冬になったら
来い、白魔よ
生きる気概に濁り毒しか撒かない愚者に祝福を
まっしろな氷結の豪風
大気も木々も唸り咆哮する
温い松は弾けて裂ける
野生のものたちも一目散に逃げる
真っ直ぐに生きることへと走らぬものの命を攫う
どんな生き物にも容赦ない
人間なら猶予は2分間
みるみる体温は剥ぎ取られる
生きるをやめたいならここに居ろ
生きるなら疾く去れ
本能が鳴らす恐怖に耐えられるか
自然の圧倒の中の小さく儚い自分を直視できるか
「生きよう」と決意できるか
白魔のなかにくだらぬものの一つも無い
「いま」しか無い
スリル
記憶を漁ってみた。最もスリルのあったこと。
車を運転して山の中へ入った。母が助手席に乗っていた。当時、出かけたがりの母にごねられてはいろいろな場所へ走らされていたのだ。その日も、「あの道が何処に通じているのか確かめたい」(←よくあった)と主張する道へ。地図を開いて確認したが記載なし。「新しい道なのよ、知っておかないと。あそこからダンプが入って行ったのを見た」などと譲らぬ母。確かに、山の麓には道らしきものが見える。…ダンプみたいな大型車輌が行けるなら、困ることはなさそうかと考えて、その道へ入った。
道にはバラストが敷かれていた。真新しいと言っていい。車輌1台ぶんしかない道幅に真新しいバラスト、ガードレールなし。今の私なら絶対に入り込んだりしない…が、当時の私は何も考えなかった。車がラリー車の市販型で走破性が高いことと、ラリー用のブロックタイヤを履かせていたこと、小さな山であることもあって、舐めてかかっていたのだ。道はジグザグにヘアピン続きだ…
厚みのあるバラストは、車で走るときには「ふかふか」であると表現して間違いない。積もった新雪と同様の注意が必要なのだ。そんな道で時速40キロのままヘアピンに入ればどうなるかと言うと、グリップの効かないバラストがざらざらと動いて、まるで雪道のように車が滑る。軽い後ろ側がカーブの外に振られ、重量のある車輌前部分は惰力で進みながらも「回転軸」になり、結果として眼前にはガードレールの無い道の端。下の道との高低差はけっこうなものだ。落ちれば車の鼻面を下にしてしまうから、大怪我か悪くすれば死ぬ。母はシートバックに張り付いている…
頭は何も考えなかった。が、状況は細かく認識していた。たまに聞く「時間がゆっくり流れる」意識状態で、手足は勝手に動作した。アクセルを少し緩め、同時にカウンターステアを当てていた。車は無事に道の進路に復帰した。
さて、この日のスリリングな出来事はこの後にも起こった。山の中で迷子。容赦なく減りゆく燃料。いつまでも山中でうろうろしていてはガス欠で動けなくなる。携帯なんか繋がらないエリア。やがてT字路にぶつかった。これまでの移動方向と距離と現在の時間と太陽の位置を総合して、進む方向を選ばなければならない。燃料計は残量インジケーター寸前まで落ちている。自宅まで距離は50キロ近くあるはずだ。市街地へたどり着かねば、そも帰れない。
右方向を選んだ。目算が合っているなら、何か見覚えのあるものを見つけられるかも知れないと思いながら進む………見えた。海上保安庁の無線中継局アンテナが。見慣れたものだから間違いない。ならば市街地まで行ける。
自分が何処に居るのかわかった安心感は今でも忘れない。無事に帰れたから笑い話にもなる。
飛べない翼
「翼があるなら大抵飛べる」…と、少し前の私なら考えた。封じられる翼があり、封じる者がある事実は衝撃だった。他者が勝手極まる理由で生得の「当たり前」な力を抹殺するのは侵害だ。「侵害するな」とは「殺すな」と同義である。
しかし現実のなかでは、いろいろなレベルで侵害が横行しているようだ。まだ子どもな年齢域の「いじめ」の内容は犯罪行為が溢れて、ろくでもない大人が「こどものいじめ」を隠れ蓑にして悪事を為す。そういったケースが初めて露顕した頃は強い怒りが湧いたが、あまりにも広く各地で蔓延しているのを見ると怒りも腐れてゆく。
「度し難い」とはこのことかとも思う一方、事象顕現の「根」を見る必要も考える。
生来の能力を封殺すること、集団で侵害して得ようとしていること、得ようとする「必要」の理由は何か、皆何を「神」にしているのか、ほんとうはなにをねがっているのか。
自分の翼が、飛べるフリをしている飛べない翼であることに苛つくこどもなこころの群れが、ほかの翼をもぎ取りにかかる。
私はババアだ
ババアはかんがえる
今は飛べない翼が、力いっぱい飛び立つ翼になるには、どうすりゃいいのかを。
ススキ。もう少し後に。
……………研修長かったよ、ママン………
11月11日の11時11分だったから、とりあえず投下したときはスケジュールの目算が甘かったようだ。そう、私はミーハー。(←これ今は死語なの?)
12日の今朝は冷え込み、霜で白いそこかしこな朝だった。
もちろん、近くのススキの原も霜で覆われた。
月に青く、霜に白い。例年のことだが雪が降っても暫く、ススキの様子は変わらないのだろう。
ススキは強く、しぶとい。引いて千切れず雨風霜雪に見舞われてもしれっとしている。肖るのも良さそうだ。
一筋の光
何処かに出た。…周りを見回す。私は一室の床にへたり込むような形で膝をつき、両手を床に置いていた。背後に格子の窓があるようだ。月の光か街の灯りかわからないが、薄ぼんやりと明るさは感じられる。
「下」を通ってここに出た。練習がてらだが、地球の裏側と言っていいほど、私の居る場所から離れた街の何処かへ、知る人を目印に「飛んで」みたのだ。……ちゃんとできているのか判然としない。はて、確認のしようが無いぞ、と自分の迂闊さに思い至ったとき、その部屋の私が居る反対側の床に一筋の光がさした。細く射し込んだ光は幅を広げてゆき、この部屋にベッドが置かれているのが見えたところで、ようやく私は気づいた。今この地域は日暮れの後、つまり夜の時間帯で、射し込んでいる光は隣の部屋の灯りで、この部屋のドアを誰かが開けたから、床に光が当たり出したのだと。
開いたドアのノブを握っている誰かを見てみた。私の姿など誰にも見えず、認識できないであろうから、何も問題は無い……と思ったらその誰かと目が合った…いや、気のせいだろう……だが、だがしかし、その誰かは私から目線を外さないまま、隣の部屋に引いて行くようにパタンと静かにドアを閉めた。…あれ? 認識された…? この姿を…? 待て、この姿。私は「下」を通って来たのだ。重く纏いつく泥もかくやという、そんな「層」を渡ったので、私はまだデロデロと余計なものをくっつけたままなのだ。はっきり言ってバケモノじみたものに見えても不思議ではない。……見えたとしてだが。
それより、そんなことより。この部屋はどうやら寝室、「怖くて使えない」なんてことになったら、とんだご迷惑というやつだ。どうしよう、いや、どうしようもない。どうして「下」を使ったのか自分。「上」で来りゃよかったのに…内心もんどり打つ気分になったが、ここはとっとと去るに如くは無し。「うきゃー、ごめんなさいでしたぁー!!」なんて、届くわけない文言を繰り出しながら退散した。
暗闇に射す一筋の光、ほうほうの体で逃げ出した学び。いやはや、ポンコツなのは生来か…