけて考えていたが結局答えは出ず、そのまま眠ってしまっていた。目が覚め、日が高くなっていることに気づいたときにはもう彼女は地球にいなかった。
5/10/2024, 9:59:38 AM