郡司

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忘れられない、いつまでも

私の場合、忘れられない印象の人は少ないのだが、ただ見ただけなのに今でも忘れられない、鮮やかな人の話を。1995年のことだ。

その人は、あきらかに小学生と覚しき子ども達を8~9人連れていた。いや、連れていたというより、子ども達が来たがったので保護者的についてきたようだった。

老齢の女性で、姿勢よく、グレーの髪は低く団子にまとめ、薄い藤色に薄青系の濃淡が上品な訪問着(和服)を銀の帯でお太鼓に結び、きれいに着付けた姿がとても美しかった。若い頃から美人でいらしたに違いない。優しそうでもある。

あら素敵、と思いながら私は心配もした。
その場所は真駒内陸上競技場のスタンド。夏のさなか、これから日暮れといえども和服は結構に暑いのではなかろうか…? 同行者は子ども達。私は気になってしまい、その後もその人の様子をしばしば見た。

その日、私はLIVEのためにそこに来ていた。兄がチケットを友達と手分けして得たものの、枚数に人数が足りないからお前も来い、と。鷹揚な時代のロックのコンサートだ。そう、ロックなのだ。そこに件の女性である。

さて、LIVEの開始からしばらく経ち、私はまたその人の居る方を見た。驚いた。彼女は両足を肩幅に置いて、両腕を上に伸ばしていた。グーで。とても楽しそうだ。私は、クレーンバケットに乗って一生懸命歌っているフロントマンより彼女の姿に夢中になった。なんてクレイジーでなんて素敵! 彼女は本当に楽しんでいて、私のように後ろから見ていた若い者達を嬉しい気持ちにさせてしまったのだ。老婦人、和装の着こなしも姿勢も完璧。その姿でROCKのLIVEの楽しみ方も完璧。

ずいぶんのちに、彼女の姿の記憶は私の重要なインスピレーションの基となってくれた。まことに鮮やかな人で、今でも忘れられない。

5/10/2024, 9:47:36 AM